表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ルル・ベル

作者: 桃原カナイ



 ――愛しのルル・ベル 世界の恋人

 ――世界は君に首ったけ


 ルル・ベル。それは、今日もあちらこちらで歌われている歌。

 世界を股に掛けたとあるアーティスト。彼が世に送り出したのが、この『ルル・ベル』という歌。

 謎めいた雰囲気を漂わせた、ひとりの女性の横顔。整った輪郭と豊かな黒髪をなびかせた彼女を、誰もが美しいと思った。光に透けて細かい顔の造形はよく見えないけど、それが余計に艶めかしくて神秘的だった。そんなジャケット写真とともに売り出されたのが、この『ルル・ベル』の歌。


 ――愛しのルル・ベル 世界の恋人

 ――世界は君に首ったけ


 この美女は誰だ! 世界中のファンが大騒ぎになった。こんな女優は誰も知らない。『ルル・ベル』、そうだ。彼女こそがルル・ベルだ。きっとそうに違いない!

 探せ、探せ! ルル・ベルを探せ! はじめはファンだけの騒ぎだったのに、いつしか世界中を巻き込んでいた。探せ、探せ! ルル・ベルを探せ! あの絶世の美女、ルル・ベルを探し出せ!!


 ――愛しのルル・ベル 世界の恋人

 ――世界は君に首ったけ


 誰もが忘れた、最初の目的。今や謎めいた美女、ルル・ベルを探すことそのものが、娯楽として楽しまれていた。ルル・ベルを自称する者も現れた。謎めいた美女に、皆が夢中だった。

 全てを知るアーティストは、何があっても黙秘を貫いた。世界中の偽ルル・ベルを画面越しに眺めながら、手にしたのは若かりし日の妻の写真。


 ――愛しのルル・ベル 世界の恋人

 ――世界は君に首ったけ


 アーティストはそっと自作の歌を口ずさむ。その歌は、皆が知らない『ルル・ベル』の歌。語られなかった本当の『ルル・ベル』。


 ――愛しのルル・ベル 世界の恋人

 ――世界は君に首ったけ

 ――世界の評判を聞きつけて

 ――神様が君に会いに来た


 ――愛しのルル・ベル みんなのルル・ベル

 ――神様も君に一目惚れ

 ――天から招待状が来て

 ――天使がお迎えにやって来た


 ――ああ、愛しのルル・ベル 僕の恋人

 ――世界が悲しまないように

 ――もう少しだけ 僕の傍にいておくれ

 ――今夜だけでいい 君への愛を

 ――夜が明けるまで語り尽くそう……


 微笑みを浮かべた彼の頬に、一筋の涙が伝う。零れた雫は写真に落ちて、光を受けてきらめいた。

 光に透かされたアーティストの妻の顔。その顔は、誰もがよく知るあの写真に、どこか似ていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 儚いお話でしたねぇ。 後半の詩/歌から漂う非恋感/儚げな感じはお見事でした。 「ルル・ベル」と思わず口ずさみたくなるような命名も良いですね。
2019/08/19 07:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ