探しものは何ですか? 1
昨日の夜からしんしんと冷え込み、珍しく雪が積もった日のことだった。
「困ったことになったのよ……、優希ちゃん……」
と、おばあちゃんが言った。
これはいつものことだ。優希のおばあちゃんは、とんでもない忘れんぼう。いつでも何かをどこかに置き忘れて、探している。そのたびに、優希に相談してくるのだ。
例えば、こんなふうに。
「眼鏡が消えてしまったの。いったいどこにいったのかしら?」
小学4年生の優希は、おばあちゃんの探しものを見つける天才である。
「最後に使ったのは、いつだったか、覚えてる?」
「さてねぇ。お米の水加減をするときだったかしら……。でも、台所にはないのよねぇ。」
おばあちゃんの記憶はいつも曖昧だ。
おばあちゃんは、1年前におじいちゃんが亡くなって以来、一人で暮らしている。優希のお母さんや大阪にいる良行おじさんが生まれ育った、古い大きな家。おばあちゃんが一人で住むには広すぎるかもしれない。
優希の住むアパートは、おばあちゃんの家から歩いて5分くらいのところにある。お母さんが言うには、「スープの冷めない距離」なのだそうだ。「どういうこと?」と由紀が聞いたら、お母さんは「何かあったらいつでも行けるってことよ」と教えてくれた。
確かに、お母さんも優希も、何かあるたびにおばあちゃんの家に行く。
おいしいおはぎを作ったとき。
もらい物の柿をおすそ分けするとき。
おばあちゃんの得意料理のレシピを教えてもらうとき。
音読の宿題を聞いてもらうとき。
優希がもらった作文の賞状をおばあちゃんに見せたいとき。
お父さんが野球の中継を見ていて、優希の好きなアニメが見られないとき。
そして、おばあちゃんが、何かをどこかに置き忘れてしまったとき。
おじいちゃんが生きていた頃は、おばあちゃんはとってもしゃきしゃきして、元気いっぱいだった。公園で優希とかけっこをしてくれた。仕事で忙しいお母さんの代わりに、かけ算や漢字を教えてくれた。小学校で使う手提げカバンを縫ってくれた。
でも、最近、どんどん物忘れが激しくなってきたのだ。昔のことが思い出せない。仲良かった人の名前を忘れてしまう。何回も何回も同じ話を繰り返す。そして、物をどこに置いたのか、思い出せず、困りはてていることがよくある。
そんな時こそ、優希の出番だ。優希はおばあちゃんの行動パターンをよく知っている。
「ご飯をセットした後、おばあちゃん、いつも新聞よんでるよね。」
「そうそう、東京で大雪が降ったっていうニュースを読んだわ。」
居間のテーブルに広げたままの新聞を持ち上げると、その下に、眼鏡、発見!
「ほら、あった!」
「まあ、こんなところに……。ありがとう、優希ちゃん。ほんとに、いつも助かるよ。」
とまあ、こんな具合に、万事解決。
でも、今日のおばあちゃんはいつもと違った。
「それがね、優希ちゃん、探しものが何なのか、思い出せないのよ。」
おばあちゃんは首をかしげる。
「どういうこと?」
「何かをなくして探してたことは覚えてるの。でも、何を探してたのか、思い出せなくて……。」
何を探しているかわからないなんて……! 新たなパターン。これは難題だ!
「なくしたことに気づいたのはいつ?」
「う~ん、今朝だったかなあ。いやいや、もっと前だったかも。」
おばあちゃんの記憶はいつもにまして曖昧だ。ほぼ毎日のようにおばあちゃんの家に来ている優希だが、小学校の宿泊研修があったせいで、おばあちゃんと会うのは三日間ぶりだった。おばあちゃんがいつから「それ」を探していたのかもはっきりしない。
「どのくらいの大きさの物か、わかる?」
「そうだねえ、このくらいだったかしら。」
おばあちゃんは、胸の前で、細いしわだらけの両方の手を、上に向けて見せた。
10~20㎝? 手のひらにのるくらいの物。いったい何だろう?
「眼鏡はあるの?」
「それは、ここに。」
「じゃあ、携帯電話。」
「それも大丈夫。でも、何だか、とっても大事なもの、なくしたら大変なことになるものだった気がする。」
心細そうな顔でおばあちゃんがつぶやく。
「じゃあ、財布?」
優希に言われて、おばあちゃんは、小さな手提げカバンの中から、財布と携帯を取り出した。
優希はカバンの中身をすべて、テーブルの上に出してみる。
「お薬手帳もある。診察券入れも。」
メモ帳。シャーペン。優希が誕生日プレゼントでおばあちゃんにあげた、薄紫のタオルハンカチ。
「いつもカバンに入れてる物は、全部そろってるねぇ。」
「でしょう? だから、わからないのよ。何を探していたのか。」
おばあちゃんは大きなため息をついて、いすに座り込んだ。
う~ん、これは困った。おばあちゃんの探しものは何だろう?
3話完結の予定です。よろしくお願いします。




