雨降らしの実
誰も受けなかった依頼をやっと受けてくれたと思ったらガキンチョ3人組が来てがっかりしたカラの魔女、チキン・リトル。
依頼内容は自分の魔法じゃ降らせられない雨雲の雨を降らせること。
3人なりに頑張って雨乞いをやるものの、アスタ、キャメリアの方法は失敗に終わる。
残るはシャロンの方法のみとなったが、その前に腹ごしらえをすることとなった。
そしてサンスベリアに4人で訪れる。
「よ!ビストート!!」
「4人で!」
片手を挙げて挨拶するアスタの後ろから体を出してシャロンが言う。
キャメリアが見渡しながら「大使達まだなの?」と聞くと厨房からビストートが出てきた。
「またたかりに来たのか?大使らはまだだな。いつももうちょい後で来るよ」
4人で座る。
「俺はB、シャロン、キャメリアがCで!チキン・リトルは?」
「あまりウィッチコード出さないでくれる?君らはそうでなくても、他の人からは恐れられてるんだ!それに僕自身、このナンセンスな名前は気に入ってないの!!」
小声で怒るチキン・リトルにキャメリアが面倒くさそうに聞く。
「じゃあ何て呼べばいいのよ?カラの魔女?」
「よりストレートじゃないか!!そうだな・・・リトルでいいよ。気に食わないけど!!」
面倒くさそうにアスタが返した。
「はいはい。じゃあリトルは何食うの?」
「僕はトマトベースパスタのBコースで!」
アスタが大声で注文する。
「ビストート!Bコースだって!」
「はいよ」
ビストートが返事をしながらサラダを出す。
「そうだ!次のシャロンの雨乞いだけど、これ!!」
袋を見せ、中にたっぷりと入っている真っ赤な木の実を見せる。
「何それ?」
「魔導師に伝わる雨降らしの実だよ!リトルの家の近くに咲いてたから摘んで来た!!」
そう言って一粒ずつ配った。
「これを食べる!」
言われた通りに皆で口に入れ、噛んだ瞬間表情を歪める。
「すっぱ!!」
「これを100回噛むと頭が良くなるからって魔導師見習いの子ども達は食べさせられるの!!」
木の実を不味そうにしがみながら言うと、リトルが「うえ!・・・雨は?」と聞いた。
さっき運びきれなかったサラダを持って来たビストートにシャロンが袋を見せる。
「ビストート!これ美味しくできないかな?」
「何だこれ?初めて見る木の実だな・・・」
そう言って一粒摘み、小さくて細長い赤い実をまじまじと見て口に入れる。
「すっぱ!!・・・かなりすっぱいな!!レモン以上じゃないか!?」
ビストートが口元を手で押さえて表情を歪めた。
「魔導師に伝わる雨を降らせるおまじないで使う木の実だよ!すっぱすぎて食べづらいの!特に今の季節が一番すっぱい!」
ビストートが大量の木の実が入った袋を見ると「あー・・・なんか考えてみるよ」と言って厨房に戻った。
暫くして完成したパスタを頬張る。
「お、お、美味しい!!こんな美味しいパスタ初めてだよ!!」
「そうだろそうだろ?ビストートの味は最高なんだよ!」
アスタがドヤ顔する。
キャメリアが厨房を覗くとビストートが影に隠れて調理をしていた。
「ビストート集中してるわね」
「まだ早いから他にお客さんいないしね」
食後の余韻に浸っているとビストートが全員に紅茶を出した。
「ちょっと!食後のカフェは紅茶なんて頼んでないわよ!!カプチーノの気分だったのに!!」
怒るキャメリアに自信満々にビストートが言う。
「まあまあ!その代わりにドルチェはサービスだ!!今日のは紅茶に合う最高のを用意した!!」
長方形のお皿に4種のドルチェが並ぶ。
「わー!!」と4人が目を輝かせた。
「さっきの木の実で作ったんだ!食べてくれ!!」
「いただきまーす!!」
皆で頬張ると、さっきまでただただ酸っぱかった木の実に魔法がかかったように甘味が出て美味しいドルチェへと変化を遂げていた。
「美味しい〜ぃ!!」
「あの実がこんなに美味しくなるなんて!!」
「流石ビストート!!料理の天才!!」
「間違いなくメリリーシャ1の腕前だ!!」
大絶賛され、ビストートも誇らしげにする。
「あの実は生だとかなり酸味が強かったから色々な方法で加熱してみたんだ!加熱方法で甘さが変わるし、味の色彩が実に豊かだ!組み合わせ方でパスタや前菜にも使える万能の実だよ!!」
シャロンが右端にあるグラッパグラス(食前酒用グラス)に入ったゼリーを指す。
「ねえねえ!ビストート!これ何?」
「おっと!紹介が遅れたな!それはさっきの木の実を湯がいて白葡萄のジュレに入れたものだ!本当は白ワインでしたかったけど、お前らがガキだからガキの舌に合わせた!」
シャロンが一口食べて「美味し〜!!」と頬を押さえる。
「その横にあるのが木の実をミキサーに掛けて煮詰め、ソースにしたものをミルクジェラートにかけた。さらに隣のはクラッカーにマスカルポーネチーズを載せてローストした木の実とレモングラスを添えたカナッペ!一番左にあるのは生クリームと生の木の実のソースを混ぜて冷やした雨降し木の実のミルクプリン!!」
「さっきの酸味が嘘のようだ!本当に腕が良いよ、シェフ!!」
リトルに褒められて「ま、それほどでもないよ!」と誇らしげにしていた。
窓から覗く魔王軍がまた報告する。
「きしめんさん!めっちゃ美味しそうなドルチェ食べてます!!魔導師がシェフに渡した木の実が最初の反応は不味そうだったのにめっちゃ美味しそうに食べてます!!」
部下の腹は鳴りっぱなしだった。
「なんだ?その実ってのは?魔法の道具か何かか?」
「さあ?もしかしたら魔力アップとかかもしれません!!でも・・・」
「本当に美味しそう・・・」と続けたら「え?そんなに?」ときしめんも興味を持ったので「はい」と言い切った。
食後リトルがビストートに聞く。
「ところで、今日の支払いはおいくらですか?僕が依頼主だし、依頼に関係する事だから経費として払います!」というリトルに「ありがとう!!」と食い気味に言うパーティ。
「お前らな・・・」と呆れつつ続ける。
「いいよ、今回のは別に」
「そんな、悪いですよ!」
ビストートがシャロンに袋を見せる。
「その代わり!この誰も知らない食材の場所を教えろ!今が一番すっぱくて魔導師さえも手を出さないんだろ?チャンスじゃないか!!」
「年中食べないよ。勉強しない子が罰として食べさせられるくらいかな。メリリーシャの西側の郊外になってるよ!」
リトルが割り込む。
「そんなのでいいんですか?こんな手の込んだ料理を頂いたのに?」
「いいって!そんな事より新食材の発掘は俺ら料理人にとって、とんでもなく嬉しいんだよ!!トレジャーハンターが宝を見つけた時のようにな!!」
目を輝かせて木の実を眺めるビストート。
「だそうだ。行くか、俺らも忙しいし」
「ご、ごちそうさまでした!」
リトルが最後に頭を下げ、4人はサンスベリアを後にした。
リトルの家に着く。
「それで、さっきの木の実食べてどうやって雨降らすの?」
「降らないよ!」
シャロンの回答に「は?」と聞き返す。
「あれ生のままじゃないと意味ないし、それにシャロン達じゃなくてカエルに食べさせるの!」
シャロンの発言で急遽カエルを捕まえて口に木の実を突っ込み、両手で持って目を閉じるとシャロンが唱え始めた。
「カエルさんカエルさん、雨を降らして下さい。シャロンのテストの平均点は35点です。最高点は49点、0点を取った事もあります」
呪文でもないただの黒歴史のカミングアウトに3人が戸惑う。
「シャロン、何カミングアウトしてるの?」
「テスト?」
だが、シャロンの周りに風が舞い髪や服が浮く。
「シャロンのテストは丸がかなり少ないです!順位はいつも下から1、2位を争ってます!」
「でも何かぽい感じの雰囲気なってるよ!!」
少し見守っていたが、何事もなく収まった。
振り返り真顔で「ダメだった!」と言う。
「シャロン・・・お前恥だけ晒して何してたんだ?」
「魔導師アカデミーに伝わる雨を降らすおまじないなんだけど、木の実を食べさせたカエルを持ちながら自分の成績を暴露するの!悪ければ悪い程雨が降るって!!」
キャメリアが呆れる。
「それ騙されたんじゃないの?」
「え!?だからこれ教えてくれた子が笑ってたんだ!!」
「バーカ」
パーティの間抜け具合についにお腹を抱えてリトルが笑った。
「あっははははは!!」
その姿にパーティがキョトンとして笑うリトルを見ていた。
「何なの、君ら?ポンコツ過ぎて面白いんだけど!!」
涙を指で拭って肩を震わせる。
「あーあ、こんなに笑ったの初めて!」
パーティは目を合わせて肩を竦めた。
部下が双眼鏡を覗いているときしめん本人が来た。
「おい!お前の報告が全くわからんかったから直接来たぞ!!」
「きしめんさん!」
きしめんが空を見上げる。
「それにしてもここは雨雲がずっとあって陰気な所だな・・・」
すると雲の上から騒がしい音が響き渡り、通り過ぎていった。
「何の音だ?」
「さ、さあ?」
パーティ達も暗く厚い雲を見上げる。
その直後、すぐに雨が降り出し、3日間覆っていた雲がにわか雨と共に消えた。




