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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パニック関連

終わらない悪夢を人工的に見せられ続けたらどうなるか

作者: よぎそーと

 目覚めは最悪だった。

 ここ何日も思い気分で朝を迎える。



「まったく……」

 何かをする気にはなれなかったが、それでも起き上がる。

 今日も仕事がある。

 休むわけにはいかない。

 生活がかかってるのだから。



 それでも気分のだるさは消えない。

 体も疲れが抜けてるとは言いがたい。

 それなりの若いのに、疲労が蓄積している。

 それもこれも、寝てる最中に起こる事が原因だった。



 夢である。

 異様な夢を見る。

 そのせいで気分が晴れない。



 とにかく悪夢だった。

 化け物におそわれる。

 高いところから落ちる。

 水の中に沈んでいく。

 雪崩や崖崩れに襲われる。

 地震で地下街に閉じ込められる。

 車にひかれる。

 化け物に襲われる。



 ありとあらゆる酷い死に方を夢の中で繰り返す。

 それがとてつもなく鮮明な映像で表示されるのだ。

 現実と変わらないほどの再現度で、自分が死ぬところを何度も体験させられる。

 何が悲しくてこんな夢を見なくてはならないのか分からない。

 自分に破滅願望でもあるのかと悩んでしまう。



 それでも男は、今日の仕事のために出社していく。

 体力的にも精神的にもつらいが、休むわけにもいかない。

 ブラック企業でないのが唯一の救いだ。

 薄給なのは否めないが。



 そうして男は家を出て、会社へと向かう。

 玄関から出て、重い足を動かしていく。

 ため息を吐いて…………意識が暗転していった。



(あ、まずい)

 そんな事を思った。

 このままでは倒れると。

 だが、覚悟していた地面との衝突は起こらず。

 妙な浮遊感を感じる。



 何が起こってるんだと思った瞬間に意識が戻ってきた。

 薄暗く妙に肌寒い部屋の中にいるのが分かった。

 椅子に縛り付けられているのも。

 ついでに言えば、首筋にある神経とコンピューターをつなぐケーブル。

 それが接続されてるのも感じられた。



 何がどうなってる、という疑問はすぐに解消された。

 自分がどうしてこうなってるのかを思い出す事で。

「そうだ……」

 小さな呟き。

 だいぶ弱ってる喉は、かすれた調子でそれだけ発声させた。

 それだけで喉がいたい。

 全身も痛い。

 監禁生活が続いてるのだから当然だ。



 男は延々と夢を見させられてるのだ。

 コンピューターが作り出してる幻影を。

 神経につながったケーブルを通して脳に直接。

 おかげでまともに眠れない。

 休む事無く延々と、コンピューターで作られた仮想現実を注ぎ込まれてるのだから。



 それは様々な形の死ぬ瞬間を男に提供していた。

 AIによる自動作成というそれは、男の気力を萎えさせるに充分なだけの死亡をもたらしてくれた。

 最初の頃は、死ぬ瞬間が怖くて体が震えたものだ。

 既にそれにも慣れて、そこまで驚く事はなくなったが。

 それでも心臓に悪い。

 精神もだいぶ衰弱してるのを感じる。



 そんな中で、たまに休みが与えられる。

 心身共にまいってしまって死んでしまわないように。

 ギリギリのところで穏やかな映像を流して心の調和をはかってくる。

 それが温情で無いのも男は理解していた。



 少しでも男を長持ちさせるために。

 少しでも苦しみを長引かせるため。

 その為の安息だ。

 その瞬間だけ、心穏やかになれる仮想空間を提供される。

 男はそこで安心して眠る事が出来た。



 そして気力を回復させると、次の地獄がはじまる。

 繰り返される様々な恐怖。

 何度も行われる死。

 それらが男をまた衰弱させていく。



 こんな事になってるのも、男がかつてとある連中に攻め込んだからだった。

 その報復として、捕まってこんな目にあっている。

 身体に危害は加えられてないが、精神が死んでいく。

 あともう少しで男の精神はお陀仏だろう。



 それを男自身も感じながら、精神的な苦痛を受けていく。

 助かる可能性はない。

(ここまでだな)

 金が欲しくて引き受けて仕事だった。

 だが、そのおかげで男は、人生そのものを対価にすることになった。



 後日、男は解放される。

 完全に精神が崩壊した状態で。

 まともに考える事も出来ない状態で歩く男は、そのうち車にはねられて死ぬ事になる。

 それまでの間、周りに正気を失った姿を見せながら。

 それが男を捕らえた者達の狙いだった。

 自分たちに手を出せばこうなると、見た者達に宣伝する事が出来る。

 あとは、ふらふら歩いてる男がどういう人間だったのかを噂で流せば良い。

 話を聞いた者達は警戒するだろう、あそこは攻め込んではいけないと。



 その為の材料にされた男は、つまらない人生をつまらない形で終えることになった。

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