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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自由な未来の1ページ

悲しい前世があります。暗めな話です。


「今日も素敵ね。今日も好きよ。」

私はいつもの台詞を彼に投げかける。


彼はいつも通り

「ありがとう。」

と返す。


私たちは婚約者ではない。かと言って恋人でもない。ただの私の片想いだ。


この関係を思い起こせば、あれは7歳の時、参加した茶会での出来事だ。一目見た瞬間に好きになった。それが始まり。


私はシャーロット・ラッセル、そして彼はエイダン・マーティン。お互い婚約者はなく、伯爵家同士で、17歳と年齢も同じ。家柄も等しいなら婚約すれば?と思ったあなた!私たちが婚約することは天地がひっくり返ってもあり得ないのだ。なにせ、私たちの親はすこぶる仲が悪い。派閥も当然違う。ラッセル家は現王、マーティン家は王弟殿下派だ。


派閥違いなのに好きって言って大丈夫?とも思ったよね。ここは学園で子女しかいない。この行動はぎりぎりのところだが、ぎりぎりセーフなのだ。腹黒大人たちが多くいる場所で、現王派の娘が王弟殿下派の息子を好きなどと言おうもんなら…怖いので考えないでおく。


ちなみにうちの親は、エイダンが好きって知っている。所詮、小娘の戯言だし、結ばれることなどあり得ない。あと、エイダンが私を相手にしていないってこともあり、放置されている。もちろん手綱はしっかりと握られていて、好きと言うだけ、それ以上の関わりは持たないことが放置の条件だ。


対立派閥の子女にはもちろん、同じ派閥の子女にも非常に冷たい目で見られるし、嫌味を言われることも日常だ。だけどやめられない。恋ってそういうものでしょ?


貴賤関係なく机を並べなんちゃらかんちゃらって方針を掲げているんだもの。本当は貴賤関係なくなんて、綺麗事にしか過ぎないけれど、私は学園の方針を笠に着て、早10年、エイダンに好き好き攻撃をしているのだ。


「シャルは相変わらずね。マーティン様の周りの人達の目、見た?」

「今日も氷点下レベルだったわね。」


友人とどうでもいい会話をして、一日を楽しく過ごす。私の日常は平和だったはずなのに、ささやかな幸せも奪われてしまった。



好きな相手に好きと言えなくなるほど、派閥争いが激化し、ついに内戦が始まった。中立派以外は学園に通えなくなった。いや、本当は通ってもいいのだが、対立派閥の子女と顔を合わせ、良からぬことにならぬよう大抵は親に通学を禁止される。もちろん私も例に漏れず禁止された。


ラッセル家は騎士の家柄で、軍事力に優れているため、今回の内戦でも前線を任されている。お父さま、お兄さま、皆の武運を祈る一方で、エイダンのことが頭を過ぎる。マーティン家も騎士の家柄なのだ。恐らく敵側の前線はマーティン家だろう。どちらかの無事を祈ると、どちらかは無事ではない。願わくば皆が無事であるようにと、口に出すことも許されないのだ。




戦況は悪化し、お兄さまがエイダンのすぐ上のお兄さまを討ったと耳にした。明日はエイダンかもしれないし、お父さまお兄さまかもしれない。胸が張り裂けそうだった。


ついに決着がつき、現王は敗北した。ラッセル家は戦犯となった。お兄さまは戦いの最中に命を落とし、お父さまお母さまは裁判にかけられる前に、自ら命を絶った。幸い、お姉さまは既に隣国に嫁いでいるため、恐らく無事であろう。問題は私だ。お父さまお母さまと共に逝きたかったが、無理矢理逃されてしまった。


持てるだけの宝石を持ってラッセル家の隠れ家へと向かう。でも、生き延びたところで、私は生きる術を持たない。宝石の売り方もわからなければ、姉を頼るにも伝手がなく、どうやって隣国に行くのかもわからない。そもそも生活能力がない。泣くしか能がないことに気づき、また泣いた。


なんて憐れなことだろう。お気楽に過ごした日々が悔やまれる。少しは世間のことを勉強しておくんだった。


あの、好きな人に好きと言えた日々に戻れたならば、どんなにいいのだろうと叶わぬ思いにふける。馬車に揺られ、私は束の間目を閉じる。




馬のいななきと同時に馬車が大きく揺れ、目が覚める。馬車は横転し、寝起きのため受け身も取れず、身体を強く打ちつけた。追手かしら?私ひとりなど追ったところで、もう価値はないのに、と、どこか冷静に思う。


全身が酷く痛い。特に頭が割れるように痛い。生温かいものが滴り、鉄臭い。きっと血が出ているのだろう。


意識が遠のく中、誰かが叫び、私の身体は引き摺り出された。


「シャーロット!!!シャーロット!!」


私を呼ぶ声がする。その悲痛に満ちた声は聴き覚えがある。いつもありがとうと返してくれる私の恋しい人だ。なぜここに?視界が霞み、その表情は読み取れない。最後に顔が見たかったなぁ。でも、腕に抱かれ、声が聴けただけラッキーかな。


「…………本当に好きだったよ。」


力を振り絞り笑う。うまく、可愛く笑えたかな?痛くてわからない。最後だし、少し触れてもいいかな?エイダンに触れようと手を伸ばすも届かない。伸ばした手は空を切り、私の人生は幕を閉じた。




…目が開く。目が開くって、え?私、生きているの?いや、でも、ここは大学…。あ、そうか。今の夢は、昔の出来事だ。シャーロットは死んで、私は生きている。輪廻転生って本当にあるんだ。長い夢を見ていた気分だ。しかし、何も今ここで白昼夢を見なくても!半年ぐらいお付き合いしている彼の浮気現場を目撃し、ショックを受けたせいなのかなんなのかわからないが、前世を思い出した。おかげで、こんな男のこと好きじゃないことにも気づけた。


「こ、これは違うんだ!!誤解なんだ!」

まだ何も言ってないが、誤解も何もない。

「あ、もう大丈夫。私たち別れましょ。」

善は急げ。浮気男とはさっさと別れよう。


「なんで!?本当に好きなのはおまえだけだ!俺は別れたくない!」

「いや、ごめんけど、私他に好きな人いるわ。」

「…は?何言ってんの?浮気した当てつけ?それとも浮気してたの?おいっ!」

と言って掴みかかってくる。痛いし怖いし!なんなの?逆ギレ!?

「いやいや!浮気したのはあんただし!誤解とかなんとか言って浮気って認めちゃってるし!てか痛いから!」


騒ぎを起こしたくないのに、ちょっとした騒ぎになっている。勘弁してよー!しかも誰も助けてくれないし!浮気相手も逃げちゃってるじゃん。


ようやく男の人が止めに入ってくれた。救世主!救世主は浮気男より強いようで、ヤローは尻尾を巻いて逃げていった。一昨日きやがれってんだ!


「助かりました…本当にありがとうございます。」


礼を言って見上げた先には…知っている顔だ。同じ講義を取っている人。でも今世でちゃんと彼が誰なのか、ようやく理解した。



「…今日も素敵ね。今日も、ずっと好きよ。」




ーーーーー


いつも俺を好きって言ってくるあの子。7歳の時からずっとだ。人目を気にせず、息をするように好きって言ってくる。どんなに言われようとも俺は返事ができない。でも断ることもできない。だから、ありがとうと返す。だって、断ったらわずかな繋がりが切れてしまうから。


俺たちが共に歩む未来はない。だから今だけ。今だけこの時間を大切にしたい。でも、そんなささやかな幸せも願いも虚しく崩れ去る。


王位を巡り内戦が始まった。敵は彼女の父や兄。我が派閥は勝利を収めたが、たくさんのものを失った。俺も左目を失い、1番大切にしたかったものも失った。


彼女だけでも助けたくて、あとを追うが、既に手が回った後だった。横転している全壊に近い馬車。彼女がいないことを祈り、中を覗くと…いた。無事でいて欲しかったのに。


彼女を中から引き摺り出し、名前を必死で呼ぶ。俺だと気づき、俺を見る。いや、視線が噛み合わない。俺のこと見えていない?抱き起こすと、頭が血で濡れている。そんなっ!!…


彼女はフワッと笑い、

「…本当に好きだったよ。」

と言い、手を伸ばす。彼女の差し出す手を握ろうとするが、届かない。俺の腕の中で、彼女は永遠の眠りについた。


彼女を人目に晒したくない。このままにしておけば、戦犯として、遺体は辱めを受けるだろう。血で濡れた身なりを出来るだけ整え、俺は俺だけが知る場所に埋めた。俺が死んだ時もここに埋めて欲しい。


戦後の処理で、心も身体も忙殺される。結局、左目を失った傷の炎症などで、俺の身もすぐに儚くなった。




気がつくと、俺は生まれ変わっていた。派閥や国の争いなどない、平和で自由な世界だ。誰にも憚られることなく、俺の人生を生きようと思った。


大学で同じ講義を受ける人に混ざり、俺の運命を見つけた。彼女だ、シャーロットだと、身体中の細胞がそう言っている。彼女は俺の存在に気づいていない。しかも、恋人までいる。あんなに俺のことを好きと言っていたのに…とドロっとした黒い気持ちに覆われる。


しかし、昔の俺は、好きと言われることには慣れていたようだけど、好きと返したことも、そもそも自ら話しかけたこともなかったのだ。なんということだ。現世でも、自分から話しかけることのできないチキン野郎だ。


ある日、廊下で彼女と忌々しい男が揉めていた。耳を立てると…彼女がいるのに浮気しただと?許せん。しかも彼女が別れるって言っているのに、別れたくないとほざいて、終いには逆ギレしているではないか!許せん!!


咄嗟に間に入り、奴の腕を強く掴み捻ると、奴は尻尾を巻いて逃げ出した。一昨日きやがれ!!


礼を述べ見上げる彼女の瞳が、変わった。あぁ、もしかしたら…期待に胸を膨らませていると、彼女は言う。


「…今日も素敵ね。今日も、ずっと好きよ。」

「…ありがとう。俺もずっと好きだ。」


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