3度目のデートで明かされたのは…
こちらが本編になります。
結婚相談所のマッチングで彼を見つけてから2か月後――――――――――—————私は、彼と3度目のデート当日を迎えていた。
マッチングで見つけた直後、2週間程はメールのやり取りでお互いの話や、趣味嗜好。仕事の話といった世間話を交わし、1ヶ月経過した頃に初デート兼顔合わせを実施した。
第一印象は“裏表がなく誠実で面白みのある男性”だった。顔合わせでは仕事終わりに夕飯を一緒に食べただけであったが、会話していく内に「この男性と一緒にいると変に緊張もせずにとても楽だ」と感じている自分がいた。
婚活始めてからの数か月で1人か2人ほどデートしたけど、今までで一番感触が良いかもな…
夕飯を共にする中、私はそんな事を考えていたのであった。
そして、2度目のデートを経て3度目の今回は、初ともいえる休日デート。お互い土日休みの社会人とはいえ、スケジュール合わせるのには何度かやり取りがあり、この日を迎えるのである。
「こんにちは、弥佳さん!」
「こんにちは、準也さん!…待ちました?」
「待ちました…といっても、来て間もないので、2・3分くらいですから大丈夫!」
待ち合わせ場所である駅の改札口に到着した際、私は彼――――――——————白須 準也に向かって駆け寄っていた。
変にかっこつけない彼の言動を微笑ましく感じながら、私は口を開く。
「じゃあ、行きますか!」
「そうですね…じっくり見たいし行きましょう!」
私が目的地の方角へ指を指した後、彼も同意し、私達は歩き出す。
3度目のデートとなる今回の目的地は、とある大きなビルの中で行われている漫画の原画展だ。
私と彼の共通の趣味は、漫画やアニメの鑑賞。とりわけ、お互いが大好きな漫画が一つあり、2度目のデートではその漫画グッズが売っているお店へ買い物をしに行っていたという具合だ。
「音声ガイドもたくさんのキャラクターの声が収録されているし、最高に楽しみですよね!」
「えぇ!ただ、音声ガイドをガッツリ聴きながら原画を眺めたいので…。入場後は少し黙りこんでしまいますが、大丈夫ですか?」
「全然大丈夫ですよ!私もじっくり見たいので、中に入ったら無言になるかも…」
入場待機列で待つ間、私達はこれから待ち受ける原画展について、微笑みながら会話を交わす。
チケットをスタッフに渡して会場に入った私達は、先程話していた通りの無言となった。人によって連れと話ながら原画を見る人もいるだろうが、私達のように音声ガイドを使用している人の多くは黙って展示物を見ている人がほとんどだ。そのため、あまり騒々しいという状態ではなく、じっくりと作品の世界観に入り込む事ができたのである。
「…今回こそは、上手くやっていけそうかもしれぬな…」
「…?」
壁の上の方に展示されている原画を見上げた際、同じく上を見上げる彼の姿が目に入る。
音声ガイドを聴きながら見ていた事もあって、小声で口にしていた彼の台詞を最後まで聞き取る事はできなかったのであった。
こうして、お互いにとって至福の時間は過ぎていく――――――――――――
原画展を見終えた私達は、夕食を兼ねる意味もあって目的地近くのカラオケボックスを訪れる。
普通のレストランやカフェでも夕食は食べられるが、カラオケ自体をほんの1・2曲歌いたいためであったり、お互い周囲が騒がしい場所があまり好きではないため、防音設備もあるカラオケボックスを選んだという具合だ。
考えている事も結構似ているから、やっぱり準也さんと一緒にいると安心するなー…
カラオケボックスにて受付をしていた際、私はそんな事を考えていた。
その後、夕食を食べてから好きなアニメのアニソンを2・3曲程歌った後――——————ある意味、運命の瞬間を迎える。
「結婚を前提に、お付き合いをしてほしい」
真剣な眼差しでそう口にした彼は、普段より緊張しているように見えた。
その台詞を聞いた女性の反応は様々だろうが、私の心は既に決まっていたため、戸惑う事もなく口を開く。
「はい…。今後とも、宜しくお願い致します」
私は、ためらう事もなく相手に返事を返す。
その後、数秒ほど沈黙が続くが、その沈黙も彼によってすぐに破られる事となる。
「はぁー…緊張した!あぁ、でも良かったよー…お断りされたら、どうしようかと思った」
「あはは!私も、“今回はなかった事にしてください”とか言われたら、どうしようかと思った訳だし!」
緊張が解けた二人の口調は、いつの間にかため口になっていた。
そうして、安堵したためか、彼の口が饒舌になり始める。
「そうと決まれば、どこかで両親との挨拶もしたいよね。ただ、その前に見てもらいたいものがあるんだ。“それ”を見せた後に、具体的な事を考えようかなと…」
「“それ”って一体…?」
「…口で説明するより、実際に見てもらった方が早いかなと思って…」
私が首を傾げていると、彼は突然右手の中指と親指をこすって音を鳴らす。
その音がカラオケボックス内に響いた直後―――――――――—————私は一瞬、自分の目を疑った。
そこには、顔はいつもの彼だが爪が真っ黒いネイルを塗ったように黒く、背中には漆黒の翼が生えていたのだ。そして、翼で服が破れないようにしているためか、背中が少し開いたTシャツを身に着けている。
「…!?!?」
そんな彼の姿を見た私は、何が起きているのか想像が及ばず完全に言葉を失っていた。
「見ての通り、僕…いや、わたしは人間ではないんだ。この世界とは異なる世界の住民…。漫画やアニメといった創作物では“魔界の住人”と言った方が解りやすいかな?」
彼は、口調は若干変わりつつも、“素”もそういう性格のためか、少し申し訳なさそうな表情をしながら述べる。
私は頭が混乱しつつも、元々漫画やアニメといった二次元が好きな人間でもあるので、実際に目にして納得した事もある。今は兎に角、訊きたい事が山ほどあった。
「えっと…まずは、日本人ではないって事かな?それに、結婚相談所での情報にあった職歴やら何やらは、本物なの?」
「やっぱり、そういう対応になるのは弥佳さんらしいよね!詳しく話すと、結婚相談所に書かれた情報は、ほとんどが真実だよ!僕らの世界の住人がこちらの世界に移住…もしくは出稼ぎやらで一時的に暮らす場合は、ちゃんと人間界の住人として暮らせる事を証明しなくてはいけないからね!だから、詳細は秘密だけどちゃんとサラリーマンとしてある程度仕事はこなしているよ!あと、人によってはカラーコンタクトとか使って外見をいじる奴もいるけど、僕は偶然黒い瞳だったから、日本人に化けるのがちょうど良かったというかんじかな?」
私が知りたいと思っていた事を、彼は次々に語り出す。
「マッチングの情報だと、“実家から少し離れた場所で暮らしたい”みたいな事書かれていたけど、それってどうなるの??」
「あぁ、それねー。お互いのためにも、人間界の一戸建て辺りを1つ買って、その中から実家近くの別荘に瞬間転移できる魔法陣を常に張っておこうかなーと。そうすれば、どちらの家も行き来しやすくなるしね!あぁ、お金の心配はご無用だよ!“本当に人間界で結婚相手を見つける事ができれば、家の一軒や二軒くれてやる”って、父さんとも約束済だしね!」
そう語る彼は、いつもとほとんど変わりない態度のままだった。
「家の一軒や二軒」って…どんだけ実家の方が金持ちなの!?っていうか、魔界とやらと人間界だと通貨違うだろうに、そこの所も問題ないのかな!?
私は、心の中でたくさんツッコミを入れたくて仕方がなかった。だがそれよりも、今思う事は一つ。
結婚を前提にお付き合いできるのは、本当に嬉しいけど…。これから私、どうなっちゃうのーーーーーーーーーーーー!!?
私は、この日この瞬間、声に出して叫びたいくらいに強くそう思ったのであった。
こうして婚活は成功する訳だが、今後どうなるのか何が待ち受けているのか――――――――想像すらできない日々が待ち受けている事を、まだ私は知らないのである。
【完】
いかがでしたか。
この実在する結婚相談所については名前はあげませんが、解る方はわかるかもしれません。
元々婚活を題材にした作品は(自分も経験しているので)書いてみようかなーと少し考えていた物の、長編にする程のシナリオが思い当たらず寝かせていた所、今回のコンテスト開催を知った皆麻でございます。
この話はここで終わりになりますが、良ければ他の作品にもアクセスして閲覧していただけると幸いです。
お付き合いありがとうございました。
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。