39話 ブルートフォース
「な、何?」
「そして<人文系>あの野郎、あれ…カンマなど、俺にとってどうでもいいことさ。推理は正しかったが、過程が違ったんじゃないか。フロックで推理しやげって」
「こ、この野郎、この野郎…!!」
<警備員>の冷たい変貌に‘正常な反応’を見せるのは<多血質>しかいなかった。<多血質>は顔が真っ赤になって怒りに震えていたが、他のプレーヤーたちは表情さえ変わらなかった。まるでその正体を予想したというように。
そして、その冷めた反応に違和感を覚えた<多血質>が、体を動かして<人文系>のタブレットを一人で見つめ始めた。そんな<多血質>を<警備員>があざ笑った。
「確認する必要もない。もう終わったのだ」
「こ、こんな、こんな…!!」
脱落した<人文系>が残したタブレットの1対1対話ウィンドウの内容は、文字通り裏切り者の口車ばかりだった。それは情報通信機器ではなく、ただの有害メディアであって、<多血質>は呆れた表情で<女子高生>と<理工系>、<ジムマン>を睨みつけながら呟いた。
「こんなクズどもが…‼」
「意味が分かりません」
「嘘ばかり並べ立て、人を殺し、表情一つ変えない……ぜ、全部到底許せない虫ケラどもだ‼」
「それでは逆に、涙を流したり祈りながら人を殺したりすると許されますか?これからは、投票するたびに玉ねぎでも持って来ないと」
「ハハハハ!話がうまいぞ、我が<理工系>‼」
<警備員>は大きく拍手を打ちながら拍掌大笑という単語を全身で見せてくれた。この場所でもうどんな仮面も必要ないというように、<警備員>の顔の筋肉は歪みすぎて形而上学的な姿をしていた。この場所に社会的ペルソナは存在せず、<警備員>は自分を見つめる<多血質>の視線を感じ、閉塞的に質問した。
「何だその目は。今夜、死にたいの?」
「……‼」
もう隠すつもりもないというように、堂々とマフィア的な発言をする<警備員>。
そしてその質問は、<多血質>が口をつぐむ理由としては十分だった。憤怒調節障害も自分の命の前がかかった時は憤怒調節上手になって、<警備員>は指を鳴らしながら言った。
「まあ、要点は<人文系>の推理は正しい言葉もあったし、譫言もあったということだ。なかなか鋭いやつだったが、勝敗は昔に決まっていた。あいつは自ら墓穴を掘ったことも知らないまま死んだ。本当に良かった」
「何偉そうに騒いでるの?クソ噓つきめが!誰が今さらお前の言うことを真剣に聞くんだ!」
「真剣に聞いてもいいし木剣に聞いてもいいのさ。私は全く構わない。もうすべてが終わったからな」
「すべてが終わった…?」
プレーヤー、もう残り6人。
そしてすべてが終わったという言葉には、<小母さん>が目を覚まして反応した。
「そうだよ。マフィアは人工知能の正体を知っているって言ったよね。だからあなたがビンゴで終わらせることができるよね!」
「あ?ああ…<福祉士>が言ったこと」
「望み通りに、結局もう1人殺したから、もうおしまいだろ!」
「問題が2問くらいあるな。1!俺は人工知能が誰なのか知らない。2!ビンゴをやる気もない。そもそも……一体今どうして終わらせないといけないんだ?あの賞金期待値、これから大幅に跳ね上がる予定なのに」
お金のために人を殺してもいいのか。
<警備員>はこの論題について何の意見も述べなかった。それはただのデフォルトだった。‘当然ありうる’という態度だった。マフィアという職業にふさわしい態度だった。そして、そのような彼の態度のため、未来も決まってしまった。本日の昼のビンゴは削除されて、夜の襲撃が起こる予定だった。その事実に耐えきれず、<多血質>が拳を握りしめて言った。
「ほら!でも人間的に、人間的道理として!ビンゴはやりましょう。必勝法を使わなくてもいいから、ビンゴだけは!」
「それが交渉になると思うの?悪いけど駄目だ。これは別に、俺の利益のためじゃない。俺の命のためだ。ビンゴしたら死ぬ」
「何言ってんだ、一体!」
「君はまだ知らないのか。あの様を見ろ。ここで赤いボールに逆らうと、すぐ死ぬよ」
「……」
<警備員>は上座に座った<人文系>の死体を指して、その結果は誰も否定できなかったので沈黙が漂った。そして<警備員>は長い説明を始めた。もはや探偵が存在しないこの場所で、修羅場を切り抜けて生き残った悪党として。
「昨日、<福祉士>と<インテリ>が次々と消えていって俺が感じたのは、絶対に<人工知能>に逆らうとしてはいけないということだった。必勝法をプレイヤーと一緒に揉み潰すその姿を見て、あの赤いボールは人間がかなわない存在であることに気づいたのだ」
<人文系>と<警備員>が目撃した風景は同じだったが、それによって彼らが下した結論はあまりにも異なっていた。人工知能に対して<人文系>は対抗を選択し、<警備員>は屈服を選択した。
「人工知能に屈する。そう決心したところに、‘匿名’で協力提案が来た。内容は簡単で凄かった。4日目のビンゴを防いでくれるなら、5日目の夜に到達するまで俺を支援してあげるって。4日目じゃなくて、5日目の夜まで!これをなんと、3日目の夜に提案してきたぜ?何が起こるか絶対分からない時間帯から、変数1つも残らない絶対勝利の瞬間まで俺を導いてくれるということだった!!」
「5日目の夜だと……‼」
4日目の昼が到来した時、7人のプレイヤーたちはこのゲームがどれだけ長く行っても5日目の昼になると3人が脱落して終わるということに気づいていた。そんな中、5日目の夜をマフィアに保障するというのは、文字通り勝利そのものの保証だった。
「だがしかし、ここでちょっと問題があった。俺も確信が必要だったということだ。この提案が‘特別な方式の匿名’で来たんだよ。本当に生まれて初めて頭を使ってみたけど、どう考えてもたった一つの可能性が消えなかった。人間が人工知能を詐称して、嘘ばかり並べ立てた可能性。この場合、俺は犬死になるぜ」
そう言った<警備員>は、自分のタブレットをトントンと叩いて、あの時の苛立ちを再現した。
「まず正体も知らず、考え方も知らない<おじいさん>を除去することに同意したが、そのおじいさんを片付けて消去法をいくら動員しても、目障りの1人が残っていた。誰なのかは言うまでもないだろう?あそこの上座に座っている<人文系>のことだ。あいつが人工知能だったら、俺は何もできず、警察の目を避けてただ祈るしかなかったのだ」
3日間、<人工知能>と正面からぶつかり合った<人文系>だったが、それはヒントにならなかった。
人工知能の自作人形劇ではないという確証はどこにもなかったから。<警備員>が必要だったのは、燃える舌戦ではなく、冷たい確信だった。
「<人文系>の正体が知らない以上、場合の数は無限だった。不意打ちを食らう可能性がどうしても消えず、決断を下せない時……いきなり奇跡が起きたぞ?あの赤いボールが一体何の魔法を使ったのか分からないが、<人文系>が自らビンゴ必勝法を持ってきて、自分が人間だと宣言したのだ!!」
「……!?!?」
一瞬、<多血質>の顔が歪んだが、<警備員>は気にも留めなかった。彼は勝利を楽しんでいるだけだった。
「その奇跡を目撃した瞬間、俺は決心した。絶対に<人工知能>に従うということを。絶対に逆らってはいけないし、逆らう必要もなかったのだ。それで俺はほんの少しのためらいもなく、ビンゴに反対して<人文系>をマフィアだと言い張った。その後は説明する必要もないよね?この世に階級逆転など存在しない。故に<人工知能>に挑んだあいつは脱落し、<人工知能>に忠誠を尽くした俺は勝利が確定した」
『よくやりました~!』
<警備員>の長い説明を、<人工知能>レイナは7文字に縮約した。そしてその瞬間が、この場所での絶対的優劣が決まった瞬間だった。人間に選択権のようなものは最初からなかった。ただ人工知能の慈悲と称賛を物乞いしなければならないだけだ。
そしてもう避けられない4日目の夜を前にして、<ジムマン>が冷や汗を流しながら聞いた。
「それで。夜は…誰を?」
「何?聞きたいの?」
「……」
時限付き人生がいいのか、非命横死がいいのか。
この質問は1日目にレイナがプレイヤーに投げかけた質問でもあった。<警備員>は<ジムマン>をじっと見つめながら言った。
「実は、もう決まっているから言ってもいいかな。正確には、投票結果を見て決めたのだが」
「投票結果…!?」
選挙が終わった後、反対派を粛清することは民主主義の最大の楽しみだ。
<警備員>のその発言に驚いた人は、<多血質>と<小母さん>だった。そして彼らの反応を楽しみながら、<警備員>が再び説明を始めた。
「今まで俺が勝ったと何度も言ったが、まだ確定されていない。今夜、やるべきことをちゃんとやってこそ完全に勝ったと言えるのだ」
「ちょ、ちょっと待って、<警備員>さん!もう絶対、反対に投票しないから…‼」
「うるさいな、<小母さん>。善良な市民なら、今夜はあまり震える必要はない。結論から言うと、警察を殺す。俺のマフィアパートナーは正体を隠したがるから。完璧主義なので」
「……!」
ただ、すべてが決まったことだというように、<警備員>は、今までの計画とこれからの計画をすらすらと語った。その自信を見て、<ジムマン>がもう一度冷や汗を流しながら聞いた。
「<人工知能>があなたに警察の正体も教えたんですか?」
「そうしたらいいのにさ、教えてくれなかった。でも別に構わない。答えは見えてきたから。要は、警察の立場から今日のことを逆算することだ」
役割逆転世界。
今この場所では、マフィアが警察を追跡していた。<警備員>は、とても親切に自分の推理を並べ立てた。
「俺が警察を詐称したにもかかわらず、‘本当の警察’は全く見えなかった。すでに気づいたはずだ。にせ警察官に怒って正体を現わすと、今夜すぐに死ぬことに。そして、あいつの立場では最初から俺と<人文系>の論争の正解も一目見ただけで分かったのだろう。誰が噓つきなのか」
「真実が全部見える警察の立場から、選択肢は2つ。にせ警察である<警備員>を殺して次の連打席裁判とビンゴに行くか、それとも市民<人文系>を殺して夜に行くか。頭の中でかなりシミュレーションを回したはずだが……期待値上、答えは決まっている」
「警察の立場では、答えは当然<人文系>を指すものだ。マフィアの味方になると、プレイヤーはたくさん死んで賞金は暴騰して、自分は生き残るのだ。指名の時<警備員>が死んでも、その時こそ裁判とビンゴに戻ればいいし。その反面<警備員>を指名すれば、結果と関係なくその次の裁判と襲撃で災いに遭う可能性だけが高くなる」
「ここで要点は、俺はもう、俺を指名したらとても怒るという事実を見せてあげていたのだ」
誰かの心拍数がだんだん増えていった。
マフィア<警備員>の底が深い推理に、プレイヤーたちは我を忘れて集中するしかなかった。道徳の色彩に関係なく、人間は流麗な正多面体に惹かれるしかなかったのだ。そして<警備員>はついに警察を指名した。
「そうだな、<ジムマン>?」