スーベニア
キャメリアとシャロンが少年の能力でパルフェに贈呈された後、空では雲が太陽を隠して辺りが薄暗くなってきた。
アスタが暗くなった倉庫内を逃げ惑うと首にリボンが引っかかった。
「うぐっ!!」と苦しそうな声を漏らして首を掴む。
真後ろには魔王軍の少年が怪しい笑いと共にリボンの両端を持っていた。
「さぁ、アスタ!お前もパルフェ様に贈呈してやる!!」
アスタは慌ててリボンと首の間に指を突っ込んでリボンから抜け出す。
「ハァ・・・ハァ・・・」と荒い呼吸で相手を見た。
相手はこの薄暗い倉庫の闇にたたずむ。
「おい!キャメリアとシャロンはどうなったんだよ!?」
「彼女らならパルフェ様の所に行ったよ。僕がプレゼントしたんだ。このリボンを結んでね」
少年がリボンを伸ばして見せる。
「プレゼントォ?」
「そうだよ。僕のリボンを結んで名前を書きプレゼントをしたら、僕が能力を解くか、贈られた相手が許可するまで受け取った人の言いなりになるんだ。僕自身に贈れないのが難点だけどね。そうそう、命令されれば自ら命を捨てることだってするんだよ。それも喜んでね」
少年の怪しげな笑顔にアスタは背筋を凍らせた。
キャメリアとシャロンはパルフェの元へと走って行った。
「パルフェ様ぁぁぁああ!!」と2人揃って大声を出す。
「うわっ!びっくりした!!な、何よあなた達?」
しかし、すぐにリボンに気づいた。
「へぇ・・・スーベニアにプレゼントにされたんだ。さすが私の可愛い部下ね!仕事が早いわ!!この前やられた分を返してやろうかしら?それとも、手っ取り早く死んでもらおうかしら?」
「何でもお申し付けください!!」
「パルフェ様のためならなんでもやります!例えば・・・」
そう言ってキャメリアの次の言葉にパルフェが身を乗り出す。
「葵さんをつれてくるとか!」
「シャロンたちがいい雰囲気にしてあげるので告白のチャンスを演出します!!」
「えぇ〜〜〜!!スーベニア!!なんってできる子なの!?」
言い出したのはキャメリアとシャロンだが、あくまで部下愛の部下バカな上司であった。
「今すぐやって!!」
パルフェが指差すと「かしこまりましたぁ!!」と言って2人が葵を探しに行った。
アスタはひたすら逃げた。
しかし、さすがは戦闘のプロ集団。
トラップが巧みで、頭上にも足元にも様々なところにリボンが仕掛けられていて、時々引っかかっては外しを繰り返し疲弊させられる。
その度にどこからかクスクスと笑い声が響き渡った。
「クソッ!完全に弄ばれてんな・・・」
身をかがめて隠し、策を練る。
相手の足音が響き、まるでアスタを探しているかのようだ。
アスタは緊張しながら息を殺す。
鼓動が耳の奥でうるさく鳴り響いた。
どうやら通り過ぎて行ってくれたようだ。
ホッと息をつくと、目の前にリボンが垂れて首元にかかった。
「はっ!!」と気づいたが持ち上げられて首を締められる。
「あはは!油断したな!!アスタ!!このままパルフェ様の言いなりになれ!!」
「うぐぅっ!・・・あっ!!」
アスタは苦しそうにもがいた。
キャメリアとシャロンは葵を探し当て、腕を引っ張る。
「葵さん!こっち来て!!」
「わ!何だ、シャロン、キャメリア!!」
「一緒に来てパルフェ様に告白してあげて!!いい雰囲気を演出するから!!」
葵が止まってしかめた。
「パルフェ様?・・・あ!お前らのリボン!スーベニアの能力にかかったのか!!」
「お願い!お願い!お願い!お願い!」とシャロンが地面に寝転がって駄々をこねる。
「やめろって!はしたない!!」
葵に止められシャロンが立ち上がり、2人が審議しだした。
「よく考えたらさ、告白の前に練習じゃない?」
「そうよね。だって練習もなしに告白して失敗してるのがアスタだもんね」
2人はこの旅でアスタからよく学んでいた。
『しかも俺がパルフェに告白するのか・・・』
「じゃあさ、告白の前にパルフェ様の写真持ってくるから待ってて!」
「告白の成功度上げるために文章も考えてあげるわ!」
「そりゃどうも」と見送る葵の目は呆れかえっていた。
そしてパルフェの元へ行く。
「パルフェ様の写真をください!!」
「はぁ?何で?てか、葵は?」
「これから葵さんにパルフェ様への告白が成功しやすいように練習させます!!」
それを聞いて両手を口元に当てて目を輝かせた。
「きゃあ!葵が私に!?はい、これ!一流の写真家に撮らせたものよ!!しっかり練習させてきてちょうだい!!」
「ありがとうございます!!」と2人で受け取った。
スーベニアがアスタの首元でリボンを結ぶ最中、急に切れた。
アスタが近くにあったダンボールを切るためのカッターで切ったのだ。
そして逃げる。
芭蕉扇を探していた部屋に入り、箱の魔道具をいくつか手に取り、見る。
「アスタ〜、どーこーかーなー?」
一歩、また一歩と足音が近いている。
アスタは先ほど読んでいた新聞を手にしてページをめくり、鏡のたくさん置いてある部屋に身を隠しながら移動した。
「アスタ・・・聞こえてるよ。何か紙をめくる音・・・新聞で剣でも作る気?」
そして相手も鏡の部屋まで来た。
「ここだ!!」
しかしアスタの姿が見えない。
「まだかくれんぼするの?そろそろ飽きてきたよ」
すると、奥の方に人影が見えた。
薄暗い中目を凝らすと、なんとパルフェがいるではないか!
「パ、パルフェ様!?」
パルフェが髪をかき分けたり、腰に片手を置いて立っている。
これは鏡に映した写真を撮影された時の様子を映像で写す鏡だった。
写真が小さかったので、被写体を大きくする鏡に一度写して、反射させてから写真が動く鏡に写していたのだ。
『あいつの名前さえわかれば・・・!!』
アスタの手には名前を呼んで返事をしたら吸い込まれるという羊脂玉の箱がある。
「なぜここにおられるのですか?・・・もしかして僕の仕事振りを見に来られたのですか!?」
なかなか名前を言わないことにやきもきするアスタ。
「お任せください!必ずアスタも贈呈いたします!!」
すると、パルフェが他所を向いて歩いて行った。
「あぁ・・・必ず吉報をお持ちします!!」
そしてその後、なんと葵がスタジオインして来た。
どうやら四天王特集の記事で新聞社の依頼で撮影をしていたようだ。
葵が現れた途端、少年が両手を口に当てて言葉にならない言葉を発した。
アスタもさすがに反応の変化に疑問を持つ。
葵がこちらに気づいたように軽く微笑み、手を小さく上げて挨拶をした。
きっとカメラマンが知人だったのだろう。
「@*+;△!□>¥?★◯<!?」
『なんて?』とつい心でツッコむ。
ついに鼻血を吹いて倒れた。
唖然としているとリボンを付けたキャメリアとシャロンが現れ、アスタに近づく。
「あ!アスタ!それちょうだい!!羊脂玉の箱!!」
シャロンがアスタの手から羊脂玉の箱を奪おうとした。
「いや、なんで!?ダメだって!!」
「お願い!!」
シャロンとアスタが何故か箱の奪い合いをする。
「葵さんが告白のやる気ないからこれに閉じ込めて永遠にパルフェ様のお側に置いておけばいいんじゃない?って結論になったのよ」
平然と言うキャメリアに「発想怖すぎだろ!!」と大きな声でツッコむ。
「だからこれもらってくね!!」
ステファニアのツタで奪われてしまった。
「あっ!!」と手を伸ばすが遠くへ行く。
その時、スーベニアが起き上がった。
「葵さまを永遠にお側にって・・・そんなの・・・でもパルフェ様が喜ぶ・・・でもズルい・・・いや、パルフェ様が・・・やっぱそれは・・・」
ブツブツと何かを独り言として呟いている。
「葵様を閉じ込めて永遠にお側に置くなんて!!天才の発想かよ!!」
「えぇ〜〜〜!!!」と飛び出た結論に驚く。
「待て!!僕だ!!葵様を閉じ込めるのはこの僕だ!!そして永遠に僕が肌身離さず・・・ブッ!!」
思春期の妄想が爆発し、勢いよく吹く鼻血を手で押さえて服を血塗れにしながら倉庫を飛び出していった。
1人残されたが、アスタもわけもわからず追いかけた。
「葵さぁーん!!」とシャロンが箱を持って駆けて行く。
「またシャロンの奴め・・・」と呆れながら「今度は何だ?忙しいんだよ!!」と言うとキャメリアとシャロンが目の前で止まって傾げた。
「あれ?おっかしーな?」
「全然吸い込まれないじゃない。偽物?」
「何だそれは?」と葵が手に取り箱を開けると中にはキレイな羊脂玉で内装されていた。
「きれいだな・・・螺鈿的な別大陸の物か?あ!これ、羊脂玉の素材じゃないか!!こんな珍しい物どこで手に入れたんだ?まさか盗んでないだろうな?」
疑いの目を向けられる2人は両手を左右に振って否定した。
「違うよ!永久的に借りただけ!」と言うシャロンのとんでもワードに怒る。
「それを盗んだというんだよ!返す気ないじゃないか!!何に使うつもりなんだ?正直に言え!!」
「葵さんを閉じ込めてパルフェ様に献上しようと思って・・・」
悪びれることなく言うキャメリアに葵がさらに怒る。
「おい!四天王に四天王を献上する奴があるか!!なんちゅーことを思いついてくれてるんだ!!」
「羊脂玉の箱を返せーーー!!!」と遠くからスーベニアが叫びながら走って来た。
その後ろをアスタが追いかけている。
「スーベニア!!」と葵が驚きながら言うと、スーベニアは今までキャメリアとシャロンばかり見ていて気づかなかったのか、憧れ?の葵様に名を呼ばれたことで一気に視界にバラが咲き乱れ、世界が葵一色に染まった。
「は、はいぃぃぃ!!!」
気をつけして立ち止まった瞬間、葵の持つ羊脂玉の箱に吸い込まれてしまった。
慌ててアスタがフタを閉めて葵から箱を奪う。
スーベニアがいなくなった瞬間に、キャメリアとシャロンのリボンも消えて正気に戻った。
「あれ?ここは?」「何してたんだっけ?」と辺りを見渡す。
「アスタ!今、スーベニアがその箱に吸い込まれて行っただろ!!出せ!!」
しかしアスタは毅然とした態度で手を前に出して制する。
「俺は今、葵のストーカーを1人退治したんだ!感謝されたいくらいだね!!」
「どういうことだ?」
「こいつ、スーベニアはこの箱に葵を閉じ込めて永遠に自分が肌身離さず持っているつもりで、この2人を追いかけていたんだ!!」
「ス、スーベニアが?何故・・・」とは言ったが思い当たることがありすぎた。
葵が魔王軍の資料室で調べ物をしていると視線を感じると思い顔を上げたら遠くにいたり、剣術の指南ではやたらと近くで聞くし、柔術の寝技では鼻血で毎回お互いの道着を赤く染めるし(この時は普段仲の悪いきしめんでさえ心配して駆けつけた)、食堂では食べる姿をガン見されるし、直属の上司でも無いのによく何かくれるし、てかバラの花束とかくれてたし!!イナリとかリーダー達いじめるし!!・・・etc
しかし、葵にはこんな相手はスーベニアやイナリに限らず無限といるから、1人ひとりが霞むのだ。
何より、パルフェが強烈すぎて大抵の人は霞むし、同性だからそこまでノーマークだったというか、なんというか見逃していたのはつまり・・・
「俺も疲れてたんだな・・・」
結論を呟いてしまった。
「どうする?葵が持っとくか?それとも、何も見なかったことにしてくれたら、俺らが元の場所に戻しておくけど?」
「うぐっ!!」と苦しい声が漏れてかなり悩んだが、黙って背を向けた。
「俺は・・・賢い選択だと思うよ」
そう言ってパーティが去って行った。
「すまん・・・スーベニア・・・パルフェ・・・魔王様!!」
葵はその場で膝から崩れ落ちて両手で顔を覆った。
「アスタ、それどうするの?倉庫に戻す?」
「いや、沈めよう!池に!!」
シャロンが大きく開いた口を両手で隠し、無言で驚いた。
それから倉庫にあった金槌を針金でグルグル巻きにし、ラエビガータにお願いして池の底に沈めた。
みんなで手を合わせて供養する。
「どうか、このまま出て来ませんように」
アスタが振り返り、笑顔を向ける。
「さっきさ、芭蕉扇見つけたし、それ渡してとっととお礼もらって美味いモンでも食おうか!!」
「賛成ー!!」と女子2人が手を上げた。
そしてパルフェはというと、夜になっても葵を待っていた。
「まだかしら、葵!もうっ!焦らすわね!!どんな文言でもOKに決まってるのに!!」
パルフェの部屋はムードを作るために暗くして、間接照明にして翌日まで待っていたという。




