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マフィアゲーム  作者: Kim Junsung
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1話 チューリングテスト

挿絵(By みてみん)



この世のすべての問題は、自分がお金を持っていないということから始まる。

2021年11月、ソウル。大韓民国のごく普通の20代の青年キム·ジュンソンは、お金を稼ぐために参加した「生同性アルバイト」の最終日を迎え、彼は他の人とともに疲れ切った表情で最後の身体検査を待っていた。

「もう、おかしくなりそう。早く家に帰って休みたい……」

「私もです。もう二度としません」

生同性アルバイト。‘生物学的同等性試験アルバイト’の略語であるこのアルバイトは、実は人体実験バイトとしてよりよく知られている。ジュンソンは病院に他の人々と何日も入院し、あらゆる薬を飲み、血を抜かれ、その経過を観察された。その過程で最も困難なことは、数時間の姿勢の固定であった。

‘副作用がなかったのが幸いと言うべきか’

「13番、キム·ジュンソンさん。お入りください」

「あ、はい」

言葉通り、お金に身と命を売るアルバイトだった。部屋に入ると、製薬会社側の眼鏡をかけた研究員が体に関するいろいろなことを聞き、ジュンソンは間抜けな表情で一つ一つを答えた。そして最後に、研究員が自分のチャートを見ながら話した。

「ああ、ジュンソンさん。ほかのバイトも一つ紹介しましょうか。あなたは条件に合う」

「お断りします。またこういうのは無理です」

「違います。体は使う必要は全くない、とあるIT企業が主管する知能テストのようなものです。日当は5万ウォンで、成績が良ければ500万ウォンもらえるという」

「…何ですって!?」

長期滞在までしながら体を売って稼いだお金が80万ウォンだった。ジュンソンはすぐ頭を上げ、研究員はそのままとある建物の場所が書かれた名刺を渡しながら言った。

「参加するつもりなら、今すぐ言ってください。そちらに予め連絡を取らなければならないので」

「行きます、行きます。絶対に行くから。いつですか?」

「日時はメールで通知します。ところが、これに参加するためには、条件がある」

研究員は言葉を濁し、彼の表情はいきなり深刻になった。

人間の肉体を持って実験する生同性アルバイトの研究員が深刻な表情になって、ジュンソンは本当に恐怖を覚えた。研究員は沈黙の末に追加条件を話した。

「個人情報を提供する必要はあります。住所と住民番号、学位と職業状況……」

「…いや、人を驚かさないでください!そんなことはどうでもいいですよ!」

現代社会で、平凡な人の個人情報の価値は極めて低かった。

ジュンソンは内心、自分の個人情報など10年前にオンラインゲームのメイプルストーリーがすでに流出して久しいと思い、直ちに情報提出に同意した。しかし、研究員は深刻な表情を崩さずに話した。

「IT企業が実験のために個人情報を要求する場合は、ビッグデータと結合して個人に合わせた狙撃テストになることができます。これはかなり恐ろしいんですよ」

「このバイトが一番恐ろしかったんです!私、お金のためには、スペムメールを受ける用意がたくさんあります」

「こちらは紹介担当です。選択に対する責任はそちらが負います。ご存知でしょうか?」

「…怖くなりますね。ただの知能テストですよね?」

あれこれ言いながらも、研究員はジュンソンを新しいアルバイト志願者に登録し、ジュンソンは研究員から名刺を受け取った。



『チューリングテスト予選場所』

ソウル中区南大門路1町25、アップルビル



‘チューリングテスト…?’

意味が分からないが、語感が素敵なことは認めなければならなかった。




『志願者さんの能力不足ではありません。もっと多くの方に仕えることができない会社の過ちです。さらに努力して多くの方にお迎えできる良い会社に……』

「ごちゃごちゃうるせーな!不合格の三文字だけで十分だぞ!」

2021年11月、大韓民国の秋は特に寒かった。正確には、秋は存在しなく、夏が終わってすぐに冬が来た感じだった。

キム·ジュンソン。ホンイク大学文芸創作科を卒業して求職活動を盛んに行っている26歳のソウル青年。彼への不合格通知書は後を絶たなかった。今、彼が持っているのは生同性アルバロで稼いだ80万ウォンだけで、その大部分は学資金融資4千万ウォンの利子として使われる予定だった。

「うん、お母さん。別に何もない。あ、ずっと志願しているよ。もう遊びませんよ!」

コロナウイルスはこの2年間いい言い訳になってくれたが、そろそろこれ以上遊ぶのが難しくなった。この2年間はコロナを口実に自炊生活でよく遊んでいたのに、そろそろ何もかも窮屈になってきた。それで急に仕事をすると言っても採用してくれる会社がなかった。文科は就職が難しいというのはもう常識だったが、実際社会に出てみると、その中でも文芸創作科が一番だった。ジュンソンは、次の履歴書には必ず高卒だと書こうと決心しながら足を運んだ。

「……ここ?」

ジュンソンは生同性アルバイト病院側から数日前紹介された新しい知能テストのアルバイト場所に着いた。空室が非常に多い、ほとんど閉業寸前の小さな建物だった。

‘この建物、誰もいないの?’

約束の場所は2階だった。そこに到着すると、騒がしい声が聞こえてきた。ジュンソンより先に来た、ジュンソンと同じく20代の男性が案内デスクの女性職員に大きな声で何かを問い詰めていた。

「いや、ここまでバスに乗って、地下鉄に乗って、またバスに乗って来たんだよ!何じゃこれ!」

「申し訳ございませんが、私も短期アルバイトなので。そして支払った5万ウォンには交通費も含めです」

「俺はは5万ウォンのためじゃなく、500万ウォンのためにここに来たんだよ!5万ウォンって何だ?ロット宝くじ10枚で終わりだぞ⁉」

「あ、すみませんが、次のお客さんがいて」

案内デスクの女性職員はジュンソンを見ていきなり話題を変えた。女性社員は彼の文句を無視したまま、すぐにジュンソンに声をかけた。

「500万ウォンの知能テストの志願者ですか?」

「あ、はい」

「はい。あそこの部屋です。日当と交通費5万ウォンは前もって受け取ってください」

女性社員はそう言い、ジュンソンにも5万ウォンを渡した後、自分のスマートフォンを取り出しながら誰も相手にしないという態度を見せた。愚痴をこぼしていた男はジュンソンを見て聞いた。

「あんたも名刺をもらって、金儲けのチャンスだと紹介されて来た人かい?」

「そうなんですが」

「全くの無駄足、無駄足」

‘敬語は生まれてから捨てて来たのか?’

彼の態度は非常に気に障ったが、今回の一日バイトに関して疑問を抱いたジュンソンにとって、目の前の男はとてつもなく大切な実験対象者だった。ジュンソンが気になるという顔をすると、男は首を横に振りながら言った。

「あの部屋に入ったら、お互いつまらないこと言って……たぶん5分もかからなかっただろう。いきなりそのまま終わりだって。そして5万ウォン支払って、本当に終わり!このまま消えろって!」

「それそのものがテストであったのは?どんな内容だったんですか」

「中身なんてない!いや、何も隠すつもりねーぞ?本当に何もなかった!」

「……??」

何か危ないかと思って心配したのに、いざ目撃したのは、何事もなくて、それ自体に怒った男しかいなかった。

ジュンソンはちょっと考えてから、ただ自分が手に入れた5万ウォン札一枚を見て、どうでもいいというふうにドアに向かって歩いて行った。言わば、観点の違いだった。

‘5分使って5万ウォンをもらうことならサンキューだぜ’

普段、大学のムカつく助教たちは1時間のアンケート調査をさせ、補償はコンボパン1つが全部だったので。ジュンソンは案内員と男が指した部屋の前に立ち、そこには大きな名札が1枚ついていた。

<チューリングテスト中>

「あら、まだ何かテスト中ですか?」

『お入りください』

‘機械音!’

何か普通ではないのは間違いなかった。ジュンソンはドアノブを回してその中にゆっくりと入った。




ジュンソンが入った部屋はとても簡素な相談室のような部屋だった。部屋の中にあるのは机1つとそれを挟んで向かい合う椅子2つだけだった。そして、壁には大きな字が書いてあった。

<チューリングテスト中>

ジュンソンが入ってきたドアの向こう側には、すでにとある男が座っていた。ジュンソンが自然に向かいの椅子に座りながら挨拶をした。

「こんにち…はっ」

黒いコートと中折れ帽、そして真っ白な手袋まで。

室内で服で完全武装した男だったが、ジュンソンが驚いたのは、男が白黒の陰陽模様の仮面をかぶっていたからだった。全く、服装だけですっごく怪しいビジュアルの男だった。

『こんにちは』

「あ、はい。こんにちは」

流れてくる声まで機械的な変調音だった。ジュンソンは雰囲気だけは丁寧に作ってきたと思って冷や汗を流し、男はそのままジュンソンと向き合ったまま微動だにせず、話を始めた。それは個人情報だった。

『キム·ジュンソン。男性、26歳。ソウル特別市永登浦区居住、ホンイク大学校ソウルキャンパス文芸創作科卒業。間違いはありませんか?』

「はい、その通りです。私の個人情報がふらふら空中に浮いていますね」

『現代社会ってことです』

「プハハ、そうですね」

無味乾燥な機械音で皮肉な言い方をすると、なんとなくギャグ的になった。ジュンソンはしばらく緊張を緩め、<仮面男>はすぐに本論に入った。

『私たちは今、<チューリングテスト>という名前のゲーム参加者を募集しています』

「ゲームですか?労働とか実験ではなく?」

『実験の範疇に入りますね。しかし参加者の立場ではゲームです』

ジュンソンは何かを推理しようとしたが、ゲームの名前だけでは何も分かることができなかった。そこで仮面男の説明を待っていたが、仮面の男はむしろ逆に質問を投げかけた。

『その前に、1つ質問させていただきます。チューリングテストが何か、知っていますか』

「聞いたことはある…が……」

『知っていないですね。検索してみてください』

「説明してくれないのですか⁉」

ジュンソンは男の不親切さに驚いたが、お金が欲しかったのは自分だったので、やがてスマートフォンを取り出し、<チューリングテスト>という言葉を検索した。彼はウィキペディアの一番上に書かれている文章を次々と読み上げた。

「チューリング・テスト(英:Turing test)は、アラン・チューリングが提案した、ある機械が「人間的」かどうかを判定するためのテストである。これが‘知的であるかかどうか’とか‘人工知能であるかどうか’とかのテストであるかどうかは……」

『理解できましたか?』

「だから…人間と人工知能を区別するテストってことですね?」

『そうです。人間がその区別に成功すれば人間の勝利、失敗すれば人工知能の勝利なのです』

「なるほど。それで?」

『……』

名状しがたい待ちの沈黙。

ジュンソンはチューリングテストという単語に対する検索と理解を終え、仮面の男はそのまま沈黙を守った。その沈黙が長くなると、ジュンソンは理解できないように首を傾げながら聞いた。

「ちょっと、チューリングテストという単語の意味は分かりました。次の話は何ですか?」

『5万ウォンは案内デスクで受領できます。ありがとうございます』

「ああ?ああああ⁉」

テスト対象者をどの部屋に招待する。厚い服と仮面と帽子で全身を包み、声も機械音である男が待っている。そんな彼がテスト対象者にスマートフォンで<チューリングテスト>という単語を検索させる。そして別れの挨拶をする。

これまでが、とある知能テスト·アルバイトの内容である。果たしてあなたはこのテストに正解を提出して合格できるだろうか?


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