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第2章 初めての王宮


(辺境伯の娘アスティリア視点)


 お母様と一緒に登城すると、すぐさま王宮の庭園に案内された。

 そこで私達は国王陛下夫妻と王太子殿下に会って挨拶を交わした。

 

 私は辺境のど田舎の令嬢だけれど、カーテシーは完璧だったと思う。王妃殿下が目を細めて微笑みながら頷いていたから。

 でも国王陛下は驚いたように私を見ていた。

 私が父親に瓜二つでお母様に全く似ていないので驚いたのか、それともまだ十歳だというのに私が見事な挨拶を決めたからだろうか。

 

 なにせ私は幼い頃からお母様に徹底的に行儀作法を仕込まれたからね。

 普通は筋力が付かないと、上手にカーテシーはできないでしょう? だけど、幼い頃から木登りやかけっこやかくれんぼなどを使用人の子供達とやっていたから、私は普通のご令嬢と比べると足腰が強いらしい。

 しかも七歳からは弟達と一緒に武術も習っているのよ。だてに辺境伯の娘をやっているわけではないのだ。

 

 テーブル席でお茶を飲みながら様子を窺ってみると、屋敷では明るい笑顔を絶やさないお母様が、まるでお芝居の中の貴族のご婦人のように貼り付けた笑顔をしている。

 これが噂のアルカイックスマイルというやつかと、私は一人感心した。

 

 ど田舎に住む私だって芝居くらい見たことがある。

 というより、王都へ来たのは今回が初めてだけれど、近隣の大きな町へはちょこちょこ出かけているのだ。

 

 そしてどこへ行ってもお母様と連れ立って歩いていると、人々の注目を浴びる。

 銀髪碧眼のお母様はとにかく美しくてスタイル抜群なのだ。しかも子供の私でも分かるほど気品がある。

 芝居の中に出てくる王妃様や王女様なんかが嘘臭く感じるほどだ。

 以前お父様にその話をしたらお父様は、

 

「エリスティアは本当にお姫様だったからね」

 

 と言っていたけれど、その意味を一週間前にようやく理解した。

 私はそれまでお母様の実家は、お父様の遠縁の伯爵家だと思っていた。お母様はそこの末娘だと。

 祖父母や伯父達はとても優しい人達で、みんなとても仲がよい。年の離れた従兄達は辺境騎士団に入っていて、私も可愛がってもらっていて大好きだ。

 

 ところが、実はなんと母は結婚する前は平民で、そのままでは貴族のお父様と結婚できないので、伯爵家の養女にしてもらったのだという。

 お母様が平民と聞いてとても信じられない気持ちだったが、そもそも平民になる前は侯爵令嬢だったと聞いて妙に納得してしまった。

 お母様の所作はとても素晴らしくて、そう簡単に身に付くものだとはとても思えなかったからだ。

 それにしてもお母様の実の両親は子供のことなんて道具としか考えていない糞親だったそうだ。凄く下品な物言いに驚いてしまった。

 数年前から王家からやたら頻繁にパーティーの招待状が届くようになって、それを受け取る度にお母様がイラついていたけど、その訳がようやくわかったわ。


 お母様が何故平民にまで落ちることになったのか、そのプロセスを教えられ、私は唖然としてしまった。とてもじゃないが、十歳の子供が聞いていい話じゃなかった。

 しかし、どうやらお母様の過去のいざこざに、私まで巻き込まれてしまう恐れが出てきたために、隠しておくことができなくなったらしい。

 たとえ子供であろうと、自分の身に火の粉が飛んできたら、己自身で振り払わなくてはいけないからと。

 理不尽だわ。

 

 それにしても、かつてお母様がお姫様のようにお上品なご令嬢だったとしても、今は大の男だってやっつけられるほど逞しい辺境伯夫人だ。一体いつまでそのお上品さを保てるのか興味深い。

 

 金髪に水色の瞳をした目の前のイーリス王妃殿下も、本当に気品に溢れ、お母様同様に眩しいくらいに輝いている。

 

お母様とはまた違ったお淑やかで優しげな美人だ。

 もっとも二人は同じくらい芯が強そうだけれど。

 

 それに比べて、ライオネル国王陛下の()()()()()()()が対照的で面白い。

 見かけはこれぞザ・王族って感じで、驚くくらい容姿が整っている。

 金銀メッシュの髪が春の輝くお日様に反射して眩しいくらいだし、水色と黄緑色のオッドアイは宝石みたい。その姿は背景の見事な薔薇と妙にマッチしている。

 

 あそこにもしお父様が座ったらどうなるだろうかと想像して、あまりにも不釣り合いで思わず笑いそうになってしまった。

 お父様の背景には岩山とか、森とか、(やぐら)とか、大型魔物とかが似合っていそうだなと。

 

 だけど、いくら絵のように美しくても、あんななよっとした貧弱な体型は嫌だな。

 あんなんじゃ女性を横抱きにもできないのではないかしら? 

 いや、うちの弟達を肩車するのも無理かも。

 まさか、痩せマッチョって可能性は、ないよね。

 白魚のような指をしているし、多分剣を持ったことも無いのじゃないかな。

 

 私はお父様と同じ焦げ茶色の髪に薄茶色の瞳をしていて、お母様と見た目は全く似ていない。けれど中身はお母様にそっくりといわれているこの私、どうやら男性の好みも似ているらしい。

 黄金の薔薇より野生の熊の方が断然好きだわ、と陛下を見て思った。

 

 そして今度は王太子殿下を観察した。

 金銀メッシュの髪に、水色と黄緑色のオッドアイ。

 色目は国王陛下と全く同じで、やっぱりまさしくザ・王子様って感じの中性的な美しい少年だった。

 しかし顔の作りそのものは陛下に似ていない。王妃様に似ているかといえばそうでもない。()()()()()()()()()

 華やかな容姿にも関わらず、とても静かで落ち着いた感じがした。

 私とはたった二つしか年が離れていないのに、ほとんど口を開かずに女性二人の話に耳を傾けている姿はずいぶんと大人びた感じがした。

 

 

 

 お茶を飲み、出されたお菓子をいくつか食べ終わった頃、国王陛下が王太子殿下と私に向かってこう言った。

 

「こうして座っているだけでは退屈だろう。庭を散歩してきたらどうだ。

 ブリトリアン、アスティリア嬢を案内してあげなさい」

 

「はい、父上。行こう、アスティリア嬢」

 

 王太子殿下が席を立ち、私の方にやって来てその手を差し出したので、私は一緒に王宮の庭を散策することにした。

 そしてひと通り立派な王宮内の庭園を回った後、最後にちょっと木々の多い区域にある小さな四阿で休憩することにした。

 そしてそこで私達は、ちょっとしたコメディータッチな舞台を演じることになった。

 まあ、二人とも代役みたいなものだったけどね!


読んで下さってありがとうございました!

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