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第11話 *筆*

「「タンザにぃ〜! その人が宝珠の森から来た人?」」

「うおっ! びっくりした! ちょ、今ので絶対魚逃げたんだけど!?」


 隣に座っていたタンザの声に驚いていると、揃いの色の衣を着た、よく似た顔立ちの幼い女の子が二人、いつの間にか目の前に立っていた。


「全然引いてなかったじゃん」

「全然捕まってないじゃん」

「この川のなら、あたしら手でも捕まえられるのに」


 女の子は揃って口々に言う。

 わたしがいちのくらいと呼ばれる前、一緒に手習いをしていた見習いの子たちと同じ年頃のように二人は見えた。

 あの頃いつも使っていた筆みたいに、すっと伸びた三つ編みの先が二人の胸元でひとつずつ揺れている。

 姿の似通った二人が、揃いの仕草で顔を見合わせる様は、互いに水鏡を覗きあっているよう。

 そんなことを思っていると、気付かぬ間に、川面みたいにきらきらとした目と、まるい鼻先が、ふた揃い、とても間近に迫っていた。


「おねーちゃん、きれいやね!」

「タンザにぃいいひと(・・・・)ではなさそうやねぇ」

「タンザにぃもねぇ、いい奴ではあるんやけどねぇ」

「ノーエ! ルー! あんたも。それ以上のけぞったら転がるよ?」


 タンザの手に後ろから背を支えられたわたしは、言われた通りほとんど空を見上げかけていた。

 口では咎めながらもタンザの顔は怒っていない。


「何。二人とも、おつかいで来たんじゃないの? よくここにいるって、わかったな」


 わたしの頭上越しに伸びたもう片方の手が、二人の女の子たちの頭を交互にかき混ぜる。

 きゃらきゃらと笑声をあげながら、彼女らはくすぐったそうに肩を揺すった。


「そうだよ。父ちゃんがタンザにぃに荷車の修理頼みたいから呼んで来いってさ。お祭りの注文がたくさん入ったから、古いのも直して使うんだって」

「本当か! 助かる」

「よかったねぇ。売り物全部取りあげられたって言ってたもんね。明日までに仕上げてくれたら多めに出すって」

「できる。やる。助かる。魚売れないかなって思ったけど全然捕まんなくてさ。ほんと困ってた。助かる」

「タンザにぃ、あたしらのこと、もっと褒めてくれてもいいんよ?」

うちにいると思ったのにいなかったから、すんーごーくっ、探してあげたんよ?」

「やぁもう、ノーエとルー様々だわ。ほんっと、ありがとなぁー。もうちょっとうちに余裕ができたら、なんか作ってやるからな」


 頭を撫でられた二人はふふふと頬を上気させ嬉しそうに笑う。


「なら、帰ろっか?」


 釣竿と中身の入っていない木桶を取りに行って、タンザが言った。

 腰を上げるよりも早く、わたしは女の子たちにそれぞれ肩を掴まれる。


「おねーちゃんは、あたしらと遊ぶの」

「タンザにぃは早く帰んなよ。父ちゃん待ってるよ?」

「ええー?」


 なんでそうなる、とタンザはしゃがみ込んだ。

 わたしの横で二人は器用に口を尖らせる。

 二人に両腕を掴まれたわたしは、どうすればいいのかわからなくなった。


「だって、こんなきれいな人、見たことないもん」

「あたしらだって、おねーちゃんと遊びたいもん」

「タンザにぃだけずるいよねぇ?」

「ずるいずるい」

「それにね、おねーちゃん。髪飾りほどけてるよ?」

「あたしら直してあげられるよ。タンザにぃはできんやろうけど、あたしらはできるよ」


 指摘されて、今朝ユノさんに三つ編みにしてもらった髪に手を寄せる。

 ほらここ、と二人は背にまわっていた髪を前へ持ってきてくれた。

 ユノさんに着せてもらった衣の帯と揃いの山吹色の布。

 丁寧に髪に編み込んでもらっていたのに、下の方が解けてしまっていた。


「きっと、どっかで枝にひっかけたんやね」

「それか、さわっちゃった? 色、きれいやもんねぇ」


 頷くと、「「どっち?」」と同じ顔が、同じ声で両側から聞いてくる。


「触って、しまいました」

「そっかぁ」

「これもとても綺麗で、よい香りで」

「わかるわかる。これユノおばちゃんのでしょ。ユノおばちゃんのつくる布って、なんかいい匂いするんよね」

「あたしらも好き。あたしらもね、ユノおばちゃんの買ってもらったの」

「おねーちゃん、早めに新しいの着せてもらったんやね。いいなぁ」

「あの、髪。本当に直していただけますか?」

「うんうん。大丈夫よ。あたしらが直したげるからね」

「心配せんでいいからね。でも、一緒にお話ししましょ」

「そうそう。母ちゃんたちから聞いて、話してみたいなぁと思ってたんよ」


 ね、と両隣から言われる。

 タンザを見ると、彼は肩と眉を下げていた。


うちまでの道わかる?」

「わかると、思います」

「「あたしらが、送ったげる!」」

「……わかった。暗くなる前に戻ってきなよ? ノーエとルーもおじさんには伝えとくけど、遊びすぎんなよ。で、悪いけど、ほんと送ってやって」

「「まっかせといて!」」


 元気のよい声が両隣から響く。

 二人はわたしの両腕を掴んだまま、どんと胸を叩いた。


「お願いします」


 言うと、二人はわたしを挟んだまま顔を見合わせる。


「しますだって」

「うふふ。しますだって」


 楽し気に、頬を染めていた。

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