届け物
目視できる木が次々と見えない何かに飲まれていく。
先頭にいるシャロンが慌てて足を動かそうともがくが全く取れない。
「取れないーーー!!!」
限界だと感じたアスタが大きな声で叫んだ。
「薔薇の魔女!!穴の魔女から預かり物がある!!俺達はそれを届けに来た!!攻撃を止めないと俺らごと消えるぞ!!!」
アスタの声を聞き、狩人の男が何かに気付いた表情をする。
その叫びは雪に吸収され反響はしなかった。
「ダメか!?」
目の前まで迫る見えない物に覚悟を決めたようにシャロンは硬直し、目を瞑った。
しかし、何も起きない。
ゆっくりと目を開けると、大きく丸く削られた様な木や雪の姿があるだけだった。
その削られた雪はシャロンの足先で消えていた。
シャロンは思わず足を引いて胸を抑え、大きく荒い呼吸をした。
「白雪!攻撃を止めてくれ!!彼らは私の客人だ!!」
狩人の男は叫ぶと屋根から降りた。
そして凍えるパーティを家に招き入れてあげた。
「ごめんね。寒かったよね?暖炉で温まって!」
「はい、ハーブティーよ!」
凍えながらハーブティーを飲む。
「私は穴の魔女、ハンターだ!よろしく!」
「私は薔薇の魔女、白雪姫!」
弓を屋根から引いていた男がハンター、室内から吹雪の攻撃をしていたのが白雪姫だった。
寒さに耐性のあるシャロンが一早く状態が回復し、2人と会話をする。
「魔導師のシャロンだよ!こっちの女の子が召喚士のキャメリアで、男の子がアスタ!」
指して2人の分も紹介する。
そして気になったことを聞いた
「ハンターなの?白雪姫といるのに?王子様じゃなくて?」
「そう、ハンターだよ!」
「ロビンフットでもないの?」と更にシャロンが全身をくまなく見る。
「うん、残念ながらウィッチコードはハンターなんだ!」
「なーんだ。ちぇー!」
あからさまに残念がるシャロンにハンターが苦笑いをした。
「よく子どもには名前でガッカリされるよ!」
温まったキャメリアも口を開く。
「2人はどうしてこの辺を通る人達を攻撃してたの?前までは他所にいたのよね?」
苦笑いしながら白雪姫が答えた。
「元々は東の大陸の北側に2人でいたの。ここに移ったのは魔王軍があっちの大陸を攻め始めたからよ!」
「私達は静かに過ごしたいんだ。2人だけでね」
2人が手を繋いで寄り添う。
やっと復活したアスタが質問した。
「じゃあ何でメリリーシャに行く人らを攻撃してたんだよ?余計に目立つじゃないか」
「初めは凍土を道にかからないようにしてたの。だけど最近魔王軍がシンデレラとキャンドルを倒したみたいで、その悪い影響で魔女狩りをしようとここに踏み入る人が増えたわ。だから凍土の範囲を広めてそもそも人が来ないようにしていたの。それでも来ようとする人は私とハンターで倒させてもらっていたわ」
白雪姫にキャメリアが訝る。
「それにしては警戒しすぎじゃない?魔女が2人もいるんだからそうそう怖いものなんてないでしょ?」
2人は目線を落とし、不安そうにした。
「確かに、まだ魔王軍は来た事はないし、2人でいれば大丈夫だとも思っている。だが、私達はそれ以上に恐れている者がいる」
パーティが目を丸くして見る。
「恐れている者って?」とシャロンが聞いた。
「道化よ。一部では悪魔とも呼ばれている。神出鬼没であらゆるものを消していく」
パーティが息を飲んだ。
「道化は何にでもなることができると言われている。いつまでも変わらないこともね。だから、君達のことも道化が子どもに化けたのかと思って攻撃したんだ」
「道化って何?普通のサーカスとかのピエロのこと?」
キャメリアが思い切って尋ねてみると白雪姫が笑った。
「まさか!・・・道化の悪魔を知らないのならその方がいいわ。かなり昔の話なの。変な話をしてごめんなさいね。忘れて」
白雪姫が話を切ったのでパーティもそれ以上は聞かなかった。
そこでシャロンがずっと引っかかっていた事を聞く。
「ねぇ、シンデレラってきしめんじゃないの?魔王軍が倒したってどういうこと?」
その質問にハンターと白雪姫が目を丸くしてから笑った。
「違うわよ!シンデレラは女性の人形をした魔女よ!赤い髪にエンパイアドレスを着てるわ!」
「四天王のきしめんとは全くの別人さ!」
パーティは開いた口が塞がらないで、少しの間目を合わせていた。
「あ!そうだ!これ!町の職人から預かってきたんだ!」
アスタはそう言うと鞄から小さな箱をハンターに渡した。
「ああ!ありがとう!!随分と早く仕上げてくれたんだね!」
「本当は1週間前からできてたらしいよ!でも皆怖がって誰も届けてくれなかったって!おじさんも怖がって早く仕上げたみたい!」
シャロンの言葉にハンターが苦笑いする。
「それは悪いことしたね。勇気を出して来てくれてありがとう!」
白雪姫がリボンがかかった小さな箱に興味を持つ。
「ねぇ、ハンター!それは何?」
「ふふふ!これはね・・・」
ハンターがリボンを解いて、さらに中のスエード生地の箱を出して向い合う。
跪いて箱を開けると中から薔薇のモチーフの指輪が出てきた。
「まあ!綺麗・・・」
「魔法を増強してくれる水晶に君をイメージした薔薇の形を彫らせたんだ!!」
白雪姫が照れながら返事をする。
「で、でも・・・私の薔薇は赤よ?」
パーティが『血の赤・・・』と思うが黙る。
「赤なら、君の可愛い頬にあるよ!」
白雪姫の髪を掴んで軽く手に口付けをするハンター。
「ハンター、愛してる!!」と2人が熱い口付けを交わした。
シャロンの目をキャメリアが、キャメリアの目をアスタが隠すが皆指の隙間から覗き見る。
2人の世界に入り込むのを傍目にパーティは茶を啜った。
「ねぇ、いつか結婚式をしない?」
「いいね!たしかメリリーシャの北にある墓地に死神がいたから頼ってみよう!」
2人が幸せそうに見つめ合う。
「魔女の結婚式は墓地でするの?」
「魔導師は普通に結婚式場とかでやるよ!」
アスタの質問にシャロンが答える。
「勿論、結婚式場でやるよ!そもそも魔女同士の結婚は前例が無いからね!」
「魔女は嫌われてるから、できる場所を探すのを死神に手伝ってもらうのよ!」
「なるほどね!」とキャメリアが返事する。
「大分温まったな!」
「ハーブティーと暖炉のお陰ね!!」
アスタもキャメリアも頬の血色が戻っていた。
「白雪姫はわかるけど、ハンターはどうして寒くないの?」
「私の凍土の魔法は周囲の温度を奪って自分の熱や魔法に変えてるの!その熱をハンターに分けてあげてるのよ!」
白雪姫がシャロンに答えると羨ましがる。
「へー!便利!シャロンもそれがいいなー!」
白雪姫は無垢なシャロンに笑っていた。
そこで時計が3時を告げる音が鳴り響く。
「やだ!もうこんな時間!!馬車が出ちゃう!」
「行くぞ!お茶ご馳走様!!」
「あ!白雪姫!馬車が通れないから凍土をもう少し小さくしてよ!!」
シャロンが振り返り白雪姫にお願いする。
「わかったわ!これからは皆が通れるようにしておくから!」
「ちょっと待って!!」
ハンターが紙に何かを書いてアスタに渡した。
「これ、口頭じゃ君達が疑われちゃうからね。受け取った証だよ!」
「ありがとう!!」
ハンターから受取証をもらい、パーティは魔女の家を後にした。
走って町へ戻り、慌てて馬車の停留場へ行くと、手前で職人と出会った。
「あ!おじさん!ちゃんと渡したよ!」
「喜んでた!」
「綺麗な薔薇だったよ!」
アスタ、キャメリア、シャロンがそれぞれに走り去りながら言う。
「渡せたのかい!?・・・あ、ちょっと!!」
職人が追いかけた。
「御者さーん!!」
「待ってー!!」
「まだ行かないで!!」
御者がパーティを見て驚く。
「あ!君ら帰ってきたのか!!」
「君達、待ってくれ!!」
職人が追いつく。
「ちゃんと渡して来たよ!ほら!」
アスタがハンターからの手紙を渡した。
「本当だ!!これは穴の魔女の筆跡だ!信じられない・・・」
職人と共に驚く御者にシャロンが言う。
「御者さん、ちゃんと道も通れるように頼んだから近い道から行けるよ!」
「本当かい!?そりゃ助かる!!ほら、早く乗りな!もうすぐ予約のお客が来る時間だ!」
馬車に乗り込むパーティに職人が声をかける。
「本当にありがとう!君達の馬車代は払わせてもらうよ!またこの辺に寄った時は来てくれ!」
「ありがとう!」
職人が嬉しそうに去り、少しして足音が聞こえた。
外では御者が嬉しそうに男性と話している。
「すいません!仕事が押して少し遅れました!」
「ああ、お客さん!あんたついてるよ!今日魔女が塞いでいた道が開放されたんだ!予定より大分早くメリリーシャに着くよ!!」
「それは助かるよ!!」と答えた。
相手は若い男の声だった。
「あと、今日道の開放に協力してくれた3人と相乗りになるけど良いかい?」
「大丈夫ですよ!」
「良かった!早く乗りな!」と促され、ドアを開けて入って来たのは葵だった。
パーティと目が合い、暫く見つめてから互いに「あ!!」と大声を出した。
馬車に揺られて転寝するアスタとキャメリアを他所にシャロンが元気に葵に話しかける。
「あのね、それでね!ハンターが白雪姫にチューしたの!!2人は結婚するんだって!!」
「ふーん・・・」
葵は興味無さそうに聞いていたらシャロンが窓にへばり付いて片手で葵の腕を揺らした。
「あー!!ここだよ!!葵さん!本当はもっと遠くにお家があるんだけど、この辺まで魔法で凍土にしてたんだって!!」
馬車が水溜りを踏んで大きく揺れるがアスタとキャメリアは全く起きなかった。
「いや〜、本当に君らが薔薇の魔女に交渉してくれたんだな!ありがたいよ!!」
「ふふふ!この大魔導師シャロン様にはお茶の子山菜だったよ!」
「さいさいな」と御者が苦笑いする。
その時、葵のケータイが揺れた。
御者とのおしゃべりに夢中になるシャロンを構う事なく画面を確認するとそうめんからの報告メールだ。
“薔薇の魔女と同居人の穴の魔女の討伐完了”
葵は確認後、ケータイをポケットにしまうとまたシャロンが腕を揺らしてきた。
「2人は結婚式するんだって!!いつするのかわからないけど、シャロンも見たいなー!!絶対素敵だよね!ね、葵さん!」
「・・・そうだな」
葵は外を眺めながら返事をした。
辺りの枝から、夕日に照らされ雪解け水が血にも似た赤い色を帯びて滴る。
溶解した白雪姫とハンターの体であった液体の中心にそうめんが佇んでいた。
防寒用のマントのフードで顔が隠れている。
「あっは!これで愛する2人は永遠に一緒ね!!液体としてだけど!!」
高笑いをしてからそうめんは穴の空いた心臓を魔法のかかった布に包んだ。
「あ!そうめん様!もう終わられたのですか!?」
「我々の出番無しですね。流石です!」
部下のドロップとギンジョーが遅れてやって来た。
「貴方達の手を煩わせる程じゃないわ。ラッキーな事に少し前に来た客人のお陰でかなり油断してたみたい」
「客人?」と聞くギンジョーを他所にドロップが心臓を覗く。
「うわぁ!これが穴の魔女の心臓ですか?穴が空いてるけど動いてる!!」
「直接触れない方がいいわよ。蜂の巣になりたくなければね」
ドロップが固唾を飲んで手を引っ込めた。
すると、ギンジョーが白雪姫の心臓を回収する用に持って来た箱をさす。
「そうめん様!この箱魔法がかかってません!」
「あら、似た箱が近くにあったから間違えたのかしら?」
ギンジョーが不思議そうに見るが、ドロップはクスクスと笑っていた。
「もー!そうめん様って時々ドジですよね!魔法がかかってない方なんて見たらすぐにわかるのに!」
「そうね。考え事してたから間違えちゃったのかも」
そうめんは冷静に答える。
「薔薇の魔女の心臓はどうされます?触れたら我々が氷漬けにされるので、このままでは持ち帰れませんよ?」
ギンジョーに言われて、そうめんは顎に手を当て、少し考えると鞄から鉄の様な素材でできたポットを取り出した。
「これに入れましょう」
「鉄のポットですか?」
ドロップが傾げる。
「さっき町の行商が売ってたのよ。熱が伝わりにくいポットよ」
「見た感じ魔法はかかってなさそうですね」
ドロップが凍った心臓をポットに詰めた。
「本当だ。全然冷たくない」
不思議そうに見る。
「さ、核を探すわよ」
そうめんが歩き出した後、ドロップにギンジョーが近づいて耳打ちする。
「おい!女性は人によっては生理前とか魔力が弱まる時があるんだ!あまりそういう事は笑ってやるな!」
「あ!ごめん!気をつけるよ!」
ドロップは申し訳なさそうに返した。
三角帽の下でハンターの核である狗と白雪姫の核である蚕が動いていた。
外ではそうめんの高笑いが聞こえ、その後他2名の隊員と会話をする声が聞こえてくる。
『白雪・・・君だけは必ず守る!!』
ハンターは溶けた体で白雪姫を隠そうとした。
すると帽子を取られてそうめんに見つかってしまった。
「見ぃつけた!!」
弱ったハンターと白雪姫を回収して籠に入れると、そうめんの目の前に光が現れた。
その途端、そうめんの脳内に2人の魔女の記憶が映像として映った。
男女2人が抱き合い、女が見送る。
「気をつけて。必ず帰ってきてね!」
「帰る前に手紙を書くよ!じゃあ!」
男女が別れ、シーンが変わる。
心配そうに窓から空を見上げる女と、仲間と戦う狩人の男。
勝利を収めた男が手紙を書き、鳥に渡して送る。
そのまま町に出て店に入った。
「いらっしゃいませ!お客さん!注文の品出来てますよ!」
「ありがとう!」
嬉しそうに店員に近寄り、指輪を確認する。
「恋人にかい?」
「ええ、結婚を申し込もうかと!」
狩人は笑顔で答えた。
シーンが変わり、鳥が運んできた手紙を女が家で受け取り喜ぶ。
女は町へ出かけると町の人に話しかけられた。
「やあ!今日はご機嫌だね!」
「今日彼が帰って来るの!ご馳走を作らなきゃ!!」
張り切って買い物をした帰り道、目の前に蚕の姿をした魔獣が現れる。
驚いて佇む女を人よりも大きな羽で一振りし、あっという間に凍らせて丸呑みにした。
飲み込んだ瞬間に蚕は女の姿となり、髪は白く、今の薔薇の魔女、白雪姫となった。
それを通りすがりの町人が見て腰を抜かしていた。
シーンはまた変わり、帰路に着く狩人のパーティになる。
狩人は帰り道に人より大きな金色の狗の姿をした魔獣と出会う。
先制攻撃をした狩人は一瞬で食べられた。
食べた後は狩人の姿になり、弓を取って矢も装填せずに引いて放つ。
すると、周りで怖じける仲間の頭に穴が空いた。
恐れ慄く仲間達を次々と倒し、1人で立ち尽くしているとはっと気づいたように走りだした。
町に着くと、真っ先に彼女の元へと急いだ。
しかし、途中で町人から蚕の魔獣に彼女が殺されたと聞き、更に走る。
家に戻ると、その周囲は凍っていた。
霜を踏みつけて突き進み、ドアを開けると中には薔薇の魔女がとても冷たい目をしてこちらを見ていた。
しかし、穴の魔女は飛びつく様に抱きつく。
穴の魔女の抱擁で薔薇の魔女の表情に温度が戻り、帰ってきたパートナーを精一杯抱きしめた。
すぐに離れて見つめ合う。
「私は誰かを待っていたわ!きっと貴方のことね!貴方の帰りを待ってたの!初めて会うのにすごく懐かしい!!」
「待たせたね!私も君とは初めてじゃ無いような気がするよ!!私も君に会う為に帰ってきた!!一緒に暮らそう!!」
また抱きしめ合う。
「もちろん!」
穴の魔女を抱きしめる薔薇の魔女は幸せそうな顔をしていた。
「茶番ね」と一言で切り捨て、背を向けて去った。
その後、ハンターの帽子の下から白雪姫の核が溶解した元体の液体から這い出てきて、弱々しく飛び立つ。
ある程度飛ぶと力尽き、草の上に止まった。
通りかかった青年が弱った白雪姫を拾い虫籠に入れる。
黒髪の青年は不思議そうに、その神秘的な白雪姫を覗いていた。




