4話 国際連盟
チューリングテスト予選1週間後、ソウル特別市のどこか。
ジュンソンはとめどなく歩きながらとめどなく呟いた。彼はこの1週間、いつも独り言を呟きながら考えた。
「そうだね。11人が力を合わせて3億ウォンずつ手に入れるハッピーエンドも可能性が高い」
「最悪の場合としても、4人の中に入れば8億だ。最悪ではなく、これがむしろ最高かもね」
「そもそも、本当に人を殺すサバイバルゲームが現実にどこにあるの?ただの雰囲気づくりかも」
「とりあえず、場所の空気を見てみようか」
11月の風はひんやりと空しかった。
ソウル市内を歩く26歳のジュンソンは、次第に巨大な怒りと巨大な欲望に包まれ、自分を洗脳するに至った。そしてそんな彼の前にワゴン車が1台が立ち止まって、車の助手席の窓が開き、マスクをした誰かが話をかけてきた。
「チューリングテスト本選の参加者ですか?」
「ああ、いや、その、そうだけど、まだ決定を……」
「そうなんですか。あ、私たちが5分早く来たんだ。5分以内に決定してください」
助手席に座った男の態度は爽やかで軽かった。ジュンソンは納得できなくてまた口を開いた。
「すみません、まずゲームの正体が……」
「私たちも知りません。そしてこれ先着順なので、この車に乗っても目的地に行けないかもしれません。定員は11ですが、志願者が多いようでした。あと3分です」
「……‼」
ジュンソンは考えた。これは典型的な恐怖マーケティングだと。
今買わないと買えません、というテレビショッピングの汚い手段だ。しかし、よく考えてみると、このゲームの参加希望者は確かに11人よりはるかに多いような気もした。なぜなら、この1週間の経済ニュースはもっと暗鬱だったから。
「あのさ?」
「あ、まだ2分残っているじゃん‼」
「はい、はい」
ジュンソンは考えた。むしろ誰かが自分に銃口を向けて命令してくれればいいと。
選択権があったこそ人間は余計に悩んでいる。そう思ったジュンソンは、ポケットから100ウォン玉を取り出した。
「ああ…前なら乗る。裏なら乗らない」
ティン、トン。
そして10秒後、ジュンソンはワゴン車の中に入った。後部座席には誰もおらず、前方には防毒マスクをつけた2人の男がいただけだった。
「参加ですか?」
「はい」
‘防毒マスク…?’
その瞬間、ジュンソンは驚いて車からまた飛び降りる姿勢を取ったが、助手席の男が自分たちの行為を説明してくれた。
「睡眠ガスを散布します。到着地に着くまで眠るので、楽な姿勢で座っていてください」
「何ですか?睡眠ガス!?」
「いやなら、降りてください」
「…早くしてください、早く」
これを親切と言うべきか、強圧的と言うべきか。
そして、キム·ジュンソンは椅子を後ろに大きく動かしたまま、車の中で眠りについた。今回だけは人生の屈曲が自分に偏った方向に傾いていることを祈りながら。
<チューリングテスト中>
ジュンソンが初めて起きた瞬間に感じたのは、背中が痛いということだった。
そしてその後は、喉が少し苦しいと感じた。睡眠ガスの影響で未だに夢の中みたいだったジュンソンは、ふと自分の置かれた状況を思い浮かべ、びっくりして身を起こした。
‘サバイバルゲーム…‼’
すでに始まっているかもしれない。そのように考えたジュンソンが立って周辺を見回すと、木材を使って丁寧に建てられた2階建ての西洋館の内部で、その中でもジュンソンがいる場所は1階の居間だった。そこに何人かの人たちが座ったり立ったりして、ジュンソンと同様に家の中を見回したりしていた。
「目を覚ましたか?<人文系>さん?」
「ここは…」
チェック柄のシャツを着て、眼鏡をかけた男がジュンソンに向かってぎこちなく挨拶をした。
大学内ではいつでも見つける平凡な服装の男性だったが、首に厚い鉄製の首輪をはめていた。それだけは平凡ではなかった。その不気味なデザインに驚いたジュンソンが自分の首を触り、ジュンソンは自分の首にもその厚い鉄の塊があることに気づいた。
「こ、これ…」
「その首輪、あまり触らないでください。あのおじさんが外そうとした瞬間、ピーと音がしてみんな驚いて逃げたんですよ。大したことはなかったが」
「この首輪、まさか…‼」
「はい。たぶんソウのあれでしょう。あ、ソウじゃなくてバトル・ロワイアルか」
「…ええっ」
‘首輪爆弾を直接つける日が来るなんて…’
ジュンソンは今、自分が置かれている状況が決して‘冗談’ではないことを認識し、落ち着こうと努力した。そして静かに尋ねた。
「あのさ、私に人文系だと…?」
「あ、すみません。名札にそんなふうに書かれていたから」
<人文系>
いつのまにかジュンソンの胸についた粗悪な名札。そこには本名の代わりに、自分の属する学問系列が書いてあった。そしてジュンソンが目の前の男の胸を見ると、そこにも名札があった。
<理工系>
「それでは、私も理工系さんと呼べば…?」
「望む通りに。ただ、何人かは自分の称号が気に入らないようなので、気を付けて」
そう言った<理工系>は階段の上の2階を指した。そこにはドアの取っ手を回したり叩いたりしている神経質な年がいた。
「なんだよこれ!2階のドア、全部閉まってるじゃん!監禁だよ、監禁!」
その男の名札に記された称号は<多血質>。称号通りの行動をする男だった。ジュンソンはそんな男を見上げて聞いた。
「ドアが閉まったって…?」
「いくつかの扉が。そしてこの家の正門も閉ざされていました。窓を壊せば出られそうだけど……当然、怖くて誰も挑戦しなかった」
「……」
周りの人たちをよく見ると、彼らも首輪爆弾をはめていた。
何か危険でありながら曖昧な状況で、ジュンソンが考えを整理できていない時、家の居間の上に設置されたスピーカーから声が聞こえてきた。
『あ、あ、マイクテスト』
「……!?」
その声は人とほとんど同じで、しかし機械音の跡がほんの少し残している、変調した女性の声だった。その声が快活な口調で案内放送を始めた。
『ああ…‘11人’。みんな目を覚ましたか?』
『そこのおじさん~?ここは脱出ゲームをする場所ではありませんよ?』
『まずは集まりましょう。1階の大会議室へ!』
「…ふん」
首輪爆弾をつけた家の中の全員が、スピーカーの案内に従って居間の反対側の会議室に行くと、そこにはコンビニ弁当が並んでいる長い食卓と椅子が彼らを待っていた。そして食卓の上には、見たことのある赤い鉄製のボールが1つ載せられていた。
『こんにちは。<人工知能>レイナです』
『皆さんとは初対面ではありません。予選で見ましたよね?』
「あの時のあの…?」
陰陽模様の仮面の中に隠されていた球体。ところでその時は、くすんだ男の機械音だったが、今はつらつとした女の機械音だった。
『声を変えました。可愛いですね?』
『今話したように、私の名前はレイナです』
『さあ、皆さん。話が長いんですよ。どうぞお座りください』
「……」
‘座る位置が大事だとか、そうじゃないよね?あの席だけが全然違うけど’
食卓の両側にはそれぞれ6つの椅子が配置され、上座には華やかな装飾が施された木製の椅子が設置されていた。まるでその場所だけが王座のようだったので違和感が生じたが、人たちはそれぞれ両側の平凡な椅子に1人ずつ座った。しかしとあるおじいさんが上座に近づいた。称号は<おじいさん>であった。
「ははは、私が一番年長のようだから、この上座に座ってもいいのかい?」
『ダメです、おじいさん。そこは空けておいてください』
「ちっ、お嬢様ががうるさいな」
‘老人…⁉’
ジュンソンが自分とあまりにも違う世代の人を見て驚いて人々を見ると、意外と世代が多様だった。半分ぐらいは自分と同じ20代に見えたが、半分ぐらいはもう少し年上のように見えたのだ。その中でも老人はたったの1人だったが。
それで結局、上座を空けて人々は12の椅子を全部満たした。するとレイナという名前の赤い球体は赤い光を放ちながら話を切り出した。
『皆さん、こうやって集まると、まるで名画のように見えますね』
『‘最後の晩餐’』
『だから食事からしましょうか?』
「……コンビニのお弁当が晩餐だと?」
<ジムマン>がそんなふうにぼやいたが、一番先にお弁当の包みを開けたのも彼だった。しかし、ほとんどの人は食事にはあまり関心がなかった。プレーヤーたちが手を動かさないので、<人工知能>のレイナは食事を急き立てた。
『皆さん、食事からです。食事から』
『ゲームの話はその後にします。もう午後6時が過ぎたんですよ?』
<18時03分42秒>
レイナの言う通り、会議室に設置された電子時計は午後6時を指していた。しかし、人々の意識はその下に設置された電光板に書かれた数字にもっと留まった。
『賞金総額:3、300、000、000ウォン』
ただ数字3と数字0を適当に並べただけなのに、みんなはあの電光板に魅せられて視線を集中させた。そして<多血質>が、自分の前のコンビニ弁当は開けずに、いきなり口を開いた。
「お金」
『はい?』
「あのお金、本当に存在しているの!?まさかあとで横流ししたり、黙殺したりするんじゃねーよね!?」
‘…ははは’
観点によっては見苦しい態度だったが、皆は<多血質>の指摘に沈黙を守った。実は、それはこの場の皆の唯一かつ至極な関心事だったからだ。そしてレイナが沈黙の末に答えた。
『もちろんです』
「なんで返事が遅いの!?33億って、子供の小遣いではないぞ!?数字だけで信じられるもんか!」
『ああ…返事が遅れた理由は、説得方法に対して思ったからです』
『だからむしろ反問したいですね。あまり33億ウォンをくれるという確証もないのに、なぜ車に乗ってここまで来たんですか?』
「えっ!?そ…くれるっていうから。そして500万ウォンは本当にくれたから…」
それは、ただ光を追う虫のように、ほとんど無意識に近い行動だった。体が焼ける可能性があると言われたにもかかわらず、人たちはただ集まったのだ。‘億’という文字が与える語感のせいで。
『結論から言うと、必ず支給します。ゲームで勝ったプレイヤー全員に』
『しかし、その事実を証明してほしいと言われると、申し上げることはございません』
「おい!何だその態度は!おい!」
‘……強く出てきたな’
実際、このゲームの設計者たちが賞金33億を本当に支払うかどうかは、ジュンソンもここに来る前に死ぬほど考察してみた問題だった。賞金の出所も分からず、賞金がいくらであれ、参加者を皆どこかに埋めてしまうのではないか、と。
しかしジュンソンの結論は<多血質>と同じく、‘嘘というには500万ウォンも大金だ’だった。正直に言うと、自分の価値は500万ウォンにも及ばないし。そしてとある女性が手を挙げてぶつぶつ言った。
「<多血質>おじさん?そうすると、また首輪爆弾が作動するかもしれません。話も話も進まないし。まずご飯から食べましょう」
「なんだよ!?誰が多血質なんだ!この風俗嬢が!」
「…名札にそのように書かれていただけ。それで私を風俗嬢と呼ぶ?むかつく」
そう言った女の称号はなんと<風俗系>。いくつかの名札は少し卑下的な単語が入っていた。<人文系>キム·ジュンソンはお弁当を食べながら、こっそり人々の名刺を一つずつ見た。
‘<人文系>、<理工系>、<多血質>、<おじいさん>、<風俗系>、<インテリ>、<福祉士>、<警備員>、<ジムマン>、<小母さん>、<女子高生>、<ニート>……よくも1つずつ作り上げたものだ’
そして、食卓の中心に置かれた<人工知能>レイナまで。
ゲームの登場人物たちは皆集まった。ジュンソンはお弁当を食べながらも、じっと名札を見て考えた。
‘ジャンルが頭脳ゲームだっけ?ならばこれ、勝算がかなり…?’
知力が戦闘力だと解析すると、名札の内容が脅威的に見えるのは<理工系>と<インテリ>程度であった。それ以外は頭脳とあまり関係がなさそうだった。特に、あの<多血質>と<警備員>と<おじいさん>はなおさら。
『皆さん、食事に集中できず、頭を働かせているようですが……』
『食事時間が終わってこそゲームの紹介もできるし、ルールの説明もできます。食事に集中しましょう』
「おい、赤ボール!お前のせいで集中できない‼」
「お兄さん、もう少し静かにしましょう」
「何だ?お前いくつだ?若いやつがなんて……」
「うるさいですよ。飯のかわりに、年だけ取ったな」
40代の<多血質>を防いだのは、その隣の席の<ニート>だった。2人がじっと見つめ合い、レイナはが赤い光を放った。
『規則1つは予め説明します。プレイヤー同士は、身体接触禁止です。禁止禁止。規則を破れば脱落です』
「そうかい?なでるのもダメかい?」
『はい、おじいさん。ご遠慮ください。それでも偶然に転んだり手が重なったり、そういうのは注意とか警告ぐらい?ただし、暴力は絶対駄目です。警告の後に脱落です。注意、注意』
そして脱落は死である。
その事実をすでに知っている人々が口をつぐんで冷や汗を流した。そしてその時、ジュンソンの耳に隣の<理工系>の独り言が聞こえてきた。
「もったいないな。あのおじさん、情報を作り出していたのに」
「……」
やはり<理工系>。容易くなさそうに見えた。<人文系>であるジュンソンはそう思い、ゆっくりとお弁当を食べてしまった。