15話 事件の地平線
とんでもない水準の言語的暴力を目の前で目撃した男性プレイヤーたちは、何も言えずに<風俗系>と<福祉社>の口喧嘩を見守るだけだった。そして、どうしてもその空気に耐えられなかったジュンソンがとても静かに赤いボールに向かってSOSを打った。
「おい、レイナ。止めないの?」
『どうして?面白いじゃん』
「何だと⁉」
『えっ、そうじゃなくて。全く規則違反ではありませんよ。仕方ありませんよ?あれも全部、討論であります。感情の半減期がちょっと長いかもしれませんが』
‘…あんなことが討論だと?’
女房を質に入れてでも見られない風景だという点には同意できたが、何かを問う前に、ただ人間的に放っておくわけにはいかない口論だった。仲裁に乗り出したのは<おじいさん>だった。
「若い処女たちが言葉では総裁級だ。でも、もういい加減にしろよ」
「入れ歯でも取り替えてくださいよ。爺」
「あ?これが不便なことをどうやって分かったの?とにかくさ、もう指名と裁判はすることに決まったのに、なぜ口喧嘩してるっていうんだ。そして必ず人が死ぬわけでもない。裁判のルールを読んでみろ。裁判台に誰を送っても、過半数でなければ脱落ではない」
「…うん?」
マフィアゲームの手順説明(昼間:指名と裁判)
5。裁判台に立ったプレイヤーは『脱落投票』で過半数の賛成を得ると脱落する。
『そうです。脱落投票で過半数が達成されなければ、指名されたプレイヤーは釈放されます』
『無罪放免、という感じで?』
「おぉ…おじいさん、読解力が高いですね?」
「ケッ。さっきから、当たり前のことを言ってもほめられるよね。ここでは」
<インテリ>が皮肉っていたが、ほとんどは<おじいさん>のルール再発見に少し感銘を受けた。しかし、ジュンソンの隣に座った<女子高生>は、その意見を聞いてからごく小さな声で、冷たく独り言を呟いた。
「存在意味がない規則だが」
「……?」
殺伐とした感情対決と緩い規則の確認が続き、また会議室は小康状態に入った。
11人もいたにもかかわらず、もう有意味な意見が出なかった。いずれにせよ、指名投票が近づいてきた今、最優先すべきことは‘マフィア探し’だったが、実際に起こっていることは終わりのない沈黙だけだった。そして沈黙の末、<警備員>がタブレットを見て言った。
「マフィアを探すのは警察の仕事だって。夜に誰か見つけたら、言えばいいじゃない?もし分からなくても、市民である誰かを話すことができるし」
「そして今夜、殺されるはずでしょう」
「医者に警察を守ってもらったら?」
「それでは医者を殺害し、その後で警察を殺害するんでしょ」
<インテリ>が下唇を突き出し、今になって基本的なゲームルールを語る<警備員>をあざ笑った。
しかし、基本的な考えでありながら、かなり有効に見えた。市民側が勝つ最高の方法は警察が活躍し、警察を守ることである。もちろん、今の状況で警察や医師が自分の身分を明らかにする確率はマフィアの自白確率と同じくらい低いが。
「このままじゃ、無駄の時間過ごしだ……おい、<理工系>。何か分かったことない?」
「私がたった今分かったことは、女性たちはものすごく恐ろしいということだけですが。<多血質>のおじさんこそ、昨日のように何か意見を出してみましょう」
「さっきの<インテリ>が怪しい。警察の捜査に懐疑的なあの態度が」
「何だと?この低学歴のゴミが、どうして一日中、戯言ばかり乱発しているんだ!」
「ああ!?この小僧めが、なんと無礼だ!」
『身体接触禁止です、皆さん』
女たちの口喧嘩の時とは違い、男たちが声を荒げると、<人工知能>レイナは躊躇なく規則を詠んだ。そして同時に<ジムマン>が食卓をドンドン叩きながら言った。
「やめなさい!皆さん、今すぐ指名投票をしましょう」
「え?マフィアは誰一人不明なんだけど?」
「どうせこのまま数時間待っても何もできないし、皆さんが戦う様子は本当に情けないんですよ。どうせ次の裁判投票もやるべきだから、こんな無駄な駆け引きをするよりも、指名投票でもしましょう」
「ふむ……」
どうせ今は何も分からないという<ジムマン>の言葉は事実だった。しかも、裁判を開いた方が良いという<理工系>の計算も事実だった。
結局、暗黙のうちに指名投票が認められ、彼らには再び10分の制限時間が与えられた。
『ついに、最初の指名投票ですね』
『マフィアゲーム裁判3プロセス、指名するかしないか投票、指名投票、脱落投票』
『その中でも核心ですよ?よく選んでください』
静かに進行した別の投票とは異なり、レイナは指名投票の重要性を強調した。
実際のマフィアゲームでは、指名投票が核心であり全部であった。ジュンソンは突然与えられた制限時間10分に迷って、自分のタブレットに召喚されたプレーヤーのリストをじっと見ながら考えた。
‘誰に投票すべきか…’
<人文系>ジュンソンは考えた。どうせ今日の投票で、マフィアを見つけることはできないと。誰かの目には見えているかもしれないが、ジュンソンの目にはたった1人も見えなかった。ならばもはや問題は、誰に投票することが自分にとって最も正解なのかだった。
‘投票結果はすべて公開される。このようなシステムでは、誰かに票を入れることは誰かの恨みを買う行為だ’
ビンゴ投票とは次元が違う点がまさにこの点だった。そして、そんなふうに思考が走ると、<人文系>ジュンソンは次のことを考えた。今、この指名投票は‘喧嘩している’人に票を入れた方がいいと。最終的な答えは‘票がたくさん集まりそうな’プレイヤーに入れることで、自分に来る恨みが分散するからだ。
そして周囲を見回すと、プレイヤーの何人かは自分のように悩んでいたが、何人かはすでに迷いなく投票を終えた状態だった。ジュンソンはその様子を見て、少しでも指名結果を予想することができた。
‘完全に感情投票だな。いっそ、私も誰と戦ったらよかったのか?’
そんなふうに悩んでいる時、タブレットに1対1の会話ウィンドウが現れた。
女子高生:まだ決めていない状態なら、私と一緒に風俗系でも指名しましょう
すぐ隣に座った<女子高生>から、ジュンソンの戸惑いを察知して送ってきたメッセージだった。ジュンソンは驚いた表情を辛うじて隠し、タブレットで問い返した。
人文系:どうして?
女子高生:報復投票の心配がなくなるから。
人文系:それは正しいが。
女子高生:ただの提案でした。他の人を指名するなら、それでいいし。
女子高生:私以外なら。
「……」
ジュンソンは考えた。やっぱり隣の<女子高生>には切れ味があると。
同時に、先ほど裁判の規則が存在意味がないと言ったことも気になったが、いずれにせよ今は指名の悩みを解決してくれたのがありがたいだけだった。<人文系>ジュンソンも投票を終えて、ついに指名投票が終わった。
『じゃあ、第1回指名投票の結果は…』
『あ、2日目なのに1回って言うと、表記が混同されそうですね』
『2日目の指名投票の結果です』
『その結果は~~~!』
レイナがいろいろ言った後、2日目の指名投票の結果が発表された。
<2日目の指名投票結果>
<風俗系>5票、<福祉士>2票、<インテリ>1票、<多血質>1票、<女子高生>1票、<警備員>1票。
<風俗系>:福祉士、小母さん、警備員、女子高生、人文系
<福祉士>:風俗系、おじいさん
<インテリ>:多血質
<多血質>:インテリ
<女子高生>:理工系
<警備員>:ジムマン
結果:<風俗系>裁判開始
「なんだ、なんだこれ!」
結果、いきなり大声を出したのは、過半数に指名された当事者ではなく、一票を得た<警備員>だった。彼は指名投票の結果を見て叫んだ。
「おい、<ジムマン>!テメエ、テメエはなんで俺を指名したんだ!」
「いや、あの…おじさんが昨日、ビンゴ投票で僕を指名したじゃないですか。僕も、何が何か知らなくて、ただ……」
「それはビンゴだぞこの野郎!裁判はわけが違うぞ!人を殺す気か!?俺もさ、ただでは済まないからな!気をつけろ!」
<女子高生>が言った報復投票の概念が確立され実践される瞬間だった。その姿を見て、<人文系>ジュンソンは自分の選択が正しかったことに安堵のため息をついた。
そして、その正しい選択が集まった主人公、指名で5票を得た<風俗系>が呆れたように自分を指名したプレイヤーを確認し、<人文界>ジュンソンは多数の中に隠れて彼女の視線を避けようとした。「風俗系」は顔をしかめながら語った。
「呆れた。マフィアを捕まえるつもりはなく、ただ気分に合わせて投票したんですか?」
「誰だか分からないから、気持ちに従って投票するのが当然だ。もちろん、私は本当にこの<多血質>がマフィアだと思って指名したんだけど」
「あ、俺もお前のような<インテリ>がマフィアだと、120%確信して投票した!」
‘みんな気分に合わせて投票したんだな’
頭の良し悪しは関係なく、人々はみな自分のホルモンに率直であるようだった。そしてこの中で唯一ホルモンのない存在、<人工知能>レイナが無味乾燥な声でその次の手続きを進めた。
『さあ、指定対象者の<風俗系>さんは上座にお座りください』
「え?それは拘束椅子じゃん!やだ、やだ。トイレも行っておきたいし」
『首輪を使わせるつもりですか?』
「……‼」
それから数秒後、鉄のカチカチという音が会議室に響き渡った。ビンゴの時よりももっと怖く。
マフィアゲームの上座が「風俗系」の手首と足首を鋼鉄で拘束し、「風俗系」はいらだった表情でぼやいた。
「早く裁判を否決してね。私、本当にトイレ。そして本当にマフィアじゃないからな」