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コネクター  作者: ユエ
6章 死にたがりの道化
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2 決起集会

 


 距離にして約十キロ。歩いた時間は二時間にも満たない。それでも壁門へ到達する頃には、流はすっかり息が上がっていた。

 選抜隊の皆が待つ中へとようやく辿り着き、「ぜえ……、はあ……」と盛大に項垂れる。



「くそ、さすがに原始人には勝てないか……」



 流たちは壁門を開き、正面から堂々と『都市』内部へ侵入する。裏を返せば、西門まで歩いて戻る必要があった。

 自分で選んだとはいえ、欲張って銃を二丁も持ってきたのは大いなる失策だった。よほど日本刀を捨てていこうかと悩んだくらいだ。



「―――――――――っ!」


 

 先に到着していた皆が呆れるような眼差しを向け、代表してハディが厳めしい顔つきで流をどやしつけた。

 彼らが流を待っていたのは他でもない。『都市』へ入るのに流の携帯端末が必要だからだ。文句の一つも言いたくなるのは分かるが、しかし何を言っているのかまるで理解できない。



「えっと、ナガレ」


「あー、訳さなくていい。それより、もう少し近くによって円になるように言ってくれ」



 キティの気遣いをやんわりと断り、流は皆を手招きして呼んだ。

 ここから茂みをひとつ越えた先に壁門がある。打ち合わせができるのはここが最後だ。



「同時通訳してくれ。簡単な言葉でいいから」


「ワかった」



 キティの頷きを受け、流は杖代わりにしていた棒切れで砂地を払い、簡単な図を描く。円は外壁、小さな四角は壁門だ。 



「作戦ってほどのものでもないが、確認しておこう」



 四角形から円内へ向けて矢印を伸ばす。



「俺たちは正面ゲートから堂々と中に入る。まず俺が先頭になって扉を開けるから、お前らは木陰で待機。アンドロイドの姿が見えたら破壊してくれ。攻撃されないとは言ったが、連中は敵だ。潰しておいて損はない」



 そこで一度区切り、「ここからだ」と誰にも聞こえないように呟いて、小さく息を吸う。

『都市』の中へ招き入れるとはいえ、彼らを野放しにするわけにはいかない。うまく行動を制限し、都合良く誘導しなければならない。


 話の切り口を探していると、ハディが何かしら口を挟んだ。

 すかさずキティが訳す。



「ベツのデイリグチをオシえろ、と」


「ああ、それか」



 渡りに船だ。一つの閃きに、流は心の中でにやりと笑う。



「じゃあ一人はそれを確認してきてくれ。縄は持ってきたんだよな?」



 目配せすると、スロウが応じて肩掛けの荷物入れを揺すった。



「よし。じゃあそれを持って壁の最上層の、さらに上の階へ向かってくれ。細長い通路があるから突き当りまで行ってボタンを押す。そうすると天井が開くようになっている。そこから外に出ることができる」



 キティが通訳し終わるのを待って、スロウはシンプルに頷いた。そうすることしかできないのを見越した上での説明だ。

 どう足掻こうと、彼らではエレベーターを使うことができない。上へと向かう方法を探して、壁内部を延々走り回ることになるだろう。良い時間稼ぎになる。



「そうだ、上には展望フロアがある。『都市』を一望できるんだ、もう何人か行っておいた方がいいぞ」



 誰にする? と視線を振ると、ロイとカウが顔を見合わせ、ほぼ同時に頷いた。



「じゃあ二人はそれとして。もう一人、壁門を押える奴が必要だ」


「どうして?」


「ここから出入りできるのが一番簡単だろ?」



 首を傾げたキティに説明してやりながら、流は簡易図の西門の位置にバッテンを記した。



「扉を壊すなり、物を挟むなり、とにかく開きっぱなしにしておけば、いざという時すぐに脱出できる。次からの襲撃も余裕だ。まあもちろん、最も危険な役割だが」



 キティが最後まで訳し終わる前に、ハディは自信たっぷりに鼻を鳴らした。



「オレがやる、と」


「さすがリーダー」



 勇ましい申し出に茶化しを返し、流は最後に念を押す。



「『都市』の中のものは好き勝手に見て、調べていけばいい。アンドロイドは可能な限り破壊していけ。ただし、人間を殺すな。手を出した瞬間、アンドロイドどもが押し寄せてくるぞ」



 確証はないが、脅しの言葉として利用させてもらう。実際問題、美月を起こそうとしただけでも大きな騒ぎになった。確実に余分なリスクを背負うことになる。

 

 それから流は続く言葉を一瞬言い淀み、「一応伝えとくけど」と前置きを挟む。



「アンドロイドとまともにやり合っても無意味だ。こっちは武器を持っているとはいえ、連中は無限に近い予備機体がある。最後は確実に押し負ける。あんたら足が速いしタフなんだ。戦うより逃げろ。まずは情報を持ち帰って次に生かせ」



 最も気に掛けるべきは、取り返しのつかないほどの大騒動に発展させないこと。そうなり得るという可能性を、危機感という形でアンドロイドに、『都市』の人工知能に認識させる。流の狙いは初めからそれだけだ。



「ナガレは?」



 キティからの短い質問を耳にして、流は腹の内の考え事を打ち切った。



「俺は工場だ。アンドロイドを作っている生産工場。ここを攻撃する。せっかくのチャンスだ、一体でも多く奴らを巻き込みたい。ここは連中にとっても重要な場所だし、俺を無視できなくなるだろう。要は、あんたらの陽動役を買ってやろうってことだ。感謝してくれ」



「ヨウドウ……。それじゃあ、ワタシもそれ」


「は? 私も、って……」



 発言の意味を図りかね、キティの方を向く。彼女の大きな瞳が真っ直ぐに流に注がれていた。



「ワタシもそれやる」


「……えっと」


「――――――! ――――――!」



 そのままの意味で受け取っていいのか迷っていると、ハディが血相変えて娘に詰め寄った。彼もまた少しは日本語を理解できるらしい。むしろハディがそういう方面に疎いからこそ、キティが代わりに言語を受け継いでいるのだろう。


 敵地を前にして繰り広げられる父娘喧嘩。皆が成り行きを見守る中、キティは父親を押しのけ、もう一度流に訴えかけた。



「ナガレ、ワタシはあなたとイく」


「何で? いや来るなとは言わないけど」


「キカイがツクられているバショ、シっておきたい」


「……」



 流はすぐには答えなかった。どうにもそれだけで言っているようには思えない。

 だが、途中で面倒になって考えるのを止めた。彼女が何を思い、どう行動しようとも知ったことではない。流の意に反さなければそれでいい。



「まあ、好きにしてくれ―――うおっ?」



 キティを適当にあしらった直後、眼前に詰め寄ったハディが力強く流の肩を掴んだ。「任せるぞ!」とでも言いたげな真摯な眼差しを受け、流はげんなりと言い返す。



「ああもう、あほか! 今から何をしに行くのか分かってないのかよ? 戦争を仕掛けに行くんだよ。自分のおもりは自分でやる。当たり前だろうが」



 ハディを押し返して立ち上がる。彼らにとって流は希望の星かも知れないが、どうにも友好的過ぎる。これ以上彼らに付き合って、調子を狂わされるのも面倒だ。



「もうこれくらいでいいだろう。じゃあ、覚悟はいいな?」



 作戦会議を早々に切り上げ、流は一足飛びに茂みから出た。念のため周囲を警戒しつつ、壁門の認証パネルの前に立つ。

 耳栓代わりの綿を耳に詰め、深呼吸をひとつ。



「行くぞ」



 背後の皆に合図を送って、携帯端末をパネルにかざした。

 

  

  

 

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