人形の魔女
メリリーシャの南側にある、かなり廃れたスラム街のある廃墟の前で立ち止まったパルフェ。
ドアノブに手をかけ、ノックも無しに開けると玄関から続く長い廊下の真ん中に人形が項垂れて居座っていた。
ボロボロでつぎはぎがされた服に、手作り感のあるフェルトで出来た顔には服のボタンで目を縫いつけられていた。
目の前でしゃがみ人形を掴む。
「これがピノキオ?人形だからピノキオ?面白みのない名前ね」
人形が体を硬らせて汗を吹き出す。
「手っ取り早く割いて核と心臓を取るとするか・・・」
ナイフを出すと両手を振って否定した。
「ち、違うよ!!ボクはピノキオじゃないよ!!」
「へぇ、嘘を吐くのは一緒なんだ」
怪しく笑うとナイフを振りかざした。
ピノキオは核の蛙を頭部から飛び出させ、パルフェの顔目掛けて飛びついた。
掌より大きな蛙の体を鷲掴みにする。
「女子が女を出す時は近くに好きな人がいる時だけよ。蛙は平気なの、私」
人形は体をジタバタと動かしてパルフェの手から降りて逃げた。
「隠れんぼ?私強いわよ?」
怪しく笑いながら建物の奥へと進んだ。
怯えながらクローゼットに隠れていると、ゆっくりと光が差し込んできた。
「みーつけた!」
パルフェが上からかかる服の間からナイフを突き刺す。
慌てて横をすり抜けクローゼットを脱出した。
「ふふふ。好きなだけ逃げなさい」
パルフェは余裕を見せながら歩いて追いかける。
ベッドの下、置物の裏、子ども部屋のおもちゃ箱の中、ピノキオが隠れる場所全てが何故かすぐに見つかってしまう。
大きく呼吸をしながらパルフェを前に体を震わせる。
「全然張り合いないゲームだったわ。それに核を犠牲にしてまで逃げるなんてダサすぎ。しかも捕まるなんて憐れね。魔女の中で一番面白みに欠けるんじゃない?」
首を左右に振ってため息を吐いて見せた。
ピノキオがその言葉に怒る。
「おお、お前なんか!すぐに八つ裂きにしてやるからな!!」
吠えた後に余裕の笑みを浮かべた。
「へへっ!行け!みんな!!こいつを殺しちゃえ!!」
子ども部屋のあちこちにある人形達がパルフェに襲いかかってきた。
しかし、パルフェに触れる手前で四方八方から飛んできたナイフに人形達が串刺しにされて壁や床や天井に貼り付けられ、動かなくなった。
「バカね。入る時にトラップくらい仕掛けるわよ。私は戦闘向きの能力じゃないんだから」
全身を震わせるピノキオを鷲掴みにして持ち上げた。
「そろそろ人形ごっこ、終わりにしても良い?」
パルフェが胸を突き刺して開くと縫い目が入り、針が何本も突き刺さった心臓が現れた。
魔法を掛けたガラス製の牛乳瓶のような入れ物に心臓を入れた。
人形から魔女の思念が光となって溢れ出る。
パルフェの目の前に来ると器だった人形の記憶を見せた。
スラム街で毎日お腹を空かした少女だか少年だかわからない子どもが人形を持って歩いている。
街の大人や他の子どもからたくさん石を投げられたり、蹴られたりしていた。
その度に頭を抱えて縮こまり、「ごめんなさい!!」と何度も叫んでいる。
その子どもはいつも何かに怯えていた。
家に帰ると親らしき大人からアザが出来る程叩かれる。
そしてある日の夜、路上に放り出され冷たい地面に横たわり、人形を抱えてゆっくりと目を閉じると動かなくなった。
そこに壁を這って現れた蛙の魔獣が人形ごと子どもを丸呑みにしたら、人形の姿になったが、子どもの怯えた性格にもなってしまった。
いつも何かに怯えて隠れ、たどり着いた廃墟で時々入って来た人間を怯えながら殺していた。
自己防衛のようにも見える殺人を繰り返す日々。
そして、ある日思い出したように飲み込んだ子どもの家に行き、そこにいた親であろう大人を殺した。
その時も「ごめんなさい!ごめんなさい!許して!許して!!」と何度も言いながら包丁で刺していた。
「ふん。虐待で死んだ子を食べてなりすますなんて・・・。やっぱり面白みに欠けるわね」
しかし、回収した心臓と核を持つ手に力が入った。
それに気づいて脱力し、ピノキオの残骸に背を向けて去っていった。
そして核と心臓を拠点に引き渡しに行くと、葵の部下が対応してくれた。
「パルフェ様、お疲れ様です!魔女を1人で倒されるなんてさすがですね!」
「こちら魔力の回復薬です!」
「あれ?あなた達がいるってことはもしかして葵も来てるの!?」
興奮するパルフェに苦笑いを返す。
「実はウェストポートの町からこちらまでの道中で白雪姫の足止めをされていてまだ来れてないのです。我々はただ先にこちらにいただけなのです」
「あ、そうなんだ」とがっかりしたように言った。
『ウチの部下もたしか足止め喰らってたわね。私が行って討伐しようかしら?でも白雪姫はたしかそうめんか〜・・・。あれ?この前討伐してなかった?』
などと無言で悩んでいたら、葵の部下が核と心臓を手で指した。
「パルフェ様、そちらお預かり致します!」
パルフェは魔法のかかったガラス瓶を持ち上げて、核であるカエルと睨めっこした。
「女子が女を出す時は近くに好きな人がいる時だけよ」と言ったことを思い出し、葵の部下を一瞥する。
少し瓶を振ってカエルを跳ねさせた。
「きゃっ!・・・私カエル怖〜い!!」
そう言って突き渡すとピノキオの核は唖然としていた。
「す、すぐに持っていきます!!」と言って葵の部下達は2つの瓶を急いで裏へと持って行く。
パルフェは髪をかき揚げ、「ええ、よろしく。あと葵に私の女っぷりを伝えておいてね」と言い捨てた。
その後、回復薬を飲み干し、メリリーシャの街を歩いているとパルフェのケータイが鳴った。
「あら、スーベニアかしら?全然連絡つかないけど何やってんの?」
開くと魔王からのメールだった。
「違った・・・。スーベニアは一体どこで何してんのよ?てかあのガキンチョ共の始末報告まだ?」
ケータイをしまうと、目線の先にある人物が映り込み停止する。
「う、嘘!?なんであいつらがここにいるのよ!?」
そこには部下のスーベニアに始末を依頼したはずのアスタとキャメリアがいた。
パルフェは呑気に笑い合う2人を睨んで歩を進めた。




