2 その先の希望
映像はここで途切れた。
場所は都立高校二年一組の教室。流のクラスメイトがモニターを見つめていた。
教卓に立つ教師が、全員の顔を一巡する。
「これが今回異常な誤作動を生じた機体が、我々に残したメッセージの全文だ。同機体は、記憶データを抽出したのち即時処分を実行した」
クラスメイトたちは誰一人反応を示さず、次の言葉を待った。
「鈴白流の肉体は、余すことなく回収された。現時点で既に修復再生が行われ、血流も問題なく再開している」
モニターの画面が切り替わり、流が映し出される。
固く瞳を閉じ、渇望していた眠りを享受するその顔は、今にも目覚めそうなほど綺麗に整えられていた。
「自律的な呼吸も始まった。後は脳波が戻れば、自然と目を覚ますはずだ」
教師は宣言する。
「その日を待ち、我々は鈴白流という、特質な人格の調査を再開させる」
培養液に満たされた水槽の中で、眠り続ける流の肉体。
それを見守る数多のアンドロイドたちは、心から彼の目覚めを待ち詫びていた。
「このたび彼に降りかかった一連の不幸に対して、一分間の黙とうを捧げよう」
いつの日か目を覚ましますように。人事を尽くした彼らは、天命を待つ。
もしもその日が来たとき、アンドロイドは喜びに沸き立つのだろう。見開かれた瞳に宿るのがどれほど虚ろな光であったとしても、アンドロイドは歓声を上げるに違いない。
その日、その時、その瞬間が訪れることを願って。
アンドロイドは祈りを捧げる。
そして、意識が切り替わった。
「よし、教科書を開け」
教師は教壇に向かい直り、クラスメイトたちは教科書を開き始める。何一つ変わったところなどなく、各々が思い思いの形で授業の準備を再開させた。
まるで何事もなかったかのように、流の席だけが誰も座らぬ空白のままで。
それを特別気に留めることもなく、今日もまたアンドロイドたちの一日が始まりを迎える。
完
読了ありがとうございました。「コネクター」はこれにて完結です。
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よろしければまた、別の作品でお会いできることを心待ちにしています。
ありがとうございました。