8話 アウトライアー
『こうして今日の昼に、ビンゴ投票を実施することに決定しました。始めるつもりなら言ってください』
「急に始めるのが嫌になったら?」
『情けない言いがかりに中毒されましたか?決まった投票を先送りにしても、午後10時には強制的に始まります。投票結果に順応してください』
ジュンソンは、何か他の反対票が出るかと期待したが、そんなことはなかった。11票だけでなく12票全部、つまり満場一致が出た。まさに民主主義による反対派など存在しなかった。
‘確かに、こういう状況で反対票を投げたら標的になる’
<多血質>がの二重圧迫は強かった。反対すれば人工知能だ、反対すればマフィアだ。故に反対票に名前が見える瞬間、いかなる形であれ疑念を抱かれることは明白だった。
‘確かに11票って、そんなに厳しい条件ではなかったな’
甚だしくは、ここに隠れているという人工知能まで賛成票を投じたのだ。それなら、残っているのはビンゴで誰を指名するかという問題だったが、その前に<福祉士>がまた手を挙げて聞いた。
「今すぐビンゴ投票もしないといけないの?」
『うん~?いやいや。好きな時にやってください。どうせ午後10時になると強制始まりだから』
「それでは皆さん、まずビンゴ投票の代わりに‘指名するかしないか投票’も今しておきましょう。今日の昼は時間もないし」
「お。うちの<福祉士>お姉さん、進行がスムーズだな。だが……」
これはどこに票を投じなければならないのか。
皆がしばらく首を傾げる時、再び<多血質>が豪快に叫んだ。
「裁判はビンゴと違って、人を殺すもんだぞ!これは当然みんな反対だ。反対しないなら、マフィアだマフィア!」
‘ふむ…’
タブレットにはもう一度大きく賛成と反対のウィンドウが表示され、ジュンソンはしばらく悩んだ末、さっきと同じボタンを押した。
<第1回を指名するかしないか投票結果>
<賛成:4反対:8>
賛成:風俗系、理工系、ニート、人文系
反対:女子高生、多血質、インテリ、福祉士、警備員、ジムマン、小母さん、おじいさん
結果:過半数(7票)以上の賛成を得ることができず、1日目の指名投票及び裁判実行
「賛成4票?何これ‼」
すぐ<多血質>が怒った瞬間、賛成票を投じた<風俗系>が舌打ちしながら呟いた。
「おじさんが気持ち悪いし気に入らなくて賛成しました。文句ありますか?」
「何だと!?」
「今、タバコも吸えなくて、ムカついて死にそうなのに、ゴチャゴチャうるせーわ。自分の意見に反対したらマフィア?小学生なの?」
「な、ななな…‼」
『<風俗系>お姉さん。タバコは2階の部屋にきれいに入れておきました。少しだけ我慢してください』
「そうなの?サンキュー」
結局、<風俗系>はタバコの禁断現象に引かれて投票をしたわけだ。隣に座った<ニート>が同じく舌打ちしながら呟いた。
「いや、それでも…これは人の命がかかった投票なのに。そんなふうじゃ駄目だ」
「そういうお兄さんも裁判に賛成したじゃない」
「私は理由があって……いや、人を殺すほうがいいというわけではないが」
<ニート>が言葉を濁すと、皆の視線は彼に集まった。視線こそが質問だった。‘人を殺すんじゃないなら何?’と。
そして、その視線には<理工系>が代わりに答えてくれた。
「市民の立場では、裁判は開かなければならない」
「どうして?」
「簡単じゃん。このまま昼に裁判が開けないと?夜にマフィアだけが盛り上がるんだ。殺人者だと言う前に、期待値を計算するべきだった」
「……」
眼鏡をかけた<理工系>がそう言うと、説得力がすごかった。そして彼はじっと首を傾け、眼鏡越しに人々を見上げながら呟いた。
「だから反対票を投じた人たちは……ま、考えがなかったとしても、それを扇動した人はちょっと怪しいな…」
「え、何?」
天下の<多血質>も論理を前面に押し出したその言葉には、当惑して口をぱくぱくさせた。そして<理工系>は再び視線を移しながら呟いた。
「それでもこれに気づいた<ニート>さんと<人文系>さんは、少し鋭いね」
「いや、私は<風俗系>さんと似た理由だったけど…」
「ん?」
「正確には、やはり<多血質>さんのように、あんなに意見を強要してはいけないと思ったので……別に深い考察は……」
人文系って仕方ないな。
結局、いくら命がかかった投票だとしても、気分の赴くままに手が行くのはどうしようもなかった。そして<人文系>ジュンソンが頭を掻いた時、いきなりレイナが割り込んできた。
『皆さん?ビンゴの話はどこに行ったんですか?』
「……!」
いずれにせよ1日目の昼の裁判はなくなったが、逆にビンゴは確定となった。プレイヤーたちはタブレットをスクロールしながら規則を再確認した。
マフィアゲームの手順説明(昼:ビンゴ)
3。『ビンゴ投票』で過半数の投票を得たプレイヤーは直ちに人工知能鑑別が行われる。
「過半数が必要じゃないか。だからさ……」
「誰かが7票を取れないと?5票程度で1位になったら?」
『その日のビンゴは、さようならですね』
「何だと!?ビンゴはなんでこんなに条件が厳しいんだ!11票も集めなければならないし、そこに誰かが過半数でなければ無効だと?」
チューリングテストの過は、意図的に難しくしておいた。
賛成と反対を選ぶ時、過半数を要求することは理解できるが、このような個別投票で過半数を要求することは、良心のない制度のように見えた。<小母さん>が舌打ちしながら言った。
「これでは、誰か1人を決めて投票しなきゃ」
「決まったんだ!当然、ビンゴ投票に反対したこの<インテリ>の方だ」
「まだ正気ではないな、この<多血質>。意見を迫害すればするほど反乱票だけが溢れる姿を見て、何も学ばなかったのか」
「それはそれで!お前がビンゴ投票を公然と反対したことは否定できない事実だ‼」
<多血質>と<インテリ>は再びいがみ合い、特に良い意見は何一つも出なかった。結局、ビンゴ投票は、意見の統一すら果たせずに進められた。
『じゃあ、投票結果は~~!』
<第1回ビンゴ投票結果>
<インテリ>8票、<理工系>1票、<多血質>1票、<ニート>1票、<ジムマン>1票。
<インテリ>:人文系、多血質、おじいさん、福祉士、小母さん、ニート、風俗系、ジムマン
<多血質>:インテリ
<理工系>:女子高生
<ニート>:理工系
<ジムマン>:警備員
結果:<インテリ>人工知能鑑別作業開始
「……過半数になったな」
「やっぱり!正義は生きている!」
‘これは、正義というより……’
ジュンソンが<インテリ>を指名した理由は2つだった。1つは、彼のビンゴ投票反対が気にかかったし、もう1つは過半数を強制する規則のせいだった。
過半数でなければそのままビンゴ投票がなくなるというとんでもないルールのせいで、ひとまず‘みんなの票が集まりそうな’人を選ばなければならなかった。おそらくあの8票のうち、そのような考えで追い詰められた票が多かったはずだった。しかし反乱票もいくつかあったが、<警備員>が自分が<ジムマン>の背中を撫でながら言った。
「いや、私は何とも思っていなかったぜ。こっちの<ジムマン>の筋肉がすごく良くて、中が機械じゃないかって思っただけ。ごめんごめん」
「あ、ははは…ええ、そうなら」
『身体接触禁止です~~!』
「あれ?あれ?ごめん!」殺さないで!」
『…本当に呆れますね。それでは、ビンゴ対象者の<インテリ>さん、上座に着席お願いします。楽しい鑑別時間です』
「私も本当に呆れた」
<インテリ>は表情をしかめて立ち上がったが、その自信に満ちた歩みにジュンソンは心の中で舌打ちした。やはり誤答である可能性が高いようだった。
そして<インテリ>が華麗な模様と装飾で飾られた上座に座ると、いきなり椅子から鉄製の装置が飛び出し、彼の手首と手首を縛ってしまった。<インテリ>も突然、戸惑いながら聞いた。
「何これ!?」
『すみません。まあ、10秒だけ我慢してください。それでは鑑別結果は』
『<インテリ>さんは人間です』
『また元の位置に戻ってください』
会議場には、わずかにため息が流れた。賞金3億と無事帰還の夢が終わってしまった。
結局、レイナの言葉通り、<インテリ>の手首と足首を監禁した鉄製装置は10秒後に再び解除された。しかし、その姿を見て他のプレーヤーたちは冷や汗をかいた。椅子の用途が見えてきたから。
‘裁判の際、指名対象者の監禁用…‼’
一方、<インテリ>は人間であることが明らかになった。彼は<多血質>だけでなく、みんなを睨みつけながら呟いた。
「こんな原始的な考えでビンゴのチャンスを一度逃したこと、皆が反省してください」
「なんだ?お前はビンゴに反対していたくせに!」
「それはそれで、どうせするなら、ちゃんと推理と投票をするべきです。なんて無知な……」
‘それはそうだな。態度はムカつくけど’
そう考えたジュンソンは、じっと投票結果を考察した。注目すべきは個性あふれる反乱票だった。<警備員>おじさんの逸脱と<インテリ>が<多血質>に投票した理由は分かるが、相変わらず2票は変だった。<理工系>を指名した<女子高生>と<ニート>を指名した<理工系>が。
そこでジュンソンが<理工系>を見たが、ちょうど<理工系>が<ニート>に彼を選んだ理由を話していた。
「<インテリ>は正解ではなかった。とにかく<インテリ>に票を入れたくなかったので、意味もなくあなたに投票しました。次はそちらも、私を特定してもいいです」
「いや、まあ…はい、はい」
裁判をするかしないかの投票と違って、ビンゴ投票の理由は全部非合理的だった。指名された当事者たちもあまり気にしていなかったし。
そしてジュンソンがふと時計を見ると、時間はもう午後10時が過ぎていた。
<22時04分30秒>
『さあ、時間オーバー。とにかく昼の日程は着実に終えましたね。裁判は未開廷、ビンゴは発動。混乱もありましたが、これくらいなら立派な1日目の昼ですね』
「何が立派だ?今知っているのは<インテリ>が人間という余計な情報しかないのに!」
『私の観点からみると、情報が溢れているみたいですけど。まあ、とにかく、もう夜です。2階にある各自の部屋に戻って、寝る時間です』
『一度入ったら、午前6時までに閉まって出られないから気をつけてください』
『一度だけ出ることができるのは……私が召集するマフィアたちだけです』
「……‼」
避けられない夜が来る。
昼間をほとんど成果なく過ごしてしまったプレーヤーたちが、その事実によって恐怖に染まる時、突然<小母さん>が大声で叫んだ。
「とにかく市民たちは裁判も開かずに、人も殺さなかっただろう?だからマフィアたちも、そんなんじゃダメなんだよ!」
「小母さんの言うことは正しいが……マフィアはゲームシステム上、仕方なく誰を脱落させると思いますけど」
「ちょっと、ちょっと待って。皆、夜の3番ルールを見てください」
ル一ルを見続けてきた<福祉士>が、もう一度夜のル一ルを探し出しながら言った。
マフィアゲーム手順説明(夜)
3。2票以上指名されたプレイヤーが脱落対象となる。
3-1。マフィアが1体残った場合は1票のみ必要。
3-2。表決後、必要票数を満たせなかった場合、その夜は脱落対象なし。
「マフィアは3人です。2票以上を指名ということは、3人がそれぞれ違う人を指せば、3-2によってその夜は脱落対象なしになるよね?」
『もちろんです。ルールは、ありのまま解析してください』
「…マフィアも意図的に人を殺さないことができますね」
<福祉士>の言葉は、まるで宣戦布告のようにも聞こえた。
そして、そんな<福祉士>の言葉を最後に、1日目の昼が公式に終了し、プレイヤーたちはレイナの案内に従って2階に用意された自分の部屋に入っていった。
『一回入ったら、明日の昼まで出られませんよ』
『忘れ物はありませんか?』
忘れ物といっても、持ち物はタブレット1つだけだった。