15.ヒロインなのでいじめられます
お待たせ致しました。
連載再会です。
「あなた庶民の癖に、殿下に近付くなんてどういうつもり!」
「それに、そのご友人達にも色目を使っているそうじゃない!」
「貧乏人が高貴な方々に擦り寄って、どう言うつもりでしょう。ああ恐ろしい!」
編入して僅かに五日目。私は悪役令嬢の取り巻き(仮)に絡まれていた。
呼び出されてのこのこ付いて行った私も大概だが、何かこの人達見覚えあるな何だっけ?今後の為に話聞いとく?あっ思い出した…!ってたらこうなった。
(仮)なのはゲームで彼女達は、悪役令嬢の手となり足となりお囃子となり、リナの何もかもが気に入らなくて、悪役令嬢と共にいじめを繰り返す。
しかし現在の悪役令嬢は、婚約者達と仲睦まじく時に迷惑な恋愛劇場を繰り広げ、学園生活を送っている。
いじめ何てちんけな事には素振りさえ見せていない。逆に私が向こうにいじめている側と思われている。
「殿下方とはまともにお会いした事は一度だけです。同じクラスのアルモ・デ・ラマルティーヌ公爵令息様とすら接点が無いと言うのに」
何というヒロイン力。全く狙ってないのに、悉く攻略対象者達との仲を邪推されている。
迷惑極まりない。
しかも、全現場を悪役令嬢に見られている現実よ。
その度に、浮気現場を見られた様な反応をする攻略対象者達。悪役令嬢は『やっぱり惹かれ合う運命なのね…』的な、悲しそうな顔をして無言で去って行き、それを追い駆ける攻略対象者。取り残される私。
…もうナニコレ。
「嘘を仰い!殿下はアウリス様の婚約者なのよ!お前みたいな下賤な者が近付く何て汚らわしい!」
「アウリス様程、国母に相応しいお方はいないわ!画期的な発案で医療水準を向上させて、国内外に名を轟かせたのよ!」
「更に長年犬猿の仲だった隣国との関係を改善させ、来年度の皇太子殿下の留学まで成し遂げたのよ!」
ええ~…、悪役令嬢めっちゃチートしてるじゃん。絶対転生者じゃん。予想してたけど、確定じゃん。ゲームと前世の知識活かして、断罪回避に勤しんでんじゃん。
医療水準の向上なんて、尊敬しかされないパターンのヤツじゃん。え、もしかして元医者とか?そんなの、元薬局店の娘なんて太刀打ちできる訳ないじゃん。
物心ついてから、この国の衛生関係に疑問を持った事ないけど、もしかしなくても悪役令嬢の仕業よね。
手洗いうがいはしっかりしましょうとか、前世の日本では当たり前の行為だったし、疑問にも思わなかった。そう考えると、この世界観とはミスマッチな気がしてきた。
そうだ、お偉い貴族様が広めてるって、前世を思い出す前に両親から聞いた覚えがある。小さすぎて詳しくは覚えていない。
アウリスはそんな子供の頃から記憶があって、断罪対策をしていたと?啓蒙活動とかしちゃってたと?
そんなの、攻略対象者がベタ惚れになるわな。んで、子供の頃から確かな絆と想いを積み重ねて、フラグを頂きに立てまくってたら、あんな風にアウリス絶対主義ヒーローズが出来上がるよな。ん?出来上がるのか?ん?
異常な気がするのは私の考えすぎ?
そしてやっぱり、どうしてそこまで執着…もとい愛されて、その自覚がないのか理解できない。所詮悪役令嬢とヒロインは分かり合えないのか。そう言う運命なのか。
別にもう疲れたから諦めた訳では無い。
諦めたらそこで人生終了である。
私は何とか、悪役令嬢側に自分は無害だと証明しなければならないのだ。
でないと平穏な平民ライフなど、来世に期待するしか亡くなる。いや無くなる。超今を生きろ私。
さらに、取り巻き(仮)が聞いても無いのに色々詳しく教えてくれる。何歳の時にアレをして、何歳の時にコレをして。お前らは悪役令嬢のプロデューサーか。
リナが違う意味で泣きたくなっていると、近くの茂みから物音がした。
嫌な予感がする…。これまでの経験上、あの人が…でた~!
困惑の表情を浮かべた悪役令嬢アウリスだった。
偶然通りかかっていじめを目撃して、ヒロインは天敵だと知りながらも、黙って見ていられなくて、義憤に駆られて出てきてしまった悪役令嬢様や~!(予想だけど多分あってる)
「あなた方、これは一体何の騒ぎですの?」
「ちっ違うのですアウリス様!わたくし達はこの無礼な小娘に一言注意を…!」
「アウリス様のご威光が理解出来ない小娘に、教育的指導を…!」
「全部この小娘が悪いのです!身分を弁えないこの小娘が…!」
何で、一話目で消えるモブ悪役みたいな言い訳するの?と言うか、小娘言うなや。私が小娘ならあんたらも小娘だからね!
「三人で詰問する必要がありまして?こんな人気の無い所に呼び出して。わたくし同級生の方達が、誤解を受ける様な事をなさっていたら、悲しいですわ…」
はふうと、片手を頬にあてて嘆息を吐く。エロい。片腕は心細い自分を支えるかの様に胴体に。胸が腕に乗っている。デカい。
思わず自分の胸に視線を落とす。………。
大丈夫だ私。私ヒロインだから。ヒロイン力でなんとかナルヨ…。
私がしんみりと、自分の細やかな乙女の象徴を慰めている最中、取り巻き(仮)達は言い訳ばかり繰り返し、悪役令嬢は私への謝罪をする様に求めている。
もういいよ。私の事は放置していてくれ…。今それ所じゃない所で、ハートブレイクしてるんだ…。
その時、再び茂みから物音が。
何だ今度は、ハートブレイクする暇も無いのか。うんざりしながら音の方向を見やると、あらまあ何と言う事でしょう。王子様とその他、攻略者様ご一行がこんにちは!
てっ、なんでやねん!
あんた達、この国でも指折りの大貴族じゃないの⁈何でそれがデフォルトかの様に出て来るの⁈もう前にやってるでしょ!お姉さん怒らないからそのまま森へお帰りなさい!
「アウリスこんな所にいたのか、探したぞ」
「エドワード様…。それに皆も…」
「義姉さん何をしているんです?」
「アウリス嬢、そのお嬢様方はご友人ですか?」
「君達、一人の令嬢を囲って何をしてるんだ?」
攻略対象者達は順に悪役令嬢に尋ねる。
思う所はあるけれど、弱い者いじめ自体は許せないと、取り巻き(仮)へ厳しい視線を向けて。
リナへの嫌悪感はあれど、仁義に背く行為は見逃せないらしい。その心眼を、もうちょっと視点をずらして貰えないだろうか。ちょっとでいいんだ、ちょっとで。
唯でさえ混沌としている状況が、更にカオスになっていく。
ほら攻略対象者勢ぞろいで、悪役令嬢が戸惑ってるじゃないか。『ヒロインをいじめてると思われてる!やっぱり私は断罪される運命なのね…!』みたいな顔して、絶望しているじゃないか。取り巻き(仮)達よ、大丈夫か息してるか?酸素不足の金魚みたいになってるぞ。
「アウリス一体どうしたんだ。顔色が悪いぞ。こんなに震えて…。そこに居るリナ・アボット嬢、彼女と何か…」
エドワードが私を認識した途端、もう耐えられないと、悪役令嬢はその場から駆け出した。
「アウリス!」
咄嗟に引き止めようとしたエドワードの手を躱し。
「義姉さん!」
立ち塞がったアルモを華麗に無視し。
「アウリス嬢!」
温室培養箱入り令息トマスはお話にならず、一秒も足止められない。あっ眼鏡弾みで取れた。眼鏡眼鏡しとる。
「アウリスちゃん!」
これは凄い!未来の近衛騎士団隊士のディフェンスを躱したぞ!何て華麗なターンだ!「今の瞬間をもう一度見て見ましょう」「素晴らしいですね。フェイントとターンアラウンドを巧みに使い熟しています」的なスローモーションと解説者が見える!
ライオネルは呆然と、何も掴めなかった己の手をなん、だ、と…?と凝視している!
…いや、何なん、コレ。
あんたらそればっかりだな。悪役令嬢には、遭遇と回避のスキルが備わっているものなの?
放心していたのは束の間。しかしその間にアウリスの姿は彼方へと消えて行った。
相変わらずお嬢様なのに健脚すぎる。前世は陸上部だったのかな~。
「アウリス!」
エドワード達は現実逃避するリナを放置して、慌ててその後を追って行った。
ライオネルが弾丸の様に駆けて行くが、全く追い付ける気配がしない。トマスに限ってはやっと眼鏡を発見し、状況を把握しきれていない。
あれだ、ヒロインが悪役令嬢にいじめられて、落ち込んで泣いている所を攻略対象者に偶然発見されて優しく慰められる、二人だけの秘密の坪庭とかにいるよ。今アウリスがヒロインだから。うん、絶対。
ふうやれやれと、一息吐こうとして気付く。
はっ待って。人生詰んだと嘆いて崩れ落ちている、この取り巻き(仮)の回収どうするの?
ちょっと、責任取って持って帰ってよ~!
リナの予想通り、アウリスはすっかり人に忘れ去られた坪庭にいた。
忘れ去られているのに、適度に雑草が取り除かれ、菫の小さな花がぽつぽつと咲き、石作りの枯れたバードバスが寂しく置かれていた。でも枯山水的な詫び寂びを感じ、荒廃しているとは感じない。
そこで美女が、なんかイイ感じに差し込んでいる光を浴びて涙を流す姿は、不自然な神々しさに目を瞑れば、舞台のクライマックスにも匹敵する荘厳さだ。
「アウリス…!」
「っ…!エドワード様っ…」
「何故君は、いつも黙って一人で泣くんだ…」
エドワードは息と制服を乱し、力無く座り込むアウリスへ駆け寄って肩を抱く。
「義姉さん!心配したよ。僕達は家族だろ、悩みがあるなら話してくれよ」
「アルモ…」
義姉の弱った姿に、自身が耐えられないと表情を歪ませる。
「アウリス嬢。あなたに涙は似合いません。あなたは笑顔でいるからこそ、輝く」
くいっと眼鏡を押し上げて、キザっぽく登場したトマスだが、その足はがくがくと震えている。
「アウリスちゃん元気出して!アウリスちゃんを泣かせる奴は、俺がやっつけてやるから!」
何故一番に追いかけて行ったライオネルが何故一番最後に登場するのか。ツッコんではいけない、そういう様式美の一種だ。
そしてこれだけの人数が揃えば、坪庭の圧迫感は相当なものだが、誰ひとりそう感じてはいない。
どころか、余裕すらある。何か広くなってね?ツッコんではいけない、そういう仕様である…。
「みんなどうして…リナさんは?彼女はたったひとりで追い詰められているのに。わたくしなんていいから、彼女を助けてあげて…」
「アウリス以上に大切な者など無い。君の涙を拭う権利を、私は誰にも渡す気が無いのでね」
エドワードの美しい指先が、宝石の様なアウリスの涙を拭った。
駄目ですと言いながら、アウリスには己を支える力すら残っておらず、エドワードに支えられるがまま、ポロポロと涙を零し続ける。
乙女ゲームのシナリオが進んでいる。
エドワード達とヒロインのリナは出会い、その危機にも駆け付け、そして…アウリスを悪だと見做すのだ。
自分の末路は、断罪だと決まっていたのか。
攻略対象者と関係改善を試み、そしてそれは成されたと思っていた。
思い上がりだったのか。悪役令嬢の本質は変えられず、自分の思い通りに事が進むと慢心し、驕り昂っていたと。
そもそも、攻略対象者の心を変えようと、人を自分の都合のいい様に変えようとする思考が、『悪役令嬢』に染まっている。
ああ、私は最初から間違っていたのね。
断罪する運命は受け入れる事はできないけれど、でも、誰とも関わらないでいる選択もあった筈なのに、私は自分を過信して、そして今現実を思い知っている。
「アウリス…」
光を失った愛する者の瞳を目の当たりにして、エドワードの中に炎が燃え上がる。
アウリスを守れなかった自分への怒り、そして何より…。
視線を向けた先には、同じ思いを抱えた同志達がいる。
彼らは静かに頷き合った。
これから僅か数時間後、『断罪』その時が訪れる…。
「ねえ知ってる。チューリップって球根をお菓子にして食べたり、花をサラダにしたりする地域もあるじゃないですか。あれ、専用の品種を使っているんですよ。本来は全草に毒があって、皮膚につくと炎症を起こしたり、食べると発汗したり嘔吐や呼吸困難も起こしたりするの、心臓毒もあるのよ。ペットが食べても危険よ。心臓麻痺に血便に下痢嘔吐、その他諸々。自宅の庭で遊ばせていたら、気付いた時には、好きで植えた花が愛しいペットの命を…。ちなみに花言葉は、赤が真実の愛で白が失われた愛よ」
「どうして精神的にまいっている時に、あれ?うちの庭どうだったかしら?って心配になる怖い情報を吹き込みますの⁈」
「いや、偉い人達に目を付けられて落ち込んでいるだろうから、気を逸らしてあげようかなって」
「頓珍漢な気遣いはいらなくてよ⁈」
「ああ、毒の話はお嬢様には刺激が強かったですか?じゃあ母の日の定番カーネーションの花言葉ですが、赤は母への愛になるけど、黄色は軽蔑になるって…」
「そう言う事じゃなくってよ⁇‼」
取り残されたリナと取り巻き(仮)達の、不毛な会話が木霊する。
「あなたこそ、その『偉い人達』に目を付けられたんじゃなくて!お可哀相にあなたの学園生活も終わりですわね!」
「今日で編入五日目ですけど、エドワード殿下、ラマルティーヌ公爵令息、アントワープ騎士伯令息、ウッドストック宰相令息に、お前ふざけんなよ的な釘を刺されてますけど」
「「「終わりどころの話じゃなくてよ⁇‼」」」
「あっ、言っていいか分からないからボヤかしますけど、アケメケアのロイヤルな感じのする人にも、お前何企んでるって言われました」
「「「もうお黙りになって(泣)‼‼」」」
取り巻き(仮)の悲鳴と、スンとした表情のリナ。
今日も混沌は深まっていく。
しかし今日はまだ終わらない事を、リナはまだ知らない…。




