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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
メリリーシャの街
35/218

コロシアム

翌朝、ホテルの豪華な朝食に3人で満足しながらロビーに出ると葵がソファに座って新聞を読んでいた。

「おはよう!葵さん!」

「よ!」とアスタが手を挙げて挨拶をする。

「お前らか・・・」

「葵さんのお陰で素敵な旅になってるわ!」

『こっちはお前らのせいで出費の旅だよ!』

葵がキャメリアの言葉に嫌悪の色を示す。

「そうだ、丁度良かった!」

葵が思い出したかのように言うと、チケットを3枚渡した。

「先程ホテルの支配人が挨拶に来てな。今日のコロシアムの観戦チケットを貰ったんだが、お前らいるか?」

アスタが受け取り女子2人が左右から覗き込む。

「コロシアム?」

「ってことはバトルってこと?」

シャロンが傾げる。

「そうだな。今日の昼からあるそうだ」

「グラディエーターか・・・」

「男らしくてカッコよさそう!!」

勇ましい男性グラディエーターに想像を膨らませる女子に対して、アスタは拒否した。

「えー、ガチムチの男達が戦ってる男臭いやつだろ?何で島を出てまで男を見に行かなきゃならねーんだ!いらねーよ!」

「そうか、残念だな。女騎士もいるらしいがな」と葵が新聞を見せる。

“今注目の女騎士、キャメロット!”と題された特集が組まれており、露出の多い格好が男心をそそる。

「男の中の男、勇者アスタがこんな熱い男の舞台を観に行かないわけがないだろ!勿論行くよ!」

「そうか、ならやるよ」

鼻血を出しながらアスタが3枚受け取った。

鼻血を拭いた後、鼻を当てて匂いを嗅ぐ。

「スゥゥゥゥゥゥウウ!ハァァァァアア・・・・愛しのキャメロット・・・良い香り・・・」

恍惚とするアスタに「葵さんか支配人の匂いでしょ、それ?」と冷静にシャロンが言った。

「葵さんも行くの?」

「ああ、俺も行く予定だ!興味がある選手がいるんだ!」

キャメリアと話しているとケータイが鳴った。

「失礼。もしもし」

電話に出ると女性の声が聞こえた。

「もしもし、葵ちゃん?」

「か、母さん!少し待って下さい!」

慌てて通話口を押さえて向き直る。

「じゃあ俺は行くからな」

「おう、ありがとうな!葵ちゃん!」

「黙れ!」

アスタをひと睨みすると、葵は再びケータイを耳に当てて部屋へと戻って行った。

「葵ちゃんも忙しい奴だな」

「ね」とシャロンは返事を一文字で済ませ、パーティは葵を見送ってから外に出た。


3人でコロシアム付近に足を運ぶ。

「あ!リントンが言ってたノットがあるよ!」

シャロンが指差す先に看板があった。

「本当だ!」

「この辺結構店が多いわね!」

見渡しながら歩いているとアスタが前から走ってきた人にぶつかった。

「いって!!」「あたたた・・・」とお互いに尻もちをつく。

見るとぶつかってきたのはシャロンよりも幼い少年だ。

「コラ!待て!!」と人混みの奥からおじさんが怒りながら走ってくる。

「ヤバイ!」

少年は再び走り出した。

「万引きだ!捕まえてくれ!!」

キャメリアがステファニアを召喚してツタを出し、足を捕まえ逆さ吊りにした。

「わ!何だこのツタ!?」

驚いている内におじさんが追いつく。

「捕まえたぞ!このガキ!」

「わかったよ!返すよ!!だから許してくれよ!!」

おじさんは子どもの胸ぐらを掴んだまま振り向く。

「お嬢ちゃんありがとうな!」

「いえ!」

おじさんが連れて行こうしたら、後ろから別の少年が走ってきた。

「待って下さい!すいません!お金は払います!!」

アスタくらいの年齢であろう男の子が紙幣を渡す。

「ったく!ちゃんと躾とけよ!!」

「すいませんでした!」

頭を何度も下げるとおじさんは去って行った。

「もう、こんな事しちゃダメだよ、パーム!ちゃんとご飯食べてるんだから!」

「ふんっ!」と腕組みしてそっぽを向く。

後から来た少年がアスタに向き直る。

「さっきはごめんなさい。この子がぶつかったみたいで。・・・あ!膝から血が出てる!大変!消毒しないと!!」

見るとアスタの膝からは少し血が出ていた。

「いや、いいよ。ただの擦り傷だし。ほっときゃ治るよ」

「そんな、悪いよ!ばい菌とか入っちゃうし・・・」

話していると「チョコ、パーム!」と女性の声が聞こえ、少年達が振り返る。

アスタと同じくらいの年齢の少年はチョコと呼ばれていた。

「あ!アイリス姉さん!」

『うわ!綺麗なお姉様!!』

アスタの恋愛センサーが反応する。

アスタフィルターがかかり、女性はスローモーションで周りに花が咲き誇った。

アイリスが少年達に近づいたら、パーティと見比べて心配そうに尋ねる。

「どうしたの?何かトラブル?」

「さっきね、またパームが万引きして、逃げてる時にこの人とぶつかって怪我させちゃったんだ!」

チョコがアスタを指して伝えた。

「大変!家が近いんです!すぐに処置しますので、お上り下さい!!」

「それがね・・・」と言いかけるのを「チョコ君!」と呼びかけられて肩を掴まれた。

「お邪魔します」

「え?でもさっきは・・・」

膝を持ち上げて見せる。

「ほら、見てくれよ。ジュクジュクしてるだろ?」

「・・・うん」と戸惑いながら答える。

「これはもう処置しないと、ばい菌入っちゃうじゃん」

「・・・うん。ウチ来る?」

その言葉を待ってましたと言わんばかりに元気に返事をする。

「え!良いの!?ありがとう!悪いな、色々と世話になって!」

チョコは呆れて言葉を失っていた。


少し歩くと西の街外れに“あすなろ荘”と書かれた庭付きの家に到着した。

「ここが私達の家です!さ、どうぞ!」

シャロン、キャメリアがアイリスに続いて入る中、アスタが立ち止まる。

「どうしたの?」

アスタに気づいたチョコも立ち止まった。

「なあ、これで俺の胴体を切ってくれ!」と刀を差し出す。

「え?え!!何で!?」

「わかんねーのか、お前は!!服の下を怪我したらどうする?脱いで手当てすんだろ!俺はアイリス姉さんの前で脱ぎたいんだ!」

『へ、変態だ!この人!!』

本当に服を脱ぎ始めたのでチョコが困惑する。

「さ!一思いにやってくれ!!」と両手を広げたが、限界を迎えたチョコは家に逃げ込んだ。

「や・・・やだよぉ!!」

「あ!こら!チョコ、この野郎!!」

アスタも追いかけて入った。


中に入り、ソファに座っているとちびっ子達が来た。

「誰?」「お客さん?」と物珍しそうにパーティを覗く。

「パームがぶつかって怪我させちゃったの」

パームが顔を背ける。

「俺アスタ」

「私はキャメリア」

「シャロンだよ!」

子ども達はシャロンの杖が気になったようだ。

「その棒何?」

子どもが小さな指で指すので、持ち上げて見せてあげる。

「魔法の杖だよ!これで魔法を使うの!」

さっと振り物を浮かせてみせた。

「すごーい!」「やらせて、やらせて!」と口々に言い、手を伸ばすので「いいよ!」と言って杖を渡した。

「いいの?」

「うん!だって魔導師としての訓練受けないと使えないから大丈夫だよ!」

ちびっ子達が別の部屋へと喜んで持って行く。

「ねえ、チョコって言われてるけど、それってあだ名?」

「あ、名乗り忘れてた!ごめんなさい。僕の名前はチョコレート・リリー!みんなからはチョコって呼ばれてるんだ!」

チョコが救急箱をあけて、アスタを処置し始める。

「僕らが住むここ、あすなろ荘は孤児院なんだ。みんな親がいない子ばかりで、僕もその1人なの。僕は物心がつく前に誘拐されたらしくて、色々な所を渡っている内に縁あってアイリス姉さんが引き取ってくれたんだよ!だから僕、親の顔知らないんだ!」

「つか、お前が処置すんのかい!アイリスさんは!?」

アイリスは只今買い物中・・・

期待が外れたアスタは平然と処置するチョコにつっこまずにはいられなかった。

チョコは消毒が終わり、絆創膏を貼って仕上げる。

「できた!」

処置が完了した膝を確認すると改めて謝られた。

「本当にごめんなさい。パームも悪い子じゃないんだ」

「ご飯が足りてないってことじゃ無いのよね?何で万引きなんか・・・」

キャメリアが聞くと悲しそうにチョコが答える。

「姉さんが言ってたんだけど、親がいなくて寂しい思いをした子は誰かに見てほしいって思うようになって、時々犯罪をする子がいるって・・・」

「ここの子達はみんな親がいないんだもんな」

アスタがしみじみと呟く。

「そっか・・・アスタもいないんだった」というシャロンの言葉にチョコが目を丸くした。

「アスタも?そういえばみんなは何してる人達なの?」

「ある目的を達成する為に私達は旅をしているの!」

キャメリアの言葉に興味を持つ。

「へー、目的って?」

「好きな人と・・・」

キャメリアがシャロンの口を慌てて押さえる。

「俺は魔王によって家族と離れた。だから俺は魔王をぶっ倒すために、育った土地を離れて来たんだ!!」

「へー、すごい志だね!」

チョコが関心していると、ちびっ子達が静かにシャロンの杖を返しに来た。

「ありがとう・・・」

「どういたしまして!魔法使えた?」

首を黙って横に振る。

さっきの元気は全くなかった。

「よし、そろそろ行くか!」とアスタが立ち上がる。

「消毒ありがとな!」

「うん、また遊びに来て!」

チョコが玄関まで見送りをしてくれた。

「おう!また来るわ!」

「お邪魔しました!」

「またね、みんな!」

パーティは手を振ってあすなろ荘を後にした。


それからコロシアムへ向かい、席に座る。

「コロシアムって初めて見るわね!」

「シャロンも初めて!ワクワクする!!」

楽しそうに話す2人とは正反対に、アスタだけ元気が無かった。

「アスタ・・・元気無いね」

「あすなろ荘の子達を自分と重ねてるの?気持ちはわかるけど・・・」

そう言うと「わかるわけねーだろ!わかるわけ・・・」と言いかけてアスタは席を立って離れる。

「どこ行くの!?」

「始まるまでには戻る!」

2人はかける言葉が思いつかず、心配そうに背中を見送るばかりだった。

「仕方ないわ。そっとしておきましょう。私達じゃ解決できないことよ」

「そうだね。1人にしてあげよっか・・・」

アスタが勢いよくコロシアムの外に出て街を走っていたら、また人とぶつかった。

「いたた・・・」

「すいません、大丈夫・・・って、アスタ!」

見るとぶつかった相手は、さっきあすなろ荘で喋っていたチョコレート・リリーだった。

「チョコ!何だその荷物?」

「これ?ちょっとね!」

笑って見せるチョコにアスタが立ち上がって手を貸す。

「他の2人は?」

「あいつらは中にいるよ」

何となく元気が無い様子にチョコは気づいた。

「元気無いね。もしかしてあすなろのこと気にしてくれてるの?」

「・・・あの2人にはわからないことだから1人で出てきた」

俯いて話すアスタに微笑みかける。

「アスタは優しいね」

「違う。俺は・・・俺だって!」

そう言って力強く拳を握り締めた。

「俺だって、アイリス姉さんのような美しい姉さんがいたら地元を離れなかったよ!!くそっ!くそっ!」

『ええぇー!!?』

このアスタ節に本日2度目の呆れて言葉も出ない現象を体験する。

同情した自分は何だったのかと自問するチョコ。

「チョコにもわかんねーだろうな!俺みたいな男しかいない島で育った奴の気持ちをよぉ!!」

「はい・・・すいません」

何故か責めたてられ、何となく謝ってしまった。

「あんな綺麗なお姉様と1つ屋根の下とか好きになるだろ!普通!!・・・まさか、チョコ!姉さんのこと・・・」

「え?いや、別に姉さんのことは本当に家族としてしか見てないよ!!」

それを聞いたアスタが決意を固める。

「よし、決めた!俺はアイリス姉さんと結婚して共にあすなろ荘を運営していく!!」

「そ、そう。・・・あれ?魔王は?」

チョコに振り向くアスタは鼻で笑う勢いで、小馬鹿にした表情を見せて肩を叩いた。

「チョコ、少し考えたらわかるだろ?美しいお姉様と結婚するのと、生死を賭けて化け物みたいな相手と戦うの。どっちが幸せだ?」

「そりゃ前者だけど・・・。え?僕が間違ってるの?」

思わず自分を指差す。

「そうだ!誰だって幸せになる権利はあるんだ!それに、俺が倒さずとも誰かがしてくれる!」

「はぁ・・・」『こんなのばっかだから世の中が平和にならないんだろうな・・・』

ため息混じりの返答をすると、勝手に元気になったアスタが片手を上げて去っていく。

「チョコに話したら気が晴れたわ!ありがとな!俺そろそろ行くわ!」

「いえいえ、聞くだけならいつでも聞くよ!男同士しかわからないこともあるもんね!じゃあ!」

アスタが去った後、チョコはカバンを持ってコロシアムに入っていった。

だが、入ったのは観客用の入り口ではなく、裏の入り口からだった。


「えーと、正面入り口は・・・」

アスタは向かう途中の路地で葵らしき声が聞こえたので、そちらに寄っていく。

薄暗い中、葵が誰かと話していた。

アスタはそこへゆっくり近づいていった。

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