1 宣戦布告
ここから6章開幕です。
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それでは、お楽しみください。
翌朝、洞窟の入り口に流を始めとする七人の顔ぶれが揃っていた。
「この五人だな」
流は、選抜隊のメンバー一人一人を確認する。そのうち四人は昨日見た顔だ。
族長のハディと、その娘のキティ。見張りを務めた二人、名前はロイとカウ。最後に新顔のスロウ。彼はまだ年若い男であり、髭の代わりに長髪を生やしてひと結びにしていた。
そういうしきたりなのか、彼らは手に各々武器を掲げ持ち、横一列に並んで一様に無言で時が来るのを待っている。いざ戦に赴かんとする武士の面々が並ぶ中、長老のテディは一人一人に向けて祈りを捧げていた。
最後に流の前へと歩み寄る。
「あんたは来ないのか? 通訳がいないと意思疎通できないと思うんだが」
一晩を共にしたとはいえ、とても打ち解けたとは言えない雰囲気。せめて言葉の通じる相手が欲しいところだ。しかし、テディは穏やかな顔で首を振った。
「少数精鋭による潜入作戦ですから。この老いぼれを数に入れるわけにはまいりません。通訳でしたら、まだ拙いですが、孫娘が務めます」
名指しされ、キティは緊張気味に一歩前へ出て返礼した。
「自分の孫娘は危険な目に遭わせていいのか?」
「この子は将来父親の跡を継ぎ、皆を導く立場になるのです。危険を伴ったとしても、経験を積ませた方がいい」
「……まあ別に、俺の知ったことじゃないか」
素っ気なく会話を打ち切り、流は背を向ける。彼らの事情に深く関わる必要は無い。余計なことを口走ってしまうのは、きっと出立前で気持ちが浮き足だっているだけだ。
流は少し輪から外れて、独り深呼吸をする。
「ナガレ、どうかこれを」
そこへテディがやって来た。手渡してきたのは、五センチ程度の銀の小板だった。鏡のように滑らかな表面には、星と太陽を象った紋章が刻まれている。
「我らが崇拝する守護神のお守りです。勇敢な戦士に絶対の加護を授けてくださることでしょう」
見れば、選抜隊は皆銀板を首から下げていた。同じ物を受け取った流は、ためつすがめつして、口元を小さく歪ませる。
「お守りね……。随分とまあ、信用されたもんだな」
「昨晩言った通りです、立場は対等。ならば、ナガレ。あなたも我らの仲間です。侵略成功の暁にはぜひ勝利の美酒を酌み交わしましょう」
そう言って、テディは朗らかに笑う。まったく毒気の混じらない、純粋な成功への誓い。
流は思わず苦笑していた。
「侵略されるのは困るな。これまで通りってわけにはいかなくなる。俺は何事も起こらない、平和な日常を取り戻したいんだよ」
それはどこまでも矛盾していた。『都市』の安寧を破壊する引き金を、自ら引こうという時に。
それでも、引き返そうという気には到底ならなかった。気持ちはどこか高揚していた。幾度と繰り返してきた記憶の中でも、これほど昂ぶった瞬間は絶対にないと言い切れる。
『都市』の暮らしを脅かす火種を、流自ら放ちに行く。歴史に名を刻むほどの悪行を成す。すべてはアンドロイドに一矢報いるために。
何をやっているのかと我ながら呆れるが、不思議と後悔はなかった。恐れもない。機械どもに永劫飼いならされているよりも、存命をかけた戦いの中で死ねるのなら、その方がよほど刺激的だ。
嗜虐的に浮かぶ笑みは、どこまでも人間らしい。流は静かに思い至る。死を前にした闘争こそが、人間の、生き物としての、本能なのだ。
「じゃあ、行くか」
「―――――――――!!」
意気揚々と呼びかける。すると、ハディが眦を吊り上げ、何事か喚きながら詰め寄ってきた。
流は、キティに助けを求める。
「なんて?」
「あー。……エラそうにするな、と。リーダーはワタシだ、とイっている」
呆れるあまり口が半開きになった。
「そんなもん何でもいい。それぞれの目的があるんだ。互いに利する時は手を組んで、用が済んだらそれぞれに行動する。それだけだろ」
キティがハディを宥めている間に、流はいち早く出発した。
日本刀は腰、自動小銃を肩に。銃弾を入れたボロボロのポーチを太ももに巻きつけ、ライフルを手に持つ。
森の切れ間から覗く空は程よく晴れ、眩しい朝の光が流を包む。林冠の向こうから顔を出す『都市』の外壁のドームを見据えた。
「待ってろよ」
流はにやりと口角を吊り上げて、そこに蔓延る者たちへ宣戦布告を突き付けた。
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