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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
東の大陸
28/218

薔薇の魔女と穴の魔女

港町のウェストポートから都市のメリリーシャを繋ぐ道。

そこには冬でもないのに降り積もる雪を踏みつけて、進む2人の男がいた。

片方は背が高くて細く、もう片方は背が低くて太っている、いわゆる凸凹コンビだ。

「俺達で薔薇の魔女を倒して賞金で一獲千金だ!!」

「かなりの雪ですぜ?これ大丈夫か?」

先頭を歩く背の高い男が、弱気な背の低い男に振り向いて怒る。

「馬鹿野郎!!こんな事でビビってちゃ賞金稼ぎなんてできるもんか!!」

「そうだけど、流石に魔女はやばいですって。魔王軍の下っ端とかにしません?」

背の低い男が両手を前に出して言い返すが全く許さない。

「馬鹿!そんな小遣いなんか稼いでどうする!?もっと大きく稼ぎたいんだよ!!」

「痛っ!!」

背の低い男は殴られた。

「ほら、行くぞ!!吹雪いてきたからきっともうすぐだ!!」

「へぇ・・・」

背の高い男がまた振り返る。

「なんだその気の無い返事は?もう一発喝入れてやる!!」

目を瞑って身構える気弱な男に拳を振り下ろしたが殴れなかった。

「あれ?」と空を掠った自分の腕に驚く。

「どうしました?」

目を開けると相方の手が無かった。

「あ、あれ?これ・・・俺の腕か?」

いつの間にか膝まで積もった白い雪に滴る血が赤く滲む。

その先に振り下ろすはずの拳が落ちていた。

それを拾い狂ったように笑う。

「はは・・・ははは!!おかしい!おかしいぞ!!何も飛んできてないのに!!手が撃ち落とされた!!誰だ!?」

一層強く吹雪く中、振り返ると背の高い男の頭が消えた。

左の耳から顎までを残し、首が繋がっていたが何かに丸く削られた様な傷口だった。

「おやおや、動くからズレたじゃないか」

そう言った男は、ツバのある三角帽を被り、帽子の下からは実った稲穂のような金色の髪が顎下まで伸びていた。

弓を提げて屋根の上から上下がわからなくなるような白銀の世界を見下ろしている。

頭を失った男の体はそのまま後ろに倒れると、それを見ていた背の低い男が尻餅をついた。

「あ・・・あ・・・うわぁーーー!!!」

逃げようとした男がそこで気づく。

「手、手が離れない!!腰も!!」

吹雪の奥にある大きな家の二階の窓辺に透き通るような白い肌をした女性が立っていた。

雪のように白い髪は顎下までの丸みを帯びたボブが女性らしい印象を与える。

彼女が窓辺から手を伸ばして両手を握る仕草をすると男はたちまち氷に包まれた。

そして氷に引っ付いた皮膚が剥がれ、柱のように伸びた氷の上に空いた穴から血が噴水のように噴き出す。

その血も外気ですぐに固まり、薔薇のような形となり氷上に咲いた。

「こいつらはただの雑魚だったね。後始末は私がしよう」

男が弓を構えるが矢は無い。

そのまま弦を放すと風圧が返り金色の髪をなびかせる。

雪の中をゆっくりと大きな見えない丸い空間が全てを飲み込みながら進み、白銀に咲く真紅の薔薇は綺麗に跡形もなく呑まれた。


ウェストポートに滞在しているある朝、アスタがホテルのロビーで四天王の葵に話しかける。

「なぁ、葵」

「なんだ?」と新聞を読みながらアスタを見ずに返事をした。

「メリリーシャまで何で行くんだ?地図で見るとなかなか遠いんだけど」

「俺は!」と強調してから続ける。

「馬車で行く。路面電車やバスの方が安定しているが、そういうのは都市にしか無いからな」

「路面電車にバス!?そんなの都会の象徴じゃない!!憧れのやつ!!葵さん乗った事あるの!?」

キャメリアが目を輝かせるが絶対に見ないようにする。

「まあな」

「でも今回は馬車なんだよね」

ソファーの横から上目遣いのシャロンを睨みつけて「俺はな!」と更に強調した。

「さっきから何だよ!いいじゃん!乗っけてくれよ!!」

「うるさい!寄生虫ども!!絶対乗せてやらんからな!!ここまで面倒見てやったんだ!自分らでチャーターしろ!!それが嫌なら地元へ帰れ!!」

葵が立ち上がり去りながらパーティに吐き捨てた。

「もうキャメリアのツタは意味無いぞ!同じ攻撃を食らう程間抜けじゃないんでな!俺に二度と関わるな!」

キャメリアが悔しそうに葵の背中を睨む。

葵はまた新聞の見出しに目を向けた。

『薔薇の魔女のせいでメリリーシャに行く馬車が大幅減少』

「最近移動してきたのか。タイミングの悪い。俺も馬車を早く見つけないとな・・・」

葵も拗ねたように目を細めて呟く。

「薔薇の魔女は・・・たしか依頼を受けたのはそうめんだったか?近いし俺が代わりに行こうかな?」

新聞を畳んでラックに戻した。

アスタが舌打ちする。

「ちぇー、ケチな奴!」

シャロンは頬を膨らましていた。

「仕方ない。ここまで海も渡れて宿泊と食事も最高級で出来ただけよかったと思いましょう」

キャメリアの言葉で諦めをつけ、パーティはメリリーシャまでの移動手段を探すべく、ホテルを出た。

「とりあえず馬車を探して交渉する?」

「そだな。荷台とかな」

早速、馬車屋に行くとたった1台しか無かった。

しかも来賓を運ぶような少し豪華な馬車だ。

一応近くで新聞を読む御者に交渉に行く。

「すいません。この馬車の御者さんですか?」

「ん?そうだけど・・・」

口髭を蓄えたおじさんがアスタを見る。

「メリリーシャまで行きたいんだけどお金が無いんだ」

「荷台でいいから載せてくれない?」

シャロンが横から顔を出して頼んでみた。

「メリリーシャか・・・たしかに今日この馬車で行くけど、かなり迂回しないと行けないから荷台はキツイと思うよ」

「何で迂回するの?」

キャメリアが傾げる。

「これだよ」と新聞を見せられた。

「薔薇の魔女?」とアスタが読む。

「そうさ。そいつが最近すぐそこに越してきてから、メリリーシャまでのルートが通れなくなってな。こっちもかなり困ってるんだよ。迂回ルートとなると時間もかかるから費用も高くなるし、メリリーシャに行く奴もすっかりいなくなったよ」

「そんなに高いの?」と聞くシャロン。

「ああ、片道で1人小さな一軒家の家賃くらいかかる」と返すと「なんと!?」と目を丸くした。

「それに今日は久々の予約があるんだ!ついさっき電話で入った!だから俺だけメリリーシャに行くんだよ!悪いけど、他当たってくれ!」

「えー!!」と口を揃えて言っているとエプロンをつけた職人のような中年男性が箱を持って走ってきた。

「聞いたぞ!今日メリリーシャに行くんだろ!?」

御者はバツが悪そうにハットのツバを下げて目元を隠した。

「頼むよ!完成したというのにもう1週間も渡せてないんだ!!誰も運んでやくれない!!」

「そりゃそうだろ!誰がそんな危険なことするんだ?」

職人が膝をついて懇願する。

「本当に頼むよ!!これを渡してくれないと私が殺される!!」

「魔女の依頼なんか受けるからだ!皆命が惜しいのさ!届けたきゃ自分で行きな!!」

そのやり取りを見ていたアスタが職人に聞く。

「一体どうしたの?」

「君達は・・・旅人かい?」

「そう!俺は勇者アスタ!」

「私は召喚士のキャメリア!」

「シャロンは魔導師だよ!」

それぞれが言うと、一気に顔が晴れた。

「そうか!旅のパーティなのか!じゃあ、君達に依頼するよ!これを届けてほしいんだ!!お礼はたんまりとする!!」

アスタが目を光らす。

「それなら!俺ら3人分のメリリーシャまでの馬車代を出して欲しい!!金が無くて困ってたんだ!!」

「メリリーシャまで3人分?・・・うーん。命には変えられん!わかった!!私が代わりに出そう!!その代わり、これを頼む!!」

頷いて小さな箱を受け取った。

「これは穴の魔女から依頼を受けて作ったんだ!これを薔薇の魔女まで届けて欲しい!!」

「魔女から魔女への贈り物?」

シャロンが不思議そうに聞き返す。

「たしか魔女って基本単独行動してて仲が良くはないんじゃなかったっけ?」

キャメリアも聞き返した。

「ああ、そうさ。私はあくまで依頼された物を作っただけだが、これに魔法をかけて武器にするのかもしれない。今他所では魔王軍に土地を追い出された魔女同士が組んで復讐を謀っている者もいると聞く。もしかしたらその為かもな・・・」

職人がパーティに念を押す。

「これを渡してくれればいい!間違えても倒そうだなんて思うな!」

「わかった!御者さんも待っててくれよ!」

アスタが御者へ釘を刺した。

「わかったわかった。今日の夕方には出る予定だから、それまでには来いよ!」

「ありがとう!」

お礼を言うと、職人が最後に忠告する。

「決して無理はしないようにな!薔薇の魔女の由来は氷にくっついた皮膚が剥がれて噴いた血が薔薇のような形で固まるからだ!!恐ろしい魔女なんだ!深追いはしなくていいからな!!」

「何それ怖い!!」

話を聞きパーティが震える。

「でも馬車の為にとにかく行こう!!」

「そうね!渡すだけだし!!」

「怒らせないようにしよう!!」

パーティは魔女の家へと向かった。


パーティは町から離れて暫く歩いていた。

冬みたいに辺りは肌寒く、足元には霜が降りている。

「この辺だな・・・」

「さ、寒・・・!!」

「へっくしゅん!!」

アスタとキャメリアが二の腕を抱えて震えながら歩くのに対し、シャロンは盛大にくしゃみはするが堂々としていた。

「シャロンは平気なのか!?」

アスタが鼻を垂らして聞くと自慢気に返す。

「だってシャロン、氷の魔法使うから皆よりは寒さに耐性あるんだ!へっくしょん!」

「くしゃみはするのね・・・」

シャロンは鼻を赤くしていたが寒さはそれ程感じていないかのように平然としていた。

更に歩くとアスタの足元に雪が当たる。

「ゆ、雪だ!!」「雪が積もってる!!」と驚く2人に対して、シャロンが「わーい!!」と勢いよく走っていく。

「あ!シャロン!!」とキャメリアが心配して叫ぶとシャロンは足を取られて転けた。

「うわ!!」

その瞬間にシャロンの頭の上を何かが通り、すぐ近くの木に啄木鳥が開けたような小さな穴が空いた。

「穴が開いた!?」

アスタが目を丸くする。

「何!?何!?」とシャロンが頭を押さえてキョロキョロと左右に首を振って辺りを見渡した。


遠くでは三角帽子を被った狩人の男が弓を手に遠くのパーティを見ていた。

「おっと、タイミングがズレたか。・・・心配しないで。子どもだからって容赦しないさ。もしかしたら子どもじゃないかもしれない。道化は何にでも化けられるからね」

また弓を引くが矢は無い。

「一気に仕留めよう」

男が弦を放すと風圧が返り、空中に見えない矢が放たれた。


雪が降り、次第に吹雪だす。

あっという間にスネぐらいまで雪が積もった。

「何者かに狙われてる!!さっきの木に穴を開けた奴が近くにいるぞ!!」

アスタが叫ぶとキャメリアが身構えた。

「薔薇の魔女だけじゃないってことね!!」

すると遠くからゆっくりと木を破壊する音が聞こえるが、一本や二本の音ではない。

かなりの本数を呑み込むようにしてこちらに向かっている。

「何かが来てる!!逃げろ!!」

アスタの言葉を聞いて慌てて足を雪から抜こうとしたキャメリアは雪の下で氷の手に足首を掴まれていた。

「きゃっ!!」と前に手を着いて転ける。

「今何かに掴まれた!!」

アスタも足を掴まれてバランスを崩し、近くの木に勢いよく寄りかかった。

キャメリアが四つん這いから立ち上がろうとしたが手が離れない。

「痛っ!!・・・手が・・・離れない!!」

「お、俺もこのままだと腕と掌の皮がずる向けになる!!」

シャロンは両足を掴まれていた。

「シャロンも両足を掴まれてる!!」

「誰も動けない!!このままだと全員殺される!!キャメリア!精霊は出せないのか!?」

「無理よ!この寒さじゃどっちも動けない!!」

焦りから大声で会話する。

「シャロンの魔法は!?氷の魔法だろ!?」

「むむぅ〜・・・!!グランク!」

杖を振ると氷が飛び出し、見えない敵に立ち向かうがすぐに音が消えた。

「呑まれちゃった!!」

キャメリアが真っ青になる。

「やばいわよ!!これ!!」

目視できる木が見えない大きな何かに破壊されながら消える姿を見て、パーティが一瞬黙った。

そして全員が絶叫する。

「あーーーー!!!!」

しかし、見えない破壊者はパーティを飲み込もうと、ゆっくりと無情に近づく歩を止めることはなかった。

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