探しものは何ですか? 3
いつもの探しものなら、優希があっという間に見つけてあげられるのに、今回はどうにもならない。
一体どうしたらいいんだろう……。
おばあちゃんはいすに座り込んで、どこか遠くの方をぼんやり見ている。つかみどころのない、頼りなげなその表情を見ていると、優希は悲しくなってしまった。
優希が悲しいとき、つらいとき、いつもおばあちゃんが側にいてくれた。お母さんやお父さんに言えないことでも、おばあちゃんになら話ができた。優希の話を、おばあちゃんは柔らかい笑顔でうなずきながら、聞いてくれた。
なのに、おばあちゃんが困っている今、私は何も役に立っていない。何もしてあげられない。
おばあちゃんの背中は丸くなって、一段と小さくなった気がする。膝の上に置かれた両手は、細く頼りない。
優希はたまらなくなって、その小さな手を、ぎゅっと両手で包み込んだ。
「ごめんね。おばあちゃん。探しもの、見つけてあげられなくて……。」
おばあちゃんは何も言わず、されるがままになっている。
何も言わないおばあちゃんの姿がよけいに悲しかった。昔のおばあちゃんなら、「いいのよ。気にしないで。きっとそのうち見つかるよ。」何て言って、逆に優希を励ましてくれたはず。でも、今のおばあちゃんには、そんな元気も余裕もないんだ……。
どれだけ時が経ったのだろう。おばあちゃんの手を握りしめている優希のてのひらが、少しずつあたたかくなってきた。
「あ……」
おばあちゃんが小さくつぶやいた。
優希が見上げると、うつろだったおばあちゃんの目に光が宿っている。
「これだわ……」
うれしそうなおばあちゃんの声。
「探してたもの、これだった!」
「これって?」
「このあったかい手のひら。これよ。」
おばあちゃんは、優希の両手をさすりながら微笑んだ。
「ずっと昔、外を歩いていて寒くて凍えそうなとき、おじいちゃんが『寒いだろ』って、私の手を握って温めてくれた。朝ご飯の支度をしてると、奈美が『お母さんの手、冷たいね。奈美があっためてあげる』って、握りしめてくれた。
そう、こんなふうに。」
おばあちゃんも、優希の手をぎゅっと握りしめてくる。
「これを、ずっと探してたのよ、きっと。このあったかい、優しい手を。」
おばあちゃんの声もあったかい。
「ありがとね。優希ちゃん。思い出させてくれて。」
「良かった……。」
おばあちゃんの探しものはこれだったのだ。探しものはみつかった! 優希はほっとした。
だが、それと同時に、不安になった。
「でも、おばあちゃん、つらくない? おじいちゃんのこと、お母さんの小さい時のこと、思い出して。」
お母さんは今も「スープが冷めない距離」にいるけど、いつもおばあちゃんと一緒にいられるわけじゃない。写真のおじいちゃんは何も言ってくれないし、手を握ってもくれない。おばあちゃんはこの広い家で、ひとりぼっちなのだ。
「そりゃぁ、寂しくないと言ったらうそになるかもね。でも……」
おばあちゃんは、優希の目をのぞき込んで続けた。
「ほら、こうして、優希ちゃんがいてくれる。わたしが寂しいとき、優希ちゃんが側にいてくれる。あっためてくれる。探しものを見つけてくれる。」
わたし? わたし、おばあちゃんの役に立ってる?
「ありがとう。探しもの、ここにあったよ。」
おばあちゃんが静かに言った。
珍しく寒い雪の日。おばあちゃんの探しもの、見つけた。
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