静かな反乱
手を縛られたチョウシンが島の30〜40代くらいの3人が集まる場所へと走った。
「大変だ!ソバカスらが脱走を考えてるぞ!!止めないと!!見つかったら連帯責任で酷い罰がある!!」
それを聞いた1人が立ち上がる。
「何ぃ!?あのクソガキ共め!!」
それをきっかけに他の人も続いた。
「そんな事知れたらワシらまで罰を食らうかもしれない!!」
「どうせ本物の女を見たいとかいうただの好奇心だろ!だから早く学校の教科書なんて燃やせと言ったんだ!!」
3人の内1人だけ、何も言わず眉をひそめていたのはアカガミの父だった。
「ソバカスのメンバーと言えばお前のとこのアカガミもいるんだろ?」
皆の注目が集まる。
「アカガミがどうやってかは知らないけど、魔王軍の制服を盗んできてたよ!」
チョウシンの言葉に静かに立ち上がった。
「止めてくるよ。不躾な息子には親の俺が注意しよう」
そのまま背中を向けて歩いて行く。
「あいつだけに任せられん!!」
「そうだ!ワシらも止めよう!!」
他の2人も向かって行った。
「待って!!この縄解いてよ!!」
チョウシンは叫びながらついて行った。
「アカガミ、何してる?」
皆で制服を手に取っていると、アカガミの父が来た。
「父ちゃん!!」
制服を持ったまま向き合う。
「聞いたよ、お外に出るのか?」
「な、なんでそれを?誰が言ったの?」
動揺する息子に変わらない口調で答える。
「チョウシンから聞いた」
ソバカスが悔しそうにする。
「しまった!リーダーと制服のことですっかり油断してた!!」
そこにさっきの島民達が続々と集まってきた。
「おい!お前ら!!聞いたぞ!この島を抜ける気か!?」
「バカな事はやめろ!!お前らが見つかれば島の全員が罰せられるんだぞ!!」
チョウシンから話を聞いたという他3人の親もすぐに来た。
「お前たち!!」
ソバカスの父親が息子の耳を引っ張った。
「イテッ!!父ちゃんやめてよ!!」
ガリも父に制服を取り上げられる。
「見つかる前にこんな物、燃やそう!!」
「待て!待ってくれよ!!俺らの話も聞いてくれよ!!」
クセゲが大きな声を上げて、抗議をする。
「このままだと俺らは魔王軍に殺されるだけだ!!」
それにソバカスも続ける。
「そうだ!ここの開発が終われば用済みの俺らは殺されるに決まってる!それからこの島は魔王軍に占拠されるんだ!!」
ソバカスの父が鼻で笑った。
「フンッ!なんだ?秘蔵書庫でそういう物語でも読んだのか?だからあんな場所作らなければ良かったんだよ!でなきゃ、こんな周りに迷惑をかける想像力バカには成長しなかっただろうよ!!」
「何を!?」と噛みつくようにソバカスが怒鳴るがすぐに頭を押さえられた。
「バカ息子め!!今までだって魔王軍に逆らって処罰された奴はいたさ!だけどな!逆に従って理不尽をされた奴は1人もいない!!お前らみたいな経験も教養もないガキ共が想像だけで動いたら、どれだけ俺たちに迷惑がかかるのか考える脳みそを身につけてから島の外に出ろ!!」
耳元で怒鳴られたソバカスが大人しくなり、首根っこ掴まれて連れて行かれた。
それを見守り、ガリの父も口を開いた。
「あいつはきつい言葉で言ったが、私達は君らを心配しているんだよ。君たちの言う事も起きない未来ではないかもしれない。だが、私達大人は君らが知らない脱走者の処罰を見てきた」
そこにクセゲの父も話す。
「とても言い表わせないくらい悲惨だった・・・。その最後にあいつらは「次、反逆者や脱走者が現れた時は、島全体の連帯責任とする」と、そう俺らに言い残した。それからはこの島の住民達も大人しくなったんだよ」
「十何年も前の話だがな・・・」とアカガミの父が一言付け加えた。
少年達はすっかり黙って大人の話を聞いた。
それから火を焚き、ただただ虚しく盗んだ制服が灰になる様を見ていた。
アカガミ達の事は魔王軍に知られることなく、一日の作業も無事に終わり島民達は各自家で残りの今日を過ごす。
沈みゆく夕日の中、勝利の雄叫びにも似た汽笛を響かせながら魔王軍の船はアンティパストの地を離れた。
それを少年達は各自で見ていた。
夕飯時、アカガミが黙って食べ物を口に運んでいると父が話しかけてきた。
「アカガミ、飯食ったら話がある」
いつにもなく神妙な雰囲気の父を黙って見る。
食事中は珍しくそれ以上の会話はなかった。
食後、父が重たい空気の中ついに口を開いた。
「島の者達と話し合って、今日未成年の子ども達に真実を話そうということになった」
「真実?」
意外な言葉に眉を寄せる。
「この島が十何年も前、魔王軍がこの島から女を排除し、突然開拓と島民の管理をし始めたのは知っているな?」
「勿論」と頷く。
「何故、奴らがそんな事をしていてると思う?」
その質問には首を捻る。
「え・・・何故って・・・」
よく思い返すと考えたことがなかった。
基地を作るというのなら女を排除する必要もない。
自分たちは周りから聞いた話を鵜呑みにし、ただただ考えるのを避けていた。
答えに詰まっていると父は話しを先に進めた。
「人探しだよ」
「人探し?・・・一体誰を?こんな狭い島で?すぐ見つからないの?」
父の妙な話に口を挟む。
「実はこの島には昔、流れ着いた赤ん坊が1人いる。どこから来たのか、誰の子どもなのかも分からない。ただ、一緒にカゴに入れられていた刀に“aster”と書かれていたことからアスタと名付けられた。この島は昔、外との交流があった時から孤児を拾って育ててあげたりもしていたから、その子も同じように島民として受け入れられた」
先の見えない内容にアカガミは黙って聞くことにした。
「その子が来た数日後に魔王軍がやって来てこの島を監視し始めたんだよ。女を追い出したのは子どもがこれ以上増えないようにだろう。だから俺達はすぐに気づいた。こんな何でもない島を急に占拠して開拓し始めるなんて、理由はわからんがきっとこの赤ん坊を探しているんだろうと。魔王軍もそのアスタが大きくなれば、何かしらのこの島の者とは違う特徴が表れると思ったんだろうな。長期に渡って監視が続いているのは、種族が混じったこの島でアスタを炙り出す為だ」
父を見て真剣に聞きいるのはアカガミだけではなく、ソバカスやクセゲ、ガリ、その他この島にいる未成年達全員だ。
「魔王軍が名簿を作ると言い出した日から、この島では名前を捨ててお互いを特徴で呼び合うことにしたんだ。だからお前の本名は別にある」
「俺の・・・本名?」
信じられないといった表情をソバカスが見せる。
「島の大人達は長い時間にすっかり自分たちの撒いた反逆の種を忘れてしまった」
黙るクセゲを父が見る。
「だが、今日子ども達が島の脱走を企てたのを見て、私たちは忘れかけていた希望を思い出した」
ガリも不安は隠しきれないが、父をしっかりと見ていた。
「今日止めたのはお前らにはあまりにも知識が無さすぎたからだ。教育も受けず、ただ土木開拓作業とそれに関わる知識にしか触れたことのないお前たちが魔王軍の目を欺いて船に乗り込むなんて無謀すぎる。すぐにバレて終わるさ。やるならもっと賢くしないとただの集団自殺になるだけだ」
アカガミが父の言葉に俯く。
「そうか・・・。ところでさ、そのアスタって誰なの?最年少の俺らがこんなに大きいんだ!そろそろ特徴だって出てきてるんじゃないの?」
父に聞き返すと、少し溜めてから返事がきた。
「・・・ああ、とっくに出ているさ。真っ赤な、燃えるような赤い髪の毛がな」
「・・・まさか、アスタって!!」
父は下を向いて言いづらそうに続ける。
「そうだ、お前だよ」
そういうと父は背後に置いていた幅の広い刀をアスタに渡した。
それを受け取り刀を抜くと“aster”と彫った文字を見つめ、背もたれに背中を預けてしばらく黙った。
他のみんなもアスタの正体を聞き、言葉を失っていた。
「・・・俺、父ちゃんの本当の子じゃないの?」
「黙ってて悪かった。でも、全てはお前を守るためだったんだ」
少しの間動揺を隠せずに目が泳いでいた。
「俺には嫁と娘がいた。だが、娘が生まれてすぐ魔王軍に引き裂かれたんだ。その子と双子だということにした。それに幸い、俺も嫁もお前程じゃないが赤毛だ。お前を隠すのには適任だと言って俺が引き取った」
父の言葉に一呼吸置いてから聞き返した。
「俺の本当の親って、外にいるの?」
「ああ・・・たぶんな。だから俺たちは島を出たいと言うアスタを引き止める権利はない。だが、それをサポートしてやることはできる。この島には外の情報となるものは全て焼き捨てられた。それにここは全てが配給制だが、外にはお金というもので買わなきゃ飯も食えない。知識無しじゃ野垂れ死ぬのは目に見えている」
再び父を真っ直ぐに見た。
「これから子ども達に教育を行おうと思っている。1ヶ月で外に出てもやっていけるだけの知識を詰めてお前達を送り出そうと思っているよ!」
「1ヶ月・・・」
大人達の申し出はありがたい。
しかし、アスタや他の3人にはある一つの不安があった。
その夜、寝付けずアスタは作業着を着て刀を持ち、魔王軍が接岸した港に来ていた。
1人で海を見ていると、他の3人も来た。
「よ!アカガミ・・・いや、アスタ!」
ソバカスに本名を呼ばれて振り向く。
「ソバカス、クセゲ、ガリ!!」
みんなも寝巻きではなく、作業着を着ていた。
「聞いたよ。お前のこと、あと自分たちの本名も!」
そう言うとクセゲは照れ臭そうに続ける。
「俺はファルシって名前だったよ!!」
「僕はガリじゃなくてカプレーゼ!!」
「俺はソバカスじゃなく、ラペ!!」
仲間の名前を聞き、アスタはまた海を見た。
「本名を聞いたってことは、教育の話も聞いたか?」
「ああ、聞いたよ。お外に出てもやっていけるだけの知識を1ヶ月で詰めてから俺たちを出すって」
ラペにアスタが向いて聞き返す。
「そんだけの時間、俺たちにあるか?」
「・・・いや、無い!!」
みんなが少し黙ってからファルシが力強く言い返した。
その言葉にアスタもニンマリと笑い、ファルシと拳同士を軽くぶつけた。
「だよな!!俺たちには今すぐ行く理由がある!!」
カプレーゼが女祭りのチラシを開いて見せ頷く。
「うん!僕たちが教育を受けている間にお祭りは終わっちゃう!!」
「そうだ!打ち合わせも無しに作業着を着てここに来たのは皆の心が一つだということだ!!そうだろ?」
カプレーゼの肩をラペが組むと、互いに目を合わせて笑った。
アスタ達は海の遠く、いつも魔王軍がやって来る方角を真っ直ぐに見つめた。
「やってやろうぜ!!今まで俺らから女を奪い続けた、魔王軍とそれを良しとしていた大人達への反乱だ!!」
決意を固めた4人は暗闇の海を展望する。
「で、ここからどうやって抜けるんだ?」
ファルシの言葉にアスタは自信満々に海を覗き、ロープを引っ張り上げて防水の袋を取り出した。
「それ何?」と覗くカプレーゼに「救急用のボートだ!」と開いて見せた。
「制服を包んだ時に使ったボートを魔王軍に見つからないように隠しておいた!!」
広げてみると使い方がボートに記載されていた。
「お!使い方みたいなの書いてる!ここを引っ張れば・・・!」
ラペが引っ張ったが全く膨らまなかった。
「壊れてんのか?」
アスタが栓を見つける。
「ここに膨らまなかった時用の栓ある!!」
交代しながらやっとのこと膨らました。
「ハァ・・・ハァ・・・やっと膨らんだ!!」
ファルシは顎から垂れる汗を手の甲で拭う。
4人でボートを海に下ろし、乗り込んだ。
「カプレーゼ、さっきのチラシ預かるよ!一応家から防水の袋を持って来たんだ!」
「わかった!よろしく!」
アスタがチラシを預かると、ラペも申し出た。
「アスタ、それならこいつも頼むよ!!」
ラペが廃校にあった保健体育の教科書を懐から取り出したのを見て3人が目を輝かせる。
「おお!さすがラペ!!」
「準備良いな!!」
「すっかり忘れて出発するところだった!」
口々に言う中、ラペは得意気に親指を立てて見せた。
「当たり前だろ!俺たちの原点の女じゃないか!!」
アスタは拳を作って軽くラペの拳にぶつけた。
そして教科書を開いて4人で出発前に最後に見る。
「うへへへへ!やっぱいいよな!」
「写真もいいけど、これだよね!」
「写真はまだ実感湧かないしな!!」
「ああ、あっちはまだファンタジーだよ!こっちの方がリアルだ!!」
堪能した後、エロ本(保健体育の教科書)にチラシを挟んでから防水用の袋に入れ、父から貰った刀と共に麻袋に入れる。
「あ、あとこれもいるかなって思って持ってきたんだ」とファルシが言い、紙を渡した。
アスタが開いて内容を確認すると地図だった。
「地図?」
「でも、たしかお外の地図は全部焼かれたって大人達言ってなかった?」
アスタ同様首をひねりながら地図を見るラペ。
そこで「あ!!」と大きな声をカプレーゼが出した。
「これ!ネバーランドって書いてある!!もしかして・・・」
得意気にするファルシは親指を立てて見せる。
「ああ!前にアスタが本で見たって言ってたから、秘蔵書庫で見つけておいたのさ!!ネバーランドの地図をな!!」
「さすがファルシ!!!」と3人の声が揃う。
そして袋を担いで船に乗り込んだ。
「よし、そろそろ出発するか!」
アスタの呼びかけにみんなが「おう!」と答える。
夜の海は空との境目も無く、暗闇の中に黄色のボートが4人を乗せてゆっくりと進んでいった。
希望に満ちた4人にとって初めての夜の海。
「方向は合ってるの?」と聞くカプレーゼにアスタが星を指して返事する。
「こっちで合ってるはずだ!前にあの激しく光る星の方角に大陸があるって父ちゃんから聞いたよ」
「アスタはよく島の大人と話したり、誰よりも本を読んでたもんな」
ラペが感心すると、ファルシがにやけながらアスタを突く。
「そんなん言って、大抵はエロ本(保健体育の教科書)読んでたんだろ?」
「お、おい、あんまいじんなよ!!」
照れ臭そうにファルシを押し返した。
しばらく漕いでいると、次第に波が高くなってきた。
突然激しい雨が降り出す。
「わ!大雨だ!!」
「急いで陸を目指せ!!対岸が見えてきている!!」
アスタが空を見上げる。
「途中から星が見えないと思ったら、雨雲だったのか!!」
さらに波が激しくなり、雷も鳴り始めた。
「やばい!船に捕まれ!!」
アスタの声にみんなが船にしがみついたが大きな波が船を襲い、ついに転覆した。
船の上にいた4人は暗い海の中でバラバラに流されてしまった。
そんな中、アスタは必死にもがいて海底に向かっていく刀やエロ本の入った袋を掴んで抱え込んだ。
『やばっ!刀が重い!!』
袋から物を取り出し足を忙しなく動かすが、刀の紐が絡まり努力の甲斐もなく重みで沈んでいった。




