46話 淝水の戦い
「…何?」
「賞金期待値を計算すると、言うまでもないでしょう。<警備員>を選ばないと」
賞金
3。賞金総額はプレイヤーが脱落する度に増える。一般市民、警察、医師が脱落する度に3億ウォンが追加され、マフィアが脱落する度に6億ウォンが追加される。
それこそ青天の霹靂。
他のプレーヤーたちも目を見開いて<理工系>を見つめ、<警備員>はニヤニヤ笑いながら言った。
「冗談はやめろ。最後の日だって、油断するんじゃないぞ」
「冗談?油断?私がマフィアゲーム中、冗談とか油断とか、したことありますか?おい、レイナ。私は今、誰に投票した?」
『<理工系>さんは、約72秒前に<警備員>さんに投票しました。マフィアゲーム5日目の夜、襲撃指名投票で』
「何…!!」
人間は何を言っても冗談だと思うことができたが、人工知能が言い出した言葉は、どんなものとも置き換えられなかった。
<理工系>は現在、襲撃対象として<警備員>を指名した。これは否定できない事実であり、<理工系>は賞金ルールをもう少し説明した。
「脱落させた時に増える賞金総額…市民は3億ウォン、マフィアは6億ウォン。説明がもっと必要ですか?」
「な…何言ってるんだ一体!?」
マフィアゲームに誰よりも高い理解力と適応力を見せた<警備員>は、今この瞬間の出来事には全くついていけなかった。他の追随を許さない異常事態が起ったので。そして彼は、何十秒も過ごした末に、やっと頭を絞って叫んだ。
「俺がその話を聞いて、‘ああ、なるほど’と思って俺に投票すると思ったの?俺たちの票が割れて、5日目の夜が終わって終わりだろうが、このばか野郎が!!」
「では、票が割れないように<警備員>さんも<警備員>さんに投票すればいいですね」
「この野郎、この野郎一体、何…!!おい、赤いボール!赤いボール!本当にこいつ、俺に本当に投票したのか!?」
『同じ質問を繰り返すことも人間の習性ですか?』
『そうです。<理工系>さんは、約174秒前に<警備員>さんに投票しました』
『そして<警備員>さんも早く投票してください。制限時間が過ぎたら、すぐ脱落させるから』
「何……!!」
ピッ、ピッ。
<警備員>はレイナの催促と脅迫に耐え切れず投票を終え、その結果は一目瞭然に出力された。
<5日目の夜のマフィア襲撃対象投票結果>
<警備員>:理工系
<理工系>:警備員
結果:過半数(2票)を得たプレイヤーがおらず、5日目の襲撃未実行
「……???」
この会議室、このマフィアゲームで何が起こっているのか、市民プレイヤーたちは全然ついていけなかった。<多血質>と<小母さん>が呆然とした表情でタブレットと周りを見回す時、<人工知能>レイナが速やかに次の手続きを進めた。
『あ~あ。すでに省略したから、もっと省略してもいいですね?』
『タイムトラベル、シュンシュン!』
<22時12分05秒>
<06時00分00秒>
もう時計の数字はレイナの思った通りに変わっていた。1日目からそうだったけど。そしてその結果、レイナは次のシーケンスを宣言した。
『6日目、昼になりました。プレイヤー達は部屋から出て生存を確認してください』
『おお、市民の皆さん、おめでとうございます。5日目の夜の襲撃は、マフィアの指名対象が割れて実行されませんでした』
『内紛でも起こったのかしら?』
『ティーヒーヒー』
6日目の昼。
4日目の昼には全く想像すらできなかった前人未踏の領域に、彼らは足を踏み入れた。そしてその新天地で、<警備員>が<理工系>に向かって絶叫した。
「何やってんだよ、一体!」
「3日目の夜、あなたが‘何か’と結んだ取引内容は、‘4日目のビンゴに反対票を投じたら、あなたを5日目の夜まで連れていく’ということでした。そしてその取引は完璧に履行されました」
<理工系>が説明した。とても無味乾燥に、一目瞭然に、機械的に。
「ただ5日目の夜に些細なハプニングが生じて……6日目の昼を迎えることになった。されだけです。人間と人工知能、市民とマフィアを問わず自分勝手の投票ができる6日目の昼を」
「なんでそんなことをするんだと聞いてるじゃん!」
「同じ質問を繰り返すことも人間の習性ですか?賞金期待値に違いがあるからです」
『賞金総額:5、700、000、000ウォン』
市民が死んだら賞金総額60億ウォン。人間が3人であることを前提に、1人当たりの受領額20億。
マフィアが死んだら賞金総額63億ウォン。人間が3人であることを前提に、1人当たりの受領額21億。
「1億差で裏切るって!?」
「1億ウォンというのは大金ですよ。ランボルギーニを買うつもりなら、維持費も稼いでおかないと」
「あと1億稼ぐために、50%の確率で自分が死ぬかけをするつもりだと?お前正気か!?」
「…50%?」
マフィアは2人だから、2人のうち1人が死んだら確かに50%だ。
機械的な観点から見るとその計算は極めて正しかったが、<理工系>はこの時だけは人文系の感性になって問い返した。
「今、私とあなたが死ぬ確率が本当に50%で同じだと思いますか?」
「ああ?」
「これは市民たちに聞いてみましょう。みなさん?」
「……カ、カカカカ」
<理工系>の呼びかけに最初に答えたのは<多血質>だった。彼は全身が痙攣し、両目では真っ赤な血の涙が流れていた。現実状況の形而上学的な変化と感情の逆流が生み出した血涙だった。
「私の人生、すべてかけて誓う」
人間もたまには100%本音を言うことができる。
特に、地獄から生還した時には。
「今この瞬間から始まるすべての投票で、私は一寸の誤差もなくあの<クソ野郎>に投票する。絶対にな、このクソ畜生め」