パルフェの双眼鏡
アスタとキャメリアの安価分身様に無視されたシャロンは、ホテルのロビーにいる葵の元に泣きながら到着した。
「葵さーん!うわーん!!」
「何だシャロン!何故泣いてるんだ?」
葵の座るソファの前で立ち止まる。
「アスッ、アスッ・・・アスタ・・・と!キャ、キャメッ・・・リア・・・うわーん!!」
全く言葉にならないでシャロンは泣き喚いた。
「落ち着け!アスタとキャメリアがどうした?」
親指で涙を拭いながら優しく問いかけてやる。
「シャロ・・・ンが、クレープ買って・・・皆のとこ行ったら・・・2人してシャロンをっ無視するの。・・・それで、ずっと2人でランニングっしてるの・・・」
「よくわからん状況だな」
葵の理解が追いつくより前に、シャロンが再び泣き出した。
「あー、もう!わかったから泣くな!ジュースを買ってやるから泣き止め!」
「う・・・うん」
シャロンを隣に座らせる。
「何がいい?」
「クリーム・・・ソーダ」
葵が給仕を呼んで注文をした。
「クリームソーダ下さい」
「さくらんぼ・・・」
シャロンが横から小声で言う。
「・・・さくらんぼを上に乗せて下さい」
「あとパンケーキ・・・」
また給仕に言う。
「・・・パンケーキも下さい」
「フレンチトーストも・・・」
「フレンチトーストも下さい・・・」
「あんみつも・・・」
「あんみつも・・・もう他には無いか?」
確認するとシャロンが黙って頷いた。
「3つずつ・・・」
「・・・3つずつ下さい。・・・あと領収書切っといて下さい」
葵がため息を吐いて少し考える。
『あいつらが変なのはわかるが・・・妙な胸騒ぎがする。確かめに行くか』
スカートの端を掴んで鼻を啜るシャロンを立ち上がりながら見る。
「シャロン、それを食べたらすぐに部屋へ帰れ。外もそろそろ日が落ちて来た」
「でも、まだアスタ達が・・・」
シャロンは目に涙を溜めながら呟く。
「あいつらは俺が探すから心配するな!だから部屋に・・・」と言いかけると被せてシャロンが言い返した。
「違うの!キャメリアが鍵の交換バッジ持ってるから、それがないと部屋の鍵を受け取れないの!」
葵は仕方なく自分の部屋の鍵を渡す。
「じゃあ、あいつらが帰るまで俺の部屋に行け!」
「ありがとう!」
鍵を渡し、葵が歩いていく。
「俺は行くからな!早く食べて部屋に行けよ!!」
忠告すると足早にホテルを出て行った。
パルフェがある曲がり角を覗いた。
「見つけた!!」
しかし誰もいない。
「あれ?おかしいわ・・・。あの経路だと確かにここに来るはずよ!読み間違えたかしら?」
再び双眼鏡を覗く。
「もう1つあったのね、抜け道。・・・ん?」
パルフェが口角を上げて不敵に笑った。
「馬鹿ね、行き止まりじゃない。必ず仕留めてやるわ!」
2人を追いかけて抜け道へと入るがいない。
「また!?今度は抜け道なんてないはずよ!一体どこなのよ!隠れてるんでしょ?出てきなさい!!」
奥へと進むと背後で人が動く気配がした。
その気配に振り返ると同時に投げたナイフがアスタの肩に刺さった。
アスタが転けて手を着く。
「小賢しいネズミ共ね。これでやっと・・・え!?」
肩を刺したアスタは平然と起き上がり、ゆっくりランニングを再開した。
「まさか、さっきこいつらが用意してたおもちゃのダミー!?」
パルフェがまた双眼鏡を覗く。
「本物はどこ!?」
しかし映ったのは目の前をゆっくりとランニングをする2人だった。
すると、ランニングをしていたキャメリアが張り子を放つ。
張り子からステファニアに変身し、ツタでパルフェの双眼鏡を奪うことに成功した。
「ナイス!キャメリア!」
アスタが踏込み、パルフェのドレスの裾を杭で刺す。
刺されたことに気づき、「あー!」と絶叫した。
ノーティーエッグズ【杭ック】
素早く、どこにでも刺せる杭なので、主に相手の服に刺して足止めをしよう!
決して人に刺しちゃいけないよ!
アスタがパルフェの背後に回り離れる。
杭を抜こうとしているところにキャメリアがボールを投げた。
とっさに手で払うと弾けて煙が顔を包む。
煙がなくなると顔に男爵の様な立派な口ヒゲが生えた。
ノーティーエッグズ【男爵ヒゲボール】
このボールをぶつけると、弾けて相手の顔にヒゲが生えるよ!
ヒゲの種類は様々!皆で変装を楽しむのもいいね!
「何なのよコレ!生えてる!?」
固いヒゲを引っ張るが全然取れない。
「プッ!綺麗になったな!」
「これは葵さんも惚れちゃうわね!」
2人がゲラゲラと大きく口を開けて笑う。
腹を立てたパルフェはキャメリアに向かってナイフを連続して投げた。
キャメリアが避けてアスタの隣に行く。
パルフェが杭ックより手前からドレスを切った。
「ぅわあ!」
「怒ってる!」
両手で頬を押さえて焦っている2人に怒りの表情を向け、ナイフを両手に一杯構える。
「正直ガキだと見くびっていたけど、ここからは本気で始末にかからせてもらうわ!」
アスタは慄いて一歩足を下げるとワイヤーを踏んだ。
その途端、ナイフが飛んできて腕を掠る。
アスタが腕を押さえて振り向くと、無数のワイヤーが巡らされていた。
「何だコレは!?」
「トラップ!?いつの間に!」
慌てふためく姿をパルフェが笑う。
「当たり前でしょ?何も無しに単身でこんな袋小路に挑むわけないじゃない!入った時にトラップを仕掛けさせてもらったわ!これでもう逃げられないわよ!!」
その時、時間でヒゲが取れた。
「あ、取れた!時間制なのね!」
アスタ目掛けてナイフを投げる。
それを避けると、その先のワイヤーを切って別のナイフがキャメリアに向かって飛んできた。
キャメリアの肩にナイフが刺さる。
「うっ!」
「さ、これであなた達の処刑方法ができたわ!剣山にしてあげる!!」
ナイフを構えるとアスタも刀を構えた。
「アスタ!」
「俺に任せろ!キャメリアは自分の身を守れ!!」
飛んでくるナイフを避けては背後からのナイフも避けた。
しかし避けるうちに何本か当たり、ダメージを徐々に受けていく。
「さあさあ!何本まで立っていられるかしら!楽しみね!」
耐えきれなくなったアスタがパルフェに突進した。
「死に際にヤケを起こしても無駄よ!見苦しい!」
ナイフが足に刺さるが構わず突撃し、タックルした。
「え?」
パルフェがアスタと一緒に吹っ飛び、背中と地面の間に手で隠し持ったノーティーエッグズ【即席落とし穴】が作動する。
それはこの街に来た時にアスタがひっかかったおもちゃで、大きな穴が開き2人で落ちていった。
『このガキ!小賢しいマネを!!』
「アスタ!」
キャメリアが駆け寄り心配そうに覗く。
アスタはさらにもう一段階【即席落とし穴】を発動させ、2つ目の穴に落とす際にパルフェの両親指を粘土で拘束していた。
ノーティーエッグズ【固めて粘土】
ギュッと握ると固まる粘土だよ!
お湯をかけると溶けるけど温度に気をつけろ!!
落ちきってから親指の拘束に気付いて驚くパルフェ。
「何これ!?」
「お金の都合で一握り分しか買えなかったが、親指さえ固定すれば何も出来んからな!」
ステファニアのツタでアスタを引き上げる。
穴の上から2人が覗き込んだ。
ニヤニヤと嫌な笑い方をするアスタの手には映写機があった。
「これは返してもらった!」
「それだけはダメ!」
両手を伸ばして抗議すると、カバンからさらに別の物が出てきた。
「それだけは?・・・ってことはこれはいいんだ!」
そう言ってアスタが手に持っていたのは財布だった。
「それもダメ!!」
「ま、両方もらうんだけどさ!」
アスタの両手を見てキャメリアが驚く。
「そんなのいつ取ったの?」
「タックルの時に貰っちゃった♪」
嬉々として見せつけるアスタに叫ぶ。
「せめて葵の写真だけでも!」
「ダメダメ!これ借り物なんだよ!借りたら返さねーと怒られるんだぞ!」
パルフェが穴の底で悔しそうに睨んだ。
「ちょっと待ちなさい!あんた達、どうして私の能力から逃げられたの?」
アスタがパルフェを見下げる。
「おかしいと思ったんだよ。俺達がいくらダミーや路地を使って逃げても必ず見つけるからさ」
「3回目に特定された時に気づいたのよ。貴女の能力はその双眼鏡を使った千里眼でしょ?」
パルフェが冷静に「ご名答」と答えた。
「それで?どうやって私の千里眼を避けたの?それも2度も!」
アスタが紙を見せる。
「これ、ノーティーエッグズの【とん図ら】って言うんだよ。専用のシールを貼ったらそいつの動きをこの地図が示してくれるんだ!それを見てパルフェが先回りの動きを見せたら俺らが別のルートを通ったってわけだよ!」
「因みに、そのシールは映写機に貼っていたのよ!それをご丁寧に持ち歩いてくれたお陰であなたの千里眼を破れたわ!」
自分のミスで負けたことを知り、拳を握って悔しそうに俯いた。
「それじゃあな!」と言うと2人が目の前から消える。
「あ!ちょっと!!」
叫ぶパルフェにお構い無しに即席落とし穴の蓋を閉めた。
閉じられた穴からはパルフェの声はほとんど聞こえない。
さらにその上から色々と物を置いて去った。




