ネバーランド
「この島から脱出しないか?」
ソバカスの一言に全員が目を丸くした。
「え!?・・・本気?」
アカガミが聞き直すと、ソバカスが立ち上がる。
「ああ、本気だ!お外に行けば追い出された俺らの母さんとかいるんだろ?」
皆がその言葉に息を呑んだ。
「そ、そうだけどさ・・・」
気弱にガリが言うが構わず続ける。
「俺らさ、この島で最後に生まれた子どもなんだ。俺らが老いて死ねばこの島は完全に魔王軍の物になる。俺達の生まれ育った島を開発させられてるのも、あいつらがいつかこの島を乗っ取る為だろ?もしかしたら開発が終われば、用済みの俺らは全員殺される可能性もあるって島のおっちゃんらが言ってたぞ!」
冷静だったソバカスの感情が熱くなっていく。
「このまま何もしないなんてダメなんじゃないだろうか!!」
皆は島民たちが目を逸らし続けてきた真理を突くソバカスの意見に俯いていた。
「なあ、皆!!」
少し間を置いて好奇心の強いクセゲが口を開く。
「・・・お前の言う通りだ、ソバカス。俺はこのまま魔王軍に黙って食われるなんて嫌だ!!俺らで脱出して、母さんに会って、この島救おうぜ!!」
やる気満々の2人に反してあとの2人は黙っていた。
「僕は・・・確かに母さんには会いたいけど、危険だよ」
ガリが言うのにアカガミも続く。
「俺もガリと同じ意見だ。確かに離れた家族には会ってみたいし、島の将来は心配だ。だけど、そんな簡単にいけるとも思わない。脱走がバレたら人に言えないような恐ろしい罰があるって噂だろ?それに、俺は今の皆がいて、島の人らも優しくて楽しいんだよ。それを敢えてリスクを負って脱走しなくてもって思うんだ」
ソバカスが拳を握る。
「お前もかよ、アカガミ!」
「まあ、落ち着いてよ、ソバカス!少し冷静に考えてよ!」
ガリに諭されて不機嫌そうに腰を落とした。
「絶対に今抜け出した方が良いに決まってる!それに、今日は特別大きな船だ。紛れて抜け出すには今日しかない!!・・・何かお前らが納得するような策を考えてやるよ!」
「わかったよ。とりあえずその計画についてはお前らに任せるよ」
アカガミは2人に言うと、不機嫌なソバカスの肩をクセゲが軽く2回叩いた。
昼休みにアカガミは自分と似た赤毛だが、比べると少し赤色の薄い父と配給されたパンを食べていた。
「なぁ、父ちゃん」
「あ?」と返事してパンをかじりながらアカガミを見る。
「島の外って何があんのかな?」
質問を受けた父は黙ってアカガミを見ていた。
「な、何?」と黙る父に更に聞く。
「いや、何でも。どうして急にそんな事思ったんだ?」
港に止まる大きな船に目を向ける。
「なんかさ、今日の船とか、魔王軍っていつも俺の知らない物を持ってくるからさ。それに、外には母ちゃんとかいるんだよな?」
「なるほどな。俺も外に行ったのは大分昔の話だけど、すごく楽しかったよ。外には島に無い物ばかりある。正直、こんな監視が無ければお前をいくらでも外に出してやりたいくらいだ」
父も遠くの海を見て言った。
「だけど今、出たのがバレたら重い罰を受けるからな」
「だよな。たかが好奇心、そんな危険犯してまでやる事じゃ無いよな」
パンをかじる我が子を呆れながら見る。
「お前には冒険心ってものがないのか!!」
不意打ちで頭を父に叩かれた。
「イテッ!無いよ!!冒険なんて本で充分さ!!」
叩かれた場所を押さえて言い返したら大きくため息を吐かれた。
「ハァー・・・ったく、何のために俺らが冒険の物語を秘蔵書庫に隠したんだか・・・」
父に理不尽を感じながらパンの残りをかじった。
午後も作業が続く。
天高く登る太陽を見ながらアカガミは1人でやる気無く草抜きをしていた。
「・・・あれ?なんか落ちてる」
木陰の草むらにピンク色の紙を見つけた。
それを拾い上げると下着姿で豊かに実った果実の谷間をこちらに見せる女性が写り、“女祭り”と書かれた所謂ピンクチラシだった。
とても年季の入った物で、島の誰かが落としたのか捨てたものだろうけど、アカガミには光り輝くお宝に見えた。
「ふぉぉぉおおおおお!!!!」
「何だ!?狼か!?」
魔王軍の隊員がアカガミの声にたじろぐ。
「いえ、この島にはいませんよ」と島民のおじいさんは冷静に答えた。
雄叫びを上げ、立ち上がって仲間の元に走っていく。
そして一番に見つけたのはクセゲだ。
スコップで穴を掘るクセゲの周りには隊員が沢山いる。
しかし、アカガミは無言で足音も無くクセゲに飛びつき、襟首を掴んで連れ去った。
「うわ!何だよアカガミ!?」
陰で黙ってチラシを見せたら同じくクセゲも天を仰いで共に叫んだ。
「ふぉぉぉおおおおお!!!!」
「まただ!やっぱり何かいるぞ!!獣だ!!」
「うちのポチかな?腹空かしてるのかも」
大慌てな魔王軍隊員に対して島民は相変わらず何も気にしてない。
2人で走り出しソバカスとガリも連れてきてチラシ見せ、4人で「ふぉぉぉおおおおお!!!!」と叫んだ。
その雄叫びを聞いて山の鳥達は羽ばたき、魔王軍は隊を編成して何人かで森に入っていく。
「ここここ、これ!これはフィクションか何かだよな!?保健体育の教科書にはこんな女は載ってないぞ!こんな・・・胸が・・・刺激的なの!!」
「そ、そうだよ!!きっとフィクションだよ!絵だよ絵!めっちゃ上手に描かれた絵!!」
ピンクチラシの現実を受け止めてきれないクセゲとガリが否定するが、ソバカスが制する。
「バカ野郎!!目の前の物を受け止めろ!!これは写真だ!!現実なんだ!!これが!女だぁぁあ!!」
ソバカスもかなり興奮していた。
「そうだ!これが現実!これが外の景色!!今朝知ったが、魔王軍には島外の物を持ち込み禁止という鉄の掟があるらしい!!それは何の為か今わかった!!」
アカガミがチラシを見せる。
「外には祭をする程女がいて!更に千年に1人の女の王!つまり女王までいるんだ!!それを魔王軍が・・・きっといつも顔を出さない魔王軍幹部の葵とかいう奴が独占しているんだ!!その事実を俺らに知られないようにこんな島で監禁している!!ここの作業はブラフ!!俺らは騙され、あいつらだけ良い思いをしてるんだ!!!」
皆の目付きが変わる。
「ネバー・・・ランド?この祭りの開催地の名前・・・」
「ネバーランド?・・・って、前に読んだ物語の中に出てきた気がするな」
ソバカスとアカガミが考察していると「あ!これ見て!!」とガリが大声で指差した。
皆が注目した先には日付が書いていた。
「何!来週だと!?」
アカガミが目を見開いてよく見る。
「今日にでも脱出しないと・・・だな。そうとわかれば、行動あるのみ!!」
「ああ、やってやろうじゃねーか!!」
「僕らの復讐劇の始まりだね!!」
ソバカスもクセゲもガリも皆が同じ思いとなった。
みんな良い目をしてやがる。
「今日のあの大きな船。運は俺らに味方している!絶対に島から抜けてやろうぜ!!」
アカガミは手に持つピンクチラシを力強く握った。
それから、反逆心に燃える4人の少年達は心を一つにして島脱出の作戦を練っていた。
「どうやって島を脱出する?」
クセゲの相談にソバカスが答える。
「とにかく、何とかして魔王軍の船に乗り込もう!!」
それを聞き、アカガミが立ち上がり指差す。
「じゃあ、制服を全員分用意すればいいんだ!1人が潜り込んであの船から制服を盗むんだ!!それから全員で魔王軍になりすまして、あの船で脱出する!!」
アカガミの言葉に皆が船を見た。
「でもどうやって?」
クセゲが聞くとアカガミが怪しく笑いながら質問をした。
「今日、誰かリーダーの服を見たか?」
「いや・・・」「見てない」とソバカスとガリが首を横に振って答える。
「俺は見た!俺に良い考えがある!!」
そう言うとアカガミは自信満々な表情で胸に親指を突き立てた。




