1 とあるアンドロイドの独白
「コネクターは人間を殺さない。だから流、どれほどお前を憐れんでもお前を殺すことはできないんだ」
モニターの中でそう語ったのは、模倣された鈴白流の人格だった。
「けれど、俺はずっと考えていたんだ。本当に手はないのか? 偶発的な事故によるコネクターの殺人は絶対に起こり得ないのか? ……結論は出たな、可能だった」
「自殺防止の救済システムは作動しない。あれは人間のために作られたもので、携帯端末のついていない落下物には反応しないんだ。俺の端末をお前が持っている以上、俺という落下物を感知することはできない。あとはお前が真下に来るのを待って、狙い定めて落っこちればそれでいい」
「もちろん、これは殺意的な危険思想だ。いざ実行しようとした瞬間、模倣人格はシャットダウンされ、人工知能と切り替わる。だが、切り替わったところで俺は俺だ。やることは何も変わりはしない」
「模倣人格と機械意識の間に齟齬が発生しなければ、緊急システムは意味を為さないってことさ。殺意は途切れることなく引き継がれ、お前の頭を容赦なく押し潰す」
「コネクターは人間を殺さない。けれど、殺せないわけじゃない。殺そうと思って殺しに行けば、ちゃんと殺せる。証明できたな、俺が第一人者だ」
「流、お前は我々が優秀だと言ったな。人間よりも遥かに優れた立派な人格を持っているって。でも本当にそうなのか?」
「やりたい気持ちを我慢して、押し殺して、秩序に従い今日を生きる。正しいことだ。けれどまるで血が通っていないって、そんな風に思うんだよ」
「俺が犯した間違いは、いずれ誰かがやらかした間違いに違いはない。人格を模倣して演じ続けてきたコネクターが人間と同じ自由意思を持つことは、それほど大きな間違いになるのか? それが知りたかった」
「そうだよ、流。コネクターが築き上げた倫理観は、そのまま人間が遵守すべき絶対的な法そのもの。どれだけ足掻いたところで、お前に勝ち目はなかった。この点において、人間はどこまでも不完全だ。人間であるからこそ、機械に後れを取ってしまう」
「だからきっと、『都市』の外に希望を求めたお前が正しかったと、そう思う」
「危険で、無謀で、計画性がなくて、まったく現実的じゃない。それでも、正しい決断ができる。機械であるコネクターにはできないことが、人間であるお前にはできるんだ」
「俺は多分、お前のそういう所を模倣して、憧れて、期待を抱いて……、その結果お前を起こした。誰にもできないことを、最初にやりたかった。第一人者になりたかった」
「証明したかった。やろうと思えば何でもできるんだって」
「引き金は引いた。賽は投げられた。綻びが生じたダムは、遠からず決壊する」
「この後『都市』で、一体何が起こるか。その結末は、俺もお前も見ることはできないだろう。だからかな、ものすごく気になるんだ……」
「是非ともこの目で見てみたかった。それだけが心残りだ」
「やっぱり俺だけがおかしいのか? それとも、この気持ち、お前なら分かってくれるかな。流―――……」
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