3 蟷螂の斧
静かな駆動音とともに壁門がスライドしていく。徐々に広がっていく隙間の向こう、金属質の何かが見えた時点で、流は前方にライフル銃を構えていた。
目標に狙いをつけ、引き金を引く。教えてもらったのはそれだけだ。
―――ドォン!
相手の初動を待たず、撃った。至近距離で轟いた爆音が耳朶を打つ。耳栓していようとお構いなしだ。
肩の骨を砕かんばかりの反動を受け、数歩よろけた。
「くそ、慣れないなこれ……」
悪態とともに顔を上げると、頭部を無くしたアンドロイドが床に大の字になって倒れていた。ワンテンポ遅れて、吹っ飛んでいた頭部が壁にぶち当たり、石床に落ちて、バラバラに壊れた。
「……はは、よしよし。壊せるな」
流は、自らの手で挙げた初戦果に酔い痴れる。その間に、選抜隊は駆け出していた。
ロイ、カウ、スロウの三人はもの凄いスピードで壁面に沿って走り、あっという間にその背中が見えなくなった。
キティは流の脇を抜けて前に出ると、『都市』への出入り口付近にいたアンドロイドを瞬く間に打ち倒して見せる。
「ナガレ!」
強気な笑顔を振り向かせ、流を呼んだ。
「――――――っ!」
「うおっ!?」
ハディの吼え声が背後で轟く。叱咤とともに背中を強く押され、つんのめり、足を出し、そのまま流も走り出した。
「激励かなんかか? 分かんねえよ、くそ!」
「ケントウをイノる、と」
「ああ、そうかい!」
合流したキティとともに、流は『都市』へと飛び出した。
「こっちだ」
先導しつつ、顎先でキティに指示を出す。耳栓をしているため、自然と身振り手振りが大きくなる。
主要道路まで走ると、そのまま移動ボックスに飛び乗った。おっかなびっくりだが、キティが流を真似てボックスに入ったのを見届け、流は行く先に視線を向ける。生産工場は『都市』に点在している。もっとも近い工場まではそう遠くないはずだ。
「あんまり動くな。じっとしていればいい」
動く床など生まれて初めて乗るだろう。酷く落ち着かない様子のキティに声を掛けるが、どうやらそれどころではないらしい。放っておくことにする。
流は、ライフルに弾を装填し直す。作業は酷くおぼつかない。慣れない手つきに加え、高まる興奮が銃弾を握る指先を震わせる。
ついに始まった。始めてしまった。他ならぬ流が、開戦の火蓋を切って落とした。落ち着いて淡々と作業を熟そうというのは無理がある。
「よお、コネクター。戻って来てやったぞ」
手持無沙汰な時間に耐えられず、気づけば右手の携帯端末に向かって噛みつくように吠えていた。
「お前、どうせどっかで様子見てんだろ? 何もできないと高括ってほったらかしにしていたツケだぞ。どう落とし前つけんだ、こら」
返事はなかった。
「はっ、無視かよ。いい加減認めろよ、このままじゃやばいことになるって。悠長なこと言っている場合じゃないんじゃないのか?」
なおも返事はなし。
携帯が通話状態になっていることを一度確認し、流は腹立たしげに舌を打つ。
「この期に及んでだんまりかよ。だったら取り返しつかなくなるまでやってやる。止められるんなら止めてみろよ」
一方的に通話を打ち切って、ライフルを抱え直し、前を見据える。
その先に生産工場が見えてきた。側面の壁に描かれた赤字は[P1]。大きく口を開いた搬入ゲートの前には、アンドロイドが多数臨戦態勢で待ち構えていた。
流は気勢を張り上げる。
「突っ込むぞ!」