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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
東の大陸
20/218

海路

陽が傾き、空が赤く染まる頃、イーストポートへ着いた。

3人は物陰から船が陳列する港を覗く。

「ここの船から出て行くのは合法なんだよな?」

「そうね。この港からだと不法侵入なんかにはならないわ!」

2人の会話の意図が理解できないシャロンが口を挟んだ。

「なんでそんな事聞くの?」

「当たり前だろ!!キッスの相手探しは法を犯してまでする事じゃねーだろ!」

大きな声でアスタが答えるが、まだ疑問を投げかける。

「確かにそうだけどさ、なんでそんな事気にするの?」

「だから!大陸唯一の境界線を魔王軍が塞いでただろ?という事は、別の方法である海路も妨害されてても不思議じゃないってことだ!」

キャメリアが港の船達をじっくり観察する。

「その辺は大丈夫みたい。どうやらこの海路を使わすことが魔王の目的のようね」

シャロンとアスタが不思議そうに見る。

「どういうことだよ?」

「海路だと船を使わないといけないから誰がどちらの大陸にいるか把握しやすいの。さらに、船に乗るのに法外なお金を取ってるわ。その乗船料のいくらかを頂いてるってわけよ。ほら、見て!どの大きな船にも魔王軍のマークが描いてる!きっと船を仕切る組織とかと提携してるんじゃないかしら?そうする事によって人や物の移動も魔王の勝手で制限できるわ!」

2人が目を大きく見開いてキャメリアの話に頷いた。

「な、なるほど〜!」

「となると、ここからは魔王に俺らの存在を把握されるかもしれないというわけだな。特に俺なんかはどうにかして避けたい気はするが、難しいか?」

3人に緊張感が走る。

「とにかく乗る船から気をつけないとな」とアスタが船を見渡した。

「あまり目立たない船がいいわ。大きなものは安全性はあるけど、その分乗船料が高いから避けましょう」

「つくづく金の重要性を感じるよ」とアスタがうんざりして言う。

「当たり前よ!お金があれば何でも手に入るんだから!だから世の中稼ぐ人はモテるし、尊敬されるのよ!」

アスタは葵を思い出して納得していた。

「あー、なるほどな」

「あ!ねぇ、これは?」

シャロンが指したのは個人が経営する無地の小さなクルーザーだった。

「いいわね!」

「あれにしよう!」

アスタが出て行き声をかける。

「おーい!船頭さーん!」

船頭に近づこうとすると人が立ち塞がった。

目線を上げると見覚えのある制服を着た男が数人いる。

「悪いが他を当たってくれ。この船は我々魔王軍が・・・って、お前は!」

「葵!」

キャメリアとシャロンが目を丸くする。

「キャメリア!あの人!写真の人だ!!」と思わずシャロンはキャメリアの腕を掴んで指差した。

「実在したのね!・・・というか魔王軍の四天王よ!!今思い出した!新聞で何度か見たわ!!」

真っ直ぐ葵を睨みつけてキャメリアに聞く。

「なぁ、キャメリア。魔王軍幹部ってそりゃあもうたくさん稼いでるんだよな?だからあんなにもモッテモテなんだよな?」

「え?えぇ・・・」『この人の場合はモテるってよりは信仰じゃ?』

キャメリアが戸惑う中、アスタが刀を構える。

「ここで会ったが百年目!葵、覚悟!」

「アスターーー!」

シャロンが大声を出すもアスタは止まらない。

葵に飛びかかって攻撃を仕掛けたが鞘に収めたままのサーベルで瞬殺された。

「その台詞は古すぎるよぉ!!」

「無知って哀れね」

アスタのセリフは魔王軍が島を鎖国する前に買われたであろう漫画からの抜粋たった。

倒れたアスタを傍目にサーベルを腰に収める。

「ちょうど見つけられて良かった。人魚たちからお前が島に戻らなかったことは聞いたよ。お前に聞きたいことがある」

アスタを睨みつけた。

「あの島からは4人で抜けたようだな。他の3人はどこにいる?」

一瞬、裏切られた思いと、みんなの楽しそうなアラビアータ生活、特にファルシを思い出したが口を固く結ぶ。

「・・・ふん!そんなもん、言うかよ!!」

腕組みしてそっぽを向いたが無視してさらに尋問を続ける。

「それと、もう一つ」

葵が近寄り、アスタの刀を掴んだ。

「この名刀を何故お前が持っているんだ?」

黙っていると葵が追い詰めるように続ける。

「以前は気づかなかったが、これはある一族に伝わる名刀だ。あの後脱走したお前らの事を調べた。我々が把握しているアンティパストに元からいた名簿の人物の外見を比較したが、お前の父も母もその双子の女子も確かに髪は赤い。だが、お前のはそれ以上に赤すぎる!お前は本当にあの夫婦の子どもか?その刀を誰から受け取った?」

「それは・・・」と口籠っているとキャメリアが前に出た。

「知りたいでしょ?何故彼の髪が赤いのか」

突然出しゃばるキャメリアを葵が睨む。

「誰だ?」

「私はアスタと共に旅をする召喚士のキャメリアよ。それより、知りたいんでしょ?」

シャロンが不安そうに見つめている。

「知っているのか?」

「当然!仲間ですもの!でもその前に・・・」

キャメリアは船頭を見る。

「船頭さん、その船何人乗れるの?」

「他の積荷などもあるので4人までです」

再び葵一行に目を向けると葵含め4人いた。

「あなた達定員オーバーね、3人程」

葵は部下を一瞥してから、キャメリアを再び睨みつける。

「葵さん、これは交渉よ。そこの3人が船を降りて、私たちを代わりに乗せるの。その代わり、アスタの秘密を教えてあげるわ!」

「キャメリア!」

思わずアスタが叫ぶが手で制される。

「アスタ、任せて!」

葵は眉間に皺を寄せ、少し考えてから口を開いた。

「・・・仕方ない。あまり気乗りはしないがいいだろう」

『あいつの事は取るに足らないと思っていたが、あの名刀が絡んでいるのなら話は別だ』

刀を見る葵を他所にアスタがキャメリアにまた何か言いかける。

「キャメリア!それって!」

「アスタはいいから黙ってて!」

また黙らされたアスタは悔しそうに唇を噛んだ。

「くっ・・・」

『それって、俺だけ損してね?』

キャメリアが部下達に向く。

「あなた達の上司は私たちが預かったわ!この事を魔王軍に告げ口をすればすぐにでも葵さんを縛って海に沈めるからね!」

部下達が不安そうに見るので、葵が笑顔を向ける。

「大丈夫だ!俺が負けるわけないだろ!」

紳士的に部下の不安を取り除く葵にキャメリアが横目で不満そうにする。

「あっそ。何だか不安ね。シャロン、任せてもいいかしら?」

「あいよ!」

シャロンが杖を振ると倉庫が開き、中からロープが出てきた。

そのロープが部下達に巻きつき、倉庫へと引っ張っていく。

まだ魔法に触れて間もないアスタはシャロンの魔法に目を丸くした。

「すげぇ・・・魔法使いみたいな魔法使ってる!!」

「ちゃんと奥の方に行ったか確認しておいてね!」

「合点!」と答えてシャロンが中へと確認に行った。

「いい?この船に私達は乗っていなかった。あなた達魔王軍4人だけ」

「・・・いいだろう」『こいつ、常習犯か?』

「女って怖ぇ!」

アスタだけでなく葵もキャメリアの手慣れた采配に引いていた。


船に乗り、出発する。

港が遠ざかる中、キャメリアに呼びかけられた。

「葵さん」

「何だ?まだあるのか?」

その呼びかけに警戒する葵。

「一つ聞かせて。何故あなたは陸路を使わなかったの?」

来た質問に眉をひそめる。

「あそこの門の管轄は別の四天王のものだからだ」

「きしめんの管轄よね?仲が悪いのね。あと、四天王のあなたが何故あんな少人数で、こんな小さな船を使うの?もっと立派な船を使わないのは何故?」

「大きな船は別の組織とのいさかいがあるから事件に巻き込まれやすい。俺みたいな四天王が乗れば目立つし尚更だ」

どんどん船は沖へ出て、岸が遠く小さくなった。

葵がアスタに向く。

「さ、アスタ、お前の秘密を話してもらおうか?」

「俺は・・・両親が死んだと聞いた。母さんは俺を生んだ時に、父さんは俺が生まれる前に」

アスタが淡々と答える嘘は必死で守ってくれた島民達の希望を隠した。

「お前と関わった人魚からは母親を探していると聞いたが?」

「そんなもん嘘に決まってんだろ。聞いたんだろ?俺があの子に人生をかけたプロポーズ?ってやつをしたんだ。同情を買うようにみんなと同じこと言っただけだよ。一緒に抜けたやつらだって同じこと言ってお姉様方にチヤホヤされてる!何で俺がしちゃいけないんだよ!」

『アスタ、シスター以外にも告白したんだ』

『初対面でプロポーズ?重っ!無理!!』

シャロンとキャメリアは軽蔑した眼差しを向けた。

アスタは島民の希望を守る為に仲間からの軽蔑を買うという高い代償を払った。

葵は少し考えたが、納得して次の質問に移った。

「まあ、いい。じゃあ、その刀は?何故お前が待っている?」

「父さんが貿易商でお外に出た時に買い付けたものだって聞いたよ」

刀を見つめるアスタを見る。

「あと、ずっと気になっていたんだが、アスタって何だ?お前の名前はアカガミだろ?」

葵に刀を見せた。

「俺の本名だ!名前を付けてもらう前に親が死んだから、この刀に書いてた言葉から貰ったんだ!俺の名前はアスタなんだ!」

「ふーん」と刀を観察する。

「あの島の島民達は何故偽名を使い続けていたんだ?」

この質問には冷や汗をかかされた。

少し考えてから口を開く。

「・・・俺が聞いたのは、魔王軍の侵略で本名を名乗ったら何かあるんじゃないかって警戒したって言ってた」

「・・・なるほどな」

それ以上言及しない様子に表には出さずに安堵する。

「やっぱり偽名だったのか」

葵が口角を上げて言った。

慌てて口元を隠すが、葵は怪しく笑っている。

「安心しろ。偽名を使っていたことで島民を責め立てたりはしないさ。ある程度察してはいたからな。あんなあからさまな偽名」

「じゃあ、どうするっていうんだよ!?」

アスタの大きな声に相変わらず冷静に答える。

「ま、あとの3人を探すのには使うかな」

「あいつらに危害を加えるのか?」

そう言うと刀に手をかけた。

「いや、現在地を把握して状況次第では島に連れ戻すかな。特に咎めようとは思っていない。そんなことをして島民達から恨みを買っても意味が無いからな。それに、島の閉鎖の目的に関係の無い3人だ。泳がせておくよ」

また胸を撫で下ろすアスタに「お前もな!!」と睨みつける。

アスタが焦っていると、感極まったシャロンが大粒の涙を流しながら目の前に現れた。

「アアアアア、アスタ!!そそ、そんな事がっ・・・あったんだっ!!」

「あ、うん・・・ま、そういう事だ。色々あって島を出たんだよ」

嗚咽を漏らすシャロンがアスタの背中を摩る。

そして、アスタの目が真剣になる。

「あと俺は、どこかにいるであろう血の繋がらない双子の妹を見つけたい!!」

キャメリアと葵が眉をひそめた。

「血の繋がらない・・・双子の妹?」

「バカみたいな奴が言うから胡散臭いが、戸籍上成立するんだよな・・・」

呆れる2人とは正反対にシャロンが泣き喚く。

「アズダ!シャロンが・・・妹になってあげるから!!だから泣かないで!!」

「いや、泣いてないし、なっていらないし、泣き止むのはお前な!!」

仕切り直して拳を握り力説する。

「俺の妹が可愛かったら運命の人としてキッスするのもアリ!!この旅も無事にゴールを迎えられる!!」

「残念だけど、お前の妹は東の大陸にいるよ。ソルベインレットから少し離れた集落を我が軍が用意している」

葵の話に口をあんぐりと開けて座り込んだ。

「アズダァァ〜!!」と泣くシャロンを他所に、葵の背後に迫る西の大陸を見て急にアスタが気づく。

「なぁ、ちょっと待て!」

シャロンが泣き止んだ。

「何?」

「何で気づかなかったんだ!?東にいたってことは西にも葵の部下が待っているはず!四天王の乗る船だぞ!いくら小規模でも渡った先で護衛がいても不思議じゃない!!」

すると葵が高笑いをした。

「悪いな、俺の勝ちだ!キャメリア、お前のカマかけに乗ってやっただけだ!始めから勝っていたのはこの俺だ!!」

キャメリアが焦り出す。

「ど、ど、どうしよ!船頭さん!!この船を止めて!引き返して!!」

「無駄だ!西の大陸が見えている!向こうにいる俺の部下がこの船を確認しているだろう。少しでも変な動きがあれば誰が乗っていようと攻撃をするよう常に命じている!!」

アスタも冷や汗を垂らす。

「どうする!?このままじゃ向こうに着くと同時に捕まる!!」

「そうだ!シャロンの魔法で私たちを葵さんの部下に変身させれば・・・」

「変身魔法なんて持ってないよ!」

口々に言い合うパーティを葵が余裕綽々で見る。

「安心しろ!お前らを殺したりはしない。ちゃんと実家に帰してやる。勿論、アスタはアンティパストだがな。気づいたのは褒めてやるが、世間知らずが仇となったな!せめてもの労いとして、魔王様には報告せずにいてやる。大人しくしていろ!」

アスタは頭を片手で押さえて悔しそうに表情を歪めた。

「クソォ!!こんな所で引き返すわけにはいかないんだよぉ!!俺のキッスはまだなんだよぉ!!」

「まだメリリーシャに行って好きな人とキッスしてないのよ!!」

「鬼!人でなし!悪魔!」

シャロンに責められるが黙って呆れる。

『この状況でまだキスとかそんな事を考えてんのか、この連中は・・・』

船頭が声をかけた。

「あと10分程で着きますよー!」

葵が余裕の笑みをこぼす。

『どうする!?』

パーティは固唾を飲んだ。

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