3話 マルサスの罠
『学資ローンの一部返済が完了しました』
『ローン返済額:4、950、000ウォン』
『残りの融資額:34、620、000ウォン』
「…ちくしょう」
賞金がありましたが、もうありません。
銀行のATMに入金し、一人暮らしのワンルームに戻ってスマートフォンを数回押すと、明らかに胸元の大金500万ウォンがこの世で蒸発してしまった。すると、残るのは狭いソウルワンルームのもどかしさだけだった。
「あ、メール来た」
ゲーム「チューリングテスト」
1。当ゲームは、賞金総額33億以上、11人が進行する頭脳サバイバルゲームです。
2。当ゲームは最低1日から最大は2週間まで行われます。
3。当ゲームは命を失う危険があります。
4。参加をご希望の予選通過者は、下記の日時と接線場所にお越しください。
日付はちょうど1週間後だった。
「チューリングテスト本選…」
ジュンソンは、先ほどの会話と文字の内容を照らし合わせながら考えた。彼はどうせ分からないテストの内容よりも、このテストの真偽そのものについて考察した。
‘これ全部、ただの冗談じゃない?勝利者に数十億をあげることも脱落者を殺すことも、このテストの主催者にどんな得がある?’
しかし、このような観点から考えると、予選そのものがさらに奇妙でおかしかった。
たかが目の前の男が人工知能というものを推理しただけで、500万ウォンを支給した。何か特別なドッキリならともかく、こんなことをずっと繰り返していたのだ。ジュンソン以前の男子は不合格だったが、ゲーム参加者が11人というのは、少なくとも11回以上の予選賞金を支払ったということだった。本選に出場しなくても賞金は支給されているのだから、このテストの主催側は予選だけで億を越えるお金を使っていた。彼らは真剣だった。億を超えるお金を使うのに真剣でないはずがなかった。
「それで、チューリングテストという名前の頭脳サバイバルゲームって……何それ?」
ジュンソンは呆然とした表情で赤い球体の人工知能が話した内容を振り返った。
この世に‘チューリングテスト’という名前のゲームはない。チューリング·テストは、ある特定のゲームや行為ではなく、人工知能と人間を区別する種類のテストなら全部含めるものだ。つまり1つのジャンルと解釈することができた。
‘私が経験した予選と似たような形式だとしたら……だいたい、人形をいくつか持ってきて何が人で何が人工知能か当てろと言うのか。当てた人には賞金を与え、間違った人には弾丸を与えて’
ざっと思いついた想像だったが、ジュンソンの想像は意外と人工知能が言った条件をすべて満たしていた。
「ゲームの内容は行ってみないと分からない。賞金が11人で33億ウォンと……生存者同士で、ただN等分だと?」
ジュンソンは高校と大学をひっくるめてほとんどしなかった行為である‘紙に数字を書く’を自発的に行い始めた。
何のゲームなのかは知らないため、勝率の計算も不可能だった。しかし、その赤いボールは2つのケースを教えてくれた。それは‘最善の場合’と'最悪の場合'だった。
「運がよければ11人全員生存も可能だと言った。そして人が死んでも4人残ればゲームが終わると言ったし」
最善の場合は、全部で3億ウォン受け取って終わり。
最悪の場合は11人中7人が死亡し、4人が生き残る。4人で8億2500万ウォンを受け取って終わり。
「…最悪の場合は、とあるロシアンルーレットみたいなもんか?」
ジュンソンは文芸創作の本能を生かして、紙に3つの文章を書いた。
じつだん7
くうほうだん4
うてるかい
「……」
それは無意識の考え方だった。
何か数学的計算や人生を振り返る前に、ジュンソンはただそんな銃があれば、さっそく自分の頭に撃ってみたいと思った。この退屈で変化と未来もない人生を、どの方向であれ一発で終えるから。
「…いやいや、まずいぞ。11分の7の確率で死ぬことなのに」
しかし4人が生き残る場合そのものが‘最悪の場合’。つまり、11人のうち4~11人が生き残るゲームということだった。敢えて中間値を仮定するとしても、11分の7。50%をやや上回る生存率だった。ジュンソンは何か賞金配分の微妙さを感じながら、余計に数字を書き下ろしていった。
「10人が生き残ると?11分の10の確率で3億3千万。こんな銃なら撃つ」
「9人までは撃てる」
「8人からは怖いな。代わりに4億ウォン以上になるが」
「7人……」
現在、ゲームの種目も知らない状態だったが、ジュンソンは賞金構造だけではよくも作ったと思っていた。文字通り生存率と賞金が反比例で、とんでもない循環を作り出したのだ。
「…何している、私」
紙にはあらゆる数字と文字が書かれていたが、ジュンソンはただ一つの文章を書いた。
‘8億ウォン’
人間は論理的思考するふりをしているが、結局本能と無意識の動物だ。ジュンソンにとって否定できないことが1つあるのなら、彼はこの銃を想像するやいなや自分の頭にすぐに撃ってしまいたいと思ったことだった。どっちにしろ、自分の人生の悩みが終わるから。
‘違う、違う。この世まだ生きがいがある。金と命は代えられない’
‘この世……’
‘……私、この世に対して知っているか?’
そんなバカみたいな質問を自分に投げかけるジュンソンのスマホに、いきなり友人たちのカカオトークが駆けつけてきた。
『おい、何してるんだ!出て!』
『何だいきなり』
『私は今、人生の重要な決断をしているどころだ』
ジュンソンはあんなに真剣にカカオトークを送ったが、非常に短い返事が溢れ出た。
『知るか』
『ヒョウンギとお肉だぞ』
『デリム駅』
「……」
約5秒悩んだ後。
『待ってろ馬鹿ども』
結論が出ない奇妙な問題より、ジュンソンは頑張っている高校の同級生たちに会うことにした。この世の中を調査するために。
「こんばんは、中小企業の奴隷ちゃん」
「こんばんは、文系のクズ」
「僕は?僕は?」
「こんばんは、工場小僧」
「3人で会うのは久しぶりだな。忙しくもないくせに」
「男3人って息が苦しい。早く肉でも焼きに行こう」
「カンバムは最近何してる?」
「修士取っている。今マポだぞ」
「働いてお金を稼いで、そのお金でまた修士?イカレたな、あいつ」
「文芸創作学科の失業者が学ぶべきだと思うけど?3人です」
「寒い。死ぬほど寒い。なぜこの国は秋が1週間で終わるの?」
「幼い頃、四季があっていいと習ってきたが、全部ただの洗脳だった。一体何がいい?」
「おい、ジュンソン。それでお前、最近何をしている?偉い文芸創作専攻はどこに使う?」
「小説を書いたらいいな。ノーベル文学賞が目の前だって?」
「戯言はやめろ。面接を受けに行ったり、高所得のアルバイトしたり、一生懸命働いているんだ」
「あ、生体実験のバイト?お前、このままならコロナにかかって死ぬぞ」
「とにかく、最近のニュースは本当につまらない」
「政治、毎日大統領選候補同士で揚げ足を取る。司会。この2年間コロナの話。経済、ビットコインや株式の話だけ」
「ロルドカップはどうなった?」
「ダムウォン負けた。FAKERの優勝を盗んだダメなやつらだ」
「それは一体どういう論理?お肉セットAとご飯2つお願いします」
「ジョンヒョク、お前が奢るの?」
「金儲けする奴らが支払え」
「おい!おれの月給は四大保険とスマホ取決めとガソリン代を差し引くと残高があの世だ」
「こいつのスマートフォン、折れるぞ?折れるぞ!不思議!」
「四大保険ってクソだ。特に、国民年金はもらえないのにさ」
「納付しなければ?」
「バカが。月給から源泉徴収だ。ニートは分からない問題だぞ」
「サンチュを持ってきたから戯言1スタック見逃してあげる。それで、どうして国民年金を受け取れないの?」
「俺たちは老人たちに国民年金を渡しているが、俺たちの年金を渡してくれろ下の世代は蒸発したからだ。我が国の出生率、知っている?0.9だぞ、0.9‼」
「知らん。私の家族計画は子供4人だ」
「子供たちのための家は?お前、ソウルの住宅価格が平均10億ウォンなのは知ってますよね?」
「10億?ちくしょう。おれの年俸の40倍だよな。おれの40年分年俸だよな。還暦祝いの時に引越し祝いをもらうことも幸せかも。梅焼酎1つください」
「それで周りに誰も結婚しない。彼女もいない」
「大丈夫。家ができた40年後に、女子大生と結婚すればいい」
「ちくしょう。なぜキム・ジョンウンは職務遺棄しているの?ここに核1つお願いします」
「あいつ今偽物だと聞いたけど。代役とかなんとか。お肉1人前追加です」
「またここに追加?お前今110kg超えているぞ?糖尿病に殺されるぞ」
「長生きする必要ある?60歳ごろ死ねばいい」
「60歳?それも長い。40歳なら死ぬのにちょうどいい」
「先輩はウソ、課長はチクショ、部長はクソだ」
「お前、おれと同じ工場で働いていたか?そっくりだな」
「年をとってあれが決まった未来だと考えると、ちょうど40歳に死ぬことがいい」
「この無能やつらは、ワンピースの正体も知らずに死ぬつもりか?」
「それ、まだ連載していたか?しつこいね。それでお前たち、大統領選挙では誰を選ぶつもりだ?」
「ユン・ソクヨルが正解だ。ユン・ソクヨルだけがムン・ジェインを監獄に押し込められる。サムジャンはどこだ?」
「なぜ俺のお父さんと話が同じだ?サムジャン捜しまで」
「イ・ジェミョンを選んでこそ100万ウォンができるぞ。バスキンロビンスのミントチョコのために」
「お前の1票が国を滅ぼすんだな。それは全部私たちの税金だぜ」
「知るもんか。この国はすでに終わったぜ。だから未来よりも現在のお金が欲しい」
「誰でもいいって考えてきたけど、52時間せ制度で、頭がいかれた」
「それは何?」
「このニート、本当に何も知らないな。勤労52時間を超えることを禁止させたのに、実際は52時間を超えていても給料が出ないだけなんだよ」
「それ、労働内訳を持っていて、労働庁に報告せよ」
「ダムウォンのインタビュー見たか。カンの話が面白い」
「おい、大人が政治の話をしているのに、どこで不敬なロールの話が…」
「味噌チゲはなぜ来ないの?まさか売り物なの?」
「俺が幼い頃は、焼肉屋さんのチゲは全部無料だったのにさ」
「何言ってるの?そんな店、高校生の時から存在しなかった。1人で20世紀を生きてる」
「ちくしょう。いくら考えても最低賃金の引き上げは単なる詐欺だ」
「物価も一緒に上がるじゃないか。いや、もっと上がるじゃん。朝三暮四だぜ」
「高校生の時、ビットコインとか買っておけばよかったのに。7千万ウォンを突破した」
「私が高校生の時、ロットの期待値が50%だと聞いて、ロットを買っていた大人たちは全部情けないと思った」
「しかし今考えて見たら、ロットでなければソウルに家を買うことができない。ご年配の方々が正しかったってことだ」
「イカゲームに参加して456億稼ぐしかない」
「お前は1ステージも無理だ」
「やめて!私、本当に怖い。このままならみんな死ぬよ~!」
「勤労所得と金融所得の差が開きすぎてクソになった」
「何だそれは」
「働いてお金を稼ぐのが勤労所得。株式や不動産のようにお金がお金を稼ぐのが金融所得」
「ところで、社会的格差がますます広がれば広がるほど金融所得の方が勤労所得を圧倒する」
「正にこれが今の韓国だ。今や我が国は持てる金持ちだけが金持ちになる。いくら働いても、決まった人生は変わらない」
「まあな。お父さんが国会議員なら退職金50億ウォンも受け取ることができるし」
「いとこが結婚するって。適切なご祝儀の金額はいくらだ?」
「俺たち、乾杯しないの?」
「結婚するというヒョンギのいとこのために!ところで何歳?」
「36か37か。SK精油とか何かで勤めている。どうして貧しい人が金持ちにお金をあげなければならないの?」
「その兄さんも借金をして家買って、お小遣いをもらいながら暮らせるんだね。もう一本お願いします」
「ソンゴンは最近、何している?」
「あいつは銀の匙だ。ご両親に家一軒もらって城南で偉そうな顔をしているの」
「譲渡税で嘆きながら自慢する。いつも腹が立つ」
「ああ、私はなぜこんなゴミみたいな学科に行って、人生4年を浪費したのか」
「地方雑大工学部に行って技術を習ったなら、ランボルギーニが待っていたのに」
「そしてランボルギーニの後ろに初心者運転だと付けるの。モーゼの奇跡を再現する」
「それで、BLACKPINKのジスとトッテナムのソン·フンミン、どっちが上だ?」
「興味ねー。シバル。最近は、ガールズグループに興味ない」
「高校生の時は商道徳というものがあって、ガールズグループのお姉さんたちの服の長さが非常に気に入ったのに」
「最近は中東からブルカとか輸入しているみたいだ。国が後退している」
「だから正しい女性ストリーミング薦めろ。脱朝鮮級の安産型骨盤が欲しい」
「ウィズコロナって、結局みんなコロナに支配される世界じゃない?」
「そうよ。2年間マスクをつけてヤンセンに騙されたのに、全部無駄使いだった」
「なぜ映画館でポップコーンが食べられねーの?ヴェノム2見た時、ポップコーンの持ち込み禁止だと言われた。ありえねー」
「おい、おい、なんで10点許されるの?正気か!」
「ジュンソンが大好きなLG、またやられているの?」
「ウソク‼コ・ウソクはどこに行ったの!ああああああああああああ!」
「次は?」
「カラオケゴーゴー」
「カラオケ?なぜ言わなかった?飲み物のせいで声に力が入らないよ」
「どうせ豚の喉を刺す音ような声だろ」
「コインカラオケはこれからショーミーザマネー生放送室になる。覚悟しろ」
「ヒック」
11人中、0~7人が死亡。
‘その代わり、賞金は最低3億ウォンから8億ウォン…’
ヒック。
悩んだ末、ジュンソンは自分の頭に銃を撃つことにした。実弾の数など、どうでも良かった。




