写真
戻ってくるなり、差し出された写真には、巫女姿の女性が写っていた。少し古いようだが、美奈に似ている。
「これは誰?」
「私の母。行方知れずだけれど」
「この人を見たと思う。うん、まちがいないよ。この人だった」
美奈はだまりこんでしまった。そこへ川村が割り込んできた。
「その話は、置いておくとして。本署から行方不明者の検索結果が届いた」
「これによると、あなた捜索願が出てないけど。丸2ヶ月以上連絡しなくても家族は心配しないっておかしくないか」
「別の場所に住んでいますから、そう頻繁に連絡することもないし」
「・・・・・・それにしてもね」
「とにかく、お腹すいたでしょ。飯食いに行こうか」
ここまでで3時間はたっぷりあれこれ聞かれたが、さほど運動したというわけでもないので食欲はなかった。でもせっかく誘ってくれたのを断るというのも気がひけて
「お願いします」と答えた。
川村と連れ立って行ったのは、昔ながらの食堂で街道沿いのドライバー達が利用するらしい場所だった。タクシーも何台かとまっていた。周囲は田んぼで、のどかな風景が広がっていた。昼時とあって自動車の出入りも多く、食堂は流行っていた。
川村は手馴れた様子で、おかずの小皿数品を取り、こちらも勧められるままに似たような小皿を取って会計を済ませて席に着いた。
「美奈ちゃんのお母さんは、そう12年になるかな。行方知れずになって」
「当時駆け出しだった俺も、随分あちこち探したのを昨日の様に思い出すよ」
「あんたの話、昔聞いた『時の穴』の話に似ているな」
「時の穴?」
「ほんとか嘘かわからんけど。東京の高層ビルみたいなのが立ち並ぶ風景を50年くらい前に見たと言い張る人間が居て、根掘り葉掘り聞くうちに、あんたみたいな経験をしていたという話さ」
「・・・・・・」
「で、その人戻って来れたんですね」
「そうだろうね。それでなけりゃ、そんな噂出ないよ。しかも何か証拠を持って帰ってきたらしい」
「じゃあ、俺も同じように2ヶ月ほど戻れて、何も起きなかったことにできるかも」
「いやあ、止めた方がいい。戻れる保障もないし、第一場所わからないでしょう。その場所が固定されているのなら、何度も同じことが同じ場所で起きるから、きっと観光名所になって観光案内板とか立てられるよ」
ちょっとがっかりしながら、そうですかと言うと
「そうしなさい。今日は、家族へ電話して自分の家へ帰ることを勧めるよ」
そうしますと答えながら、何かとてつもないことを考えている自分が居た。
川村は私がお金を持っていることを確認して、少し離れた特急の止まる駅まで送ると言ってくれた。