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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
メリリーシャの街
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チキン・リトル

メリリーシャ郊外の閑静な場所のある家では、男性2人が会話をしていた。

「ピエロさん、そろそろ3日経ちますので雨を降らせてきましたよ」

そう言われたピエロと呼ばれる男は新聞を下ろして部下のマセドアンを見る。

「あー、もう3日も経つのか・・・。ご苦労」

そう言ってから手元の資料を見る。

「しかし3日も風が吹かないとかすごいな」

「雨の魔女?が住んでるから何かあるんじゃないか?魔法的なん」

ピエロが冗談っぽくニヤニヤと笑う。

「あそこは不思議と大きな風も吹かず、雨を降らす魔女もいるし、ここで雨雲を置いても違和感が無いから実験には丁度いい!」

「それにしても・・・」

マセドアンも隣で資料を覗いて言う。

「飛行機さえ知らないとは。魔法はすごいとは思うけど、今や科学の文明の方がすごいんじゃないか?」

「魔王の侵略や魔法の便利さに胡座をかいて情報を得ようとしないから逆に利用されるのさ。無知は罪だよ」

ピエロはそう言うと立ち上がって、資料をマセドアンに渡し窓から外を見た。

少し離れた市街からは人の営みの気配が見える。

「あの科学で人工的に作った雲の原料知ってるか?」

「いや」

マセドアンが資料をファイルから取り出すと二種類の契約書が出てきた。

「大まかに言うと産業廃棄物だよ。今回俺は2つの仕事を引き受けた。1つは科学で出た産廃の処理。知っての通り有害な物だから普通は埋めて処理するが、周辺の住人がうるさいんだ。だから無知に胡座をかく魔法の土地で処分させてもらった」

「うわ!こんなん入ってんのかよ!?こっちの世界だと危険物質扱いで倫理やら人権やら騒がれるぞ!!」

慌てるマセドアンに振り返ってまた不敵に笑う。

「知らなければただの雨だ。倫理も人権も無い。危険視する意識すら無いから誰も騒ぎたてない。もう1つの仕事だが、人体実験だ」

「人体・・・実験?」

その不穏なワードを資料から拾ったマセドアンが眉をひそめて聞き返す。

「そう。あそこだと魔女のせいにして雨雲をいつでも発生させられたし、メリリーシャの西部分では生活用水がここの地下水から汲まれているから雨水をじわじわと飲ませるとどんな病気や人体的影響があるのかを見たかったんだよな。特に都市だから被験者も多いし医療もそれなりに発達してて丁度良かったのに・・・」

ピエロがさっきまで見ていた新聞を手に取るとそこには“魔王軍魔女狩り開始”と大きく見出しに書かれていた。

「魔女狩り?」とマセドアンも覗いて呟く。

「時期にあの魔女も狩られるだろう。少し規模は小さくなるが、近くの村か町で実験し直すか」

ピエロは机に新聞を放り投げた。


皆でずぶ濡れになったがリトルやパーティは笑っていた。

「はい、これ!任務完了のサイン!」

「おう!ありがとう!」

サイン入りの任務表を受け取り、鞄にしまう。

「勝手に雨が降って雲消えちゃったね!」

「結局何だったのかしら?」

キャメリアが傾げる。

「さあ?わからない・・・。でもすごく楽しかったよ!またウチにおいでよ!今度は友達として!!」

「勿論!またビストートの飯とか食いに行こう!」

アスタとリトルで握手をして別れた。

雨水をタオルで拭くきしめんに観察を続けていた部下が報告する。

「きしめんさん、一緒にいた子どもたちが去っていきました!」

「うお!まだ見張ってたのかよ!!風邪引くから拭けって!」

きしめんがタオルを渡す。

「ガキ共が去ったか。近隣の子どもか?なんでもいいが魔女が1人になったのなら調度良い」

「行かれるのですか?」

「ああ、終わったら核と心臓の回収用の道具を持ってきてくれ」

「かしこまりました」


パーティを見送ってから家に入ろうとした時、重い足音が聞こえた。

「よお、お前がカラの魔女か?」

夕日が差し陰も濃くなる中、聞き覚えのない声に呼び止められ、リトルは振り返って睨みつける。

「そうだよ。何か用?」

「本当に見た目はただのガキだな」

リトルの姿に目を丸くする男には新聞などで見覚えがあった。

今、各地で魔女狩りをしているという魔王軍四天王の1人、きしめんだ。

リトルの毛が逆立つと水分が玉となり宙に浮く。

きしめん自身の体からも出て行く水を見て、また目を丸くしていた。

「水か?」

「見た目でみくびられちゃ困るね。僕は一応魔女だから・・・さ!!」

リトルが指を下げると滝の様な雨が鋭くきしめん目掛けて降り注ぐ。

「うわ!!いてっ!い・・・」

次第に滝のような雨音にかき消され、きしめんの声が聞こえなくなる。

「雨だからって舐めるなよ!水は集まると恐ろしいんだ!!今回は四天王だから特別に滝レベルで降らしてやった!!」

すると雨の中から蒸発する音と共に大量の霧が発生している。

「何!?」

「あーあ、またびしょ濡れかよ」

ハンマーを構えたきしめんが炎を纏い霧の中から平然と現れた。

「確かに雨は攻撃力があるな。正直なめてたよ。今のも他の奴じゃヤバかったかもな」

「き、きいてない!?あの雨の量で・・・普通の水死レベルより沢山降らせたのに!!」

『殺される!!!』

直感的に危機を察知したリトルが霧を発生させ逃げる。

きしめんはハンマーに炎を纏わせすぐに追いかけた。

濃霧が立ち込める中、炎が周辺を走る。

さらに霧が濃くなったあと、蒸発音と共に一気に霧が消えた。

部下が心配して出て行くとボロボロになったリトルが首を掴まれ、きしめんの手首を掴むものの抵抗もなくぶら下がっていた。

「魔女狩り完了だ!さっさと処理して帰るぞ!」

「はい!!」

部下が差し出されたきしめんの手にナイフを渡す。

受け取ると胸に刺して開き、心臓を魔法のかかった手袋で鷲掴みをして取り出したら、きしめんを掴んでいた手は離れて落ちた。

部下から差し出された箱に心臓を入れるとまだ脈打っていた。

魔女を横たわらせると口から真っ青な鳥が弱々しく這い出てくる。

「これが核か」

それを捕まえ麻袋に詰めようとしたら手元で霧となり空に消えた。

「あ!・・・死んだのでしょうか?」

「いや、心臓はまだ動いている。逃げたんだろう」

手持ち無沙汰に核の鳥が消えた手元を見る。

「よろしいのですか?」

「魔王様からは心臓さえあればいいと聞いている。核はおまけみたいなもんだ。それに、心臓がなければただの動物同然だからな」

きしめんがチキン・リトルの体を担いだ。

「それはどうされるのですか?」

「魔女は元々もっとデカい魔獣なんだよ。人を襲って中で心臓と核が分かれる。だからこの体はずっと昔にこの辺で生きていた少年の体だろう。放置してたら腐っていくだけだから、せめて焼いて弔ってやるんだ」

少年の体を担いで歩いていく上司の背中を見つめて立っていると、振り返り怒られる。

「ボサッとするな!さっさと済ますぞ!!」

「は、はい!」

その言葉に我を取り戻し、小走りでついて行った。


チキン・リトルの核は力を振り絞ってメリリーシャまで飛んでいった。

そこで歩いているアスタにぶつかる。

「うわ!何だ!?」

振り返ると青い鳥が地面に落ちていた。

それを両手ですくいあげる。

「綺麗な鳥だね」

「すごく弱ってる」

シャロンとキャメリアが覗いて呟いた。

すると羽を動かしてアスタの手を飛び出し、キャメリアのスカートに捕まって腰にぶら下がるラエビガータの張子を突く。

「きゃっ!!」

ラエビガータが水で鳥を包むと取り込んだ。

唖然と見守っていると、ラエビガータはそのまま精霊の姿になったが様子がおかしい。

いつもより大きく、更に魚から人に近い姿となった。

「わぉ・・・」「綺麗・・・」とアスタとシャロンが呟いて見上げる。

「ラ、ラエビガータなの?」

一つ頷くと再び張子に戻った。

目を見開いてパーティは静かに驚いていた。

「な、何だったの?今の鳥は一体・・・」

ラエビガータを見ているとビストートがやって来た。

「いたいた!」

「ビストートだ!」

「そんな慌てて何か用か?」

シャロンが指差し、アスタが尋ねる。

「用も無いのにお前らみたいなポンコツパーティに話しかけるかよ!」

「酷くない?」

キャメリアが腕を組んで不機嫌に言った。

「そんな事より!さっきの木の実で新しいドルチェ作ったんだよ!今度はさっきの即席と違ってしっかり考えて作ったから味見してくれよ!!・・・て、あれ?リトルだっけ?あいつはどうした?」

「リトルなら依頼が終わったから家に帰ったよ!」

ビストートが見渡して残念そうにする。

「あいつがギルドの依頼主だって事か?・・・まあ、お前らの小遣い稼ぎにはいいかもな。また連れて来いよ!あいつにも食わせてやりたいからな!!」

「リトルの事気に入ったの?毒舌非情のシェフが珍しいわね!」

キャメリアがニヤニヤと見上げていた。

「うっせー。お前らより断然礼儀正しいだろ!それに、俺の料理へのリアクションが良かった!ああいうのが料理人冥利に尽きるんだよなー!お前らみたいな見慣れた反応はいらねーんだよ!!」

シャロンが頬を膨らまして拗ねる。

「まあまあ、こいつの毒舌とか今更だろ?さっさと依頼終りの甘味食べようぜ!!」

「わーい!」

パーティはウキウキでサンスベリアに向かっていった。

「美味しーい!!」

目を輝かせて頬張る3人。

「今度絶対リトルも連れて来てやろう!!」

「絶対リトルも好きな味だよ!!」

「そうね!明日にでも誘ってあげましょ!・・・あ、明日って休みだっけ?」

キャメリアが聞くとビストートが笑顔で答える。

「別にいいよ!特別にお前らだけ入れてやる!」

「やったー!!楽しみだね!!」

シャロンも笑顔で思い切り喜んだ。

リトルのいた丘には物静かな家だけが残り、屋根からは夕日に照らされた雨の雫が垂れていた。

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