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第1話 *鈴*

 しゃんしゃんしゃん、と神樹が枝を震わし鈴を鳴らしていた。

 耳朶じだを震わすその音が、崩壊の気配をつれてくる。

 起きてしまったのだと気づいた。

 わたしが目を開けるよりも早く、寝床にうずくまっていた形のまま、誰かに抱き抱えられた。

 耳に押し当たる胸の奥から、忙しない鼓動が聞こえる。

 目を開けて見えたのは、つくりの粗い織りの色布だった。飛び出たほつれ糸が鼻先をかすめる。


「くしゅんっ」

 

 思わず飛び出たくしゃみに、わたしを抱えるその人が動揺して何がしか声をかけたようだったけど、いよいよ激しくなった崩落の振動に、その人は悪態をついて走り出した。

 抱えられたままの身体が、その人が走るたびに、上に下にと揺れに、揺れる。

 ぴしりぴしりと、つぶてが頭に背に打ち当たる。

 降りかかる砂埃に、くしゅくしゅとくしゃみをすれば、懐に押し込まれたようだった。

 さっきまで額にくっついていた粗布に頭から身体をすっぽり覆われて、ぽんと一度背を叩かれる。


「ごめん。辛抱してくれな?」


 揺れるたびに、ぐんぐんと走っていくのがわかる。

 急く足よりも速く、耳の傍でその人の心臓が動いている。

 あらがえない温もりだった。

 宮城の樹洞の寝床もあなたがそれは居心地よく整えてくれたから、とてもゆるやかで温かかったけれど。

 いなくなったあの場所はとても空虚だったから。


 しゃんしゃんしゃん、と神樹の枝が王朝の崩壊を、奏で、鳴る。

 ついにその鈴の音が消えたのが聞こえて——それから先はどうなったのか定かではない。

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