11話 複素平面
呆れるほど論理的だったので、呆れた。
初めて発生した本物の死の前で、プレイヤーたちが言葉を失って思考を停止している時、<人文系>ジュンソンが眉をひそめながら聞いた。
「融通性はどこに行った?」
『ルールを守る限度内で、です。人工知能は嘘をつけないから』
まるで最大限の好意だったというような言い訳だったが、<小母さん>は怒りがこみ上げ、1階の居間の上のスピーカーに向かって指差しながら叫んだ。
「ルールを守るために、人がこんなに残酷に殺されなければならないの!?」
『どういう不満なのか、よく分かりませんが……どうせ昼の裁判で誰かが脱落する時は、みんなあんなふうに終わる予定ですけど』
『脱落した人は死ぬという事実を、もう一度言ってあげないといけない段階ですか?』
『予選から説明したんだけど…』
「……」
頭で知ることと心で感じることが違うという言葉の例が、まさに今この状況だった。
本当の死を目の前にして皆が半分パニックに陥っている時、<インテリ>はもっと冷たい表情を浮かべながらぶつぶつ言った。
「分かった。全部いいんだけど、私は死体とはゲームできないの。早く進行要員とか呼んで片付けよ」
『うん?外部の人たちとは、ゲームの終了条件が満たされた時まで連絡しない設定です』
『この場合は、正門から出て裏側に行くと、倉庫に棺桶があるので、あれを使ってください』
「この家から出てもいいの!?」
『正門は昨日、私がゲーム開始を宣言した時から開けておいていたんですが…』
誰も正門を開けようとはしなかった。首輪が怖くて。
そして人間たちの先入観をあざ笑うように、<人工知能>レイナは無味乾燥にルールを読んだ。
『いやいや、規則にも書いておいたんじゃないですか。屋敷近くの30メートルがゲーム内の区域だと』
『適当に出てもいいですよ、適当に。30メートルも、ちょっと越えてもいいし』
『こういうのが融通性です』
「…ふざけるな」
結局、<人文系>ジュンソンと<ジムマン>が自発的に<ニート>の死体を持って正門の外に出た。すると、山の風景が見えてきたが、彼らのいるところは人里離れた山の真ん中だった。窓越しに見える風景だけで分かっていたが、より確実になった瞬間だった。そういう孤立した場所で、ジュンソンは<ニート>の死体を運びながら呟いた。
「そういえば、この首輪、首輪爆弾ではなかったのですね」
「うん…首に何かを注射されたと思う。人をすぐ殺せる何かを。禍々しい」
<ニート>の首をよく観察すると、首輪がその内側から注射で薬物を注入する形式であった。ジュンソンと<ジムマン>はレイナが言った倉庫に辿り着いた。そこには、堂々と8つの棺が用意されていた。
‘8つ。終了条件中、‘最悪の場合’に備えた数字か。プレーヤー数が4になる時の……’
そしてその瞬間、ジュンソンは些細だが凶悪な事実に気づいた。
ジュンソンはゲームに参加する前、最悪の場合でも自分が死ぬ確率は11分の7だと思ったが、実際では12分の8だったのだ。人工知能を1つ入れたせいで。
‘ちくしょう。だからといってこれを聞くと、また叩き落すはずだろ?自分は嘘をついたことがないって’
<ニート>の殺し方を見ると、<人工知能>レイナは規則は徹底的に厳守し、絶対に嘘はつかないが、それにもかかわらずジュンソンは彼女が何かを翻弄していることを本能的に感じていた。
そして<ニート>の死体を棺桶に入れた<ジムマン>とジュンソンは、ため息を吐きながら見つめ合った。
「ふむ、これはどこに埋めば……」
「無理です。シャベルもないし。ここまでが私たちの仕事でしょう」
「プロフィールを見ると、僕と同い年だったんだけど。他人を心配している立場ではないが」
<ジムマン>は首を横に振りながら倉庫を後にした。一方、<人文系>ジュンソンは非情にも死亡者に対する憐れみを忘れていた。何か捕まりそうで捕まりそうで捕まらない考えに捕らわれたので。
「人工知能、嘘、人工知能、嘘、ビンゴ、プレイヤー……うん?」
何か見逃している事実がもう1つ。
キーワードを繰り返しながらジュンソンはとある考えが浮かび、その考えは次第に確信を増し始めた。
「……まさか」
<人文系>ジュンソンと<ジムマン>が死体を棺桶に移して1階の会議室に戻ると、そこではまた2人の男性が争っていた。<多血質>が<警備員>を追及していたのだ。
「ほら、おじさん。だから密かに会議室に来て、この赤いボールに何て言ったのかって。何と言って急に人が死ぬんだよ。2人で徒党を組んで、<ニート>を殺したんじゃないか?」
「何言ってるの一体!私はただ、ここに来てどうして黙っているのかと聞いただけなんだぜ!
<多血質>の言いがかりは完全に無理に近かったが、人々は放置していた。<人工知能>レイナと少しでも2人きりで会話をした<警備員>が怪しいという雰囲気だった。大したことではないようにも見えたが、誰かの最初の死亡に、人々は神経質になっていた。
ところがその論争をまとめたのは<人工知能>レイナだった。彼女は珍しくも、誰も尋ねなかったのに、すぐにその問題について答えてくれた。
『<警備員>さんは私に来て、どうして何も言わないのかと聞いて、私は沈黙を守りました。ただそれだけです』
「…そんなことを、我々に自発的に言ってくれるのか?」
『こんなこと言わなければ、皆さん、全部私に秘密の会話とか試みるようになりますね。ゲームが健全ではなくなります』
『これからも私と話すことは、みんなに全部公開します』
「うん!機械の子がよくも言ってくれたよね。ありがとう。つまらないことを疑って!私がこの赤いボールと組むことができたら、ああん?早く賞金をくれと言って、すでにこの家から出たんだろう!」
賞金。
その言葉に、無意識にプレーヤーたちは電光板を注目した。その瞬間、電光板の数字は、まるでカジノのスロットマシンからするルルルル音を出し、その数値を変えた。
『賞金総額:3、300、000、000ウォン』
『賞金総額:3、600、000、000ウォン』
「増えた…‼」
プレイヤー全員、タブレットでルールを確認しなければならなかった。
賞金
3。賞金総額はプレイヤーが脱落するたびに増える。一般市民、警察、医師が脱落する度に3億ウォンが追加され、マフィアが脱落する度に6億ウォンが追加される。
1人の人が亡くなり、賞金が増えた金額は3億だった。<理工系>が無表情で呟いた。
「当然のことだが……死んだのは市民ですね。<ニート>は市民だった」
「当然、マフィアではなかったのでしょう。ところで警察とか医者だったかもしれないじゃないですか」
<女子高生>の質問に、プレイヤーたちはもう一度会議室の食卓の上に置かれたレイナに視線を向けたが、今回のレイナは沈黙を守った。教えないという話だった。<理工系>がもう一度整理した。
「賞金増加量だけ通知するということだ。このままでは医師や警察が死亡しても市民の死亡と見分けがつかないということだね」
「それじゃ、<ニート>は警察や医者だったかもしれないってことか!?」
「9分の2の確率で、そうでしょうね」
「……やばいな。医者が死んだら、市民は夜に100%死ぬじゃないか」
「医者よりも、もし警察がやられたとしたら、マフィアはどうやって探すの?」
昨日までは楽観論が支配していた会議室を、今日は絶望的な悲観論が支配していた。しかし、プレーヤーがどんな気分であれ、食卓の上に置かれた赤いボール<人工知能>レイナは、自分のすべき仕事と自分のすべき話だけを続け始めた。
『あ、皆さん。注目』
『まず、1つの臨時規則を立て直しましょう。夜に<眠れた時に脱落処理すること>のことですが』
『夜も<直ちに脱落処理すること>に変えます』
『数学的期待値から見ると、どうせ市民の皆さんは夜に起こることを統制することはできないので、そのままぐっすり眠る方がいいが』
『実際には、ほとんどのプレイヤーの方が眠れませんでした』
『やっぱり人間は難しいんだ』
『とにかくもう安心しておやすみなさい。グッドナイト!』
「あんなのが心配りだと……‼」
いつものように<多血質>が怒ったが、人のための配慮とは言える。ただ、その無機質な学習能力に不快感が感じられただけだ。
一方、<人文系>キム·ジュンソンは先ほど<人工知能>レイナの規則変更から強迫的な‘嘘の排斥'を感じ、同時にタブレットで昨日聞いた規則のうち人工知能関連規則の2行を確認した。
人工知能規則
1。12体のプレイヤーたちの中で1つは人工知能だ。
2。人工知能は嘘をつけない。
‘やっぱりこれは…’
頭の中の机上の空論はさておき、<人文系>キム·ジュンソンは<人工知能>レイナをじっと見つめた。利害得失を計算する前に、彼はすべてのプレーヤーの前で彼女に宣戦布告のような質問攻めを始めた。
「レイナちゃん。いくつか聞いてみよう」
『いつでもいくらでも、<人文系>さん』
「お前、人工知能なのか?」
『もちろんです』
「プレイヤーの中に人工知能があるって?」
『そうです』
対話の循環は滑らかに行われていたが、そのままパタンと途切れた。
人間と機械は同時に黙り込んだ。そしてジュンソンが目の前の赤いボールを睨みながら、次の質問を投げかけた。
「それじゃ……私たちの中に、お前がいるの?」
『……勘のいいガキは嫌いだよお』