闇取引
パーティの3人で飲屋街を吟味していると、キャメリアが頭を押さえて表情を歪ませた。
「どうした、キャメリア?」
「耳鳴りがするの・・・」と苦しそうに呟きうずくまる。
「大丈夫?」
シャロンが背を摩ると少し落ち着いたのか表情が和らぐ。
「大丈夫・・・でもこの耳鳴り、知ってる」
2人が不思議そうに傾げた。
「知ってるって?」とシャロンが聞き返すとキャメリアが席を立ち上がって辺りを見渡す。
「あそこ!あそこにいるわ!」
キャメリアが黒いスーツを身に纏った、大柄な体型をした男の元へと真っ直ぐに向かった。
大男は水の入ったビンを机の上に置いていた。
「おじさん、そのビンの中にいるのは何?」
指差すキャメリアを睨む。
「あ?見てわからねーか?」
危険な雰囲気を察したアスタが止めに入った。
「ちょっ!キャメリアどうした?」
「あの中にステファニアと同じ波長を感じたの!きっとこれで闇取引をするつもりなのよ!」
キャメリアの言葉を聞いてアスタが目を丸くする。
「闇取引!?それって、妖精のってことか?」
「何なんだ?お前らは?」
どんどん大男の機嫌が悪くなる。
「私は召喚士よ!妖精を召喚するの。だからあなたの様な不正な妖精の闇取引なんて見逃せないわ!私にそのビンを渡しなさい!!」
手を大男に向けて突き出すと、相手は椅子にもたれかかった。
「俺はよぉ、確かにこんな見た目をしてるから疑われがちだが、闇取引なんてしねえさ。ただ、こいつをうちの上司が欲しがっていてね、目がないんだよ。だから俺はわざわざこんな遠い地まで来てこいつを捕まえに来た。それだけだ」
「闇取引で無いとしてもその子があなたの上司の元で暮らす義務はないわ!」
大男が立ち上がり近づく。
「ま、確かに。お嬢ちゃんが言ってることは正論だ。でも俺も上司のためなんでね。持って帰らないといけないんだ。それに、いきなり言いがかりつけてきたのはお嬢ちゃんの方だ」
キャメリアは強気に睨むが、額からは一筋の冷や汗が流れる。
するとジャケットの内ポケットから大男が拳銃を出した。
「見慣れないから恐ろしさがイマイチわからねーだろうが、簡単に言うと一発でお前達を殺せる武器だ」
怪しい男の笑みにパーティ達は息を飲む。
「声は出すな。武器を机に出せ。手は頭の後ろで組むんだ」
向けられた殺意に怯えながら、各々が武器を机に出した。
「よし。お前らはこいつの価値を知っているのか?」と言ってビンを見せつける。
「お金なんかじゃ計れないわ」
大男が口角を上げる。
「そうか、そうか!こいつは一部のマニアでは人気が高いらしいな!発色も型も良い!!」
キャメリアが睨んでいると大男が気づいた。
「ん?そういえばもう1人いなかったか?」
2人も振り向くといつの間にかシャロンがいなくなっていた。
「あれ?」
「シャロンがいないわね」
見渡しているとシャロンが「お〜い!!」と叫びながら何かを持って走ってきた。
人混みを避けながら走り、2人の前に現れて高らかに手に持つ物を掲げた。
「お待たせ!!」
「え?」
3人が唖然としていると人混みから葵が飛び出してきた。
「シャロン!どういうつもりだ!!財布を返せ!!」
シャロンが手に持っていたのはなんと葵の財布だった。
息を荒げたシャロンが大男に財布を差し出す。
「おじさん!ちゃんと持ってきたよ!!葵さんの財布!!」
追いついた葵が大男を睨む。
「あ、葵!?まさか四天王のか!?」
大男が葵を見るなり態度が一転して動揺し始めた。
「そうだよ!おじさんが葵さんの財布持って来たら2人を解放するって言ったじゃない!!」
眉一つ動かさない葵がサーベルに手をかけた。
「へぇ、四天王もナメられたものだな。こんなガキのお使い対象にされるとは・・・」
慌てて手を振り否定する。
「違う!俺は言ってない!!」
サーベルを抜いて相手に振りつけた。
相手は咄嗟に持っていた銃で受けるが違和感を感じる。
『当たりが軽い!!』
葵が不敵に笑った瞬間、体に電撃が走った。
大男が大きな音を立てて倒れる。
「い、今のは?」
アスタが驚きながら聞くと葵は冷静に「俺の能力だ」と返した。
サーベルをじっくりと見て刃こぼれ等を確認してから鞘に納める。
「シャロン、これは返してもらうぞ」
「あ!」
シャロンの手から財布を奪った。
「まったく、自分の身は自分で守れと言っただろ!!」
「ありがとう、葵さんとシャロン・・・」
キャメリアのお礼にシャロンが誇らし気にする。
「何で財布を奪うような真似をしたんだ?」
「だってそうしないと来てくれないでしょ?」
シャロンの言葉に呆れた。
「一応言っておくけど、俺は魔王軍の中でも隠密部隊なんだよ!あまり目立つことは避けたいというのに・・・」
アスタが再び大男に目を向ける。
「こいつ死んだの?」
「いや、手加減はした。気絶程度だが、後で処分しないとな」
葵の言葉にシャロンが両手を口元に当てて驚く。
「処分!?それって・・・」
「組織かよ・・・」
「組織だよ!とにかく!どこかに埋めるか沈めるかするよ」
アスタの呟きに思わずつっこむ。
「何でそこまでするの!?」とキャメリアも流石に冷静さを欠いて口を挟んだ。
「こいつはどこかの組織の者だろう。組織に帰って俺がこの町にいたことをしゃべられると困るんだ。俺の居場所一つで色々と魔王軍の情報を探られる」
言葉を失うパーティに冷たく言い放つ。
「世間知らずのお前たちには今回のことは良い勉強になったんじゃないのか?少しの失敗で命を落とすこともある。場合によっては俺がお前らを始末することもあるんだ。ここまで来れたのは運が良かっただけだ。よく覚えておけ」
3人が黙って倒れる男に目線を落とすと、誰かが机の上の瓶を取った。
「あ!妖精!!」
瓶を手に取ったのは夜なのにサングラスをかけた、左目には縦に大きく傷が入り、高そうなスーツを身に纏った細身で長身の男だった。
瓶を男が持ち上げ覗く。
「ったく、しょうがない奴だな」
気絶する大男を蹴って起こした。
「ほら、起きろ!」
「ん・・・は!」
起きて見渡す。
「俺は一体・・・」
「お前はお使いもロクに出来ないのか?」
男が瓶を見ると妖精が現れた。
綺麗な蒼く長い鰭が水中にたゆたう。
「これは妖精だ。妖精なんて俺らが持っても何の役にも立たないし、もし連れてったことがバレたらこっちの世界から指名手配をされる。捕まれば裁判にかけられて最低でも終身刑だ」
「え!?」
瓶を机に置く。
「これは返すよ。こいつの事は許してもらえねえかな?元々は上司のお使いでベタって魚を探しに来たんだ」
男が手下の大男の頭を叩いた。
「なのにこのバカときたら妖精とベタの違いもわかりゃしねーで、こんなややこしいことに巻き込まれやがって」
手下が隣でずっと俯いているのを見ながら、キャメリアが瓶を受け取った。
「わかったわ!これを頂く代わりにその人を許してあげる!わざとじゃないみたいだし」
「悪いな、お嬢ちゃん」
しかし、葵が前に出た。
「おい、こいつらは許しても俺は許可してないぞ」
男が葵をまじまじと見る。
「四天王の葵か。つくづく運の悪い奴だな、お前も」
手下を見下ろすと分が悪そうに見上げていた。
「会話からすると科学の世界から来たようだな。お前らはどこの組織だ?」
「さあ。どこだろうな。交渉する猶予はあるか?」
「無い」と即答して葵がサーベルに再び手をかける。
「それは残念だな」
男が拳銃をキャメリアに向けた。
手下も葵に銃口を向ける。
「そいつらは関係者では無いから、どうなろうが俺の知ったことではない。だが、1つは俺に向けたということは死ぬ覚悟はあるんだな?」
銃口の奥にいる隻眼を睨みつけて身構える。
「いや、違うよ。今俺らはあくまで生き残ることを考えてる。あんたよりも上司の方が怖いからな。このまま交渉をさせてもらう」
男がアスタ達を見た。
「武器を持ってる奴は捨てて両手を体から離しながら頭の上で組んで伏せろ。変なことはするなよ。変な動きがあれば容赦無く撃つ」
言われた通りに再びパーティが武器を捨てる。
「あんたの懸念は今日会ったことをウチの組織で喋られることだろ?だからこいつを処分しようとした。違うか?」
「そうだ」
葵は相変わらず手はサーベルの柄にかけたまま、冷静に返答した。
「俺らは喋らないよ」
「信用すると思うか?」
笑いながら返す相手に睨み続ける。
「お前らの組織を壊滅させる存在が動き出したという情報が入った」
葵が眉を寄せた。
『え?何?そんな奴いんの!?』
『厄介なのいるみたいね』
『葵さんも大変だなぁ』
伏せながらパーティがそれぞれに思う。
『でも、俺らには関係無いか!』
『魔王を倒す為に動いてる奴らでしょ?』
『だってシャロン達・・・』
『運命の人を探してるだけだし!!』と全員が同じことを考える。
モブキャラの如く他人事のパーティなのであった。
「だからお前の事なんて俺らからしたら今更取るに足らない情報なんだよ!」
相手が銃口を外した。
「これでお分りかな?俺らも忙しいんでね。この辺でお暇させてもらうよ」
男達は人混みにさっさと消えて行った。
「行った?行った?」
「いないわね」
「ふぅー、助かった〜!」
3人がゆっくりと顔を上げた。
葵も背を向けて歩き出す。
「葵さん!」とシャロンが叫んだが無視をして歩いて行く。
「行っちゃった・・・」
「葵なんかほっといて行こうぜ!」
アスタ達もその場から離れていく。
『一体、どこのどいつの事なんだ?いつ、どこから動き出した?』
葵は男の言葉を反復させながら歩いて行った。
一方パーティは・・・
「どうする?ご飯いく?」というアスタの質問にキャメリアが瓶を見せる。
「その前にこの子を水辺に帰してあげましょ!」
「そうだな!」
3人で水辺まで行き、瓶を開けると中から水が飛び出した。
「もう捕まっちゃダメよ!」
水面から顔を出し、こちらを見ている。
「さよなら!」
しかし妖精はキャメリアの腰に提がるステファニアに近づいた。
ステファニアも応えるように妖精の犬の姿になる。
何かを会話しているようにも見えるが、妖精の言葉は聞こえない。
「何か話してんな」
「お別れを言ってるのかな?」
アスタとシャロンも不思議そうに見守る中、妖精同士の話がひと段落した。
ステファニアは張子に戻ったかと思うと、水の妖精が目の前にやって来た。
「え!?何!?」
妖精が水で文字を作る。
「キャメリアありがとう。私はラエビガータ。水の妖精」
キャメリアが読み上げるとまた形を変える。
「助けてくれたこと、とても嬉しかった」
再び変わる。
「私はあなたの力になりたい」
読み終えるとアスタとシャロンが喜んだ。
「やったな!キャメリア!」
「仲間が増えて良かったね!!」
「ええ、そうね!嬉しいわ!よろしくね、ラエビガータ!!」
ラエビガータはキャメリアの周りを回り、キャメリアの魔力を取り込みながら金魚の張子になって手元に下りた。
こうして新たな仲間が加わった。




