隠密任務
「作戦内容を伝える!」
葵が部下を1人呼び出し、任務の作戦会議をしていた。
「これから俺と2人でメリリーシャ郊外のある施設に潜入する!その施設は裏組織の建物だ!目的はそこからある情報を奪うこと!」
部下が集中して聞く。
「お前はこの組織の一員に成りすまし、正面から、俺は運搬用の裏通路から潜入する。この裏通路は潜入当日に使われないよう、一週間前に全ての配達を早めさせた。俺はこの通路を使い、裏からサポートするが、お前は正面から行くから地図は頭に叩き込め!」
そう言って部下に地図を渡した。
「組織の情報を伝える。パルフェ率いる諜報部の1人に調べさせたところ、ここは科学の世界の組織だが、魔法の世界に配置している末端の施設だとわかった。これはよくあることだし、逆もまたある。別の世界にまで拡大する程の大きな組織だろうという判断ならできるが、疑う要素とまではいかない。今回大元は特定出来なかったが、俺の所見ではこの施設は組織のボスや、その他に見つからないよう、内密に作られた隠れ家と見ている」
部下が質問をするために口を開いた。
「隠れ家・・・ですか。それはウチの諜報部でさえ大元を特定出来ないセキュリティの固さからそう思われたのですか?」
「それもある。だが他にもある!それは潜入後、ここで入手する情報の一部を見て俺はそう思った。その情報とは、十数年前に我が魔王軍によって滅ぼしたと思っていたはずのリリウム一族についてだ!」
葵の話に部下は固唾を飲んだ。
「ここ2年間、コロシアムで大活躍をしているブラックサレナという選手がいる。その選手はまだまだ子どもだというのに優勝をし続けている。その賞金は世話になっている児童養護施設に入れているらしい。コロシアムでの活躍振りといい、ブラックサレナがリリウム一族の生残りだと俺は睨み、調べていると、この施設にたどり着いた!」
部下の前にチョコの写真を出す。
「今回俺たちはブラックサレナ、本名チョコレート・リリーと、その児童養護施設、あすなろ荘に関する情報を盗む!」
潜入任務当日。
葵はメリリーシャの郊外に拠点を置く、ある組織の内部に潜入していた。
無線で部下と連絡を取る。
「内部への進入成功。引き続き、潜入任務の遂行を頼む」
「承知しました」
『本来、リリウム一族はリリウムの姓を冠するはずだが・・・だけどチョコレート・リリーのコロシアムでの尋常じゃない強さ、リリー姓、可能性は高いな』
葵が進んで行くと、気になる人影を発見した。
「ん?・・・あいつは!!」
そこには組織に堂々と入っていくシャロンの姿があった。
パーティが朝食後レストランの席でグウタラしていたら、給仕に呼ばれた。
「アスタ様、外でアスタ様に助けてもらったというメリリーシャ郊外にある漁村の人々がサインを求めて来られています。とりあえず、人通りが多いので裏へ回って頂きました」
「は?郊外の?」
アスタは少し考えてからセイレーンの涙を葵、きしめんと奪い合った時のことを思い出した。
「あいつらか!!」
「郊外の漁村の人々って?」
キャメリアに聞かれ、「な、何でもないよ!」とはぐらかす。
「・・・めんどくせーな。そうだ、シャロン、ちょっと行って適当に2、3枚サインして来て!俺の代理って言ってさ!」
「サイン?いいよ!」
シャロンが立ち上がる。
「裏にいるらしいから、頼むわ」
「任せて!!」と答えるとはりきって出て行った。
「アスタが行かなくて大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!」
そう言うとアスタは引き続きグウタラした。
「裏ってどこだろ?」
シャロンがホテルを出て適当に歩く。
どんどんホテルから遠ざかり、どこかの建物に入っていった。
「裏・・・裏・・・」と呟きながら進むと、シャロンが立ち止まって身震いしだした。
「おしっこしたい!」
シャロンはどことも知らない建物の中を堂々と進んで行く。
「裏・・・おしっこ・・・・・裏・・・おしっこ・・・うらっこ・・・おしっこ・・・・おしっこ・・・」
完全に目的がすげ替えられた瞬間である。
「おい!シャロン!」
「わ!葵さんの声が聞こえる!!」
キョロキョロと見渡すが葵の姿は見えない。
「でも、葵さんはいない!どういうこと!?・・・そうか!葵さんは天の声だったんだ!!」
「何を訳の分からんことを・・・まぁ、今は天の声でいいか」
葵はシャロンの丁度真後ろの壁の向こうにいて、通気口の隙間から話しかけていた。
「葵さんどこ?シャロンはここだよ!!」
「バカ!大声出すな!潜入中だ!!」
「潜入?」と傾げる。
「・・・あー、もう!何でもいい!どうしてお前がここにいるんだよ?」
「えーと・・・おしっこしに来た!」
「おしっ・・・は!?」
動揺を隠せない葵もつい大きな声が出た。
「いいか、シャロン!ここから出してやるから、俺の言う通りに動け!!」
「えー、でもおしっこ漏れちゃう!!」と足をもぞもぞと動かす。
「トイレと言え!いいから!生きて帰りたかったら言うこと聞け!!」
「はいはい」
強めに言われたので、渋々葵に従うことにした。
「シャロン、そこをそのまま進め。あまり目立つなよ。静かに行くんだ!」
葵もシャロンに合わせて進むと前方に足音が近づいてきた。
「いきなり敵が!・・・仕方ない」
葵が先回りをしてサーベルを抜き、雷を発生させて気絶させる。
「たかだかおしっこなのに葵さんは大袈裟だな・・・。四天王ともなると、きっとおしっこも油断できないくらい命懸けなんだろな。職業病なら仕方ないね」
呟きながらシャロンが進むと、床に倒れる組織の一員を発見したので体を揺らした。
「起きて!こんな所で寝てると風邪引くよ!」
「起こすな!寝かせたの!」
葵に怒られまた進む。
「今日の葵さん怒りっぽい!もしかして葵さんもおしっこ我慢してるのかな?それなら急いであげなきゃ!!」
シャロンが急に走り出した。
「あ!こら!シャロン!!どこ行くんだ!!」
「待っててね!天の声の葵さん!おしっこ急いであげる!!」
「いいから止まれ!!」
奇行への理解に苦しみながら追いかけていると、シャロンが扉の前で止まった。
そこに葵も追いつく。
「しまった!鍵をまだ入手してない!待ってろ、シャロン!今迂回ルートを・・・」
「葵さん!さっきこんなの見つけたよ!」
シャロンはカードキーを天に見せた。
手元の光り輝くカードを見て唖然とする。
「そのカード!お前、いつの間に?」
「さっきの寝てた人が持ってた!キラキラしてて綺麗だったから貰ったの!!」
「はは・・・さすがアスタの仲間だ・・・。手ぐせが似てる」
葵は思わず苦笑いをした。
シャロンがカードキーを観察する。
「これどうするの?」
「そこの溝に通せばドアが開く」
言われた通りにカードを通したら目の前の扉がスライドして開いた。
葵の裏通路の扉も同時に開く。
「末端組織の施設だから、金をあまりかけてないんだな。別々のセキュリティにせず、同時に開くのか。ここをケチってくれたお陰で助かった!」
「変な鍵」とシャロンはカードキーを観察していた。
「それはカードが鍵になっているんだ。詳しい仕組みは分からんが、科学の世界のものだな」
そう聞くと目を輝かせ始める。
「へぇ!ここ科学の世界の施設なんだ!科学の世界のトイレってどんなのかな?楽しみだね、葵さん!」
「別に俺は・・・。というか、ここではトイレするなよ!!」
葵の忠告も聞かずにズカズカと歩いていく。
「あぁ、もう!!」
焦ったそうにシャロンを追いかける。
すると、ついに曲がり角で敵と遭遇してしまった。
「誰だ!!」「何故こんな所に少女が!?」
『バレた!!』
組織の組員から銃を向けられながらシャロンは対峙していた。




