2話 NORゲート
‘……何なんだ、これ?’
先に経験した人の言葉通り、‘何もなかった’。ジュンソンは呆然とした表情をした。
しかし、確かなことは、今このまま起きるのは嫌だということだった。起きる代わりに、ジュンソンは目の前の男をただ睨みつけた。
「……」
『……』
それは非常に気まずく長い沈黙だった。
ジュンソンは部屋を出ずに頑張っていたが、男はそんなジュンソンを敢えて急き立てたり追い出したりせず、ただ同じく沈黙を守っていた。彼は一切微動だにしていなかった。ジュンソンはいらいらしながら部屋の中を見回した。
<チューリングテスト中>
「ちょっと、ちょっと、ちょっと」
戸口にも部屋にもあるあの文句。
目の前の男に対する怒りがジュンソンの頭脳を突然大きく活性化させ、ジュンソンはやがて1つの結論に到達することができた。彼は本当にアニメのキャラクターのように、頭に電球を1つを召喚する勢いで叫んだ。
「ユレカ!」
『何ですか?』
「あなた、人間じゃなくて、人工知能でしょう!」
『…ふ』
ジュンソンの明快な叫びに、今まで微動だにしなかった仮面の男がゆっくりと手を上げた。
その‘上げ’は人間のような自然なものではなく、ぱちぱちと切れるごく機械的な動きだった。そして、手袋をはめた手で陰陽模様の仮面を取ると、顔の代わりに滑らかな表面の赤い球体が1つ入っていた。その球体が機械音を出した。
『正解です』
「おおおお、おお……‼」
ジュンソンは感嘆した。このテストの品質と、このテストを解いた自分の頭、両方に。
<チューリングテスト中>。文字通り、この部屋のすべての状況がチューリング·テストだったのだ。目の前の男が人間なのか人工知能なのかを判断しなければならなかったし、ジュンソンはそのテストを通過したばかりだった。人工知能が赤い球体から光を放ちながら言った。
『チューリングテスト予選合格、おめでとうございます』
「あ、これ、これは本当に、本当にすごいテストだぞ」
ジュンソンは、正解を当てたまま頷き続けた。彼は自分が誇らしくて、目の前の人工知能に向かってこのテストの難易度を強調した。
「これは本当に簡単なテストではない。君、君、君よ。服装はすごく不自然だけど、とにかく人工知能のくせに私の話を全部聞き取って、人間みたいに反応したんじゃないか。いつから人工知能がこんなに発達したの?」
『お褒めのお言葉、ありがとうございます』
『予選通過の賞金は私のコートの内ポケットにあります。直接取り出してください』
「おお……?」
普通、じっと座っている人のコートの内ポケットに手を入れる考えをするのはできない。
しかし機械にはそんなことができる。つまり、このチューリングテストの合格者だけが彼のコートの内側に手を入れることができた。ジュンソンが身をかがめて目の前の機械のコートの内ポケットの中を探すと、そこには非常に厚い白い封筒が1つあった。
「こ、これは…‼」
心臓というものは、いつも分岐点で揺れ動く。
ジュンソンは信じられないという表情をしながら封筒の中を横目で見た。疑う余地のない申師任堂100枚。約束された賞金である現金500万ウォンだった。彼は封筒を手にしながらも信じられないというように聞いた。
「本当にくれるの?」
『もちろんです』
「500万ウォンだと?ただこのテスト1つ成功しただけで?」
『失敗した人がはるかに多いですね』
「…IT企業って、みんなお金を工場で製造しているの?」
他の観点から見ると、むしろほぼ詐欺に近かった。
この数日間、あらゆる変な薬を飲み、血を抜き、固定された姿勢で数十時間も堪え忍んでやっと80万ウォンが手に入ったのに、今この場所ではテスト1つ通過しただけで505万ウォンが得られた。このようなことを経験してしまったジュンソンは、突然未来が怖くなった。これからは、普通の労働に耐えられなくなるかもしれない。
そこで、ジュンソンは目の前の人工知能の言葉を逃さず、もう一度尋ねた。
「チューリングテスト予選合格だって?これが予選合格賞金なの?」
『そうです』
「こういうテスト、本選もあるの?」
『最初からこのテストは本選参加者を募集するためのテストです。キム·ジュンソンさんはその資格を得ました』
「おお、おおおおおお……‼」
ジュンソンは、その言葉を聞くやいなや戦慄を覚えた。たかが予選合格だけで500万ウォンを支給するテストなら、本選では一体どんな金額のお金が支給されるか想像もできなかったからだ。ジュンソンは500万ウォンが入った封筒を自分のコートの中のポケットに深く入れながら聞いた。
「では、本選の内容は何だ?」
『それは参加者たちにだけ、本選が始まる時に知らせてくれます』
「ああ、ああ!そうか。いや、当たり前だな。それならいい。今度も場所と時間さえ教えてくれよ。今度は2時間早く行くからな!」
『その前に、リスク説明が必要ですね』
「リスク?あ、条件?」
このテストに参加するためには、まず個人情報を提供しなければならなかった。ジュンソンは、今度は家族の個人情報でも必要かと思いながら目の前の赤いボールの言葉を待った。そして赤いボールは無味乾燥に条件を話した。
『チューリングテスト本選では、脱落者は死にます』
「…え?」
あ、これいきなり叩き込んできたな。
参加条件が、個人情報から命になった。ジュンソンは言葉を失って、しばらく腕組みをしてからそのまま質問した。
「それでは、賞金は?」
『前向きな姿勢、気に入りますね』
『ところで賞金はテスト状況によって変動するので、特定金額ではありません』
『正確に説明すると、このチューリングテスト本選の参加者数は11人。賞金総額は最低33億以上のゲームです』
「……‼」
耳を疑うほどの金額。
脱落者は死ぬと脅迫するほどの金額ではあった。そして赤いボールは最小限の説明を付け加えた。
『チューリングテスト本選は、一種の頭脳サバイバルゲームです』
『ゲームはプレイヤーたちが終了条件を満たした瞬間に終わり、賞金は生き残った人同士でN等分して支給されます』
‘11人が33億ウォンを巡って争う……それでは、賞金は最低3億から最大33億なのか?’
敗北者は死に、勝利者は数億から数十億を得る。リターンもリスクも極端なほど非現実的だった。そして赤いボールは無味乾燥な声で言った。
『途中放棄も不可能であります。つまり、ゲーム参加を決めたら、勝利して賞金を受け取るか、あるいは敗北して死ぬか、二つに一つです』
「なるほど、なるほど…」
ジュンソンは、目の前の赤いボールの話を興味深く聞きながらも、何か隠し事はないかとずっと考えていた。そして彼は、この話の弱点を指摘した。
「ちょっと考えてみたけど……内容不明のゲームの終了条件を満たすべきだと?これは主催側が何かを騙す余地が多すぎる。ゲームが何であれ、勝利条件を不可能なレベルに設定した後、11人全員脱落させたら?その後は臓器売買直行だろう」
『素敵な期待値計算ですね』
「え、何?」
指摘に対する答弁が純粋な称賛だった。赤ボールは微動だにせず、話を続けた。
『あなたのご心配、承知の上です。しかし、私のこのチューリングテストは、プレイヤーの多数生存を保障します。終了条件の1つは、プレイヤーの数が4になることです。つまり脱落者がどんなにたくさん出てもプレーヤーの数が4より下に行かず、これさえも最悪の場合に過ぎないのです』
『ゲームの終了条件は多数があり、しかも参加者11人が全員生き残る終了条件もあります。とても難しいけど』
『すなわち、最小4から最大11までのプレイヤー勝利者が発生することができます』
『そして、こちらが提供する最小33億以上の賞金は必ず支払われます』
『おまけに脱落者の死体はゲームが終わった後一斉に焼却される予定ですので、臓器売買に対する心配は要りません』
「……」
隙を許さないというように、テストの条件や特徴がすらすらと流れ出てきた。
そしてそれらが余計に繊細だったので、ジュンソンにとって‘テスト脱落者は死ぬ’という空想科学的な話が少し説得力を得ていた。しかし依然としてテストの内容は分からずに、赤いボールは赤い光を光らせていた。
『質問、ありますか?』
「一体誰がそんなテストを主催するんだ?」
『企業秘密です』
「……そうか?」
実は、あまり返事を期待もしなかった質問だった。露骨に人を殺すという恐ろしいテストを主催する側が正体を露骨に表すはずがなかったから。
しかし、それとは別に、提案そのものが判断できない材料だった。ジュンソンは頭をかきながら呟いた。
「やっぱり駄目だ。やっぱり、テストの内容も知らずに命をかけるわけがないだろう。話を聞くと、人間同士に戦うサバイバルになりそうだが。私には合わない」
『このチューリングテストは頭脳を競う‘頭脳サバイバル’ゲーム』
『身体能力は全く必要ございません。暴力は一切許しません。ルールの中にはプレイヤー同士の身体接触禁止ルールも入ります』
『ゲームで勝利するために必要なのは、今見せてくれたのと同じような判断力と知恵です』
「そうなの…?」
ジュンソンは疑わしいという表情で他のゲーム情報を待っていたが、目の前の赤いボールはそのような試みを遮断しながら宣言した。
『今すぐ決定する必要はございません』
『予選を通過しましたので、こちらがキムジュンソンさんの携帯電話へ接線場所と時間をお送りいたします。そこに現れて車に乗ることを本選参加同意としてみなします。そこからキム·ジュンソンさんをピックアップして、本選のゲーム会場に連れて行きます』
『11人のゲーム会場は、人里離れた洋風邸宅……あらら、ネタバレ』
‘ネタバレの意味ある?’
いずれにせよ、今すぐ決定する必要がないことなら、今考える必要もないことだった。ジュンソンはそう思って、一瞬、不安な思いが浮かんできた。
「ちょっと待って。その本選参加しなければ、この500万ウォンも没収か?」
『いいえ。それはただの予選通過賞金です』
『本選への参加有無には関係なく、チューリングテスト予選通過者が受ける正当な賞金です。ぜひ、望む通りに』
『それじゃ、またな』
「…はっはっはっはっは」
やっぱりあの機械音は何か面白かった。
人工知能は別れの挨拶をし、キム·ジュンソンは笑顔で門を開いた。実は、今、本選とか何とかはどうでも良かった。彼の胸には500万ウォンが入った封筒があり、同時にチューリング·テスト予選をパスした者の自負心が溢れていた。
‘500万ウォン…‼’
未来の期待値であれ何であれ、現在手にしているものだけが現実。
人工知能が言う死のゲームと33億という数字はまだ非現実的で、夢想の領域にあったが、今、ジュンソンの胸にある封筒の厚さと感触は本物だった。彼は今、20分あまり対話を交わしただけで、生同性アルバイトの6倍以上の金額を手に入れたのだ。
そして、そんなジュンソンを待つ男がいた。ジュンソンより先に部屋に入ってから出た後、案内デスクで戦っていた男だった。
「あんたはちょっと長かったな。あの部屋のやつと何かあったの?」
「ああ、それがですね」
説明は必要なかった。はっきりと見えた。目の前の男が予選不合格者ということは。
‘情けないな’
ジュンソンは、こういう人間と話し合った人工知能が可哀そうだと思った。
<チューリングテスト中>といって、部屋のドアと壁に2回も書いてあり、しかも単語を検索する機会まで与えたにもかかわらず、この男は不合格であった。おそらくこのような人間が数え切れないほど多かったはずだ。ジュンソンはにやりと笑いながら答えた。
「私にも、何もなかったんです」
「そうだろ。くだらん。臓器売買とか心配したのにさ。警察に通報する気もあったぞ」
男は最後まで文句を言いながらも、自分のもらった封筒から5万ウォン紙幣を取り出した。彼はその紙幣も疑いながら呟いた。
「5万ウォンか。久しぶりにロットだぜ。おい、数字一つだけ言ってみろ」
‘……ばか野郎う’