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コネクター  作者: ユエ
1章 人工冬眠
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3 通信

 

 

「動こう」



 今やるべきことをわざと声に出し、流は決意を固める。


 いつまで立ち尽くしていても、脳内の混乱が収まるとは思えない。誰か、誰でもいい、他人に会い、話をして、知らないことを教えてもらう。

 一体何を知らないのか、何を知らなければならないのか。それを知ることこそが最優先事項だ。その上で考える。それしかない。


 さて。決めたはいいがどこへ行き、何をすべきか。



「とりあえずは服。あとは靴か」



 率直に欲しい物と言えば、それだ。今更ながら、流は真っ当な格好をしていない。

 身体に張り付いているのは、最低限身体を隠せる程度の薄い布きれ一枚きり。下着もなければ靴もなく、このまま動き回るのはあまりに心もとない。



「一度マンションの部屋に戻るか、それともその辺で……。マンション? ってどこのだよ……」



 何気なく口にした単語に驚き、顔をしかめた。


 つい先程のこと。突然冬眠から目が覚めて、装置から這い出た流は、混乱に突き動かされるまま外に出て、着の身着のまま走り出してしまった。

 その時、目にしていた光景をよくよく思い返す。そこは確かに学生マンションの一室で、間違いなく流が借りている部屋だった。


 十畳程度の室内に調度品の類は少なく、置かれていたのは『ゆりかご』が一台と大きなクーラーボックス。

 そこは生まれ育った実家ではなく、一緒に装置に入ったはずの両親の姿も近くになかった。



「……っ」



 いい加減にしてくれ、と流は小さく歯噛みした。

 分からないことだらけだ。何もかも記憶に残っているようで、しかしまるで実感が沸かない。他人の日記を読まされているようだ。


 何かないのか。これならば間違いようがないという確固たるものは……。苦悶に顔をしかめ、助けを求めるように動きを止める。


 その時、まるでその様を見かねたかのように、右腕が振動した。



「う、わっ! な、何だよ突然?」



 流は情けない悲鳴を上げながら、右腕を跳ね上げた。震えていたのは、手首に嵌っている白い小型の端末装置だ。


 何かを訴えかけるように長方形のディスプレイが緑の光を明滅させる。これが着信の知らせであることはすぐに分かった。

 この機器の扱い方はよく知っている。『都市』に住む全員が所持していた携帯端末であり、通話機能を持った小型のコンピューターだ。


 しかし、眠りに就く前に邪魔になるからと外しておいたはず。目覚めた後に装着し直した覚えなどなく、そんな余裕はなかった。



「誰かが付けた?」



 そう考えるのが妥当に思う。

 では、一体誰が?



「……」



 流はごくり、と息を飲み、明滅を繰り返すディスプレイを左の指先でタッチした。

 

 

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