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第7章 婚約破棄騒動の顛末

 この章は長めです。

 婚約破棄騒動の内容がようやく明らかになります!


 王都から辺境地に戻って十日ほど経った頃、アスティリアの元に王妃殿下から手紙が届いた。

 あの日の夜、国王陛下はようやく覚悟を決めて王太子殿下に全てを話したらしい。

 

 国王陛下は幼い頃に婚約した、フォーリナー侯爵家の令嬢エリスティアを心から愛していたこと。しかし、成長するにつれて美人で優秀な婚約者に劣等感を抱くようになり、つい冷たくしたり、意地悪をするようなったこと。

 

 彼女が自分のために必死に努力をしていたことを知っていながら、作られた淑女の微笑みばかり浮かべて、本音を見せなくなった彼女に不満を募らせるようになったこと。

 

 そして決して外してはいけないと両親や婚約者から注意を受けていたのに、友人に唆されて魔除け効果のある婚約指輪をはずしてしまったこと。

 そのせいで、学園に入学後、元は平民だというゴックス男爵家の令嬢ジャネットに魅了魔法をかけられて、側近達と共に彼女の虜になってしまったこと。

 

 その結果絶えずジャネットを側に置くようになり、婚約者であるエリスティアを遠ざけ、彼女に以前にも増して冷たい態度をとるようになり、顔を見る度に罵詈雑言を吐くようになったことを。

 

 そして……

 

(ここから国王の視点)

 

 

 僕は学園の卒業パーティーで、ついに婚約者のエリスティアに婚約破棄を宣言した。

 破棄の理由は彼女が男爵令嬢ジャネットを虐めたからだ。

 教科書を破いたり、鞄を最上階の窓から投げ捨てたり、彼女にわざとぶつかって転ばせたり、池に落としたり。

 

 その時王太子だった僕は間違ったことをしている自覚が全くなかった。悪人の罪を暴くのも王族の役目だし、正義のためだと思っていた。何故なら証人もたくさんいたからだ。


 しかしその証人というのが皆男爵令嬢の取り巻きであったのだから、全く公正さにかけるものだった。しかし冷静さをなくしていた僕は、そのことに全く気付かなかった。

 ところがその場であらゆる矛盾点を事細かくエリスティアから指摘されて、僕は彼女に馬鹿にされている気がして激怒した。そして不敬罪だとして、彼女を近衛兵に命じて逮捕させ、牢獄へ放り込んだ。


 しかもジャネットに唆された僕は、その翌日元婚約者のエリスティアに、辺境の熊男と呼ばれていたガースン=ホーズボルト辺境伯の元に嫁ぐように命令したのだ。

 このことは僕の数多い失敗の中でも最も大きな誤りだった。あの時に何故あんな意地の悪い非常識な提案に素直に従ったのか。何故あの女の悪意をなんとも思わなかったのか。それは今もってわからない。


 両親があの時いてくれたら、殴ってでも絶対に僕を止めてくれていただろうに。

 いや、両親がいない時を狙ってあんな馬鹿な真似をしたのだから、自分が悪いのは百も承知しているのだが。

 

 あの時、国王夫妻は隣国の国王の即位式に参加していたので、国にはいなかった。それ故にこの王太子の暴挙を止める者がいなかったのだ。

 ただし居残り組の近衛副団長がまともな人物だったから、彼は僕に逆らって一般の牢ではなく、エリスティアを貴族牢に収監してくれた。このことには感謝している。


 もし侯爵家のご令嬢を極悪人ばかりいる地下牢に放り込んでいたら、王妃である母は一生僕を許さなかっただろう。自分が自ら王妃教育を施して立派な淑女に育て上げたご令嬢を、侮辱しようとしたのだから。

 貴族牢に入れたことでさえ、母上から鉄扇で数回顔を打ち付けられたのだから。

 

 

(国王の王太子だった頃の視点はここまで)

 

 

 卒業式から二週間後、国王夫妻が帰城した時には時既に遅しの状態だった。

 すぐに両陛下は侯爵を呼び出して謝罪をしようとしたが、既に侯爵夫妻は薄情にも娘を除籍していた。そして平民になったエリスティアは辺境へ向かい、辺境伯と婚約してしまっていたのだ。


 何故そんなにスムーズに事が進んだのかと言えば、国王から全権委任をされていたライオネル王太子が認可したからだ。フォーリナー侯爵家からの除籍届も、ポートン伯爵からの養子縁組届も、ガースン=ホーズボルト辺境伯との婚約承認届も。


 国王は息子並びに留守番をしていた宰相に激怒した。

 なんと宰相は彼自身の嫡男も男爵令嬢の取り巻きだったため、息子の証言を鵜呑みにしていたのだ。

 国王が信じられるのは既に近衛騎士団しかおらず、帰国早々申し訳なかったが、彼らに調査を依頼した。するとその調査結果はすぐに出た。

 

 当然ながらエリスティアは虐めなどしていなかった。

 ゴックス男爵令嬢が多少の嫌がらせを受けていたのは事実だったが、それはわずかなもので、その嫌がらせをしていたのは、ゴックス男爵令嬢に婚約者や恋人を奪われたご令嬢達だった。そしてそれ以外はほとんどが彼女の自作自演だった。

 

 しかし、その真実を突き付けられても王太子やその側近達はそれを信じなかった。

 これはまともではない。彼らは異常だと、さすがに近衛騎士団は気が付いた。そこでゴックス男爵令嬢ジャネットを慎重に調べてみると、彼女はなんと魅了持ちだった。

 ジャネットはすぐに逮捕されて、王城地下にある独房に収監された。そして、隣の帝国にある研究施設に送ることが決定した。魅了持ちは世界的にも数が少ないためだ。


 ところがなんとジャネットは妊娠をしていた。

 彼女はライオネル王太子の子だと主張したが、彼女が他の取り巻きとも関係を持っていたことが判明していたので、王家は彼女の言葉をそのまま信用するわけにはいかなかった。

 ただし完全に否定することもできなかったので、出産後に施設に送ることにした。

 

 そしてもしもの場合のことを考えて、国王は王太子に急いで妻を娶らせた。

 これぞまさしく政略結婚。選ばれて王太子妃となったのは、この国に留学していた隣の小国の王女イーリスだったのだ。


 一応独立国ではあったが、アイナワー王国に対する依存度が高かったので、イーリス王女側には拒否権がなかった。

 とはいえさすがに王女には申し訳なく思った国王は、この結婚は形式的なもので、王女が望むなら白い結婚で構わないし、三年後の離縁にも応じるとした。

 

 何故そこまでして王女を王太子と結婚させたのかといえば、ジャネット=ゴックス男爵令嬢が産んだ子供がもし男の子で、しかも本当に王太子の子供であったならば、なんとしても正妻の子供としなければならなかったのだ。

 まさか未来の国王が魅了持ちの犯罪者から生まれたと知られるわけにはいかなかったからだ。子供の出生の細かな日時など数か月ならいくらでも誤魔化せると。

 

 何もそんないわく付きの子供などは、どこか養子や里子にでも出してしまえばいいと考える者もいるだろう。一般的な貴族であればそうしただろう。

 ところが、王家の血を引く男子は必ず王家特有の色を持った子が生まれるので、誤魔化しがきかないのだ。


 まさか王家の血を引く子を間引くこともできない。それは先祖への裏切りであり、そもそも子殺しはこの国では一番の大罪でありタブーなのだ。

 そんな事情があったために、どうしても王太子には表向き立派な妻が必要だったのだ。

 

 

 ジャネット=ゴックス男爵令嬢の産んだ子が王家の子供ではなかったら、イーリスには子を産んだという設定はいらない。白い結婚を三年続けた後で綺麗な身のままで母国に帰ることができる。

 もし生まれた子が本当に王太子の子であっても、彼女が子を産んだことにさえしてくれれば、その後の離縁を認めると国王は約束したのだ。


 ただし当然どちらの場合でも白い結婚を公にできないので、離縁して実家に戻れば、彼女は疵物となる。

 いくら王女とはいえ、その後良縁に恵まれる可能性は低くなるだろう。彼女自身には不利益しかない。

 しかし、婚姻中も離縁後も彼女の国を援助してくれるというし、もちろん彼女自身にも慰謝料を支払うという契約を提案された。そのため王女は結婚する覚悟を決めたのだ。母国のために。

 

 それから七か月後、元男爵令嬢ジャネットは男の子を出産した。

 そしてその子は周りの者達の願いも虚しく、王家の色、そう、金銀メッシュヘアに水色と黄緑色のオッドアイを持っていたのだった。

 

 

 ジャネットは自分が産んだ子が王家の色をしていたのを見た瞬間、疲労困憊でありながらも歓喜した。

 愚かな彼女は王子さえ産めば自分の罪が帳消しになると信じていた。そして自分は王太子妃になれると。


 彼女はライオネル王太子が七か月前に既に隣国の王女イーリスと結婚したことを知らされていなかったのだ。

 当然ながら彼女は子供を一度も抱くこともなく、産褥期を過ぎて体調が戻るとすぐさま帝国の魅了研究所へ送られたのだった。

 

 そしてブリトリアンと名付けられた王子が生まれてから間もなくして、王太子の魅了がようやく解けた。

 ところが今度は目の前の現実にショックを受けて暫く立ち直ることができなかった。

 いつの間にか彼によく似た息子が生まれていて、彼は父親になっていた。

 いつの間にか顔見知りではあったがまともに話もしたことのなかった留学生の王女が、彼の妻になっていた。

 

 そして、そして……

 

 幼い頃からずっと愛していた婚約者、綺麗で可愛くて優しくて、それでいて少し気の強い大好きな婚約者は、彼の知らない男の妻になっていた。

 

 何故?

 何故こんなことになった?

 ライオネル王太子はなかなかその現実を受け入れられなかった。



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