6 侵略、略奪、蹂躙、そして戦争
「無理、とは……。いえ、しかし!」
「……」
流に拒絶を突きつけられ、テディはあからさまに狼狽を見せる。彼の頭の中では、既に壮大なストーリーが展開されていたらしい。
それも無理からぬことだ。彼は長年この穴倉で、流のことを待っていたのだから。
「武器を差し上げることもできます。あなたもそれで機械人間を攻撃するのでしょう? ならば目的は同じです。共に手を取り、巨大な敵へ立ち向かおうではありませんか!」
声に必死さを滲ませて、説得を重ねる。
流に期待を寄せるのは、テディだけではない。この洞窟に居る者たちは皆、何故無意味を承知でここに留まっているのか。壁は破壊できず、下から潜り抜けることもできない。
そんな有様でなお、『都市』への希望を捨てなかった理由。それが預言の言葉だった。図らずも流は、彼らの希望の星と成り果てたのだ。
それは理解できる。しかし、それでもなおありえないと、流はゆっくり首を振った。
「協力できない。できるわけがない。だってお前ら、『都市』を……人間を殺すだろ?」
「……」
テディからの返事はなかった。
流は構わず続ける。
「侵略するってことは、あそこを自分たちのものにしたいってことだ。そこにあるもの全部。だったら俺たちは邪魔者だろ? アンドロイドを壊せば、眠っている奴らをどうしようが簡単だもんな? 考えていないだなんて嘘だ。お前らは『都市』の人間を殺して取って代わろうとしている」
彼らがやろうとしている行いは、何千年という歴史の中で人類が繰り返してきたこととまったく同じだ。
侵略であり、略奪であり、蹂躙であり、戦争だ。認められるわけが無い。
「協力、していただけませんか? どうしても?」
神妙な顔を作るテディは、流に最終通告を突きつける。示し合せたようにハディが立ち上がるのを横目で捉えながら、それでも流はきっぱりした口調で答えた。
「無理だ」
ガシャン、と引き金を引く音がする。横合いから心臓へ向けて銃口が向けられていた。
「ああ、やっぱりそうなるよな。そうだと思ったよ」
流はくるりと身体の向きを変え、ハディと向き合い、両腕を広げ、自ら心臓を差し出した。
「いいぞ、撃ってくれ」
喉を引き攣らせるような呼吸音が連続し、その場に居合わせた者たちの驚愕が伝わってくる。
そんな中、流は静かな声で告げた。すべてを受け入れる覚悟はあると。
「同じだ。同じことなんだよ。ここで殺されようが、どうだって良いんだ。もともと死ぬつもりだった」
「ヴヴ……」
流の真意を図りあぐね、ハディはテディに視線を投げて意見を求める。
だが、テディもこんな事態は予測していなかった。意味もなく表情を険しくして、流の出方を警戒する。
「……撃ってみろ。撃ってみろよ、ほら」
硬直状態に陥る前に、流は自ら打って出た。突き付けられた銃身を掴み、自ら心臓の位置へ。銃身を握る右手は微かに震えていた。
それに気づいたハディは動揺をひっこめ、にやりと笑う。ハッタリはあっさり看破された。だが、それもまたどうでもいい話だ。
「何だ、ビビってるって笑ってんのか? そうだ、怖いさ。けど止めねえぞ。撃つんなら撃ってくれ。……これからのことを思えば、その方がいっそ楽かも知れないんだ」
虚勢であり、強がりだ。けれど、本心でもある。一体何のために『都市』から外へ出たのか。ここで恐怖し退いて、また振り回される立場に甘んじるのか。
断じて否。もはや流にとって死は恐れるものではなかった。ようやく取り戻したものなのだ。
「―――――――――――――――」
無言の牽制の末、先に音を上げたのはテディだった。ハディに何か命じて銃を降ろさせ、流に向かって深々と頭を下げた。
「ナガレ、非礼をお詫びします」
「……何だよ、今更。脅しておいてお詫びもないもないだろ? 協力しないっていうんだ、さっさと殺せよ」
「できません」
「どうしてだよ?」
「悲願を達成するために、あなたの協力が必要なのです。あなたを殺して何になりましょう。我々はただ、あなたを利用して『都市』に入りたい。それだけです」
「また随分とはっきり言いやがったな……」
流は呆れるが、それだけ事に賭けるテディの心積もりが伝わってくる。
彼らは何百年もの間、預言者の言葉を信じて待ち続けていたのだ。壁を破壊できず、下から潜り抜けるのも失敗し、それでもここに拠点を構え、居座り続けた。
すべては、いずれ訪れる待ち人を迎え入れるために。
ひょっとしたら、と流は思う。預言者の狙いはそれだったのかも知れない。敵を欺き、『都市』を存続させる時間稼ぎのための、ホラ話。
もっとも、すべては憶測に過ぎないが。
「あなたが人間を殺すなというのなら、我々は人間を殺しません。攻撃するのは機械だけです」
「それを信じろって?」
「あなたを人間側の代表として取引をしたいと考えています。立場は対等です。どうか」
テディは真摯な態度で頭を下げ続ける。しかし、その行為はおよそ信ずるに値しない。彼らの攻撃対象に冬眠者が含まれていた以上、立場が対等では駄目だ。
流は、きっぱりと告げる。
「いいや、立場はこっちの方が上だ」




