5話 最後の晩餐
<18時44分23秒>
<チューリングテスト中>
‘あの文句はどこにも大きく書いてあるな……’
この家の居間にもあったし、この会議室にもあった。予選はすでに終わったのに。
そして、みんなが食べ終わったお弁当を集めて隅に片づけると、人工知能レイナが食卓の真ん中で再び赤い光を放ちながら話を始めた。
『さあ、皆さん。単刀直入に、今から始まるゲームを紹介します』
「……‼」
単刀直入に、という言葉を使うにはもうあまりにも遅すぎる。
会議室に集まった12人の視線が再びレイナに集まり、ついにレイナが彼らの運命を左右するゲームの名前を発表した。
『皆さんがここでするゲームの名前は‘マフィアゲーム’です』
『‘オオカミゲーム’、‘タブラの狼’などとも呼ばれています。聞いたことがありますか?』
‘何だって?’
嘆声と疑懼の念が重複された。
大体、若者たちは小さく頷いたし、年齢が高い人たちは分からないという表情を浮かべた。そしてその中でもジュンソンは知っている方に属した。多い人が集まる時にできるゲームで、プレイヤーを大多数の市民と一部のマフィアに分けた後、昼には市民たちが投票でマフィアを探し出して追放したり、逆に夜にはマフィアが市民を追放したりして楽しむゲームだった。
‘大学のMTの時、死に物狂いでやってきたゲーム…!あのお酒パーティーが、人生に役に立つのか!’
展開を決して予測できないゲーム。ところで、まずこの場所にはマフィアゲームが何か分からない人もかなりいるように見えた。ジュンソンはとても満足し、人工知能のレイナは説明を続けた。
『知らなくてもいいですよ。規則はとても簡単ですから。これからご紹介します』
『ゲームの内容を知っている方々も集中してください。地域ごとに変種ルールが多くて』
『ルールが重要です、ルールが。ティーヒーヒー』
‘この人工知能、声の性別だけ変わったのではなく、話し方も……’
人工知能の笑い声が邪悪に聞こえるのは、果たして気のせいだろうか。
それはまるで本性を現わした悪党のようだったので、ジュンソンは少し鳥肌が立ち、レイナは壁にスライドショーを照らしながら話した。
『本マフィアゲームのプレイヤーは、基本的に4つの職業のうち1つを持つことになります』
『私の光に注目!』
マフィアゲームの職業説明
1。12体のプレイヤーはそれぞれマフィア、警察、医師、一般市民のうち1つの職業を持つ。
2。職業の数字はマフィア3、警察1、医師1、一般市民7だ。
‘まあ大体、12人でやる気ならあれくらいの配分が正しいだろうな……’
『ルールは後で、個人タブレットへ全部送るから覚える必要はありません。今は流れだけついていきましょう、流れだけ』
「タブレット?」
『あ…今座った席の引き出しの中に、1つずつあります。まだ作動しないからほっといてください』
レイナがそう言ったが、引き出しを開けて確認した人もいた。人々は皆タブレットに注目したが、ジュンソンはようやく自分がスマートフォンや財布を奪われたことに気づいた。
‘まあ、後で返してもらう。いや、構わないか’
生き残って帰れば、全部アップグレードだ。
だからこそ今必要なのは、スマホなんかじゃなくてレイナが提供する個人タブレットだった。レイナはゲームの紹介を続けた。
『各職業は、ゲーム開始時、自分自身だけが知っているようになります』
『市民たちは昼に裁判を開き、投票によってマフィアを処刑することができます』
『マフィアは夜の投票で市民を処刑することができます』
『投票とは、文字通り誰かが誰かを指名する行為です。タブレットを使って指名することです』
『タブレット!』
『タブレットがとても重要な個人アイテムだから、ルールを確認しましょう』
絶対基本ルール
1。プレイヤーは他のプレイヤーとの身体接触を禁止する。
2。プレイヤーは、他のプレイヤーのタブレットに接触したり盗み見したりする行為を禁止する。
3。プレイヤーは自分のタブレットを他のプレイヤーに見せる行為を禁止する。
4。プレイヤーは、指定されたゲーム内の区域(邸宅近傍30メートル)を出る行為を禁止する。
5。ゲーム内で行われるすべての投票は記名投票(投票者の名前を明らかにする)である。
『何か分かりやすいよね?1番は予めたくさん言ったし。2番、3番は個人情報保護の観点で、5番はマフィアゲームの醍醐味で』
『5番は‘法則’ですが、1234番は‘規則’ですよ?違反すると脱落することになるから、注意、注意』
『質問は?』
「3番!なんで自分のタブレットを見せることも駄目なんですか?」
<ニート>が手を挙げて元気よく質問すると、レイナは誠意のない答え方をした。
『それは、ゲームを進めば簡単に分かるのですが』
「あ、はい」
‘何?なんで駄目なの?説明しろ!’
ジュンソンがそう思うと、<インテリ>はすでに一人で頷いていた。ジュンソンは遅れた感じを受けた。
『じゃあ、昼と夜の説明。さっさっと行きましょうか』
『このゲームはリアルタイムで行われます。ゲームの昼は現実の昼の間に行われ、ゲームの夜は現実の夜の間に行われます』
『つまりこの家で食べて、寝て、暮らしながらゲームを進行するのです』
『服もそこそこ用意したし、食糧も1ヶ月分ぐらい用意しましたが、それを全部使う必要は多分ありませんね』
『じゃあ、マフィアゲームの‘1日’のプロセスを説明しましょう』
マフィアゲームの手順説明(昼間:指名と裁判)
1。午前6時~午後10時までが昼だ。
2。昼にはプレイヤーたちが裁判1回を発動する機会を持つ。
3。‘指名するかしないか投票’で過半数のプレイヤーが賛成すると指名投票を始める。
4。‘指名投票’で最も多いプレイヤーが指名したプレイヤーが裁判台に立つ。
4-1。指名投票で同数なら決選投票。決選投票で同数なら裁判機会喪失。
5。裁判台に立ったプレイヤーは‘脱落投票’で過半数の賛成を得ると脱落する。
6。裁判で脱落したプレイヤーがマフィアだった場合、プレイヤーは裁判機会を1回もっと得る。
マフィアゲーム手順説明(夜)
1。午後10時~午前6時までが夜だ。
2。夜にはマフィアが脱落対象の指名投票を実行する。
3。2票以上指名されたプレイヤーが脱落対象となる。
3-1。マフィアが1体残った場合は1票のみ必要。
3-2。表決後、必要票数を満たせなかった場合、その夜は脱落対象なし。
4。警察は特定プレイヤー1つを名指ししてマフィアか鑑別する。
5。医師は特定のプレイヤー1つを名指してマフィアの攻撃を防ぐ。
『いろいろ書いておいたけど、マフィアゲーム経験者にとっては慣れた内容だと思います』
『昼には市民たちが裁判を開いて、マフィア容疑者を見つけて処刑して』
『夜にはマフィアが、目に障った市民を処刑して。そういうことです』
『質問?』
質問をするには説明が速すぎた。マフィアゲームを初めて耳にするプレイヤーらは、ルールを読み上げていたし、経験者であるジュンソンも同様だった。しかし、その中で20代女性の<福祉士>が手を挙げて質問した。
「昼間の投票がとても多いのですが。普通マフィアゲームでは誰かを指名すると、その人をそのまま脱落させるんだけど。規則を読んでみたら…‘指名するかしないか投票’‘指名投票’‘脱落投票’こんなふうに、3つをしなければならないというのですか?」
「そうだな。特に‘指名するかしないか投票’は、名前だけで笑える。あれは何だよ」
<福祉士>の言葉に<インテリ>も同意し、その指摘にレイナは自分の胴体を左右に少し揺らしながら答えた。
『ふむ…その質問は質問というより、ただ個人の好みに基づく不平ですね』
『この手続きは、思ったより‘易くて’‘簡単で’‘早いです’』
『やってみれば分かります。特に、最終日には』
「……??」
‘確かに、マフィアゲームはやってみないと分からない’
問題は、今この状況では‘やってみる’という概念が通じないこと。
特にプレーヤーの中でも50代ぐらいの<警備員>おじさんが、手をぶるぶる震わせながら言った。
「何を言っているのか全然分からないぜ。ただちょっと……練習ゲームでもしてみたら?」
『マフィアゲームは練習ゲームをしたら、実戦にものすごく影響を及ぶと思いますよ。却下』
「だ、だ、だ、脱落したら死ぬんじゃない!この首輪が爆発して!」
『そうですね。一番重要な事を書いてなかった。すみません』
そう言ったレイナが、そのまま絶対基本ルール一番上に文章を1つ追加させた。
0。脱落したプレイヤーは生命活動を停止させる。
「……」
別に、プレーヤーたちの表情は変わっていない。知ってきたものだから。
しかし、事実を知ることと、その事実を目の前に突き付けることの違いもまた存在した。それが死亡のような衝撃的な要素ならなおさら。そこで、プレイヤーたちの質問が始まった。がっしりした筋肉の<ジムマン>が手を上げて聞いた。
「僕はプレーヤー全員が生存できる終了条件もあると聞いてから来たけど……このゲームのどこに、全員生存の可能性があるんだ?」
‘あれ?確かに…!’
マフィアゲームは誰かが死ぬ。絶対、それも結構たくさん。
犠牲者を最小にする場合が、市民がマフィア3人を全部探し出して皆殺しにする場合だが、それだけで3人が死ぬ。それが理想的な場合で、普通はマフィアゲームを進行すればするほど脱落者は非常に多く発生する場合が一般的だった。
皆がその事実に気付きながらざわざわ話す時、女性たち<風俗系>と<小母さん>が手を挙げてそれぞれ違う分野で文句を言った。
「そもそも、参加人数が11人だとそんなに強調したくせに、なぜ今ここには12人がいるのよ?賞金はそのまま33億でありながら!1人当たり賞金が減ったじゃん!」
「ゲームの名前もおかしい。騙されたんだ。予選の時とかこの家では大きく‘チューリングテスト’と書いておいて、なんで今はゲーム名が‘マフィアゲーム’になったんだ?」
ささいな疑問が積もると、取り返しのつかない暴動の兆候を見せはじめた。
予選を通過した賢いプレイヤーたちが早くからゲーム規則に多くの疑問を提起し始め、その勢いが止まらずに増えようとした瞬間、突然みんなの首輪から‘ピー’という警告音がした。
「……!?」
まるで心臓をつかむような不快な音。
のどから聞こえてくる声にみんなの不平不満が一挙に消え、巨大な沈黙だけが残った。そして、その真ん中でレイナが赤い光を輝かせながら言った。
『あ~皆さん。静かに、静かに』
『すみません。今のはただの機械点検でした……』
‘……己が…!!’
言葉ではなく、武力示威を使いやがって。
ジュンソンが怒りを抑え、他のプレーヤーも同じような表情を浮かべた。しかし、人間たちが何をしようと、人工知能レイナは話を続けた。
『質問の品質が優秀で、驚きました』
『1つ1つ答えるより、一気で答えられると思います。まず、皆さんの質問をまとめてみましょうか?』
『1。11人が生きていく終了条件は何だ?』
『2。ゲームの参加人数が11人だと言っておいて、なぜプレイヤーの数は12だ?』
『3。マフィアゲームをさせたくせに、なぜゲームの名前がチューリングテストなのか?』
『ティーヒーヒー』
‘なぜ笑う!?またどんな妄言を吐き出すつもりだ?’
不協和音を起こす歯車に、1つだけの潤滑油を。
ついていくのも手に余るルール説明の中で、レイナはプレーヤーの間に爆弾を投げかけた。
『この12体プレイヤーの中に、<人工知能>が1つ隠れています』
最後の晩餐の12使徒の中には、裏切り者が存在した。