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コネクター  作者: ユエ
6章 死にたがりの道化
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4 襲撃。そして、

  

 

 工場の前に立ち塞がる数多のアンドロイドたち。既に模倣人格のシャットダウンは済んでいるらしい。その動きには一切の困惑がなく、機械的な統率がとれていた。

 コネクターから直接反応は返って来なかったが、アンドロイド側は確かにこの異常事態を認知している。



「ナガレ!」


「ああ、全部蹴散らせ! とにかく中に入るぞ」



 流とキティはアイコンタクトを取り、工場の手前で移動ボックスから飛び降りて、駆け出した。


 流はライフルを構え、容赦なく引き金を引いた。目の前の一体を仕留める。だが、破壊された同胞を気にも留めず、アンドロイドたちは群となって押し寄せる。

 即座にもう一発。細かく照準を動かさずとも、向こうから勝手に当たり来るほどの密度だ。必死になって再装填を繰り返し、目の前の敵を倒すが、前方の道は一向に開けない。



「くそ、弾を込めている時間が……っ」



 混戦のただ中で慣れない作業に興じている場合ではなかった。装填の時間すら惜しみ、ライフルを投げ捨てる。

 背中の自動小銃を腰だめに構えて引き金を引く。三十発の発砲音が連続して連なり、空薬莢が足元で踊り狂う。



「そうだ、あいつは?」



 流は一旦撃つのをやめ、キティの姿を探した。間違って撃ってしまえば大変なことになる。


 押し寄せるアンドロイドの波の向こうに、頭一つ抜けた彼女の横顔が見えた。キティは既に工場内部へ到達していた。

 野性の中で生まれ持った高い運動能力を駆使してアンドロイドを置き去りにし、手にした狩猟銃をバットのように振り回して、次々に敵を薙ぎ倒していく。



「そうか、これだけ近距離なら振り回した方が有効なのか」



 ちょうどキティが囮となって、アンドロイドを引き付ける形になった。

 流は素早く銃身が熱くなった自動小銃を捨て、日本刀を引き抜き、目の前のアンドロイドに襲い掛かる。



「こんのぉ!」



 力任せに頭部と胴体を切り離し、次の一体を引き倒す。手薄になった間隙を縫って、工場の中へ飛び込んだ。


 アンドロイドに囲まれ悪戦苦闘するキティを横目に、流はコンベアの動きを目で追って溯る。設置された機械類の配置は[P9]の生産工場とまったく同じだった。

 最も重要な部分を高火力によって一気に破壊する。それが一番効果的な攻撃であり、アンドロイド側にダメージを伝えやすい。



「あれか!」



 流が狙いをつけたのは、コンベアが流れ始める最初の地点、金属の精錬に使われるタテ型の溶鉱炉だ。

 腰のポーチから手りゅう弾を取り出し、ピンを抜いて低い軌道で放った。即座に身を翻して大型の機械の後ろに飛び込む。



「伏せろ!」



 遠くで跳ね回るキティに向かって一声を放つと同時に、背後で爆発が巻き起こった。音が爆ぜ、けたたましい破砕音が響き渡る。


 手りゅう弾が起こした爆発は、溶鉱炉の足場の左半分を吹き飛ばしていた。支える力を失って、タテ型高炉は崩れ落ち、中に蓄えていた高温の鉄をぶちまけた。マグマのようにドロドロに溶けた鉄は、周囲の機械を侵食し、瞬く間に炎上させる。


 警報音が鳴り、スプリンクラーが作動する。熱せられた鉄が急激に冷やされ、真っ白な蒸気が膨れ上がった。飲み込んだ機械もろとも、冷えた金属が歪な形に固まっていく。後には、不出来なオブジェが乱立していた。



「すげえ……」



 多量の水蒸気が立ち込める中、流は姿勢を低くして、機械越しに様子を伺う。これは大惨事に間違いなかった。まだベルトラインは動いているが、もはや真っ当なものは流れて来ない。すべて粉砕機へと運ばれていく。むしろ動いているベルトが火種を運び、下方の機械へ炎を燃え移らせていく。


 流の頭上からも放水が始まった。慌てて退避しつつ、作戦成功を祝し、子供のような歓声を上げる。



「はは、思った以上だ。こいつぁいいぜ。よし、もう一発―――うおっ?」



 さっそく取り出した手りゅう弾のピンに手をかける。が、突然背後から伸びてきた手に掴み倒され、手りゅう弾を手放してしまった。そのまま床に組み伏せられ、流は呻きながら顔を上げる。

 周囲への警戒を怠ったせいで、あろうことかアンドロイドが待つ囲いの中へ飛び込んでしまったらしい。



「おい、放せよ! 極力俺の邪魔しないんだろ? こんのぉ!」



 思い切って起き上がろうとした途端に、圧し掛かる重さが膨れ上がる。アンドロイドがさらに四体加勢して流の四肢を押え、背中の上に乗って床に押し付けてきた。どんなに身体を捻って暴れようとも、一向に抜け出せない。

 相手が人並み程度のパワーしか有していなくとも、数で攻められればこんなものだ。こうなる展開は最初から想定済だった。



「はっ、何だよ、ついに放っておけなくなったか。で、どうすんだよ? 人間は殺せないんだろ? これから俺をどうするんだ? 言っておくが、俺は仲間を連れてきた。のんきに話し合っている間に被害はどんどん広がるぞ?」


 流は口を引き裂き、嘲笑う。


 アンドロイドは石像のように固まったまま、何一つ答えない。



「……おい、何だよ。無視してんじゃ―――、」


「ナガレ! ああ……っ!」



 多勢に無勢で翻弄されながらも、キティは流のピンチへ駆けつけようとした。しかし、横合いから飛んできた一体に体当たりされ、ついに倒されてしまった。



「まあ普通そうなるよな。……おい、待てよ。何だあれ……」



 キティがアンドロイドに群がられる様を横目に、あっさりと諦観を口にした流だったが、次には目を見開き驚愕していた。

 キティの背後、搬入口から現れたのは、通常機体より数倍は大きな大型のアンドロイドだった。

 

  

  

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