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第10話 福の神

「……温泉に行ったんだよね? 買い物じゃなくて」


 温泉から帰ってきたはずの二人が両手に抱え持っていた袋を三つとも引き取りながら、タンザは母に確認した。

 袋からひとつ、ふたつと転がり落ちた芋を少女が慌てて追いかける。彼女が着ている真新しい衣は、母のユノが携えていったものと同じだから、温泉に行ったのは間違いないだろう。


 ユノ手製の鴇色ときいろの衣に袖を通し、鮮やかな山吹色の帯をしめた少女はいくらか顔色がよくなって見えた。

 昔語りの芝居の衣装のようにどこか古風だった出立いでたちも、この辺りの女たちのものと同じになった。


 変わったのは衣服だけなのに、急に少女の存在がぐんと身近になった気がした。

 背に流したままになっている黒髪を飾り布と一緒に編み込んでしまったら、もう本当に地元の人間そのものになるんじゃないかと思う。


「……似合うね。前のも、きれいで、かわいかったけど」


 タンザが思わず漏らせば、ユノに「当たり前でしょ」と誇らし気に言い切られた。


「ごめんね。お湯もらってくるつもりだったけど、さすがに持てそうになくて」

「運んでるうちに冷えるし、それはいんだけどさ。何この食糧の山」


 どう考えても、こんな量を買う資金はこの家にはないはずだ。


「温泉で、みんながくれたのよ」

「ああ、なるほど。かわいがられたか。にしても量多くない? まだ昼過ぎだし、いつもならそんな人がいない時間帯でしょ?」

「ちょうどみんなに配る用に物を持って来ている人が何人か重なってね。みんなが、いいから全部持って帰んなさいって。とりあえず台所に運んでくれる?」

「了解」


 母の指示に従って、タンザは台所に続く仕切り戸を足先で開ける。土間に降りて台に置けば、大量の芋と根菜が袋のうちから覗いた。そればかりかよく見れば干し肉まで無理やり間に押し込んである。

 何も考えずに使っても軽く一月ひとつき分はある。

 絶対明日は食事の具材が減ると思っていたのに、むしろ今夜から食事の具材を増やしても構わなそうな気配がする。


 ことり、ことり、と薄卵色の愛らしい手が、タンザが置いた袋の横に土色の芋を二つ並べた。


「もしかして福の神だった?」

「福の神様にお頼りしたことは、まだありませんが……」


 タンザが聞けば、少女の黒めがちな目が不思議そうに見上げてくる。

 タンザは「いや」と頭をかいた。


「温泉どうだった? 楽しかった?」

「……あの、驚いてしまって。たくさんいらっしゃって、その、はじめてで」

「うん?」


 言葉を選ぶように口ごもった少女は、何を思い出したのか、湯からあがったばかりのように頬を染めた。


「……温泉、あたたかかったです」

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