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第4章 発言の自由


(引き続き辺境伯の娘アスティリア視点)



「それはつまり、父上が貴女や貴女のお母様に迷惑をかけているということですか?」

 

 王太子殿下は、憤るというよりも、戸惑っている様子でこう言った。


「まあ、そうですね。陛下はどうも思い込みが強い方のようです。

 その上人の裏を見ない困った方だと母が申しておりましたが、どうやら殿下も同じみたいですね。

 まんまと陛下の嘘というか、都合のいい解釈を信じてしまうなんて」

 

「人の裏ですか?

 一体それは何ですか?」

 

「大抵の人には二面性があるそうですよ。

 他人に見せる顔と家族や親しい者達に見せる顔は違いますでしょ?

 あっ、殿下は同じなのかも知れませんが。

 そして稀にその二面性が極端な方がいらっしゃるそうです。まさしく表の顔と裏の顔。

 例えば、ある女性はターゲットの対象者には可憐で儚げで弱々しく、誰かに守って貰わないと生きていけません、と人に縋りつきながら、陰では気に入らない相手に罠を掛けて陥れたり、攻撃したりするそうです。

 そのようなことをする方はやはり同性には嫌われるので、大概は一人で行動するそうですが、中には男性だけではなく、同性にも愛らしくお願いして仲間に引き入れて、その方々を自分の信奉者にして利用する方もいるそうですよ。

 怖いですよね。でも本来、王侯貴族ならそんな人の二面性を見抜くべき教育をされるそうなのですが、中にはそれを見抜けずに騙されて利用されて破滅する方々もいらっしゃるそうですよ。男女ともに。

 何故それを見抜けない人がいるのでしょう?

 か弱い女性を悪女から守ってやらねばという安い正義感?

 駄目な自分でも誰かを守ってやれるという下らない優越感?

 それとも頭の中が単にお花畑になっているただの下心ありありの助平(すけべい)?」

 

「君、本当に僕より年下なの?」

 

「年齢詐称はしていませんよ。まあ、耳年増というやつでしょう。

 自分と同じ失敗はさせたくないと、幼少期から母から厳しく指導を受けてきましたので」

 

 まあ、それに加えて普通のご令嬢なら一生知らないであろう俗物な人間の会話、つまり下世話な話を辺境騎士団で散々聞かされているからね。本当に嫌になってしまうわ。

 令嬢じゃなくても子供の前では配慮すべきだわ。もし天使である私の可愛い弟達の前でも厭らしい話をしたら、絶対に承知しないんだから。


「苦労してきたのだね」

 

「他人事のように言わないで下さい。貴方のご両親のせいでもあるのですから」

 

「すまない」

 

「まあ、先ほどから言っておりますように、殿下のせいではないので、別に謝る必要はありませんが。

 ただ、貴方ももっと色々なことを知るべきだと思いますよ。この国の国王になるのならば。

 そうでなければ、せっかく王妃殿下が立て直しつつあるこの国が、またもや内憂外患状態に戻ってしまいますものね」

 

「えっ? 貴女は王妃の業績は認めているの?」

 

「もちろんですよ。王妃殿下がいらっしゃらなければ、とうにこの国は他国から攻め滅ぼされていたと、貴族のみならず平民の皆様さんだってそう思っていらっしゃるそうですから。

 大体()()()に任せていたら、()()()()()()がクーデターを起こしていたのではないかと、もっぱらの噂だそうですよ。

 もっとも母の名誉のために言わせて頂くならば、母が王妃になっていても同じくらい国の役に立っていただろうと、周りの者達は言っているそうですよ。不遜な物言いになってしまいますが。

 恐らく前の国王陛下は今の陛下とは違って人を見る目があったのでしょう」

 

「君、いくらなんでもハッキリと言い過ぎだろう。僕は構わないけれど、他の人に聞かれたら不敬罪に問われるよ。いくらまだ子供だって」

 

「ご心配して頂いてありがとうございます。でも、大丈夫です。この王宮の中でなら自由に発言してもよいという許可を頂いていますから。

 そうでもなければ、既に私は捕まっていますよ。ずっと言いたいことを言っていましたから」

 

「自覚はあるのだね」

 

「もちろん、それほど馬鹿ではありませんから。

 その昔母は正当なことを意見したのに、それを不敬罪だと言いがかりをつけられ、牢獄に入れられたそうです。

 その挙げ句、辺境の熊男の所へ強制的に嫁がされたというのですから、さすがに母も今回は先手を取りましたよ」

 

 王太子殿下が瞠目した。

 

「大体これまでも何度も王城や王宮から招待状を頂いていたのに参加しなかったのは、王族の皆様の前で迂闊なことを話して、不敬罪に問われるのを避けるためだったそうですよ。

 今回はどうしても参加して欲しいということだったので、何を言っても構わないという誓約書を国王陛下にお願いしたわけです。

 もしそうでなかったら間違ってもこんな遠くまでわざわざやってきませんよ。

 本当はすご~く嫌だったのですから」

 

「そんなにここへ来るのが嫌だったの?

 でも君と君の母上は熊男の辺境伯に領地に閉じ込められているのだろう?

 君達を解放させるために王都に呼び寄せたと父上から聞いていた。だから僕は……」

 

 どうやら王太子殿下は狂暴で横暴な熊男の辺境伯から、哀れな妻子を救い出して幸せにしてあげるために、その身を犠牲にしようと考えていたみたいだ。ピュア過ぎる。

 少しホロッとしかけたが、ここで情に流されてはいけない。私は王妃になれるような淑女じゃない。なにせ狂暴な熊男の娘だからね。これ以上国王陛下が変な妄想をしないように、誤解を解いて真実をはっきりさせないと。


読んで下さってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり発言の自由を獲得しておくのは必要ですね。 [気になる点] ヒロインが父親の熊男に似ていると驚く国王。 彼の頭の中では、昔ちょっと()行き違いのあった元婚約者そっくりの娘と自分の息子…
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