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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
東の大陸
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召喚士キャメリア

「道に迷い、飲まず食わずで数日間・・・。俺もここまでか・・・」

寝転がるアスタは野犬に囲まれていた。

血走った目、剥き出しの牙、滴るヨダレ、近所の穏やかな雑種犬ポチしか見たことのないアスタでさえわかる殺気だ。

「俺の人生短かったなぁ!まだキッスもしてないってのによ!!」

頭を上げて犬を睨みつける。

「食うなら食えよ!バージンの内に一思いによぉ!!」

一瞬野犬達が怯むが持ち直して一気に襲いかかった。

「うそ!本当に食うの⁉︎」

慌てて起き上がるが、犬が飛びかかる方が早かった。

腕でガードをして目を瞑る。

・・・が、なかなか犬が来ない。

ゆっくり目を開けると「キャンキャンッ」と鳴きながら野犬達は遠くへ駆けて行った。

「いつまでそうしてんの?」

声に振り向くと背後に着物のようなワンピースを着た、アスタと同じ年くらいの女の子が立っていた。

「え?・・・犬は?」

「逃げてったわよ」

女の子の隣には大型と中型の中間くらいの犬がいる。

『強い・・・。何したのか分かんなかったけど。てか・・・女?俺くらいの』

ゆっくり立ち上がり、女の子に向き合う。

「助けてくれたの?・・・ありがとう」

女性とわかっているけど人魚と出会った時ほど緊張やドキドキを感じないので首を傾げる。

「別に。大した事じゃないわよ」

ぶっきらぼうに言うと女の子は犬を撫でて「ありがとう」と言うと手を上に向けて水をすくう時のような形を作った。

すると犬が光に包まれて人形になり、女の子の手元に収まった。

「い、犬が人形に!?」

アスタが目を丸くして立ち尽くしていると「それじゃ、私行くから」と歩いていく。

「あ、あの!」と言う声を無視すると背後で倒れる音がした。

「な、何⁉︎どうしたの⁉︎」

慌てて振り返り、心配そうにする。

倒れたアスタは地面と体の間で地鳴りのように大きく腹が鳴った。

「腹が減った・・・」

「・・・そう、それじゃ」と呆れて前を向き、また歩こうとしたその時に足を掴まれた。

「何よ⁉︎」

「何日も・・・食べて無くて・・・」

女の子が前を向く。

「あっそ!大変ね。じゃあね!」

歩こうとするが絶対に離さないように両手でしがみつくが相手も構わずに歩き続ける。

しかしアスタも放すまいと黙ってしがみついていた。

沢山の砂埃を立てたまま家の前まで着いた。

「家まで着いたじゃないの!しつこいわよ!」

怒鳴られるがアスタも充血した目で見上げて叫ぶ。

「ここで野垂れ死んでやってもいいんだぞ!!」

「ちょっと、変な脅しやめてよ!ご近所さんに変な事思われちゃうじゃない!」

ため息を吐き、腕組みしながら見下げる。

「もう・・・分かったわよ。来なさいよ・・・」

その言葉に座って手を合わせた。

「ありがとう!女神様!」

「うるさい!!」

起きてからようやく気づき、家の前で唖然としていた。

「何してんの?早く入りなさい!」

「家、これ?でかくない?」

塀付き、庭付き、池付き、さらに庭の草木は整えられている。

門から延びる飛石の上を歩いてから佇む玄関は威厳があり、木造の家も横に広いだけでなく奥行きもしっかりとある。

黒い瓦と庭の松が特に異国の風格を漂わせていた。

「そう?この辺じゃあ小さい方だけど」

思い出すと確かにここまでにあった家も大きかった気がする。

アスタは客間に通された。

「ここで待ってて。何かないか見てくるから」

「はい」

改めてかしこまり、自然と正座で背を伸ばして待つ。

これは散々アンティパスト島で魔王軍に遅刻等の罰でさせられていたものが身に染みた習慣だった。

部屋を隅々まで見渡していると、襖が開いて袴を着た若い男性が入ってきた。

アスタを見て一瞬驚く。

「おっと!これは失礼。客人が居たとは知らず、ご無礼を!」

「い、いえ!こちらこそお邪魔してます!」

頭を下げる相手につられてアスタまで頭を下げた。

『うわっ!綺麗な顔してんな。むかつく葵程じゃねーけど。葵と言い、この人と言いお外にはこんなに綺麗な顔の男が多いのか。島にはいなかったな・・・』

男性の後ろから女の子がお盆を持って立っていた。

「柊さん、後ろ失礼します」

「あぁ、失礼」

2人が会話をしている内にアスタはひたすら柊の顔を評価していた。

『いや、確かにこの人もかっこいいけど、葵程というのは違うな。これは好みに差が出るところ』

女の子が座り、盆を差し出す。

『葵はどちらかと言うと中性的な顔立ちの中に凛々しさのある顔だが、この人はキリッとした顔立ちだな』

「おにぎりとお漬物、それとお味噌汁よ」

「どうも」と受け取り口に運びながら眉をひそめて柊を見る。

「うっま!!てか何この食べ物?」

「知らないの?大和の国って所の伝統料理よ。この辺は大和と関係のある家が集まってるからこういう料理が多いのよ」

女の子の隣に柊が座った。

「知らない。・・・いや!大和?何かで見たな。たしか島の秘蔵書庫にあった雑誌の特集で見たぞ!」

アスタが色々と関連して思い出す。

「そうだ!柊さんはそれに載ってた歌舞伎?とかいう芸能の人に似てる!!色々考慮すれば柊さんの顔が好きかも、俺!」

平然と言うアスタに柊が顔を赤くして、頬を両手で押さえながら照れた。

「何言ってんの、あんた⁉︎そっち系なの⁉︎」

「ひゃっ!私には心に決めた方が!!」

「え?・・・あ、ちがっ!そういう意味じゃ無くて!!」

必死で言い訳して説明した。

「何だ、そうでしたか!知人の方と私を比較なさっておられたのですね!」

「ややこしいのよ!しかも初対面で顔面の比較とか失礼ね!!」

「すんません・・・」

しょんぼりと反省しながらおにぎりを頬張る。

「どうぞ、お召しになりながらお聞き下さい。私は柊と申します。この家の婿養子になり、次期当主となる予定です」

話の内容に興味を持ち、前のめりで聞き返す。

「え⁉︎婿養子予定って事は・・・つまりフィアンセ⁉︎」

「そうよ、とりあえずね」

アスタに柊と顔を交互に見比べられ、女の子が不機嫌そうに答える。

「そうだ、私も自己紹介がまだだったわね。私はキャメリア。よろしく」

味噌汁を啜ってご飯を流し込む。

「俺はアスタ!アンティパスト島から仲間と来たんだ!今は来る途中にはぐれた仲間を探している!何かこの辺でこんな作業着を着た俺くらいの男の目撃情報とか無いか?」

自分の作業着を摘んで前のめりに見せるがキャメリアは首を横に振った。

「いいえ・・・特には聞いてないわ」

「そうか・・・」と残念そうに体勢を戻すと柊が口を開いた。

「アンティパスト島?・・・そういえばソルベインレットの近海にそんな島があるそうですね。今では地図から消されてはいますが、聞いた話によるとあそこの離島は確か魔王軍に監視されていたのでは?」

柊が顎に指を当てて聞くとアスタは自信満々に自分の胸に親指を当てて答えた。

「俺ら位になると抜けるのなんて朝飯前なんだよ!・・・それより!!気になっているのはとりあえずフィアンセ問題だ!いつ結婚ってやつするの?2人は恋人ってこと?」

島には無かった男女の話に好奇心がかき立てられたアスタに柊が困った様に笑う。

「元々は柊さんは私の姉の婚約者なの」

「へー、姉ちゃんいるんだ!」

淡々と言うキャメリアに対して前のめりに聞く。

「でも、今はいないの」

予想外の言葉に悪い事を聞いたと俯いた。

「え・・・いなくなったの?」

気まずそうな雰囲気を出すアスタに柊が笑って返す。

「違いますよ!今この家にいないだけなんです!」

「どういうこと?」

「家出よ、家出!」

不機嫌そうにそっぽを向くキャメリアに不思議そうに親指で柊を指して聞き返す。

「家出?こんな男前フィアンセを置いて?」

「ええ、そうよ」

つんけんとした口調は明らかに姉に対してのものだと感じた。


キャメリアの姉である山茶花が出て行ったのは突然の事だった。

柊が山茶花の実家に来て、同棲して一年、結婚秒読みのある朝、柊が青ざめた顔で茶の間に現れた。

「柊さん、どうされましたか?お顔が優れないようで」

「山茶花はまだ起きないのか?」

血色も悪く、寝巻きも乱れたままの柊が、父とキャメリアの前に手紙を突き出した。

「さ、山茶花さんが家を出て行かれました!!」

2人は混乱しているが柊は手紙を読み上げる。

【柊さんと家族の皆様へ 結婚までにやりたい事を思いつきましたので、少しの間家を離れます。決して柊さんが嫌だとか、結婚したくなくなった訳ではないので、必ずその内帰ります。それまで探さないで下さい。山茶花より】

そこに書かれた字はたしかに姉の字であった。


「柊さんの家系は元々大和の国で大半の覇権を握るような資産家だし、しかも金持ちの集まるこの地域では一、二を争う武士の名家なの。それが一介の術師の家に嫁ぐなんて・・・ましてや婿養子に来るなんてありえない事なのよ。なのにあのバカ姉は出て行ったの!!」

「まあまあ」と拳を固く握って怒るキャメリアを柊が宥める。

「え、でも今キャメリアのフィアンセなんだよな?」

「お父様が柊さんを手放したくないの。一刻も早く家同士の結びつきを作ってしまいたいのよ!そうでなきゃ、柊さんみたいな御曹司、すぐにでも実家から次の結婚話を持ちかけられるわ!」

「山茶花さんが帰って来るのを待たずに祝言を挙げたがっていて・・・」

柊も寂しそうに俯く。

「惚れた弱みでしょうか。私としましては、どれだけ待ってでも山茶花さんと夫婦になりたいのです・・・」

男女のあれこれが何もない島から出て一発目の複雑な家庭の問題を聞いてアスタも口を紡いだ。

「これは失礼。暗い話をしてしまいましたね!どうぞ、ごゆっくり」

柊が一礼してから席を外す。

「それじゃあ私も・・・」と立ち上がろうとするキャメリアを引き止めた。

「おい、キャメリア」

「何?」

アスタを見ると真っ直ぐこちらを見ていた。

「俺は今旅をしている」

「そのようね」

キャメリアが再度座り直したら意外な言葉が返ってきた。

「一緒に行かないか?」

その言葉に少しの間固まる。

「・・・行くわけないでしょ、バーカ!」

「お前は俺の本当の目的を知らないだけだ」

キャメリアが固唾を飲んで聞く。

「俺の地元がアンティパストだとさっき言ったな」

「ええ、確か魔王軍に支配されているはずの・・・まさかあなた、魔王軍を倒しに行く気⁉︎」

自信満々にニヤリと頷く。

「魔王軍の支配によってアンティパストから全ての女が追放された!そのせいで母や妻、家族に会えないのみならず、俺ら世代は生まれてから女という生き物に会ったことすらない奴らもいる!」

キャメリアが流石に心配して返した。

「気持ちはわかるけど、1人じゃ無理よ・・・。魔王は世界中に軍隊を持っていて、この大陸では四天王っていう最強の部下を携えているわ!」

「分かってないな、全く!!」

アスタが肩を竦めて首を横に振る。

「そんなこと言ったって、その旅には破綻しか見えない!アスタは全然魔王の怖さも、魔王軍の大きさもわかってないのよ!!悪い事は言わないから、やめなさい!」

「だから分かってないと言ってるんだよ!!」

あまりにも真剣な顔つきになるので、今までとは違うとキャメリアも察した。

「魔王は二の次!俺の真の目的は!島の外に出て!運命の女性と!キッス!!することだーーーーーー!!!!!」

アスタが立ち上がって天を仰いだ渾身の叫びを繰り広げた。

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