第15話 扇
さっそく名付の許可をもらった母は、目に見えて嬉しそうだった。
ここしばらくでは、あまり見かけなかったくらい上機嫌である。
タンザはいいのだろうかと思いつつ、当の少女がいつも通りのため、話し合いの席に着くことにした。
三人膝をつきあわせて向かい合う。
それでね、とユノは二人を見渡し口を開いた。
「ホウジュ、がいいと思うんだけど」
「あ、安易!!!」
すごく考えてたみたいなこと言ってたのに、まさかのそれなの、とタンザが目を剥けば、声にならずとも心の声は母に筒抜けだったらしい。
あら、とユノは首を傾げた。
「だって、そもそも宝珠は類稀な美しさを持つって言われてたじゃない。ホウジュなら、響きもかわいいし意味も綺麗だし、類稀なかわいさを持つこの子にぴったりじゃない。宝珠のように大切に愛されてほしいじゃない」
「そうだけどさぁ」
「どう?」
ユノが少女に尋ねる。
少女が答えるよりも早く、タンザは「はい!」と手をあげた。
胡乱な目を向けてくる母を無視して、タンザは咳払いする。
「リン、はどうですか?」
「……かわいいけど、どうしてリンなの?」
邪魔されて不満そうな母と極力目を合わさないようにしながら、タンザは言った。
「この娘の簪、たまに音がするでしょ。リン、て。あれ、綺麗だから」
「ちょっと。音なんてあんたこそ安易じゃない。だいたい普通簪から音なんてする?」
「鳴ります、音」
温度なくあがった声に、タンザとユノは少女に目を留めた。
山吹の帯の内から取り出した布袋の紐を解いた少女は、中の木箱をあける。
「母さん、いつの間にあんな袋つくってたの」
「タンザだって、木材売っちゃったはずなのに、いつの間にあんなのつくってんのよ」
「ちょうどいい端材があったんだよ。間違って転んで、刺さったら危ないでしょ」
こそこそと言いあう二人の前で、少女は箱の内から簪を二本取り出した。
「こうして」
言いながら、少女は片手に持った簪の足の端のほうを交差させ、ひらと手首を振るった。
りん、りりーん、と清廉な音が部屋中に響く。
少女が手首を返すたび、二本の簪は扇のようにひらめいた。
目を凝らしても簪の間の空間には何も見えないのに、開かれた扇面が光を弾き、りん、りんと美しい音を鳴らす。
「え、え!? タンザ。今、あれ扇じゃなかった?」
「見えた。扇だった。もっかい、もっかいやって?」
「はい」
微かに頷いて、少女は扇をひらめかせる。
二人の歓声と拍手が鳴り止まぬ中、彼女の舞はしばらく続いた。
***
「ノーエちゃん! ルーちゃん!」
翌日の仕事の依頼先。
その家の双子が軒先で地面に絵を書いているのを見つけた瞬間、少女はタンザの隣から、ぱっと駆け出した。
双子の家に一緒に行きたいと自ら言い出したのも、あんな風に駆けて行くのを見るのも初めてで、タンザは驚きながら少女を目で追う。
「わかりました、わたしの名前。わたしもつけてもらいました」
声が弾んでいた。
タンザからは顔は見えなかった。
迎え入れた双子が笑顔を弾けさせ、手を伸ばす。
手を引かれ、誘われるまましゃがんだ少女の背で三つ編みが揺れていた。
「わたし、シュリンです。名前、シュリンです」




