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手品師

作者: 大西洋子

軽やかで思わず踊りたくなるような音楽と、突如湧き上がる歓声。それらの発生源と思われるところに人垣があり、隙間から黒いシルクハットがチラリと見えた。


「お、手品か。見に行こうぜ」武の後を追って、健もその人垣へと近づく。

「君も見るのかい?」白塗りに赤い鼻のピエロが声をかけてきて、先に人垣の中心近くに到着した武の元へと導いてくれた。


ちょうど人垣の中心にいる手品師は、トランプの手品を繰り広げている最中だった。

トランプで扇を作り、それをシルクハットの中に放り込み、つばを摘まみ持ち上げる。

「では、皆さん一緒に。3…2…1…」0と同時にシルクハットの中から、トランプが噴水のように飛び出した。

「すげぇ!」

武や健より年下の子どもらが歓声をあげ、その巻き上がり、落ちていくトランプを取ろうと手を伸ばす。


「はいはい、押さない、押さない。後ろにいるピエロが今噴射したカードと同じ物を持っているから、順番に並んで貰ってね。では、最後まで見てくれてありがとう!」


拍手と共に一礼する手品師。ピエロにトランプを貰おうと群がる子ども達。その場から離れていく親子達。


「なんだ、もう終わりか。もっと見たかったな。なあ、次、何処見に行こうか?」武と健も喋りながら、その場を離れた。



武と別れ、家に帰るなり、健はお小遣い帳にフェスティバル会場内で使った金額を書き込んでいた。が、


「おかしいな、こんなに使ったっけ?」健は首を捻りながら、きっと買い食いに使ったのだろうと、合わない金額を買い食い代として書き足した。


スマホに短い着信音。武からだ。

「今いいか? ビデオ通話で」

「いいよ。お小遣い帳つけ終わったところだから」

「健は真面目だな。俺なんか、今日どれだけ使ったのか覚えていないぞ」

「六百円のお好み焼き食べて、円分の射的と三回で千円のくじ引きは、武と一緒だったよ」あともう少しお小遣いあったのにと、フライドポテトの屋台の前でぼやいてたと、健は付け加える。


「そういえば、くじ引きの戦利品、どんなだった? 俺のはこれだった」武が見せたのは勉強系のゲームソフト。勉強嫌いな武にぴったりじゃないか。と健は笑いながら、机の上に広げた戦利品へスマホを向けた。


「健、そのトランプどうした?」

「手品師が撒き散らしたトランプだよ。家に帰ってから気付いたんだ」武によく見えるようにと、スマホのカメラに近づける。片面は普通のトランプの柄、裏返すとあの手品師とピエロの写真と共にQRコード。


「QRコード先、見たのか?」

「まだ。見てみるね」

健はビデオ通話を切り、そのQRコードにカメラを向ける。QRコードは、その手品師とピエロの紹介動画に繋がっていた。

健はその紹介動画のURLをコピーして貼った。


そして、しばらくの沈黙。

「……すげぇな、こんなパフォーマンス。最初から生で見たかったな」

「そうだね。でも、受験でしばらくそうゆうのは、おあずけになってしまうけれど」

「健、それを言うなよなぁ~」


お互いに笑いあい、また一緒に遊びに行こうと約束し合い、通話を切った。



だが、その約束を果たせるようになるまで、かなりの日数が必要となるなんて、そのときは、これっぽちも思いもしなかった。



「よお、健、久し振りだな」

「武、久し振り。君のSNS、毎日チェックしているよ」


武がコロナ禍の間に覚えた手品が、今では高校生手品師としてあちこちのメディアに取り上げられるようになり、久し振りに行われる地元イベントに出演依頼されたのも、自然な成り行きなのかもしれない。


「まあ、俺はオマケだよ。俺が手品を始めるきっかけとなった、あの手品師とピエロのコンビが呼ばれているんだ」


そう、嬉しそうに話していた武のパフォーマンスを、健は人垣からやや離れた場所から撮影することにする。


武がシルクハットから、大量のトランプを噴射する様に、健は思わずにやけた。


「あれ? あの二人は……」武のパフォーマンスを見る人垣の最後尾に、先程武と挨拶を交わした普段着姿の手品師とピエロのコンビ。


健のカメラは、湧き上がる歓声と同時に、観客の鞄やズボンのポケットに手を伸ばす彼らを捉えて続けている。


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