苦労
パーティと葵が外へ出る。
「いやー、いいもん見たな!」
「戦闘の勉強にもなったしね!」
アスタとシャロンが楽しそうに会話をすると、キャメリアが葵に尋ねた。
「これからお昼ごはん食べに行くけど、葵さんはどうするの?」
「俺は用事があるから行くよ」
その回答が予想外だったのか、全員が目を丸くした。
「え!俺らの飯代出してくれねーの!?」
「知るか!!」
パーティに背を向けて歩き去る。
「自分らの飯くらい自分らで払え!」
「そんな!」「殺生な!」「葵さん!!」
それでも無視されるので、諦めてアスタがずっと気になっていたことを聞いてみた。
「葵、ずっと気になってたんだけどさ、その持ち歩いてる四角いやつって何?電話してるけど線も無いしどうなってんの?」
葵がケータイを見せる。
「これか?これはケータイという科学の世界の物だよ。魔王軍が科学の物を魔法に対応するように変換する技術があるから魔法の世界ではあまり出回ってないが、魔王軍では主に通信手段で使っている」
パーティが目を輝かせて見上げていた。
「科学の世界って何?」とさらに傾げるアスタだが、シャロンとキャメリアは「すごい!」「かっこいい〜!!」とケータイに釘付けだった。
「俺らが妖精の力で魔法を使うように、電気とかの力で魔法のようなことをするのが科学の世界。俺も詳しくはわからん。今では魔王軍によってかなり追いやられてるが、昔は魔法の世界と均等なくらい力があったらしい」
葵が内ポケットにケータイをしまった。
シャロンが疑問を投げかける。
「あ!さっき聞き損ねたけど、結局葵さんの興味がある選手って誰だったの?」
「わかった!キャメロットだろ!」とアスタが先に答えるのをすぐに否定した。
「違う!お前と一緒にするな!!俺が興味があったのは・・・」
「こんにちは!!」
聞き覚えのある声にパーティが振り向くとキャメリアの姉、山茶花がいた。
「あ!山茶花さん!」
「こんな遠くの街に何でいんのよ!?大陸は簡単には渡れないはずよ!!」
「それは、な・い・しょ!」
妖しげに笑い、人差し指を唇に当てて言った。
葵にキャメリアが紹介する。
「紹介するわ。葵さん、私の姉よ」
葵が無礼の無い様に挨拶をする。
「どうも、葵です」
「あら、もしかして四天王の?まあ!新聞で見るよりイケメンね!!初めまして、椿の姉の山茶花です!愚妹がいつもお世話になっているようで!」
葵が不思議そうにする。
「椿?」
「うるさい!愚姉!あとキャメリアよ!!」
キャメリアが怒るが葵は聞き逃していなかった。
「前にも椿ちゃんって呼ばれてたよね?」とシャロンが傾げる。
「キャメリア・・・お前、本名は椿だったのか。じゃあもしかして妖精のステファニアの名前も・・・」
「ステファニア?椿ちゃんの妖精はハスノハカズラちゃんよ!」
「もう!お姉ちゃん!黙ってて!!」
顔を真っ赤にして姉を怒る。
「何でそんな名前を名乗っているんだ?椿の方が似合うのに・・・」
「いやよ。可愛くないもん!田舎っぽい!!」
腕組みしてそっぽを向いたが、キャメリアが思い出し、手紙を姉に渡す。
「そうだ、忘れるところだった!はい、これ」
「何?」
見ると(元)婚約者、柊からの手紙だった。
「きゃー!マイダーリン!!」
「今泊まってるホテルを伝えたら手紙が届いたの。姉さんに会えたら渡してって」
手紙を読むと山茶花への心配や、思いが綴られていたようで、山茶花がホロリと涙をこぼして目を潤ませる。
「柊さん・・・私のこと心配してくれてるのね」
名前に葵が引っかかる。
『柊さん?』
「早く帰ってあげなさいよ」
「ダメよ!まだ柊さん以外の運命の人と出会ってないもの!!」
「この姉妹、同じこと言ってるんだな」と葵が呆れる。
手紙に写真が1枚入っていた。
「あら、写真・・・きゃっ!柊さん!ちゃんと髪を切って袴から着流しにしてくれてる!!」
「ほら、ここまでしてくれてんだからせめて顔くらい見せてあげなさいよ!」
葵も写真を覗いて驚く。
「柊さんって、剣豪の!?」
「どうして葵さんが柊さんを知ってるの?」
キャメリアも驚いて聞き返した。
「俺が道に迷った時にお世話になったんだよ!訳あって決闘した時の怪我はまだ治ってないみたいだが、元気そうで何よりだ!」
葵が安堵の色を見せて写真を眺めるとキャメリアに睨まれた。
「柊さんイーストポート付近まで松葉杖で来てたけど、あれ葵さんのせいなのね」
「違っ!男と男の決闘だ!!」
山茶花が大事そうに写真を抱える。
「椿ちゃん、柊さんに伝えて!」
キャメリアが姉に向くと穏やかな顔をしていた。
「もうちょっと短くして、ジャケットを着て欲しいって!」
「まだ求めるか、この姉は!!」
『柊さんも大変だなぁ・・・』と葵が同情する。
姉に呆れる横でアスタが閃いた。
「なぁ、今葵いるからスキル上げたい放題じゃね?」
小声でシャロンに耳打ちするアスタに「賢い!」と褒めて驚きを隠せない顔をする。
アスタが山茶花に向く。
「山茶花さん、今回もスキル、上げてくれるんですか?」
「ええ、勿論!」
「スキル?」と葵が不思議そうに聞く。
「山茶花さんは巫女の力でスキルアップさせてくれるんだ!」
「何でもできるわよ!今日は何をする?」
全員が声を揃える。
「ぜぇ〜んぶ!上げて下さい!」
それを聞いた山茶花が驚く。
「いいけど・・・大丈夫?」
「大丈夫!」
「今のシャロン達は前よりも生活のスキルがアップしてるから!」
「あ、そうだ!ついでに葵さんもいかが?」
キャメリアが葵に振ると自分を指差して山茶花に尋ねた。
「俺もいいんですか?」
「ええ、大丈夫よ!」
その答えを聞き、葵もパーティと同じようにオーダーする。
「じゃあ俺も全体的に上げて貰おうかな!」
「わかったわ!それじゃあ、いくわよ!!」
山茶花が気合いを入れてお祈りをすると、4人のスキルが少しずつ上がった。
「ふう、大変だったわ!」
終わってから額の汗を拭う。
「お疲れ様!」や「ありがとうございます!」とパーティがお礼を言うと、山茶花が例の如く手を出した。
「え?」
葵が戸惑っていると、パーティが口々に急かす。
「お金だよ」
「そうよ。タダでしてくれるわけ無いでしょ」
「葵さん、早く早く!」
シャロンが服を掴んで見上げていた。
「はぁ!?聞いてないぞ!」
「姉さん、今回はいくら?」
「そうね、全員のを全体的だったし、特に葵さんがいたから・・・」
計算機を打って数字を見せると葵が目を丸くした。
「こ、こんなにも・・・」
「あちゃー」とシャロンが額を手で押さえる。
「だから大丈夫かって聞いたのよ」
「大丈夫!何せ俺達には葵がいるから!」
「そのお陰で生活水準上がったもんね!」
「流石財布!・・・あ、失敬。葵さん!」
葵がキャメリアを睨んだ。
「財布って言ったな!!」
「ごめんなさい」「お願い、払って」「葵お兄様大好き・・・」
3人が見上げながら目を潤ませてせがむ。
葵はイライラしながら穀潰し共の熱い視線を無視して財布を見た。
それから少し考える。
「・・・あの、親族割引とかありませんか?少しでいいので」
「足りないの?」「葵ダッセー!」「しっかりしてよ!」
パーティが下から野次を飛ばすのできつく睨み返した。
「俺の分だけ払ってもいいんだぞ?」
その一言で一瞬で黙らせる。
山茶花が葵をまじまじと見ていた。
「親族割引は無いけど・・・うーん、そうねぇ、葵さんが私をときめかせてくれたら割引いてあげてもいいわ!」
躊躇いながらも山茶花の腰と肩に手を回し迫る。
「山茶花さん、俺を誘うという意味をもう少し深く考えた方がいい」
一気に山茶花の頬が赤くなる。
「山茶花って言って・・・」
「山茶花、どうする?続けようか?」
葵が指を絡ませて手を握り、微笑みかけながら指にキスをした。
「ひゃっ!・・・良い!最高よ!葵さん!!」
「それはどうも」
葵が起き上がらせる。
「葵さんやーらしーい」「あいつ絶対慣れてるよな」「今まで色んな人誑かしてんだろな〜」
「黙れ!誑かしてなんかない!」
山茶花が興奮覚めやまぬまま葵の手を握る。
「葵さん、私久しぶりにときめいたわ!」
「そうですか、それじゃあ・・・」と期待の眼差しを向けると、見事に有り金全部を取られた。
「まいどあり〜!またのご利用お待ちしてま〜す!」
山茶花は去り、葵はその場で膝をついて落ち込んでいる。
「容赦無いな」「全額取られた挙句ローンにされるなんて・・・」「葵さん元気出して。銅貨2枚分くらいは安くなったじゃない。姉さんにしては引いてくれた方よ」
「俺は元気さ・・・いつだって・・・」
そこでケータイが鳴り響く。
「失礼。もしもし」
「葵ちゃん、この前のことなんだけど・・・」とまた母親の声がした。
「すいませんが今、人と話しているので後で折り返します」
ケータイを切るとパーティに一言挨拶をした。
「それじゃ、俺は行くからな」
「四天王だ何だ言われているけど」
「親には弱いんだな」
「そうだね」
落ち込んだまま去っていく葵の背中を憐れみの目で見送った。




