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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
東の大陸
10/215

午後のお祈り

倒れるアスタとキャメリアにとどめを刺そうとする門番1、何もできずただ泣くシャロンに向かってくる門番2。

更に引き返してきたきしめんが大陸の境界にある門に到着していた。

きしめんが門の鐘を鳴らし、開けるように促す。

「おい!きしめんだ!早く開けろ!急ぎだ!!」

「もしかしてさっきの魔王軍が帰ってきた!?」

シャロンがアスタの刀を拾い、大粒の涙を流す。

「早く!この場から逃げないと!!」

門番の2人が門へと急いで向かう。

背を向けたその隙に杖を構えて震える声で必死に魔法を使った。

「アスタ、キャメリアを連れアラビアータの町へ、飛べ!ラントフェル!!」

言い終わると3人は光に包まれた。

門番がシャロンの魔法に気付いたがすでに3人は消えていた。

再び門を叩く音が聞こえたので急いで開門する。

「悪いな!急にこっちの大陸で魔王様から呼び出しがあったんだ!・・・て、どうかしたか?」

きしめんに振り向き2人は首を振った。


アラビアータの町、教会。

扉が勢いよく開く音に、中にいたシスターが振り向く。

ボロボロのシャロンが倒れるアスタとキャメリアの前に立っていた。

急いで手当をして椅子に2人を寝かせる。

それからしゃくり上げて泣くシャロンをシスターが慰めていた。

「ヒック・・・まだまだだった。こんなにやられるくらい弱かった・・・悔しい!!」

シスターが背に手を当てて優しく言葉をかけてあげる。

「人は誰しも失敗を重ねて大きくなるものです。あなたは自分の実力を知れただけでなく、強い相手からこの方達を連れて逃げた。それだけで十分じゃありませんか。とても優秀です!」

シャロンが声をあげてシスターに抱きついて泣いた。

大きな泣き声に目覚めたアスタの目には優しい光に包まれた、まるで聖母のようなシスターが飛び込んできた。

『は!・・・美しい!!』

一瞬で頬が赤らむ。

「あら、目覚めましたか?」

シスターがアスタに気付いて声をかけた。

「俺らどうなったんだ・・・?傷も治ってる」

見渡すとキャメリアが隣の椅子に横になっている。

「シャロンがここまで連れて来て下さりましたよ!傷は私の能力で治しました!」

シスターの言葉で涙を拭うシャロンに気づき、礼を言う。

「シャロン・・・ありがとう」

キャメリアも丁度起きた。

「私達全然ダメだったわね」

「あぁ、もっと強くなってやる。世間にはこんなにも強敵が多いんだ。強くならないと先になんて進めない!」

キャメリアがアスタに手を差し出す。

「ええ、お互い頑張りましょう!」

「おう!」と返してアスタはその手を力強く握った。

シスターが2人の様子に安心して微笑みながら見守る。

「元気になって良かった!そうだ、着てる服がボロボロだから教会にある物で良ければ持って行って下さっても構いませんよ!」

「ありがとうございます!じゃあ俺何か貰おうかな!」

キャメリアが作業着を指差す。

「そうね、いつまでもその服だと魔王軍にバレそうだしね・・・」

「シャロン達が選んだげる!」

シスターがアスタに目線を向け観察した。

「アスタさん、魔王軍と何か訳ありなのですね?」

「そういえばシャロンも2人のこと何も聞いてないな・・・」

言いづらそうに「ええ、まぁ・・・」と答えたが、シスターはすぐにニッコリと微笑み返してくれた。

「大丈夫ですよ!そんな訳ありな方が救いを求めて来る場所が教会なのです!話しにくい事情があれば、何も聞きませんよ!」

安心した顔をすると、シスターが教会の奥に案内してくれた。

「あちらの奥に寄付された服があります。お好きなのをお取りください!」

3人で選んだ服を着てシスターの前に再び出る。

「シスター、どうでしょう?」

「あら!いいじゃない!髪とお揃いの赤い上下の服を選ばれたのですね!!その服、プレゼントしますよ!」

シスターに褒められて照れる。

「そうだ、シスター。さっきの作業服を着た俺くらいの男子が最近この辺に来たって情報ありませんか?一緒に地元から出てきた仲間とはぐれてしまって探してるんです」

「うーん・・・服装まではわからないけど、アスタくらいのこの辺では見かけない男の子が革加工の職人さんに弟子入りしてたわ!」

その証言に前のめりになる。

「え!?本当!?その店どこにあるの?」

「ここから南に行くとあるから、後で行ってみるといいわよ!」

「ありがとう!シスター!!」と嬉しそうにしているとキャメリアも「よかったわね!」と言ってくれた。

「その子が探している方だといいわね!それにしてもあなた達運が良かったわ!ギリギリだったもの!」

3人で不思議そうにシスターを見る。

「どういうこと?」

「今日の午後のお祈りが終わったらすぐに次の街に向かう予定なの!」

シャロンが傾げて聞く。

「午後のお祈りってあとどれくらい?」

「10分後よ!」

それを聞きくなりアスタが教会を飛び出した。

「何あいつ?」と辛辣な目線をキャメリアが向け、シャロンは「さあ?」と呟く。

シスターだけが「元気ね!」と微笑んでいた。

「そろそろお祈りの準備をしてくるから、2人はゆっくりしていて!」とシスターも立ち上がり、教会の奥へと去っていった。

残された2人で会話をする。

その時にシャロンが門の向こうへ行く理由を尋ねてきた。

「何で2人は門の向こうへ行こうとしてたの?」

突然の質問にキャメリアが焦る。

「ま、魔王・・・そう!魔王を倒すためよ!」

「すごーい!」

目を輝かせるシャロンについ視線をそらしてしまった。

「シャロンはどうして門の向こうに行こうとしてたの?」

シャロンは聞かれた途端に俯く。

「シャロンはね、魔導師のアカデミーをこの前出て、町でお家の店を手伝うことになってたんだけど、嫌になって出てきたの」

「へぇ、何が嫌になったの?」

意外そうな顔をしてシャロンを見た。

「だってね、人生は一回しか無いんだよ!それを生まれた町に縛られるなんて嫌!もっと外を見たいの!!」

『ウチのバカ姉と似たようなこと言ってる・・・』

複雑な心境のキャメリアとは真逆に、シャロンの目は希望に満ちているが、そこに影が差す。

「でも、アカデミーでの成績はいつも下の方だったの・・・。それでも3回目の再試までがんばったんだから、諦めなければ何事もいけると思った!いつもダメな自分を変えたくて・・・。あんな手下の門番なんか1人で倒せるって思って挑んだんだ。でも現実は厳しかった・・・」

シャロンが再び落ち込む。

「相手が石化した時もシャロンが魔導師ってのを利用されたの。シャロンが魔法を使ったタイミングであいつら変身してた。そしたらみんなシャロンの魔法だって安心するでしょ?相手の作戦にまんまと利用されちゃった・・・」

「そんなの、私たちだって同じく騙されたんだから、シャロンだけのせいじゃないわ!」

キャメリアが慰めの言葉を探していると午後の鐘が鳴った。

「お祈りの時間だ!」

キャメリアもシャロンも姿勢を正して祭壇に向いた。

シスターが四角の写真入れを持って教会に入る。

すると、扉が勢いよく開いた。

みんなが振り返ると、そこには肩で息をするアスタが花束を抱えて立っていた。


全員で注目する中、アスタが花束を抱えて戻ってきた。

荒い呼吸のままシスターに近づく。

そして目の前で跪き花束を差し出した。

「シスター!好きだ!僕の運命の恋人になって下さい!!」

聖女の微笑みを絶やさずにアスタを見ていた。

緊張か走ったからか額に汗が滴る。

「ね、ねぇ!あれって愛の告白!?初めて見た!!」

「アスタ・・・」

シャロンがキャメリアを揺すりながら興奮して問いかける。

「ごめんなさい。私は神に仕える身なので」

即答だった。

しかも、真顔で即答で断られた。

「初めて見た、人の表情が無になったところ・・・」

「あんなに笑顔が素敵な方が…」

アスタは撃沈し、女子らが気まずそうにしているにも関わらず、シスターは進める。

「では、改めまして。午後のお祈りを始めます」

そう言って壇上に置かれた写真が目に飛び込んだ瞬間、全員に戦慄が走った。

なんと、写真に写っていたのは魔王軍四天王の葵だったのだ。

女子勢は黙って嫌な汗をかく。

『だ、誰?何教?あの写真は神様?教祖様?』

『でも軍服っぽいの着てるし、角度が盗撮っぽいし・・・。シスターの推すローカルアイドル?美しすぎる教祖様?でも、なんとなくどこかで見たことあるような・・・』

2人して戸惑いが隠しきれない。

『ツッコむにツッコめない!!』

2人はまさか聖女が魔王軍四天王を崇拝するなど夢にも思わず、新聞などで見覚えのあるその顔を判別出来ずにいた。

そんな中、つい最近にも同じ人物に失恋の苦い経験をさせられたアスタ1人だけは写真に写る人物をすぐに理解した。

勢いよく雄叫びをあげる。

「うぉぉぉおおおお!!葵ィィィイイ!!」

決して主人公とは思えない悪魔にでも取り憑かれたような凄まじい形相で壇上に踏み込む。

その勢いのまま写真に手を伸ばして掴みに行った。

「あの写真を聖水で清めて聖火で灰にしてやるぅぅう!!」

しかし寸前の所でシスターが邪悪な気配に振り向き睨みつける。

即座に突っ込んでくるアスタの手首を掴み、相手の力を利用して顎に掌底を食らわし飛ばした。

「お静かに!お祈りの時間ですよ!!」

「・・・はい。」

飛ばされたアスタはすぐに体を起こして痛む顎を押さえて涙を飲んだ。


無事に午後のお祈りが終わり3人は外へ出る。

顎を腫らしたアスタが空に向かって伸びをした。

「これからどうすっかな・・・!」

「シャロンはどうするの?」

「まだ決めて無いけど、西の大陸に行くの諦めてないよ!」

シャロンが拳を握って意気込む。

「じゃあ一緒に来るか?」

「え?いいの!?」

シャロンが目を丸くして2人を見た。

「そうよね。1人じゃ危ないし、一緒に行きましょうよ!」

「うん!!」

喜んで頷くシャロンにアスタが手を出した。

「改めまして、俺はアスタだ!」

「私は召喚士のキャメリア!」

シャロンはアスタの手を力強く握って自己紹介をした。

「魔導師のシャロンだよ!氷系の魔法と基礎魔法が使えるの!よろしく!」

アスタが小声でキャメリアに聞く。

「なあ、魔導師ってことはようは魔法使いなんだよな?魔法使いっておばあちゃんなんじゃないの?毒りんごとか、舞踏会のドレス用意したりとか」

「は?」と聞き返されて「何でもない」とすぐにシャロンに向きを戻す。

シャロンは2人にずっと抱いていた疑問を投げかけてみる。

「2人は魔王を倒しに行くんだよね?」

「あぁ、そうだな(表向きは)」

「えぇ、そうよ(建前的には)」

2人の勢いが急に落ち着き、そっぽをむき出す。

アスタが純粋な目を向けるシャロンに気遣う。

「別にそこまで付き合わなくてもいいよ!」

「そうよ!危険だもん!まだ私達より少し年下そうだし・・・ね?」

シャロンの目は一層輝きを増した。

「ううん!シャロンも行きたい!2人といたら楽しそう!それに、まだまだ未熟だけど基礎魔法なら充分使えるし、頑張るからさ!ほら!」と言い杖をアスタに向けて振ると顎の腫れが引いた。

「あ、治った!」と驚く。

「だからさ、お願いお願いお願いー!!」

2人で目を合わす。

「あー・・・ま、いっか!旅は道連れって言うしな!」

「シャロンがそこまで言うなら一緒に行きましょう!それに回復とか必要だしね!」

肩を竦めてから頷いたらシャロンが喜んで飛び跳ねた。

「やったー!ありがとう!!」

キャメリアがふと気づき、アスタに耳打ちする。

「アスタ、一応アレ聞いといた方が良くない?」

「あ!確かに!」

2人してシャロンに向き直る。

「シャロン、旅に出る前に1つ聞きたいことがあるの!正直に答えてね!」

神妙な2人にシャロンも気を引き締める。

「シャロンはキッス・・・したことあるか?」

真剣な顔をするのでどんなことかと思えば予想外な質問に唖然とする。

「えーとね、幼稚園の頃に好きな子と木の陰でこっそりほっぺにしたよ!!」

天真爛漫に答え、勝手に1人で照れているシャロンを他所に2人で背を向けて審議する。

「幼稚園だって。どうする?」

「うーん。ほっぺだし、まあいいでしょう!」

シャロンに再び向き直ってアスタが親指を立てて見せた。

「よし、合格だ!シャロン!一緒に行くぞ!!」

3人で歩き始める。

「ねぇ、今の質問何?」と聞くシャロンに2人して「いいのいいの!」「何でも無いわよ!」と構わず歩く。

「えー!教えてよー!!」と不満気なシャロンを他所に町の南にある革加工の店へと向かった。

こうして、アスタとキャメリアに魔道師のシャロンが加り、3人のパーティとなった。

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